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更新日:2020年09月03日 訪問者数:240
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第2部 北アルプス、 2−25章 青海黒姫山、明星山とその周辺 −石灰岩の山々と日本最古のヒスイ産地―
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(1)はじめに
 これまで、北アルプスの主稜線にそびえる山々のほとんどを、この連載で紹介してきましたが、この章では北アルプスの北東部にある独立峰である、青海黒姫山(おうみくろひめやま)、明星山(みょうじやま)、とその周辺について、その地質と成り立ちを説明します。
 
 あわせて、青海黒姫山、明星山の近くにある、ヒスイ産地も説明します。

 さて、青海黒姫山は、新潟県の旧)青海町(現 糸魚川市)の、日本海からほど近い場所にそびえる山で、標高は1221mと、北アルプスの山としては低い山ですが、北アルプスの山としては珍しく、全山が石灰岩でできているという特徴があります。山の一部は、デンカ(株)と明星セメント(株)が石灰岩を採掘しており、そういう点では、関東の武甲山や、関西の伊吹山と似ています。
 私は登ったことはありませんが、山頂への登山道はあり、「分県登山ガイド・新潟県の山」(山と渓谷社 刊)でも紹介されています。

 明星山(みょうじやま)は、青海黒姫山の南にある、標高 1189mの山です。この山もまた、全山が石灰岩でできており、青海黒姫山の兄弟峰ともいえます。
 この山は、南側が岩壁となっており、1960-70年代には、ロッククライミングの山として知られていました。最近は(みょうじょうやま)とも呼ぶようです(注1)。

 これらの山の麓に、日本で唯一といえるヒスイの産地があります。現在は場所自体が国の天然記念物となっており、採取は全面禁止ですが、古くは縄文時代から古代の人たちがここで産出するヒスイを交易などに利用していたことで、考古学的に有名な場所です。

 (注1)ヤマレコ内の「山のデータ」より。
(2)青海黒姫山、明星山とその周辺の地質について
 前節で触れたとおり、青海黒姫山、明星山とも、全山が石灰岩でできています。
(文献1)(文献2)によると、石灰岩層は層厚が約1000mあり、その中から、サンゴ、ウミユリ、頭足類、腕足類、コケムシ(※ 補足説明1)などの生物化石が多数見つかっています。
 これらの古代生物の化石に基づき、この石灰岩体の形成時期は、古生代後期の石炭紀(約360Ma〜約300Ma)からペルム紀(約300Ma〜約250Ma)の前期と推定されています。
 また、石灰岩体の下部には玄武岩層が確認されています。

 そのような構成から、青海黒姫山、明星山とも、元々は石炭紀初期に、海洋(おそらくパンサラッサ海)の中で、玄武岩質の火山島として生まれ、その後、海洋プレートの動きに伴って海洋底の深さが増大するにつれて、島は海に沈んでいき(※ 補足説明2)、その上にサンゴ礁のような石灰岩質の地質がしだいに成長したものでしょう。そしてペルム紀になって、当時の日本列島に相当する場所にあった海洋プレート沈み込み帯にて、付加体となったものと推定されています。

 また、この2つの石灰岩の山の周辺には、付加体特有の地質構成(チャート、砂岩、泥岩)をもった地質体があり、まとめて「姫川コンプレックス」と言う名前がついています。
これらのことから、青海黒姫山、明星山、およびその周辺の「姫川コンプレックス」は、ペルム紀の付加体ゾーンと考えられています(文献1、2)。
(3)「秋吉帯」との関係
 (日本の)中国地方から九州北部にかけ、大きな石灰岩体があることを特徴とするペルム紀付加体ゾーンとして、「秋吉帯」という地体構造区分があります(文献3)。
 秋吉帯のうち、石灰岩体の主な分布場所は、福岡県北東部の「平尾台」、山口県西部の「秋吉台」、広島県北東部の「帝釈台」、岡山県北西部の「阿哲台」です。いずれも直径20-30km程度の石灰岩台地を形成しています。石灰岩体は石炭紀〜ペルム紀に火山島の上部に形成され、海洋プレートの動きとともに移動し、日本列島に相当する場所にはペルム紀に付加した、付加体ゾーンです。
 
 ところで、先に述べた、青海黒姫山、明星山は、石灰岩の形成時代が石炭紀〜ペルム紀であること、および日本列島に相当する部分へ付加した時代がペルム紀であることから、青海黒姫山、明星山を含む一帯は、「秋吉帯」の東方延長部に相当する、という学説が、日本の地質学の中では、比較的広く浸透しているようです。
(文献1)(文献2)とも、このゾーンを「秋吉帯」と明記しています。

