神秘の湖は実在した 北極圏テン泊 ロフォーテン諸島

- GPS
- 53:24
- 距離
- 32.6km
- 登り
- 22,590m
- 下り
- 22,534m
コースタイム
- 山行
- 2:23
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 2:23
- 山行
- 5:52
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 5:52
- 山行
- 17:27
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 17:27
天候 | 北緯68度、独特の風景で有名なノルウェー北極圏のロフォーテン諸島、モスケネス島最高峰へ日本からテント2泊で単独行してきた記録です。色々失敗したのでご参考下さい。 地形 北アルプスの中腹2200m位に雲海が広がっていて、ただしその雲海が本物の海洋で山の上だけ出ているのを想像すると、実際の姿に近いです。海食崖の上に山上湖がびっくりするほど無数にあり、ピークは全て岩峰。風光明媚な場所としてヨーロッパでは比較的知られていますが、スイスのような世界的知名度はありません。 気象条件 亜寒帯海洋性気候(Cfc)といって、南米パイネと同じ区分です。真夏の海岸で10℃、山では5〜8℃。標高は稜線でも500m前後、最高峰Hermannsdalstindも1029mしかありませんが、風速は時に日本の3000m峰と変わらず、予報が晴れでも山頂はガスの中、局所的なにわか雨も頻繁にありました。暖流のおかげで同緯度のアラスカよりは温暖。ただ北極からの強い寒気が入って空模様の変化がとても速かったです。この北極圏の気象を少し甘く見ていた点から失敗が始まります。 植生 日本アルプスの標高から2400m引いた植生に近く(現地の海岸=北アの2400m)フィヨルド内など強風が遮れる所には少し樹林帯がありますが、大半はコケ・地衣類と高山植物だけが繁茂しています。足元の感触はフカフカのスポンジで乾いてると天国なのですが、降雨後は登山道もろとも一面泥沼になります。この点も予想外で一桁台の低温の中、びしょ濡れの靴と靴下に悩まされました。 本レコの島(モスケネス)にはホッキョクギツネが生息しないため、湧水は飲用できます。沢は多くありますので水切れの心配はないです。 天気予報サイト 欧州中期予報センターECMWF/地上気圧配置と850hpa風速 https://www.ecmwf.int/en/forecasts/charts/catalogue/medium-mslp-wind850 ノルウェー気象研究所YR/レーヌ(Reine)の天気予報 https://www.yr.no/place/Norway/Nordland/Moskenes/Reine/ |
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過去天気図(気象庁) | 2018年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
船 飛行機
ノルウェーの首都オスロへは直行便がなく、フェリーの発着港となっている地方都市ボードー(Bodø)までに2回飛行機を乗継ぎます。そこからモスケネス島までのフェリーは3時間です。他にナルビク方面からバスで入る方法もあります。 各島々がしまなみ海道のような幹線道路で結ばれており、路線バスは2〜3時間毎に走っていますが、観光を兼ねて動き回るならボードーでレンタカーを借りるのが得策。本レコのようなエリアを絞ったトレッキングなら車は不要です。 ボードー空港からフェリー港へは2kmで徒歩30分。カーフェリーは車なしで人のみなら予約不要で、運賃は乗船時に支払います。クレカも使用できました。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
