(はじめに)
前章では唐松岳と八方尾根の地質などを記載しました。つづいて、唐松岳から白馬方面へ向かう途中にある、不帰の険(かえらずのけん)という岩峰群について、主にその地形的な面を説明します。
「不帰の険」は、後立山連峰のなかでも一番と言っていい難所で、数個の岩峰群(大きくは、不帰1峰、不帰2峰、不帰3峰という3つに分けられる)と、その間のギャップによって構成されており、距離の割に通過に時間がかかる難所です。難しそうな場所にはハシゴ、鎖場が設置されていますが、慎重な歩行が要求されます。
「不帰の険」は、後立山連峰のなかでも一番と言っていい難所で、数個の岩峰群(大きくは、不帰1峰、不帰2峰、不帰3峰という3つに分けられる)と、その間のギャップによって構成されており、距離の割に通過に時間がかかる難所です。難しそうな場所にはハシゴ、鎖場が設置されていますが、慎重な歩行が要求されます。
1)不帰の険の、地質について
産総研「シームレス地質図v2」にて、このあたりの地質を確認すると、燕岳あたりから続く「有明花崗岩」の領域が、まだここまで続いています。手前の唐松岳山頂部や八方尾根上部と同じ地質です。その先は、最低コルから登り返した先にある、天狗の頭の手前まで、「有明花崗岩」ゾーンです。
険しい山容から、なにか特殊な地質かと思いましたが、そうでもありませんでした。
険しい山容から、なにか特殊な地質かと思いましたが、そうでもありませんでした。
2)不帰の険の、地形的な面
さて、なぜ不帰の険は、あれほど険しいのでしょうか?
「有明花崗岩」の広がっている領域は、南は常念岳付近から、北はこの不帰の険あたりまで、北アルプスの東部に南北に長く広がっています。
その地域全体を見ると、標高が約2800m以上の高い山(例;常念岳、大天井岳、野口五郎岳など)は総じて、山容がなだらかです。逆に標高がだいたい2600m〜2400mの領域は、烏帽子岳から七倉岳、船窪岳のあたりの稜線、およびこの不帰の険など、総じて稜線が痩せ尾根になっており、両側から浸食が進み、切り立った崖状となっているようです。
普通は、標高が高い山ほど険しく、標高が低い山は穏やかな山容ということが一般的ですが、この「有明花崗岩」ゾーンは逆になっています。
これは、花崗岩地帯では、浸食が進んでいるゾーンは、稜線の両側からの浸食で削られる一方で、風化した表層部が削られると、風化の進んでいない新鮮な花崗岩体が表面に出てくることで、稜線部が岩稜となりやすいのではないか?と思います(この段落は私見です)。
不帰の険の場合は、浸食は普通の浸食作用だけではなく、以下に記載するように、過去の氷河期の氷食作用および、現在の積雪期の雪崩による浸食作用の影響も大きいと考えられます。
地形的にみると、不帰の険の東側にある、唐松沢(唐松岳山頂へと突き上げている)と不帰沢(最低コルへと突き上げている)は、ともにU字谷の形状を示し、氷河期には谷氷河が発達していたことをうかがわせます。実際、唐松沢には現生氷河があることも確認されていますが(文献1、文献2)、これは雪崩涵養型の氷河だと思われます。
厳冬期から残雪期にかけ、稜線付近からの雪崩が非常に多いため、それが斜面を浸食しつつ、谷筋に雪渓(一部は氷河化)として溜まっていると思われます(この段落も私見です)。
また、不帰の険に関する地理学的調査(文献3)によると、
『不帰の険では、唐松岳付近よりも花崗岩内の節理構造(因子としては、割れ目の密度、結合度)が発達しており、より浸食が進みやすいこと、また不帰1峰と不帰2峰の間のコル、および最低コルには、小規模な断層破砕帯(幅は数mレベル)があり、より浸食されやすいためにキレット状のコルを形成したのであろう』、
と説明されています。
「有明花崗岩」の広がっている領域は、南は常念岳付近から、北はこの不帰の険あたりまで、北アルプスの東部に南北に長く広がっています。
その地域全体を見ると、標高が約2800m以上の高い山(例;常念岳、大天井岳、野口五郎岳など)は総じて、山容がなだらかです。逆に標高がだいたい2600m〜2400mの領域は、烏帽子岳から七倉岳、船窪岳のあたりの稜線、およびこの不帰の険など、総じて稜線が痩せ尾根になっており、両側から浸食が進み、切り立った崖状となっているようです。
普通は、標高が高い山ほど険しく、標高が低い山は穏やかな山容ということが一般的ですが、この「有明花崗岩」ゾーンは逆になっています。
