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更新日:2022年05月17日 訪問者数:760
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日本の山々の地質;第12部 九州地方の山々の地質、12−9章  九州山地主要部の山々の地質
ベルクハイル
九州脊梁山地;国見岳山頂からの展望
九州脊梁山地は1600−1700m級の高さの山々が広く広がっているのが解る

(ヤマレコ内の山のデータより引用させて頂きました)
市房山より人吉盆地を望む
市房山は、人吉盆地側からは急角度でそびえ、展望も良い、九州山地を代表する山。

(筆者撮影)
市房山;北方延長部を望む
山頂からやや北へ行ったところの、「心見の橋」(こころみのはし)という岩場よりさらに北方延長部を望む。
この一帯は花崗岩質の岩できており、所々に岩場がある。
遠景は、津野岳(江代山:1607m)と思われる。

(筆者撮影)
尾鈴山山腹の岩壁と滝
尾鈴山は火山岩質の硬い岩でできており、ところどころに急峻な岩壁状地形と、多数の滝を有している。

(ヤマレコ内の山のデータより引用させて頂きました)
図1 九州脊梁山地の地質図
〇地質関係の凡例
 (ほぼ全域に、付加体型の地質が分布)
 ・グレー;メランジュ相付加体(ジュラ紀)
 ・黄色;砂岩(ジュラ紀付加体)
 ・オレンジ;チャート(ジュラ紀付加体)
 ・ブルー;石灰岩(ジュラ紀付加体)
 ・緑色;玄武岩(ジュラ紀付加体)

 ・紫色;蛇紋岩体(「黒瀬川帯」構成要素)

 ・図の下部に斜めに走っている赤い線:「仏像構造線」(ジュラ紀付加体である「秩父帯」と、「白亜紀付加体である「四万十帯」との境界断層


〇稜線、山に関する凡例
 ・中央やや左手(西側)の、ほぼ縦方向(南北走向)の青い線:県境稜線(向霧立越山稜)
 ・青い線のうち赤い▲印は、上が国見岳、その下は五葉岳
 ・中央やや右手(東側)の、ほぼ縦方向(南北走向)の黒い線;「霧立越」山稜
 ・黒い線のうち、赤い△印は上から順に、向坂山、白岩山、扇山

※ 地質がほぼ東西走向に並んでいるのに対し、山稜はほぼ南北走向であり、地質と地形に対応関係がないのが解る。

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成
図2 市房山の地質図
〇地質凡例
 ・朱色;花崗閃緑岩(中新世)
 ・それを囲む青紫色の線でハッチした部分;熱変成作用にてホルンフェルスとなった領域(※)
 ・グレー;メランジュ相付加体(始新世/四万十南帯)
 ・黄色;砂岩(始新世付加体/四万十南帯)
 ・緑色;玄武岩(始新世付加体/四万十南帯)

〇山などの凡例
 ・中央やや下の青い▲印は、市房山山頂
 ・中央やや上の青い△印は、津野岳(江代山)
 ・市房山山頂から左へ延びる茶色の線;市房山正面登山道(花崗閃緑岩ゾーンとホルンフェルスゾーンを通っている)

※ 産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成。ただし、ホルンフェルス化した領域は、産総研 5万分の一地質図「村所」を参照した。
図3 尾鈴山付近の広域地質図
〇地質凡例
 ・朱色;花崗閃緑岩(中新世)
 ・ベージュ色;大規模火砕流堆積物(溶結凝灰岩質/中新世)
 
 ・水色;泥岩(始新世付加体/四万十南帯)
 ・黄色;砂岩(始新世付加体/四万十南帯)
 ・グレー;メランジュ相付加体(四万十南帯)

 ・赤い線で囲った部分;「尾鈴山 火山深成複合岩体」(長径で約30km)
 ・青い線;貫入岩の環状岩脈と、環状の断層(コールドロン状構造要素)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成
(はじめに)
 九州の中南部にかけては、12−1、12−2章でも説明したように、「九州山地」と呼ばれる1500〜1700m級の山々が連なる大きな山地となっています。