林道等は島内になく、全てのコースは所謂"sea to summit"で港か海岸の標高0mが登山口です。但し前述の通り標高差は小さく前衛峰のピストンは楽々で、奥まった山に登ると距離だけが長くなります。登山口が街から離れた海岸の場合は大抵駐車場がありますが、バス利用ですと停留所はないことが多く街から歩きます。 整備された登山道で楽に歩けるのは日帰りですと Vindstad〜Bunes Beach Sørvågen〜Munkebu hut〜Munken そして本レコの Moskenes〜Munkebu hut〜Pk448 の3コースと思います。 Pk448〜Hermannsdalstind(最高峰) も登山道ですが一部痩せた岩稜で足場が悪いです。穂高縦走や剱の経験があれば問題なく行けます。 同じく本レコの Djupfjord〜Veinestind Djupfjord〜Munkebu hut は踏み跡程度でした(道迷い、濡れたスラブ等あり)が荒天続きにも関わらず素晴らしかったです。もし晴れれば涙するくらいの絶景ではないかと思います。 難易度の判断はNorgeskartとOpenStreetMapを見比べると大体予想できます。破線または実線で両方に描かれている場合は整備されたコース、片方だけ出ている場合は高確率で踏み跡程度です。 テント 小屋はありますが一般客は使えず、日帰りかテント泊が基本。山中では幕営禁止と看板に明記された場所以外は"Allemannsretten"=自然享受権と呼ばれる慣習法により、どこでも自由にキャンプできます。ただし建物等からは必ず150m以上離れる、跡を残さないなど幾つか設営ルールがありますので注意して下さい。 https://www.visitnorway.com/plan-your-trip/travel-tips-a-z/right-of-access/ 燃料 テント泊装備は現地にレンタルはなく、自国から背負っていく必要があります。その中で唯一ガスカートリッジ(OD缶)は飛行機では運べないため、通常ならボードーの街で購入します。Sports1、Intersportsなどアウトドアショップは豊富ですが土曜夕方〜日曜終日は閉店。悪天候によるフライト遅延で買えるか怪しくなってきた最中、預け荷物がなんと行方不明となり(航空会社側のロストバゲージ)ボードーで足止めを食らって日曜入山する顛末に。 結果、モスケネス島のレーヌ(Reine、港から徒歩4kmにある漁村)にあるガソリンスタンドの"Circle K"でなんとかOD缶を調達し、8km余計に歩いて更に計画が狂いました。涙 また購入の際に現地ではCampingazと呼ばれる青缶が多く出回っていて、それですとプリムス等ネジ接栓のコンロには使えない点も注意。 地図(無料) Norgeskart ウェブ版 https://www.norgeskart.no Norgeskart アプリ版 https://play.google.com/store/apps/details?id=no.avinet.norgeskart&hl=en 必携。アプリ版は使用するエリアを範囲指定のうえ事前ダウンロードすることで圏外で使用でき、更にOpenStreetMapも併用可能。GPXログ記録とエクスポート機能も付いています。 177Nordland アプリ版 https://play.google.com/store/apps/details?id=no.bouvet.routeplanner.nfk フェリーとバスの時刻表をリアルタイム検索できます。 |
その他周辺情報 | 天文 8月上旬ならヘッデンの出番はありません。日没22時〜日の出3時の間だけ薄明となりますが、暗闇とは程遠い明るさです(6月の夏至前後は完全に白夜)。また太陽は東西へ水平線を這うように移動するため、一日に太陽光線の角度が270°変わり、プロ写真家にロフォーテンが好まれる理由の1つになっています。 また上述の理由で8月上旬ですとオーロラはほぼ見れません。秋冬が観測の適期ですが、2018年の太陽は黒点が少なく極小期に入っています。 物価 世界でも有数の高い地域で、例えば食料品の買い出しで500nok使うと日本円換算で6500円ですが、幾らも買えません。フリーズドライなど日本の方がバラエティにも遥かに富んでおり、出発前に全て買って行きました。 言葉 買い物から交通までクレカ決済が浸透し、山行は自分で歩くだけなので言葉は出来なくても行けます。地名の発音は日本語表記と微妙に違い、例えばロフォーテンはロを強調して「ロフォテン」、ボードーは「ブーデゥー」、Munkebuに至っては「モンクゥアブ」に聞こえます。参考までにノルウェーは英語が完全に通じます。 読まれる方は下記の個人ウェブサイトがとても詳しく網羅していて、事前準備に役立ちます。 http://www.68north.com/ |
