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更新日:2019年10月10日 訪問者数:209
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ヤマレコ記録を基にした日本百名山登山コースの解析〜北海道編〜
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日本百名山の各登山コースの特徴をヤマレコで公表されている山記録のデータを基に解析しました。今回は北海道の登山コースを解析しました。
日本百名山(以下,百名山と記します)完登を目指す人が急増しています。

それに付随して,百名山に関するガイドブックも市場に多く出回っています。

筆者自身も2016年10月,雨飾山で百名山を完登しました。

そして現在,これらの登山コースはどのような性質であったのか科学的に検証してみたくなりました。

そこで,ヤマレコで公表されている山行記録を無作為にピックアップして,距離,累積標高差,勾配,歩行時間,時間当たりの登高標高差及び歩行速度を計算し,各登山コースのスケール(規模)及び難易度を検討しました。

山行記録の実際のデータを基にした詳しいコース解析は,あまり試みがないと思います。
従って,この解析の意義は,大きいものと自負しております。

この解析結果が,これから百名山を目指す方々に少しでも参考になれば幸いです。

この解析は,今後地域別のシリーズとしてヤマノートにあげて行こうかと考えております。

今回は,北海道の日本百名山9座について検討しました。


1 解析方法

1. 1 対象コース

各山岳の対象コースは,比較的ポピュラーなコースを選択しました。

(1)利尻岳:北麓野営地〜利尻岳(鴛泊ルート)

(2)羅臼岳:木下小屋〜羅臼岳(岩尾別ルート)

(3)斜里岳:旧清岳荘〜斜里岳(清里(旧道)ルート)(写真1)

(4)雌阿寒岳:雌阿寒温泉〜雌阿寒岳(雌阿寒温泉ルート)(写真2)

(5)旭岳(大雪山):姿見ノ池〜旭岳

(6)トムラウシ:短縮登山口〜トムラウシ(短縮登山口ルート)(写真3)

(7)十勝岳:望岳台〜十勝岳

(8)幌尻岳:第二ゲート〜幌尻山荘〜幌尻岳(額平川ルート)(写真4)
(第二ゲートから幌尻山荘間と,幌尻山荘から幌尻岳間は登山道の性質が違うので,解析する際は全体と部分に分けて解析しました)

(9)後方羊蹄山:半月湖〜火口中央道(比羅夫ルート)
写真1 斜里岳の登山道
清里ルート(旧道)の中核部は,一般コースとはいえ沢登りとなります(本州の山とはレベルが違う)。この滝では左側を登って行きます。意外と滑りやすく注意が必要です。ちなみに沢の水はエキノコックスの心配があるので,生水を飲んではいけません(筆者は飲んでしまった(涙))。
写真2 雌阿寒岳の火口
雌阿寒岳は今も活火山です。火山情報に注意しながら登山を楽しんでください。
写真3 遥かなるトムラウシ
トムラウシは,どのコースをとっても遠い遥かな山です。せっかくの長い山旅を存分に味わってください。
写真4 幌尻岳へ向かう額平川の中の登山道
幌尻岳(額平川ルート)登山の最大の難所は,15回にもわたる渡渉。深い所は股下までつかります。最初冷たいと感じる渡渉も何度も渡れば冷たくなくなります。そして快感に変わってきます(筆者の場合)。流されないよう注意しながら,渡渉を楽しんでください。ただし,雨などの気象情報,川の水量の判断は慎重に判断してください。
1.2 解析項目

コースのスケールとしては,対象区間の距離,累積標高差及び勾配を求めることにより判断しました。
すなわち,距離及び累積標高差が大きいほどスケールが大きいと判断しました。

難易度としては,勾配,平均歩行時間,時間当たりに登れる標高差(以下,登高速度と記す)及び歩行速度を計算することにより判断しました。
すなわち,勾配及び平均歩行時間は値が大きいほど,登高速度及び歩行速度は値が小さいほど難易度は高いと判断しました。

距離,累積標高差(トムラウシのみ)及び歩行時間は,ヤマレコで上がっている山行記録25件を無作為にピックアップをしてこれらデータを入手し,平均値を求めました。
トムラウシ以外のほとんど登りしかないコースの累積標高差は,スタート地点とゴール地点の標高差を単純に差し引くことによって求めました。

勾配,時間当たりの登高標高差及び歩行速度については,それぞれ次の計算式で求めました。

勾配(%)=(累積標高差(km)/距離(km))×100 

登高速度(m/h)=累積標高差(m)/歩行時間(h)

歩行速度(km/h)=斜辺距離(km)/歩行時間(h)

斜辺距離(km)=((距離(km))^2+(累積標高差(km))^2)^0.5

更に,それぞれのコースの標準コースタイム(CT)を「山と高原地図(昭文社)」から計算し,実際の歩行時間との比較を行いました(CT比)。

CT比=歩行時間(min)/CT(min)

