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更新日:2021年03月27日 訪問者数:177
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日本の山々の地質;第6部 関東北部の山々の地質 6-13章 八溝山地、筑波山
bergheil
八溝山地全体図
・中央部の南北に長い青線で囲った部分が「八溝山地」
北端の赤▲が八溝山、南端の赤▲が筑波山

中央部の●は宇都宮市

※産総研「シームレス地質図v2」をもとに、筆者加筆
筑波山とその周辺の地質図
・紫色(筑波山山頂部付近):ハンレイ岩(白亜紀に貫入)
・朱色(筑波山山麓部);花崗岩類(古第三紀 暁新世ー始新世)
・くすんだオレンジ色(画像の下部);筑波変成岩類(泥質片岩、片麻岩、ミグマタイトなど)

※産総研「シームレス地質図v2」をもとに、筆者加筆
八溝山付近の地質図
・黄色;砂岩(ジュラ紀―前期白亜紀付加体)
・黄色部分に点在する水色の線状部分;泥岩(ジュラ紀―前期白亜紀付加体)
・黄色部分に点在するオレンジ色の線状部分;チャート(ジュラ紀―前期白亜紀付加体)

・画像右手の朱色、薄紫色、ピンク;阿武隈山地を構成する花崗岩類
・ベージュ色;礫岩(中新世)

八溝山地(中央部)と阿武隈山地(右手)との間の青い線;棚倉構造線


※産総研「シームレス地質図v2」をもとに、
筆者加筆
麓から望む筑波山
双耳峰なのが良く解る

(ヤマレコ内の山データより引用させてもらいました)
八溝山の神社
(ヤマレコ内の山のデータでは、八溝山の全体を写した写真がなかったので、神社の写真を引用させてもらいました)
(はじめに)
 この第6部では、「関東北部の山々」と題して、関東平野の北部から、新潟、福島まで広がる山地の地質について解説してきました(ただし第四紀火山は除く)。

 この第6部の最後として、「八溝山地(やみぞさんち)」と、その代表格である筑波山を取り上げます。

 6−12章までに「関東北部の山々」として説明してきた山々は、関東北部(群馬県北部、茨城県北部)/新潟県中南部(越後山脈など)/福島県南部(南会津など)に、ひとまとまりとなっている山々でした。また標高が2000m前後の山々も多く、登山対象として良く知られている名山が多くありました。

 一方、この章で取り上げる「八溝山地」は、東北新幹線や高速・東北道が通り、宇都宮市付近から白河の関へと南北に延びる地溝的な地形(地形学的には「鬼怒川低地」と呼ばれる(文献1))によって、上記の山群とは隔てられている独立した山塊です。

 登山の対象としては、南端の筑波山(876m:日本百名山のひとつ)以外、あまり登山対象としては有名ではない印象で、山地の標高自体も、最高点の八溝山(1022m)以外は、1000m以下の低山がある山域です。
 ただし、地質学、地形学的には、これまで紹介してきた「関東北部の山々」とは異なる点もあるので、この章で説明します。
(1)八溝山地の概要
 八溝山地は、ほぼ南北に主軸を持ち、南北で約100km、東西で約25kmの細長い形状をした山地で、栃木県と茨城県との境をなしています(文献1)。
 また地形学的には、筑波山を除くほとんどが、丸みを帯びたなだらかな形状です。

 この山地の隆起時期については、明らかになっていないようですが(文献1)、隣接する阿武隈山地とともに、南北に主軸をもつ細長い山地形状から見て、太平洋プレートの沈み込みに伴う東西圧縮力の影響が考えられます(この段落は私見です)。

 地質学的に見ると、八溝山地の大部分は、ジュラ紀付加体である「足尾帯」の堆積岩類でできています。これは、上記の「鬼怒川低地」を挟んで西側にある「足尾山地」を形成している地質と同じであり、おそらく両山地は、鬼怒川低地の地下も含めて、西南日本内帯のジュラ紀付加体である「丹波―美濃帯」の東方延長部だと考えられます(文献2)

 なお南端にある筑波山とその周辺は、花崗岩、ハンレイ岩(いずれも深成岩)と変成岩でできており、ちょっと特殊な一帯といえます(文献1,文献2)。
(2)筑波山とその周辺
 江戸から見て、西にそびえる富士山と並び、北東方向に望める筑波山は、関東地方の名山として古くから知られていました。(文献3)によると、江戸時代よりもはるか昔の奈良時代に、すでに名山として詠われ、万葉集にも筑波山の歌があるそうです。

 実際、現代でも、東京都心部の超高層ビルや、東京スカイツリーなどから望むと、遠望が利く日には、わずか標高800m台の山ではありますが、のっぺりした関東平野の先に、ちょこんとした双耳峰(猫耳状)の筑波山がそびえているのが良く見えます。

 さて、筑波山とその周辺は、八溝山地の大部分を構成するジュラ紀付加体(足尾帯)の地質とは異なり、以下の岩石が分布しています。
  1)ハンレイ岩体(頂上部を形成)
  2)花崗岩(山腹、山麓を構成)
  3)(高温型)変成岩;「筑波変成岩」という固有名詞あり。
    花崗岩の分布域に近いところに分布している。


これらの岩石類について、主に(文献2)、(文献4)に基づいて説明します。

1)「ハンレイ岩体」;現在は山頂部のみに分布していますが、元はもっと広く分布していた
  可能性があります。
   ハンレイ岩という火成岩(深成岩)は、主に海洋地殻の下部を構成していると推定
  されていますが、筑波山のハンレイ岩体は海洋地殻とは無関係のようで、地下でのマグマ
  活動によって、約75Ma(白亜紀後期)に形成されたと推定されています(文献5)。