写真
装備
個人装備 |
パスポート
クレジットカード
外貨
長袖シャツ
Tシャツ
ソフトシェル
タイツ
ズボン
靴下
グローブ
防寒着
雨具
ゲイター
着替え
靴
予備靴ひも
サンダル
ザック
ザックカバー
サブザック
朝昼夜ご飯
行動食
非常食
調味料
ハイドレーション
コンロ
コッヘル
食器
調理器具
ライター
地形図アプリ
コンパス
笛
計画書
バッテリー20000mAh
GPSアプリ
筆記用具
ファーストエイドキット
スリング
カラビナ
常備薬
日焼け止め
ロールペーパー
保険証
携帯
時計
サングラス
タオル
ツェルト
ストック
ナイフ
カメラ
ポール
テント
テントマット
シュラフ
シュラフカバー
携帯トイレ
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感想
8/10
お盆の欧州直行便はあまりに高かったので、南回りのTGで予約。バンコク乗継が9時間もあったので、7年ぶりにカオサン通りへ足を踏み入れてみることに。こんなにバッパーのエリア広かったかな?というくらい周囲に店が広がり、今や裏道の方が賑わってると思ったほど。変遷あっという間か、と情景に浸りながら屋台を食べ歩き、深夜便でオスロへ。俺もすっかり年取ったなあ、と思った。
8/11
朝オスロで入国。まずは不安に思いつつSIMをMTXConnectに入れ替えると、すんなりTeliaに繋がってくれた。この先Bodøへの航空券は別切りなので、ザックを拾って到着ロビーから国内線出発ロビーへ。自動チェックイン機を操作するが、出てきた搭乗券の時刻がおかしい。と思ったら3時間遅延とのこと。困った。フェリーに間に合うかすら怪しい。保険としてBooking.comでドタキャン可のBodøのホテルを予約しておいた。
15時前にようやくBodø着。カルーセルが回り出して乗客が1人、また1人とスーツケースを拾い上げては消えていく。気がつくと自分が最後だった。そしてゴトゴトゴト...という鈍い音と共に停止する。シーン静まり返る到着ロビー。
・・・・オワタ\(^o^)/
ロストバゲージだった。荷物捜索願を書き、トボトボとホテルに向かう。SIMがデータ専用なので電話できず、ホテルの電話番号を伝えた。ザックが見つかるまでホテルから出れない。チェックインし部屋に入ると失意のあまり何もする気が起きず、寝転んだ。あろうことかビュウビュウと風が強まり雨が降り出す。明日もここ泊まりか。。
20時過ぎだったろうか。部屋に内線電話がかかってきた。
「ザック見つかりました?」
「ありましたよ」
「どこです?オスロですか」
「0階に届いてますよーCome on!降りてきて」
これには感動した。別航空会社でオスロから運ばれ、空港職員がわざわざ背負ってホテルまで持ってきてくれていた。東京で同じことが起こり得るだろうか。
8/12
朝11時のフェリーでモスケネス島へ渡った。乗客は大型テントザックを担いだ人と、旅行カバンを持った人がそれぞれ半分。一人旅のインド人男がいて、話すと写真家でザック25kgの中身はドローン機材とのこと。なるほどと思った。ロフォーテンとはそういう場所なのだ。
モスケネス港に着き、177Nordlandで検索するもバスがなかった。OD缶はないとフリーズドライを調理できない。仕方なくレーヌに向かって歩き出す。小雨だったが海岸線には凄い岩山が聳えていてびっくりした。標高差500m近い垂直壁なのだ。ここがFrozenことアナ雪の世界観のモデルになったという話は、確かに頷ける。
