白山
- GPS
- 56:00
- 距離
- 28.2km
- 登り
- 1,808m
- 下り
- 2,512m
コースタイム
- 山行
- 11:30
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 11:30
- 山行
- 0:30
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 0:30
アクセス |
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写真
感想
八月十四日
白山の主峰御前峰の北方に、標高二五三〇mの四塚山がある。手取川から尾添川を上流に向かうと一里の温泉がある、ここから尾添尾根がはじまり南にたどると四塚山に達する。
まだ残雪が稜線を覆っている四月に白山の御前峰から一里野温泉の上流に位置する岩間温泉に下ったことがある。その稜線から西に真っ白く輝いている光景が強く印象に残っていた、その大きな尾根が尾添尾根だった。
信仰登山が盛んであった時期の遺跡も残っている尾根であるが、昭和の初期に歩く人が少なくなり廃道になっていたと聞いていた。数年前この尾根が再び歩くことが出来るように整備されたことを耳にした。
八月も中旬になってしまったがこのルートを歩く機会が出来た、今年中学一年になった娘と二人で出かけてきた。
朝、野洲駅六時二分発の電車に乗る、友人M氏の家族四人と偶然一緒に乗り合わせることになった、それも同じ白山登山で初日は同じコース、別当から入り南竜ヶ馬場の予定であった、昨日が雨で一日予定を延期したそうである、いい仲間が出来た。北陸線の福井駅から九頭竜川に沿って走る京福電鉄に乗り換え勝山駅で降り、ここからタクシーで谷峠を越え手取川上流白峰村に入りさらに夏の登山口になる別当出合まで約一時間三〇分走り、一一時三〇分到着した。
少し時間は早いが別当の小屋で小休止にして昼食をとることにした、天気はまだしっかり回復していない、昼食後二家族六人で登り始める。
甚ノ助小屋に午後一時二〇分このあたりまで登ると樹木の背も低くなり感じのいい景色が目の前に広がる、大きく崩壊した柳谷にかかる滝の上に南竜ヶ馬場の緑の台地、そこから南に別山につづく稜線がゆったりとカーブを描いている、充分休んで歩き出す。
午後二時四〇分に南竜ヶ馬場に着いた。ここはいつ訪れても好い所だ、谷から尾根の斜面にアオモリトドマツの濃い緑、風が吹きぬける沢のせせらぎ、その両脇にチシマザサが風になびく、足元には可憐な高山植物の咲く草地が小高いこの場所から一望できる。
沢にかかった橋を渡るとテント場がある、数張の先客があった、少し下った所にM氏四人とテントを二つ並べて今日の泊り場所にする。
風がまだ強いのでテントの中に入るとほっとする、外がうす暗くなる頃夕食のカレーライスを食べる、食後寝袋に入って明日のルートの確認をしている間娘は隣のテントに遊びに行く、しばらく賑やかな笑い声を聞いているうちに寝てしまった。
八月一五日
今日のコースは歩く距離が長い、空が白み始める頃起きて食事を済ませ六時に歩き出した。M氏の家族は白山の主峰御前峰を往復し南の別山から千振尾根を下るコースに向かうのでここで別れて先に出発した。
沢を渡り小屋の横を抜け、鳶岩に向かって登る、今日山は雲の中霧がかかって景色は見えず模糊としているが足元の高山植物を眺めながら高度をかせぐ。
鳶岩を越えたところで雪渓が残っていた、その下から冷たい雪解け水が流れ出している、顔を洗うと汗ばんでいた体もひやりとして気持ちがいい、霧が濃くなり着ている服に露が着く、今日は展望は期待できそうにない。
室堂に七時二〇分に着いた、小屋泊りの人が出発の準備に忙しそうに動いている、霧がなくなるのを期待して待つ間にぜんざいを注文した。しばらくして出てきたお椀の中には小指の頭ほどの小さなお餅が二つ申し訳なさそうに浮いていた、期待外れの大きさと、朝食べたラーメンに入れたお餅の方が大きかったので思わず二人で顔を合わせ「お餅を出して入れようか」と言うと、娘もにっこり笑う、それでも暖かいお椀に満足して箸をつける。