これは、花崗岩地帯では、浸食が進んでいるゾーンは、稜線の両側からの浸食で削られる一方で、風化した表層部が削られると、風化の進んでいない新鮮な花崗岩体が表面に出てくることで、稜線部が岩稜となりやすいのではないか?と思います(この段落は私見です)。
不帰の険の場合は、浸食は普通の浸食作用だけではなく、以下に記載するように、過去の氷河期の氷食作用および、現在の積雪期の雪崩による浸食作用の影響も大きいと考えられます。
地形的にみると、不帰の険の東側にある、唐松沢(唐松岳山頂へと突き上げている)と不帰沢(最低コルへと突き上げている)は、ともにU字谷の形状を示し、氷河期には谷氷河が発達していたことをうかがわせます。実際、唐松沢には現生氷河があることも確認されていますが(文献1、文献2)、これは雪崩涵養型の氷河だと思われます。
厳冬期から残雪期にかけ、稜線付近からの雪崩が非常に多いため、それが斜面を浸食しつつ、谷筋に雪渓(一部は氷河化)として溜まっていると思われます(この段落も私見です)。
また、不帰の険に関する地理学的調査(文献3)によると、
『不帰の険では、唐松岳付近よりも花崗岩内の節理構造(因子としては、割れ目の密度、結合度)が発達しており、より浸食が進みやすいこと、また不帰1峰と不帰2峰の間のコル、および最低コルには、小規模な断層破砕帯(幅は数mレベル)があり、より浸食されやすいためにキレット状のコルを形成したのであろう』、
と説明されています。
(参考文献)
文献1)
「唐松沢氷河を確認するまで」
唐松沢氷河調査団報告(2019)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2019a/0/2019a_109/_pdf
文献2)
有江、奈良、福井、飯田、高橋
「飛騨山脈北部,唐松沢雪渓の氷厚と流動」
日本氷雪学会誌「雪氷」 第81巻 p283-295 (2019)
https://www.seppyo.org/publication/seppyo/seppyo_archives/81_2019/81_06_2019/attachment/81-6_283/
文献3)
松岡、上本
「日本アルプス主稜線部の組織地形」
地理学評論 第57巻 p263-281 (1984)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj1984a/57/4/57_4_263/_pdf
「唐松沢氷河を確認するまで」
唐松沢氷河調査団報告(2019)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2019a/0/2019a_109/_pdf
文献2)
有江、奈良、福井、飯田、高橋
「飛騨山脈北部,唐松沢雪渓の氷厚と流動」
日本氷雪学会誌「雪氷」 第81巻 p283-295 (2019)
https://www.seppyo.org/publication/seppyo/seppyo_archives/81_2019/81_06_2019/attachment/81-6_283/
文献3)
松岡、上本
「日本アルプス主稜線部の組織地形」
地理学評論 第57巻 p263-281 (1984)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj1984a/57/4/57_4_263/_pdf
北アルプス、特に白馬連峰や、「不帰の険」の岩峰、キレット部分の花崗岩の状態観察から、地形的特徴を考察した論文
唐松沢氷河調査団報告(2019)
このリンク先の、2−1章の文末には、第2部「北アルプス」の各章へのリンク、及び、
「序章―1」へのリンク(序章―1には、本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
「序章―1」へのリンク(序章―1には、本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
【書記事項】
初版リリース;2020年8月19日
△改訂1;文章見直し、一部加筆修正。「山のデータ」追加。
2−1章へのリンクを追加。
書記事項の項を新設、記載。
△最新改訂年月日;2022年1月20日
△改訂1;文章見直し、一部加筆修正。「山のデータ」追加。
2−1章へのリンクを追加。
書記事項の項を新設、記載。
△最新改訂年月日;2022年1月20日
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