   ハンレイ岩が山体を構成している山は、日本ではそれほど多くなく、筑波山以外だと、
  越後三山の一つ、中ノ岳(中ノ岳ハンレイ岩体)や、関西の生駒山の山体の一部が
  知られている程度なので、ハンレイ岩をまじかに見られるポイントとして、筑波山山頂部
  は地質学的には面白い場所と言えます。なお(文献4)によると、筑波山は筑波神社の
  ご神体なので、岩石採取は禁止だそうです。

2)花崗岩類;ハンレイ岩体の貫入ののち、この地域には約60Ma(古第三紀 暁新世頃)に
  珪長質(花崗岩質)マグマの活動があり、現在の花崗岩類ゾーンを形成しています。
   この花崗岩類は、細かく言うと、花崗閃緑岩が最も多く、それ以外に(普通)花崗岩、
  トーナル岩が含まれます(文献4)。
   これらの花崗岩類は、形成時期などから推定して、南西日本内帯(特に中国地方)に
  広く分布する、白亜紀花崗岩(山陽帯花崗岩)と同類と考えられています。

   なお余談ですが、この花崗岩ゾーンの花崗岩は石材としても良質で、地名をとって
 「稲田石」という石材で知られているそうです。
   国会議事堂の外壁も、この「稲田石」で作られてるそうです(文献4)。

3)筑波変成岩;筑波変成岩は、2)の花崗岩(珪長質マグマ)の活動時期とほぼ同時期
  (約60Ma)に変成作用を受けたと推定されている(文献2,4)高温型変成岩です。
   変成岩のタイプとしては、(文献4)によると、低変成度の部分は泥岩が変成した
  「粘板岩」、高変成度の部分は「黒雲母(結晶)片岩」が多いとされています。
    また、花崗岩体との接触部は、花崗岩質マグマの高熱による接触変成作用で、
   「ホルンフェルス」という硬い変成岩になっています。
    なお変成作用を受ける前の源岩は、(文献2、4)によると砂岩、泥岩が主であり
   (文献2、4)では足尾帯とは明記されていませんが、私は足尾帯の付加体が
   源岩だと考えます(この部分は私見です)。

   この筑波変成岩は、西南日本内帯に広く見られる高温型変成岩である「領家変成岩」の
  東方延長と推定されています。
   すなわち、筑波山とその周辺部は、西南日本の基盤岩の帯状分布における「領家帯」
  (高温型変成岩と、花崗岩からなるゾーン)の、東方延長である、と考えられています。


  関東地方の大部分を占める関東平野は、長期間の沈降活動により、いわゆる基盤岩は、 
 3000〜5000mもの地下深部まで沈降しており、調査も容易ではありませんが、
 筑波山はその沈降部の周辺にあたり、ハンレイ岩、花崗岩、高温型変成岩が地上に
 露出していることが、西南日本内帯と関東地方との、地質学的な関係を知るのに
 重要なポイントとなっています。

  なお「筑波山」の地質、とくにハンレイ岩体に関しては、(文献5)にも、
 比較的詳しく書かれています。
 

   ※ “Ma”は、百万年前を意味する単位
(3)筑波山以外の八溝山地の地質と地形
  筑波山とその周辺部以外の、中央部から北端部までは、ジュラ紀付加体である足尾帯の地質(堆積岩)でできています。

 (文献2)によると、具体的には、大きく4つのゾーンに分帯されており、いずれも山地の長手方向に沿った南北に細長いゾーン(ユニット)となっています。

  最も西側に、わずかに分布する「烏山(からすやま)ユニット」は、メランジュ相で構成されています。その東隣りは、「高取ユニット」と呼ばれ、構造的下部がチャート、破砕岩類、構造的上部が砂岩や砂泥互層で構成されています。そのまた東隣りは八溝山地の分水嶺にほぼ沿った細いゾーンで、チャート層でできています。チャートゾーンより東側は、「笠間ユニット」と呼ばれ、砂泥互層、砂岩、泥岩で構成されています。

 これらの地質の中から、ジュラ紀の年代を示す放散虫(シリカの殻をもつプランクトン)の微化石がいくつも発見されていて、足尾山地の足尾帯の東方延長部である証拠とされています。


 なお八溝山地の地形について、(文献1)を元に、若干ですが説明します。

 八溝山地南端の筑波山は、標高は800m台ではありますが、2つに分かれた山頂部(男体山、女体山)が双耳峰として目立ちます。周辺の丘陵部から約400mほど突出しています。これは前に述べたように、比較的硬いハンレイ岩が山頂部を形成していることで、浸食に抵抗して、いわゆる残丘状になっていると考えられています(文献4)。

 一方、それ以外の場所は、最高点の八溝山も含めて、なだらかな地形です。これは、この地区を形成している地質がジュラ紀付加体の砂岩、泥岩であり、風化、浸食に弱いため、山容が穏やかで、高さもあまりないのだと考えられています。
(参考文献)
文献1)貝塚、小池、遠藤、山崎、鈴木 編
  「日本の地形 第4巻 関東・小笠原」東京大学出版会 刊(2000)
  のうち、2−5章「八溝山地」の項。
   
文献2)日本地質学会 編
  「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊(2008)
   のうち、2−5章「八溝山地」の項。

文献3)深田 著
  「日本百名山」新潮文庫版(1982)

文献4)高橋、宮崎、西岡
  「筑波山周辺の深成岩と変成岩」
     地質学雑誌、第117巻 (補遺) p21-31 (2011)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/117/Supplement/117_117.S21/_pdf


文献5)ネット情報; 産総研 「地質標本館」のサイト内の、
  「地質で語る百名山」シリーズのうち、「筑波山」の項

 https://www.gsj.jp/Muse/100mt/tsukubasan/tsukuba.html
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