1. 3 統計処理

累積標高差以外の各項目について,各コース間の差異を明らかにするためにTukeyの多重検定を行いました。

また,各コースの特徴を検討するため,スケールの指標として距離vs累積標高差の散布図を作成しました。
また,難易度の指標としては勾配vs登高速度,歩行時間vs登高速度,歩行時間vs歩行速度及び歩行速度vs登高速度の散布図を作成しました。



2 結果及び考察

2.1 各コースのスケールの大きさ

各コースの距離及び標高差を表1に,その表をイメージしやすいように,距離vs標高差の散布図を描いたものを図1に示しました。
表1 各コースの距離及び標高差
距離については,幌尻岳>トムラウシ>利尻岳≒羅臼岳>十勝岳≒後方羊蹄山>斜里岳>雌阿寒岳>旭岳でした。

標高差については,幌尻岳が1,500メートル台,利尻岳,羅臼岳,トムラウシ及び後方羊蹄山が1,400メートル台,
十勝岳と幌尻岳(山荘〜頂上)が1,100メートル前後,斜里岳,雌阿寒岳及び旭岳が900メートル以下でした。
図1 距離vs標高差の散布図
図の右上方向は長大なコース,左下方向は小規模なコースであることを示します。

後方羊蹄山,利尻岳,羅臼岳,トムラウシ及び幌尻岳が長大なコースと言えます。
特に利尻岳と羅臼岳は,ほとんど同位置にプロットされたため,この2コースは非常に類似したコースであると推定されました。

旭岳,雌阿寒岳及び斜里岳は比較的小規模なコースと考えられます。
十勝岳は平均的な位置にあり,中規模的なコースと考えられます。

幌尻岳は,他コースと比べ大きく位置がずれています。
これは,第二ゲート〜幌尻山荘間は林道歩きや額平川の渡渉といった,他コースとは大きく異なる性質のコースだからです(参考として第二ゲート〜幌尻山荘間の位置もプロットしております)。

また,図の傾きは勾配を示しており,後方羊蹄山,トムラウシ及び幌尻岳以外のコースは,ほぼ一直線上の傾きに存在しました。
2.2 各コースの難易度に関する検討

各コースの歩行に関するデータを表2に示します。

また,各コースの難易度を検討するため,歩行時間vs登高速度の散布図を図2に,歩行時間vs歩行速度の散布図を図3に,そして歩行速度vs登高速度の散布図を図4に示します。
表2 各コースの勾配,歩行時間,登高速度,歩行速度,CT及びCT比
勾配については,雌阿寒岳,旭岳,幌尻岳(山荘〜頂上)及び後方羊蹄山が大きく27〜29%,利尻岳,羅臼岳,斜里岳及び十勝岳が21〜25%,トムラウシは16%,幌尻岳(ゲート〜山荘)は10.5%でした。

歩行時間は,幌尻岳>トムラウシ>利尻岳≒羅臼岳>後方羊蹄山≒斜里岳≒十勝岳>雌阿寒岳≒旭岳でした。

登高速度は,後方羊蹄山>雌阿寒岳≒旭岳≒十勝岳>利尻岳≒羅臼岳≒幌尻岳>斜里岳>トムラウシでした。
登高速度は,斜里岳及びトムラウシは300 m/h前後でしたが,その他のコースは350 m/h以上でした。

歩行速度は,幌尻岳>十勝岳>トムラウシ≒後方羊蹄山≒利尻岳≒羅臼岳>雌阿寒岳>旭岳>斜里岳でした。

CT比は,0.63〜0.83で,どのコースもCTは余裕をもって設けられていることがわかりました。
図2 歩行時間vs登高速度の散布図
図の右下方向は,歩行時間が長くなり,登高速度も遅くなるので難易度が高い傾向に,図の右上方向は難易度が低くなると考えられます。

この図からは,難易度は次のような傾向があると考えられました。
難易度高:トムラウシ及び幌尻岳(全区間)の各コース
難易度中:斜里岳,幌尻岳(幌尻山荘〜幌尻岳間),利尻岳及び羅臼岳の各コース
難易度低:旭岳,雌阿寒岳,後方羊蹄山及び十勝岳の各コース
図3 歩行時間vs歩行速度の散布図
図の右下方向は,歩行時間が長くなり,歩行速度も遅くなるので難易度が高い傾向に,図の右上方向は難易度が低くなると考えられます。

この図からは,難易度は次のような傾向があると考えられました。
難易度高:斜里岳,トムラウシ及び幌尻岳の各コース
難易度中:利尻岳及び羅臼岳の各コース
難易度低:旭岳,雌阿寒岳,後方羊蹄山及び十勝岳の各コース
図4 歩行速度vs登高速度の散布図
図の左下方向は,歩行速度が遅くなり,登高速度も遅くなるので難易度が高い傾向に,図の右上方向は難易度が低くなると考えられます。

この図からは,難易度は次のような傾向があると考えられました。
難易度高:斜里岳,幌尻岳(幌尻山荘〜幌尻岳間)の各コース
難易度中:旭岳,雌阿寒岳,トムラウシ,利尻岳及び羅臼岳の各コース
難易度低:後方羊蹄山及び十勝岳の各コース

