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ただ、当時の僕は全く関係ないと股抜きばりのスルー
それから数年が経ち、様々な山を登り経験を積み重ねた。
年々、技術や知識が増えてくると自信という名の標高が徐々に高度を上げていく。
すると数年前は全く関心の無かった北鎌尾根が憧れとなり、更に数年が経つと目標へと変わった。
少ない情報を掻き集めて頭へ叩き込み、何回もシミュレーションを行った。
物理的な準備は整った。
後は己れの【いざ北鎌尾根!】号令を待つのみ。
しかし、天候や都合を言い訳にして決行日が伸び伸びになっていく。
すでに涸沢は紅葉の見頃を迎え、朝晩の北アは厳しい冷え込みになっていることが予想された。
意気地のない僕は年内の北鎌は諦め、来年へ先延ばしすることを考えていた。
ある日、会社帰りに何気なく寄った本屋で槍ヶ岳を特集した本を見つけ、磁石で引っ張られるかのようにその本を手に取った。
本を開くと槍ヶ岳へ繋がる複数のルートが紀行文となり載っていて、僕は一つの紀行文に心を鷲掴みされた。
北鎌尾根の紀行文だ。
一人の山岳ライターが助手も付けずに自分で撮影しながら北鎌を歩いた内容が8ページに渡り掲載されていた。
周囲の喧騒を忘れ、一字一句見逃さないよう食い入るように読んだ。
その紀行文は意気地なしの私の背中をそっと押してくれた。
数日後、沢渡バスターミナルの大行列に僕は並んでいた。
翌日、穂先に立つ僕は人目を憚らず大声で「ヤッター、ヤッター」を連発。
今まで幾つかの山を登ってきたが、このような体験は初めてだ。
知らぬ間にザックと一緒に恐怖と不安を担いでいたようだ。
雑誌との出会いがなかったら北鎌尾根を登ることもなかったかもしれない。
ライターさん、ありがとう。
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