無事OD缶を購入してVindstadへの小船乗船場に向かったが、あろうことかクローズしていた。そうすると戻るしかない。レーヌから一番最寄りのフィヨルドへ入山して設営し、天気の良い日に最高峰をファストパッキングでアタックするのが理にかなっている。結局8km往復し、19時前にDjupfjordへ入山。これが日本でいうところの破線ルートで、覚悟はしていたが壮絶な泥濘だった。2時間近くかけて1.5km前進し、フィヨルドの奥に到達。キャビンがあり私有地の看板があったので少し登り、モレーン湖の畔にテントを設営した。靴はそのままでは乾かず早速ストーブが活躍した。22時が日没のはずだったが、その後も空は明るかった。
8/13
YR予報で天気はダメそうだったので寝坊。9時前に起きて外を見ると少し日が当たっている。すぐに身支度をし、絶壁の上からレーヌが見下ろせるというVeinestindという山にサブザックで向かった。途中つるつる一枚岩のスラブがあり、なんとか登りきったものの帰りが不安になる。ロフォーテン諸島には日本アルプスようなハシゴ・鎖は少なく、あっても中上級者から見て本当にホールドとスタンスが足りない場所にだけ取り付けてある。このスラブで過去に何人の方が滑落したかは分からないが、皮肉なことに奥穂のザイテングラートよりは遥かに少ないだろうと思った。
綺麗な山上湖を通過し登っていくと、Veinestindの頂上付近はガスの中だったが、途中のピークは出ている。そこを目掛けていって上に立つと、スパッと垂直に600m切れた足元の下にレーヌとその周辺の島々が、遥か眼下の海に浮かんでいた。写真ではピーカン晴れの構図しか見たことがなかったものの、ガスに見え隠れする曇りのレーヌも、それはそれで幻想的で素晴らしいと実際に見て思った。
下山時になると雨が勢いを取り戻した。靴からチャポチャポ水音がするほど濡れネズミになり、またストーブに点火してひたすら衣類と靴を乾かす。その日Munkebuに行くのは諦めて湖畔に連泊となった。
8/14
予報は曇りのち晴れ。今日がロフォーテン最終日だ。この日を無駄にするわけには行かず、朝5時半にテント撤収して登りだした。土も少しずつ乾いてきていて良い感じだ。稜線につくとMunkebuの可愛らしい小屋と、目指す最高峰Hermannsdalstindが雲を纏って聳えていた。ここからはピストンになるので、素早くテントを設営しザックをデポ。身軽にして先を急ぐ。
しばらく標高400m前後の縦走が続いた。といっても高尾や青梅丘陵とは比較にならない地形でアップダウンがあり、表銀座を歩いているような感じだった。最高峰が目前に迫ったのは正午。片側が切れ落ちたトラバースに始まり、鎖のない急な岩稜、ロープ付きだが滑る急斜度の草付きへと続く。どれも三点支持で確実にゆっくり登った。
14時前、ガスに入りそうな頂上稜線の手前で振り返ると、写真家のベストショットで見た絵葉書のようなロフォーテンの絶景が、そっくりそのまま目の前に広がっていた。本当に素晴らしかった。別に夕日が当たっているわけでもなく、どんよりした曇り空なのに何故こんな写真映えするんだろうか、と不思議に思った。恐らく地形的に恵まれてるからなんだと思う。それに北極圏らしい静けさがあって、大自然のアートギャラリーに囲まれているような、落ち着いて幸せな気分にさせてくれる。
頂上では何も見えず早々と戻った。危険箇所を下り終えたあたりから稜線左手のフィヨルドを挟んだ対岸のピークの連なりに、一筋の日光が差し込んで広がっていった。晴れ間がだんだん自分の方に近づいてくる。すると今度は右手にある巨大な氷河湖の湖面が灰色から色づき始め、風も収まって、空模様を鏡のように反射し始めた。そして最後、見事なスカイブルーに染まった。もうなにも言うことはない。
帰路は子連れの雌ライチョウに逢った。こんな離れた海外でまさか、と最初驚いたが、元々は氷河時代から北極を中心とした周り、北欧やシベリアに生息していた一部が南下して、温暖化後に取り残されたのが日本のライチョウである。ライチョウにとっては北欧の方が「雷鳥の里」なのかも知れないと思った。
テントに戻って軽食と仮眠し、23時過ぎのフェリー出港に合わせて下山。モスケネス港へ下るフィナーレは草原の道で、どこまでも北極海が広がっていた。思い出を胸にしまってザックもパッキングし直し、海を渡って次の目的地、スヴァールバル諸島へのフライトにチェックインした。
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