 このうち、祖母・傾(そぼ・かたむき)山群 及び 大崩(おおくえ)山群については、地質や地形的な点で際立って興味深い点が多いので、12−8章にてまとめて、その地質や地形について説明しました。

 この12−9章ではそれ以外の九州山地の山々のうち、登山対象として比較的知られている山々について、その地質を説明します。 
1) 九州脊梁山地の山々
 九州山地のうち、熊本県/宮崎県との県境となっている部分は南北方向の長い分水嶺となっており、その山稜を含めた一帯は、「九州脊梁(せきりょう)山地」とも呼ばれます(文献1)。
  12−1,2章でも説明したように、この一帯は九州地方の中では山深い地域で、熊本県側は五木村、宮崎県側には椎葉村(しいばむら)という、以前より「秘境」として知られていた地域があります。
 この九州脊梁山地の最高峰は、国見岳(1739m)で、その名の通り、展望の良い山のようです。数十年前まではアクセスもなかなか難しい山でしたが、最近では車でのアクセスも良くなっているようで、登山ガイドブックでも紹介されるようになっています(文献1)。

 また九州脊梁山地のうち、熊本/宮崎県境をなす山稜の東側にはもう一列の山稜があり、古くから「霧立越(きったちごし/きりたちごえ)」と呼ばれる山稜です(文献1)。
 「霧立越」山稜では、向坂山(むこうざかやま;1685m)、白岩山(しらいわやま;1662m)、扇山(おうぎやま;1662m)などが登山対象として代表的な山です。また「霧立越」山稜には縦走路が切り開かれているようで、縦走路は上記の各山々を通っています(文献1)。なお向坂山の山頂近辺には、1990年代に日本最南端のスキー場(五ヶ瀬ハイランドスキー場)ができており、それに伴い、この一帯は、昔に比べるとアクセスもかなり容易になっているようです。
 
  地質の話からそれてしまいますが、九州山地は谷筋が非常に険しく、通行が難しい部分も多く、かえって尾根筋のほうが歩きやすいため、尾根筋が各地域間の通行路として使用されていたようで、九州山地での「〇〇越」という名前は、峠という意味だけではなく、尾根筋を通る古い交通路であることを意味しています。
(文献1)によると、このうち「霧立越」は馬も通れる交通路だったそうです。また「霧立越」と相対するように並ぶ、国見山を含む県境稜線は「向霧立越(むこうきったちごし)」とも呼ばれます。


 ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、これらの山々の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、北部から中部にかけては、ジュラ紀の付加体型地質が分布しています。また九州脊梁山地の南部は白亜紀の付加体型地質が分布しています。
 地帯構造区分上、前者は「秩父帯」に属し、後者は「四万十帯」に属する「地帯」です。
 また岩石の種類は、砂岩、泥岩、砂泥互層、メランジュ相地質が大部分で、それ以外に海洋プレート起源の、チャート、石灰岩、玄武岩も分布しています。


 (文献1)の登山ガイド解説と、産総研「シームレス地質図v2」を利用し、この山域の各ピークの地質を少し細かく見てみます。(図1も、ご参照ください)

 ・国見岳は、山体のほとんどがメランジュ相の付加体性地質で形成されていますが、一部はチャートが分布しています。
・向坂山の山頂部とその周辺は、マントル由来と思われる蛇紋岩体が分布しています。これは前記の「秩父帯」、「四万十帯」に属するものではなく、「黒瀬川帯」の構成要素の一つとされるものです(文献2−a)。
 ・白岩山は、山体の北側はメランジュ相付加体、山体の南側は砂岩が分布しています。が、山頂のやや北側に幅約500mほど石灰岩が分布しています。(文献1)によると、この山の名前の由来も、その白い石灰岩地帯から付けられたのだろう、とのことです。
 