時間が経っても周辺の霧は消えそうにないので頂上の西を捲くコースを七倉山に向かう、娘も中学一年になり体力もついたようだ、自分の荷物のほかに食料を持ち元気に歩く。
夏草に露が付いているので歩き出すとすぐに足元が濡れてくる。人影のない岩と霧の茫漠たる風景の中を北に向かって歩く、視界はないが時折足元に露に濡れた花が輝いて見える、娘は時々立ち止まり「お父さんこの花きれい、とまって」と、手に持ったカメラで写真を撮りながらついてくる。
七倉ノ辻に九時三〇分に着いた、ここが尾添尾根の入り口にあたる分岐、霧が立ち込めて周りが見えないので地図を広げ磁石で方向を確認する、ここからが初めて歩く道になる。
長年山登りをしていても初めてのルートはどんな出会いがあるのかと期待に気持ちが高まる。四塚山は小さい岩屑の拡がった高みに石を積んだような平坦な山頂だった。
先ほどからずっと霧が北西の風に乗って通りすぎていく、風に乗って変化する霧の濃淡と薄い光の中で刻々と移り変わるあたりの風景は一瞬夢の中にいるような感覚になる、賽の河原とはこんなところだろうと想像をめぐらす。
一人だと走って通り過ぎるかもしれない、そんな霧の立ち込める中をわずかな踏み跡が細く続いている。
長坂の勾配の強い道を一気に下り二三〇〇mあたりまで来ると雲の下に出た、歩く人がまだ少ないのか這松の枝が絡み合っている踏み跡を進む、感じのいい尾根上に加賀室跡のピーク、奥長倉山に続く稜線が何とも言えない濃い緑の曲線を描いて北に向かっている。
すこし周辺より高くなった這松と岩の陰で昼食にした、こんな岩の横にタカネマツムシソウが薄紫の花をつけ風に吹かれていた。
ここから少し下ると油池にでる、池糖が幾つか点在する湿原の中、背の低いトドマツの間に囲まれ静かに水をたたえている、水辺には小さい紫色の花が咲いていた。開放感のある広々とした庭園のような高原だ、娘は「次はお母さんと一緒にこよう、きっと喜ぶよ」と、このあたりの景色が気に入った様だ。
次に二一五八mのピークに登りさらに加賀室跡を越える、往時をしのばせる石積みは夏草に覆われ自然に帰ろうとしている。美女坂までは緑のじゅうたんを敷き詰めたような道で丸石谷を隔て清浄ヶ原を右に眺めながら進む。
足元にはハクサンコザクラがピンクの花を咲かせ、湿原の空にはトンボが見渡す限り数知れず舞っている、一歩足を下ろすたびに小さな昆虫が羽音を立てて左右に飛び立つ。こんな風景の中を歩いていると忘れていた心地よい記憶がよみがえってくる。娘にもこんな体験が心に残るといいなと思いをめぐらせ歩いていると、つい歩く速度が遅くなる、「お父さん何してるの」と、呼ぶ声にあわてて追いつく、元気な子だ。
美女坂の手前で百四丈の滝が遠望できる展望台に立ち寄る、清浄ヶ原の水を集めて一気に落ちる水柱は涼しそうな水煙を上げゴウゴウと谷いっぱいに音を響かせ滝壺に吸い込まれていく。今日朝歩き出したとき歩ける距離は奥長倉避難小屋あたりまでかなと考えていた、小屋に着いたのが午後一時五分、尾根から西に一段下がった切り開きに立っていた、手持ちの水が一リットル程度、ここに泊まるか一里野まで下るか相談する。娘の「一里野まで降りよう」とまだ元気があるようだ。ここから一里野までは長倉山を越えるが大きな高低差はない、歩いても、歩いても道が続き二人とも無口になって黙々と歩く。やっと一里野スキー場のゴンドラ乗場に着いた、朝六時に南竜ヶ馬場を出て一〇時間歩いた。
一里野のバス停まで歩き金沢行のバスを確認するが最終はもう出た後だった。テントが張れる場所を探しながら岩間温泉に向け歩く、三〇分ほど歩いた沢の傍に場所を見つけた。
冷たい沢の水で足を拭きながら今日歩いてきた自然と歴史が豊かに残る期待を越えた満ち足りたコースを思う、花がたくさん咲いている初夏に再び訪ねたい。
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