幌尻岳(全区間)については,林道歩きが長く,歩行速度も速くなることから、この検討から外しました(散布図には位置をプロットしてあります)
3 まとめ

以上,多角的な解析から,各登山コースの特徴は次の通りになります。

(1) 利尻岳(鴛泊ルート)
他コースと比べ,コースのスケール(距離,標高差及び勾配)は比較的大きく,難易度(歩行時間,登高速度及び歩行速度)は平均的で,スケールは大きいが,比較的登りやすい山であることが考えられました。
また,羅臼岳(岩尾別ルート)とは,スケールや歩行時間,登高速度及び歩行速度はほぼ同レベルのコースであることが明らかになりました。

(2) 羅臼岳(岩尾別ルート)
利尻岳(鴛泊ルート)とスケールや難易度はほとんど同じであることが明らかになりました。

(3) 斜里岳(清里(旧道)ルート)
他コースと比べ,コースのスケールは小さいが,登高速度及び歩行速度は遅く(特に登高速度),難易度が高いコースと考えられました。
これは,中核部に長い沢登り区間があるからと考えられました。

(4) 雌阿寒岳(雌阿寒温泉ルート)
他コースと比べ,スケールは小さく,登高速度及び歩行速度は平均的でした。
一方,勾配は他と比べ急な方で,頂上付近には噴火口もあるので,少々スパイスのきいた軽登山が楽しめるコースと考えられます。

(5) 大雪山(旭岳)(姿見ノ池より)
ロープウエイで上がって,旭岳を登るだけなら,雌阿寒岳とほぼ同レベルで,軽登山が楽しめるコースと考えられます。
一方,奥地に入るとスケールがとてつもなく大きくなりレベルも変わってきます。

(6)トムラウシ(短縮登山口ルート)
距離は長く,標高差も大きく,スケールが大きいコースです。
また,登高速度が極端に遅い傾向がありました。
これは,登山道の登降や緩急が多く,登山道自体の歩きにくさを反映しているものと考えられました。
 
(7)十勝岳(望岳台より)
他コースと比べ,スケールや難易度は平均的と判断されました。

(8)幌尻岳(額平川ルート)
他コースとは比較にならない程のスケールの大きさをもった難易度の高いコースです。
それは,額平川の渡渉と標高差1,100メートルの急勾配の登りによるものと考えられます。

(9)後方羊蹄山(比羅夫ルート)
標高差は大きく,勾配も急ですが,登高速度や歩行速度は速く,難易度は比較的低いコースと考えられました。
歩きやすい登山道だからでしょうか?
4 おわりに

今回,北海道の日本百名山の山岳コースを解析してみると,意外な事実が隠されていることが多いと気づきました。

例えば,斜里岳。

この山のコースはスケールも小さいし,利尻岳や羅臼岳よりも難易度は低いだろうと予想しました。
ところが,他コースと比べ登高速度の値が非常に低いことがわかりました。
なぜだろうと考えた時,中核部の沢登りがネックになっているのだと気が付きました。
そして,筆者もあの沢登りにてこずって,「さすが北海道の山だ,奥多摩の1,500メートルの山とは全然違う」と感心したことを思い出しました。

また,利尻岳の鴛泊ルートと羅臼岳の岩尾別ルートはこんなにもスケールや難易度が類似しているのかと驚きました。

山行データを基に多角的に解析し数値化していくと,その時の情景が目に浮かび,疑似登山をしている様な幸せな時を過ごすことができました。
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この記録へのコメント

登録日: 2019/5/24
投稿数: 16
2019/10/12 0:27
 勉強させていただきました!
山に登り始めの頃に厳しいトレーニングメニューをご示唆頂き、感謝しております。なかなか、その通りには進められませんが、その意をお受けして鋭意努力いたしたいと。
先日の急登分析のなど数々のご経験を理論で裏打ちされた解析に感服しております。その分析、北から始まって、早く富山の近くをカバーされないかなと、首を長くしております♪
登録日: 2014/9/28
投稿数: 2217
2019/10/12 13:24
 Re: 勉強させていただきました!
perさん こんにちは・・・

トレーニングメニューなんて 、kコーチの健脚に対する表現をオオバ―にしただけです
鋭意努力なんてしなくていいですよ。
楽しくトレーニングしてください。
もしkコーチが無理難題な計画を持ってきたら、「僕行きません」と言いましょう。
でないと、身体壊されてしまいます

>先日の急登分析のなど数々のご経験を理論で裏打ちされた解析に感服しております。その分析、北から始まって、早く富山の近くをカバーされないかなと、首を長くしております♪
→ そんなに経験はありませんよ。
ヤマノートは私の道楽でやってます。
気がむいたらやるので、富山に行くのはいつのことになるかわかりません。

コメント嬉しかったです。ありがとうございます。
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