5月24日の厚労省の医薬品第2部会で抗インフルエンザ薬アビガン(一般名・ファビピラビル)をマダニ感染症SFTSへ適用拡大することが了承されました。そう、新型コロナに効くとか効かないとかで世間を騒がせた"あの"アビガンです。順調にいけば6月に正式承認、8月に薬価収載となって、世界で初めてのSFTS治療薬となります。
【SFTSって?】
SFTS(重症熱性血小板減少症候群、Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)はSFTSウイルスを保有するマダニに吸血されることによる感染症です。略語が覚えにくいですがSevere Feverまで出てくればあとは大丈夫。ヒトの致死率は27%(2013~2017年の日本のデータ)と非常に高いです。数値上は年々致死率が低下しているのですが、これは届け出時点での情報のため、認知が高まるに連れて早期に診断されている影響である可能性があります(届け出後に死亡した人が致死率に入っていない)。感染例は主に西日本に集中(ただし東に向けて拡大中)しており、西日本のハイカー各位は脅威に感じられているのではないでしょうか。私も恐れおののいています。
【アビガンが効くの?】
で、気になるアビガンの有効性なのですが、愛媛大学で行われた研究ではアビガンを投与されたSFTS患者23人のうち4人(17.3%)が死亡。プラセボ(偽薬)との比較はされていません。27%より低いことから有効性が示唆されるとのことですが、素人目に見ても「ちょっとエビデンスレベル低くない?」と思いますよね。2017年単年での致死率は13%ですから。そのため全例調査と承認後臨床試験の条件が付いていて、実際の症例での有効性は不十分でした、となる可能性もあります。
またよく知られるようにこの薬は催奇形性の懸念が強く入院管理下で登録医のみが処方可能とされました。つまり皮膚科に行って「マダニに噛まれました」「はい除去しましたよ。念のためアビガン出しておきましょう」とはならないということです。
【結論】
本人または配偶者に妊娠の可能性がない患者にとっては有効かもしれない治療薬が登場したということで期待はしたいですが、現段階であまり希望を持ち過ぎない方がいいようです。なお、新薬は薬価収載から原則3カ月以内に製造販売するルールになっているので処方が開始されるのは遅ければ今年11月になる可能性があります。今年のシーズン終わってるじゃん。
【他の薬はないの?】
他には国内企業で開発中の抗体医薬品があります。動物実験のデータはむちゃくちゃよく効いて見えるので期待しているのですが、ライセンス先を探しているので開発は足踏みしているようですね。年間100例以下では採算的に厳しいし、治験の患者さんもなかなか集まらないだろうな、とは思います。
https://www.ibl-japan.co.jp/en/news/detail/id=5662
【他にもあるよマダニの嫌なところ】
なおマダニによる感染症はSFTS以外にも、日本紅斑熱、ライム病、脳炎などいろいろあり、ついでに言うと感染症にならなくてもマダニに度々噛まれると獣肉アレルギーになる可能性があります。(四つ足の動物、牛豚羊がアウト。鶏はOK) 牛肉が食べられなくなり人によっては大変つらいことになるので、やはり極力噛まれないよう対策するのが賢明でしょう。
(参考)
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/d94f7fa7fd741665a5b41c7e006add907a8bcab9
仰る通り、なんかそんなエビデンスでいいのって感じですよね。
コロナに対する、ゾコーバの時もそうでしたが、まともな医者なら第一選択にこの薬使わなさそうですね。
医薬品部会、最近どうしちゃったん?昔から?w
こんばんは。コメントありがとうございます。
実際、前回会合では「有効性の証明が十分でない」という声が出て継続審議になって今回2回目での了承です。医薬品部会はあの新型コロナ騒動の時に、世間や政府の圧力にも屈せず追加データを要求して突き返したので感心したんですけどね。愛媛大の研究よりはもう少しちゃんとしたデータを富山化学が揃えてきたのだと信じたいです。でも他に治療薬がないという事情が消極的に後押ししたのは間違いないでしょうね…>第一選択
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