ニペソツ山(敗退)
- GPS
- 13:04
- 距離
- 27.4km
- 登り
- 1,694m
- 下り
- 1,691m
コースタイム
- 山行
- 13:05
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 13:05
過去天気図(気象庁) | 2016年12月の天気図 |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
・林道の徒渉(橋が崩落している箇所がある) ・デルタルンゼの登高判断 |
写真
感想
昨年に続き、この年末にも強力メンバーが我が家を訪れてくれた。聞くと滞在中にニペソツ山を計画しているという。私もニペソツ山には興味を持ち色々と考えていたが、トレース無しで厳冬期単独日帰りは、現在の私の体力では実行不可能で、保留したままだった。彼等なら登頂できる可能性があるので、この機会に同行させてもらうことにした。ただ、彼らの足を引っ張らないよう、私が遅れても気にせず進んでもらうということで。
アプローチの林道から、私にとっては速いペースで進んでいく。峠を越え、沢沿いを進み、やや傾斜が出てくると、オーバーペースの疲れが出てきて遅れるようになった。以後、一人マイペースでトレースを追う。標高1400mでハーフパイプ状の谷へ入ると、視界が開けて上部に彼らが見える。少し待っていてくれたようだ。申し訳ない。私にかまわず進むよう、徹底しておけばよかった。お互い姿を確認できたので、彼らはまた先行していった。
私がデルタルンゼ入口に着いたとき、時刻は11時だった。彼らはルンゼを8割ほど登っていたので、ニペソツ山へ登頂できるだろう。私の方も、山頂までの標高差250mほど、稜線は10m以上の風が吹いているようだが、天候は晴れ。装備が万全であれば登頂できたかもしれない。ここまで登れるとは思っていなかった。アイゼンを持たなかったのが悔やまれる。しかし、ルートの概要は知ることができたし、ラッセルがなければ単独日帰りできることも分かったので、引き返すことにした。
滑降コースは尾根にとる。厳冬期ならではの非常に滑らかな新雪滑降を暫し楽しむ。400mほど高度を落とした辺りで用を足していたらTomahawkが降りてきた。早すぎると思ったら、雪崩で1人負傷したという。ビバーク、ヘリ搬送が頭に浮かんだが、しばらくして負傷した本人が滑り降りてきて、とりあえず自力下山できそうで安堵した。
雪崩事故に関しては、幾つかの幸運が重なり、大事にならなかったことは留意しておきたい。登山とは、様々な事故を経験することによって成長する側面を持つ。事故を充分に解析、考察して、今後の山行に生かしていくことができればと思う。
<概要>
ニペソツ・デルタルンゼ登高中、私によるヒューマントリガーでサイズ1の雪崩を引き起こし、他の2名を巻き込み距離にして100m程流された。この時期にルンゼを詰めること自体に抵抗がある方もおられるだろうが、下部〜中間部に不安定要素は無かった。ただ稜線直下数メートルだけ雪面がスラブ化しており、地形的にも警戒はしていたものの、あと数歩で稜線、山頂まで残り標高差100mという所で気の緩みが生じた。破断面は見ていないが、深さにして数十センチ、ルンゼの幅からして5〜15m程度だと推測する。流された時に1名右肩を脱臼したものの、ルンゼ内にいた私を含む2名は無傷でギアのロストも無く、全員自力下山した。
<行動>
前日はこれまでの移動、山疲れもあるので、移動日+休養日として取付き手前に宿泊した。メンバーは、0v0さん、カンテガ、UTMF、私の4名。0v0さんは今回登頂目的ではなく偵察のみのため、アイゼンは持っていない。独力で動くだけの体力、経験があるため、場合によっては途中から別行動することで互いに合意した。
3時半前に出発する。24日に入ったpakumin氏のトレースがあるが、なかなかに深く刻まれている。レコにもあった通り橋がいくつか落ちていたが、徒渉は苦労しないレベルだ。林道の中頃から風のせいでトレースが消えた。コルを越えて、沢へ一旦下る。橋から林道を逸れて沢に入っていく。真っ赤に染まる東壁が見えるが、まだ遠い。林道を使うと効率的なのかも知れないが、ルート取りがわからずそのまま沢を詰めていく。1050m地点で川を渡り、中洲に入る。地形図は単純だが実際には表現されていない細かな凹凸があり、また樹林帯であるため、ルーファイに時間を要した。0v0さんと我々3名は距離があいてしまった。引き返したのだろうか。
大きな沢地形を経て、三角州のような尾根を登る。登路はかつて新井さんが登った尾根かデルタルンゼの2択だったが、この時点でデルタルンゼの1択で、無理であれば敗退しかなさそうだ。トラバースしてルンゼに取り付くが、不安定性は見られない。数日前に流れたと思われるスラフの跡があるが、雪は落ち着いている。少し距離をあけながら登る。ルンゼを半分まで登ったあたりで0v0さんが見えた。既に引き返したと思っていたのだが、山頂を目指すのだろうか?しかし、アイゼンはないはずだ。