 ただし、秋吉帯本体の一番東側にあたる、岡山県の阿哲台から青海黒姫山までは、現在、直線距離で約400kmも離れており、その途中はどうなったのか?という点が未解明の点です。
(4)日本最大、日本最古の ヒスイの産地
ヒスイ(翡翠)とは、宝石の一種ですが、青海黒姫山および明星山の近辺(以下、この付近のヒスイの産出地を「青海地区」と略します)に産出することが知られており、「糸魚川のヒスイ産地」注)として有名です。

注)この地域はもともと、行政区画上は、青海町でしたが、2005年に青海町は糸魚川市と合併し、現在は糸魚川市に属します。
(4−1)地質学、岩石学的な重要性
 青海地区に産出するヒスイは、蛇紋岩体の中に含まれるようにして産出する、と言われています。蛇紋岩は、マントル構成物質であるカンラン岩が水(H2O)と反応してできる岩石なので、この地区のヒスイは、マントル付近の地中深いところ(約30-40km)でできたものと考えられます。ただし(文献5)による現地調査によると、現在は、蛇紋岩体と共に産出する場所は確認されておらず、河川の中の大きな転石としてのみ、確認されています。

 青海地区のヒスイは、鉱物名が「ヒスイ輝石」、化学組成式は “NaAlSi2O6”です。ただし、微量金属元素(例:Fe,Ti,Coなど)を含んでおり、それら微量金属元素の含有量や割合によって、薄い緑色(いわゆる翡翠色)のほか、ラベンダー色、青色、黒色、白色と、バラエティに富んでいます(白色が本来の「ヒスイ輝石」の色) (文献4、7)。

 (文献7)によると、青海地区のヒスイ輝石は、プレート沈み込み帯のかなり深い場所(約30km以下)で、約5.2億年前に生成し(U-Pb年代測定法)、その後の地殻変動により、蛇紋岩とともに地表まで上昇してきたのだろう、と説明されています。
 細かい生成過程は不明のようですが、結晶形状を元にしての考察によると、熱水環境下でヒスイ輝石結晶が成長したのではないか?という仮説が提示されています(文献4,7)。

 ヒスイの産地は世界的には、ミャンマー、ロシア、カザフスタン、イラン、グアテマラ(南米)がありますが(文献7)、形成年代 5.2億年前というのは、世界最古の年代だといいます(文献7)
 
 すぐ脇の青海黒姫山や明星山は、石炭紀(約4.6〜4.0億年前)に大洋上の火山島の上部に、生物由来の石灰岩として形成され、ペルム紀(約2.5-2.0億年前)に日本列島に相当する部分に付加したものです。
 一方、この青海地区のヒスイ輝石は、それよりさらに1〜2億年以上昔の、約5.2億年前(時代で言うと、古生代初期のカンブリア紀(約5.4〜4.8億年前)※)にできた岩石であり、日本列島に産出する岩石としては、最も古い部類に入ります。そのことだけでも、非常に貴重な岩石だと言えます。

※ (文献7)では、「オルドビス紀」と記載されてますが、誤記かと思われます。
(4−2) 考古学的な重要性
 日本列島には、(文献6)によると約8か所、(文献7)によると約12か所の、ヒスイ産地がありますが(取りつくされた場所も含む)、いずれにしろ、この青海地区は日本最大、かつ日本最古のヒスイ産地です。

 この地区のヒスイは、すでに縄文時代(文献6では、約5500年前、文献7では、約7000年前)から知られていたそうで、主に、海岸や河口で探しだされたヒスイの小石を加工して、日本各地(北海道〜九州まで、一例としては青森県の縄文遺跡;三内丸山遺跡)、さらには朝鮮半島南部(例;AD 4-6世紀の百済、新羅の古墳)まで、交易品や贈答品として珍重されていたこと、また古墳時代には勾玉(まがたま)に加工され、身分の高い女性のアクセサリーや、古墳内の装飾品として使われたことが、考古学的な研究によって知られています(文献6、7)※。


 ※ (文献6)は、ヒスイの化学分析に詳しく、(文献7)はヒスイの形成過程のほか、
    考古学的な歴史にも詳しい。


 現在、糸魚川付近の日本海側の海岸は、「ヒスイ海岸」という愛称がついています。すでにほとんどのヒスイの小石は採取され、もう簡単には見つからないようですが、海辺で宝石探しをするのも一興でしょう。

 また、糸魚川市にある博物館「フォッサマグナ ミュージアム」では、これら青海地区のヒスイが展示されているそうですよ。(文献8)
 糸魚川周辺は「世界ジオパーク」にも認定されており、この博物館では、ヒスイ以外にも、地質、岩石関係の豊富な展示があるようです。
(補足説明)
補足説明1)石灰岩体に含まれる古代生物化石について