2)市房山
 市房山(いちふさやま;1721m)は、前述の九州脊梁山地の南の延長、人吉盆地のすぐ東側にそびえる山です。
 古くから信仰の対象とされ、中腹には市房神社があり、山頂部は奥宮を兼ねています。九州山地の中ではアクセスも容易で、展望も素晴らしい山として、良く登られている山です。

 さて、この市房山とその周辺の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、市房山の山頂部やその東側、南側は「四万十帯(四万十南帯)」に属する付加体型地質(メランジュ相;古第三紀 始新世)が分布しています。
 一方、人吉盆地側からの登山道がある北西部の山腹や、山頂から北側と延びる稜線部には、花崗岩類(花崗閃緑岩)が分布しています。(図2も、ご参照ください。)

 この花崗岩類は、楕円形状(長径 約10km × 短径 約7km)の分布形状をした、ひとまとまりの深成岩体となっています。
(文献2−b)によると、この深成岩体は、前章(12−8章)で述べた祖母・傾山群、大崩山群で見られる火山岩、花崗岩が形成された頃と同時期(約14−12Ma)に活動した火成活動由来の岩体です。(文献2−b)、(文献3)では、「市房山 花崗閃緑岩体」という名称がつけられています(以下、単に「この深成岩体」と略す)。

 元々、上記の「四万十帯」に属する堆積岩が分布していた地域に、「この深成岩体」の元となったマグマが貫入してきたため、「この深成岩体」に近い部分(幅で約2〜3.5km)の堆積岩は接触変成作用を受けています。
 (文献1)、(文献4)によると、この熱変成を受けた部分は「ホルンフェルス」(注1)と呼ばれる硬い岩石になっています。
 市房山は、山頂付近やその北側稜線部が割と岩っぽくて険しいのですが、花崗岩類に加え、おそらく「ホルンフェルス」化した硬い岩石が浸食に抗して、険しい山容を形成しているのだと思われます(この段落は私見を含みます)。
注1)「ホルンフェルス」とは
 「ホルンフェルス」(Hornfels)とは(文献5)などによると、主に泥岩、砂岩などの堆積岩を源岩とし、熱による変成作用(接触変成作用)によって、ほぼ完全に再結晶した岩石を意味します。
 非常に緻密で硬く、浸食にも強いという特徴があります。

 なお、”Horn“はドイツ語由来であり、直訳的には「角(つの)」となりますが、ホルンフェルスは、硬く、叩いて割ると角ばった破片となるために、ホルンという語が付けられたそうです (”Fels”はドイツ語で「岩石」の意味だそうです)。
 蛇足ですが、マッターホルン(Matter horn)の「ホルン」も同じく、「角(つの)」を意味するドイツ語です。
3)尾鈴山
 九州山地のうち、東部にあたる宮崎県の中央部には、尾鈴山(おすずやま;1405m)があります。
 登山対象としては全国的な知名度はさほどではないですが、明治末から大正期にかけ活躍した、歌人 若山牧水の生まれ故郷がこの付近にあり、牧水が、ふる里の山として詠った山としても知られています(※)。また(文献1)によると、高さのわりに山腹は険しく、滝が多い山です。

  ※ 「ふるさとの尾鈴の山のかなしさよ 秋もかすみのたなびきて居り」 牧水 


 さて、この山の地質を産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、尾鈴山の山体部分は、新第三紀中新世の火山岩(デイサイト/流紋岩質の大規模火砕流堆積物;実際は「溶結凝灰岩」質)で出来ており、さらに広域で見ると、その東側、宮崎平野に近い辺りは、花崗岩類が分布しています。(図3もご参照ください)。

 この火成岩類の分布形状は半月型となっており、東側は宮崎平野、太平洋(日向灘)となっているので定かではありませんが、地質図で確認できる最大径は約30kmにもなる、大型のコールドロン状構造といえます。
 一方、山の西側は、九州山地一帯の基盤地質の一つである、古第三紀付加体(四万十南帯)に属する泥岩、砂岩などが分布しています。
 が、この西側ゾーンも良く見ると、弧状の構造が認められます。(文献4)によるとこの弧状構造の領域には、花崗岩質の貫入岩が線状に分布しており、それらの貫入岩は衛星岩体と称されて、この弧状の構造は、この弧状の構造の内側が陥没した形式の「陥没構造」とされています。従ってこれもコールドロン状構造の一つといえます。
 (図3も、ご参照ください)