稜線は風が強く、デルタルンゼ最上部はスラブ化していた。雪崩が発生するとしたらここしかない。下にいる0v0さんが巻き込まれるおそれがある。山頂までは標高差100mだが、登る0v0さんを置いていくこともできないので、上部に一度3人で集まり、上がってくるのを待つことにした。その間に強風対策をするが、結局0v0さんはルンゼ下部から引き返すことにした。3人のみになった後、私が板を履いた状態で稜線に向けて最後の数歩を踏み出す。本当に最後の一歩というところでスラブが足元から崩れ、すぐ近くにいたカンテガ、2〜3m下にいたUTMFを巻き込み流された。走馬燈は見えなかった。
私とカンテガは50mほど流されて止まったが、少し下にいたUTMFは100m流され、ストック両方、板片方を失った。上部のスラブ以外は安定しているため、二次雪崩の可能性は低い。まず私がUTMFのところまで下り、その間にストックを拾うが板が1本無い。UTMFに聞くと、流された際の衝撃で右肩を脱臼したという。三角巾の入っているレスキューキットを取り出し、上にいるカンテガにも滑り下りながら探してもらうが、板は見つからなかった。3人で協議した結果、いずれにしても人数は多い方が良いので、まず私が0v0さんと合流することにした。リグループポイントを決め、ルンゼの下部に向けて滑りだすと、デブリの中に板を見つけることができた。板を立てて、大声で知らせる。これでなんとか帰れそうだ。シュプールを辿ると、ほどなく0v0さんと合流。他の2人と合流するため登り返すが、すぐに滑ってきた2人とも合流できた。
あとは帰るだけ。UTMFの荷物を分担し、空身片腕で下ってもらうことに。帰りは林道を見つけそれに沿って下ることができ、時間を短縮できた。適当なところからコルに登り返す。下りの林道はとにかく長く、後半は特に傾斜が無い。うんざりし始めた頃、ようやく車に辿り着いた。
<考察>
まずは登路にルンゼを選択したことを問題としたい。当初我々のプランには南の1736Pを経由する尾根、それより少し北の1623Pを経由する尾根、デルタルンゼの3つの選択肢があった。1736は稜線歩きが長いため、風が強いこの時季には不適とされ早々にプランから消え、残ったのは2つだった。あとは雪の状態次第だが、ルンゼに至るまでの間に不安定性を感じるものが無かったため、最もスキー向きのデルタルンゼに足が向いた。ルンゼの幅は150〜200mほどだろうか。上から面発生があれば事態は深刻だが、下部にその兆候は無く、上の方は行ってみないとわからない。自然発生でこのような雪崩が起きる確率は高くなさそうだが、単なる希望的観測なので、この選択には再考の余地があったかも知れない。
次にルンゼ上部到達、スラブ発見後の動きについて、より良い対策は無かったか考えたい。まず、スラブを察知した時点でこれ以上進まないという判断ができなかったのか。これは可能だが心理的にはとても難しい。山頂まであと100m、ここさえ抜ければ登頂はほぼ間違えない状況で雪崩れるかどうかもわからない数歩を踏み出さない勇気を発揮すべきか…。難しいが、ここで引き返していれば今回の事故は避けられた。
結局進む判断をした我々、先頭にいた私がとった判断は、まず距離を縮めてスラブ直下に集合すること。該当箇所は雪崩の発生区になるため、上にいればいるほど埋没する可能性は低く、下部に地形の罠も無いため、万一雪崩に流されても重大な事態は免れると考えた。それ自体は間違っていなかったが、一旦集まって準備や待機の時間を置いた後の行動がまずかった。その間に緊張感が薄れ、まだ完全に準備が整っていないメンバーがいたのにもかかわらず、私が最後の数歩を歩みだしてしまった点は問題。数メートルだが、やはりより下にいたUTMFのダメージの方が無傷だった我々2名よりも大きく、ギアのロストもあった。より距離を縮め、雪崩に備えて体勢を整えていれば、被害を抑制できた可能性が高い。それ以外にもアンカー(スノーアンカーくらいだろうが)を作成してロープで確保してから行く、横に広がって離れておく等の対策も有効だったかも知れない。
50m流されて停止した私が最初に考えたのは、登り返して登頂すること。UTMFの状況を聞いてその選択はすぐに消えたが、ニペソツにはまた戻ってきたいと思う。時季は異なるかも知れないが、その時はより慎重な判断を心がけたい。
<16-17シーズン出勤表>
FISCHER TRANSALP80:1
ATOMIC CHARTER 100:2★
FISCHER BIGSTIX 122:1
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合計:4
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