・「腕足類」とは、二枚貝に似て、二枚の殻を持つ動物の一種ですが、二枚貝が軟体動物
 (門)に属するのに対し、腕足類は腕足動物(門)という分類に属します。
  古生代に繁栄し、現在では「シャミセンガイ」などわずかな種類が生き残っています。
・「頭足類」とは、軟体動物(門)のうち、タコ、イカ、オウムガイなどを含む
  グループです。
  (文献2)では細かい種類の記載がありませんが、骨格が残っているところから
   考えると、オウムガイ類かもしれません。
・「コケムシ」とは、分類学上は、外肛動物(門)に属する動物で、サンゴと同様に、
  炭酸カルシウム質の殻を作って群体として生活する生き物です。

・なお、サンゴは、分類学上は、棘皮動物(門)に属します。
  (※ この補足説明は、ウイキペディアを参考として記載しました)



補足説明2)海洋プレートの動きと、海底深さとの関係

 海洋プレートは、海嶺(かいれい)と呼ばれる海底山脈状の場所で誕生し、その後、海嶺からだんだんと離れるように移動していきます。誕生当初はプレートの温度が高いために密度も軽く、そのために水深は浅めです。プレートとして移動していくにつて、プレートの温度が下がることでプレートの密度も高くなって、(=重たくなって)、次第に水深が深くなることが知られています。

 火山島が海洋プレート上に誕生した場合、当初は海面上に出ていても、時代が経つにつれ、底面に相当する海洋プレート自体が冷えて重くなって、水深が深くなるために、火山島もしだいに海没していき、その上部にはサンゴ礁などが発達します。
 火山島の頂上がどんどん沈んでいっても、サンゴ礁は太陽の光が届く浅い海でしか成長できないため、上へ、上へと積み重なるようにサンゴ礁の塊が縦方向に成長していきます。そのようにして、石灰岩主体の海山ができます。

 日本にある石灰岩の山や台地(例えば、伊吹山、武甲山、秋吉台)はみな、そのようにしてはるかな大洋からプレートの動きに伴って移動してくるとともに、石灰岩層が成長していってできたものです。
(参考文献)
文献1)「日本地方地質誌 4 中部地方」日本地質学会 編
     朝倉書店 刊 (2006)
     のうち、各論 第2部 「飛騨外縁帯・秋吉帯」
 
文献2) 長森、竹内、古川、中澤、中野
      地域地質研究報告 金沢(10)第19号 NJ-35-5-3
    「小滝地域の地質」のうち、第4章 「秋吉帯」の項

   (独)産業技術総合研究所 地質調査総合センター 刊 (2010)

 https://www.gsj.jp/data/50KGM/PDF/GSJ_MAP_G050_10019_2010_D.pdf

文献3)「日本地方地質誌 6 中国地方」日本地質学会 編
      朝倉書店 刊 (2009) のうち、2−3章 「秋吉帯」の項
 
文献4)ウイキペディア 「ヒスイ輝石」の項、 2020-9 閲覧
  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%B9%E3%82%A4%E8%BC%9D%E7%9F%B3

文献5)竹内、竹之内、中澤
     「糸魚川ジオパークの地質巡り」
      地質学雑誌、第116巻 p123-142 (2010)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/116/Supplement/116_Supplement_S123/_article/-char/ja/
  
  (J-stage のサイトへリンク)

文献6)ネット情報
    「CGL通信 vol48 日本の国石―糸魚川のヒスイ;歴史と特徴」
        2020-9月 閲覧

   https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/48/83.html

文献7)ウイキペディア 「糸魚川のヒスイ」 2020-9月 閲覧 
  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B3%B8%E9%AD%9A%E5%B7%9D%E3%81%AE%E3%83%92%E3%82%B9%E3%82%A4

文献8)糸魚川市立 「フォッサマグナミュージアム」のホームページ

 https://fmm.geo-itoigawa.com/
青海黒姫山、明星山付近の地質図
1)ペルム紀付加体とその関連地質ゾーン
・青色;石灰岩体;ペルム紀付加体(青海黒姫山、明星山)
・薄緑がかったグレー;メランジュ(ペルム紀付加体)
・濃い青紫色;蛇紋岩類(超苦鉄質岩類)

(赤線で囲った範囲が、秋吉帯相当の、ペルム紀付加体ゾーン)


2)その他の地質ゾーン
・黄色;デイサイト〜流紋岩質溶岩(古第三紀;暁新世〜始新世)
・薄いオレンジ;安山岩〜玄武岩質溶岩(白亜紀後期)
・ミントグリーン;犬が岳層群(非海成 砂岩、泥岩、前期ジュラ紀)
・濃い赤紫色;ハンレイ岩(ペルム紀に貫入)
・くすんだ緑色;蓮華変成岩類(デボン紀〜ペルム紀に変成)
・くすんだ水色;海成の泥岩(ペルム紀;舞鶴帯相当の地層)

※ 二重丸印;ヒスイ産出地域(小滝川エリア、青海川エリア)

※ 産総研 「シームレス地質図」を元に、筆者が可加筆
青海黒姫山
ヤマレコ内の、山のデータ集の写真を借用しました。
明星山
ヤマレコ内の山のページより引用しました。
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