 (文献2−c)、(文献4)によると、この尾鈴山とその周辺の火成岩は、「尾鈴山 火山深成複合岩体」と呼ばれ、本章第2節で述べた「市房山」(市房山 花崗閃緑岩体)や、12−8章で述べた祖母・傾山群、大崩山群の、コールドロン構造を伴う火山深成複合岩体と同じく、新第三紀 中新世中期(約15−12Ma)に活動した火成活動で形成されたものです。

 この火成活動の具体的な活動様式や活動史については、尾鈴山地域の地質を詳しく調べた(文献4)が詳しく、その内容を要約すると、

「「尾鈴山 火山深成複合岩体」は、中新世中期にカルデラ式火山活動が起きた結果、形成されたものであり、火山岩はその時の噴出物、深成岩は(マグマ由来の)貫入岩、さらにこの地区の西側に円弧状に分布する岩脈(衛星岩体)は、カルデラ形成時に、その縁にそって貫入した貫入岩である。想定されるカルデラの大きさは長径 約40kmである。活動年代は岩石の放射年代測定値を元に、約15−13Maと考えられる。」
とされています。

つまり、「コールドロン」という表現こそ使われていないものの、祖母・傾山群や大崩山群と同じく、新第三紀 中新世中期の巨大なカルデラ式火山の跡(=「コールドロン」)であることになります。

 市房山の深成岩体や、この尾鈴山の火成岩ゾーンの形成時期やその過程は、12−8章で多少詳しく述べた、「日本海拡大/日本列島移動イベント」+「フィリピン海プレート上への島弧側プレート乗り上げ」という、広域的な地質学的イベントの一環として形成されたものと考えられます。
(参考文献)
文献1) 山と渓谷社 編
 「ヤマケイ・アルペンガイド 13 九州の山」 山と渓谷社 刊 (2013)のうち、
   「九州脊梁の山」の章など


文献2)日本地質学会 編
   「日本地方地質誌 第8巻 九州・沖縄地方」 朝倉書店 刊 (2010)

  文献2−a) 文献2)のうち、
    6−2章「(九州地方の)古生代 深成岩」の、
     6−2−1節「古生代黒瀬川帯」の項 及び
      図6.2.2 「熊本県・清和−宮崎県・五ヶ瀬地域の地質概略図」

  文献2−b) 文献2)のうち、
     6−2章「(九州地方の)古生代 深成岩」の、
      6−4−2−b)項 「市房山 花崗閃緑岩体」の項

  文献2−c) 文献2)のうち、
     6−2章「(九州地方の)古生代 深成岩」の、
      6−4−2−e)項 「尾鈴山 火山深成複合岩体」の項


文献3) 原、木村、内藤
   「地域地質研究報告; 5 万分の 1 地質図幅 、鹿児島(15)第 59 号」
     「村所地域の地質」
                 産総研 地質調査総合センター 刊 (2009)

 https://www.gsj.jp/data/50KGM/PDF/GSJ_MAP_G050_15059_2009_D.pdf


文献4) 木村、厳谷、三村 ほか、
  「地域地質研究報告; 5 万分の 1 地質図幅 、鹿児島(15)第 60 号」
    「尾鈴山地域の地質」  
              (旧)地質調査所 刊 (1991)

 https://www.gsj.jp/data/50KGM/PDF/GSJ_MAP_G050_15060_1991_D.pdf


文献5) 西本 
   「観察を楽しむ 特徴がわかる岩石図鑑」 ナツメ社 刊 (2020)のうち、
    「ホルンフェルス」の項          
【書記事項】
初版リリース;2022年5月17日
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