南ア・赤薙沢袋沢〜ミツクチ沢下降
- GPS
- 56:00
- 距離
- 12.8km
- 登り
- 1,908m
- 下り
- 1,882m
コースタイム
/31 発(710)袋沢出合(845-915)h.1930m二俣(1100)稜線(1450)賽ノ河原(1525-55)h.2250m泊(1700)[晴後曇時々雨]
8/1 発(750)h.1600m(1110)h.1550m・40m大滝上(1200-??)赤薙沢出合(1440-55)大武川出合(1610-30)ゲート着(1750)[霧後曇]
過去天気図(気象庁) | 2005年07月の天気図 |
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アクセス | |
ファイル |
(更新時刻:2018/09/21 11:53)
(更新時刻:2018/09/21 11:53)
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感想
鳳凰山・地蔵岳の賽ノ河原を北に流下する水は、果たして石空川北沢へのものか?それとも赤薙沢ミツクチ沢へ落ちてゆくものか? 地蔵岳と離山の間にある分水嶺は非常に興味深い地形である(その他興味を引く分水地形としては、南ア・加加森山北面と、溯行済みのサンナビキ沢左俣が挙がる)。今回の山行は、この略奪地形をこの目で確認しに行く作業でもあった。たとい日本登山大系に種明かしがあっても、実際に行かなくてはならないのだ。
いつもの如く、成瀬さんと行動を共にする時には計画は在って無きもので(ちなみにこの山行は、シレイ沢の前前日に誘われた)、赤薙沢袋沢溯行はいいとして、石空川北沢下降の予定をミツクチ沢に変更したのはその略奪点そばに幕営した前夜の決定だった。
凡長な沢の多い南アルプスに於いて大武川は例外的に風格ある渓谷で、台風7号の影響下で水量がやや多く笹濁っていたが、澄んだ水と花崗岩の大岩と岩盤の白さが流石に第一級の山々に囲まれた水系だと一見して感じさせた。赤薙沢出合の赤薙ノ滝からして堂々たるもので、下部瀑流帯は前夜の飲み遅れも手伝ってあっけなく尻尾を捲いた。パッとしない出合のミツクチ沢を左に分け、地図で期待の上部瀑流帯へ。実際には期待した程の大滝は存在せずに、白く快適な斜滝と脆い大岩を掛けたよくある連瀑で終わり、また袋沢に入っても煮え切らず成瀬さんは少々落胆気味の表情を見せていた。到達した稜線では地震を感じ(下界で震度4)、成瀬のみ霧に煙るオベリスクに攀じ登り、賽ノ河原からマサマサの斜面を下って行く。地形図「鳳凰山」から憧れた平流の幕場であったが、上流域だけあって沢が小さくまた薪も湿々で残念乍ら快調とは言い難い夜と相成った。ただ、焚火をしながらオベリスクを眺められるのが良い。
明けて翌朝、じきガスに煙る広大空間が眼前に拡がった、略奪点の境目となる大滝だ。大滝といってもたかだか30m程度のハング滝なのだが何が何が、それを取り巻く環境が真に素晴らしい! 両岸、殊に左岸崩壊壁の露出は威圧感大きく、その場に居合わせる我々に地図以上のスケールを与える。略奪点については、石空川北沢源頭部の地形が沢幅広く(かつての流程途中であるという意味)且つ緩傾斜である事、そしてミツクチ沢が大崩壊地のハング滝で地形が急変している事実より、賽ノ河原からの流れはそもそも北沢のものであったのが、花崗岩崩壊の浸食を受けてミツクチ沢に略奪されたといって差し支えないと思う。さて、30m滝身への懸垂二度で沢床に無事降り立ち、傾斜有るガラガラ沢を浮岩に神経遣いつつ下降を続け、大きな滑滝も慎重にクライムダウンして大ゴルジュ帯の落ち口に到達して再度驚く。断層沿いの谷故か、両岸の岨立ちがこれまたイカシてる。半信半疑で左岸バンドを伺うと、カモシカが巧妙に道を繋いでくれている。右岸壁は相当な立ち方ながら、左岸上部は緩傾斜の薄い潅木帯で、沢中を覗きつつのカモシカトラバースをネチネチ続け、頃合を見計らって沢床へと下降した。溯行には随分と気合の要りそうなチョックストウン滝が上流に立ちはだかり、その溯行実績の有る成瀬さんに拠れば滝が白砂に4,5mは埋まったという。崩壊土砂の供給源が上部に存在する為、この沢は随分と変化するようだ。実際に、日本登山大系の写真滝は現在存在が確認できないし、または埋まったやもしれぬ。確かに溪は生きている。その後は難なく下降を続けて赤薙沢出合へと辿り着き、改めてその沢を振り返った。この沢の奥に、アレだけの空間が潜んでいるとは想像に難い。
私の考える名渓の一つに、渓が地図や実際の集水域から想像する以上のスケールや威圧感を、そこに身を置く溯行者に与えるという要件があり、この渓はまさにその好例である。過去の記録に、その点を叙述に伝えたものが無いのが残念だ。日光・アカナ沢以来の驚きであった。
<溯行図あり>
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