天狗岳☆新雪の天狗の奥庭に遊ぶ
- GPS
- 05:06
- 距離
- 10.1km
- 登り
- 873m
- 下り
- 866m
コースタイム
- 山行
- 4:35
- 休憩
- 0:27
- 合計
- 5:02
天候 | 曇り一時雪、のち晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2020年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス タクシー
下山後はタクシーで |
コース状況/ 危険箇所等 |
天狗岳から天狗の奥庭を経由して黒百合ヒュッテへと至るルートはトレースなし 新雪のためスノーシューでも膝下まで沈み込む 12本アイゼンは使用せず |
予約できる山小屋 |
黒百合ヒュッテ
|
写真
感想
東京出張の翌日、京都に帰る前にtakhim君と共に雪山をという約束をしていた。早朝に東京を出発して、その日のうちに京都にまで帰るという条件の中で山行先を思案することになる。この日は山梨県は晴れの予報ではあるが、長野県はどうも雲行きが怪しい。当初は大菩薩嶺を考えたが、今週の半ばの寒波により積雪が期待される八ヶ岳に照準を合わせることにした。この日は前線が午後に太平洋沖に通りすぎるので午後の方が天気が良くなることが期待される。
公共交通機関を使って日帰りできる山という点では真っ先に思い浮かぶのが天狗岳だ。新宿発のあずさ1号に乗ると茅野に9時過ぎに到着し、その後すぐに渋の湯行きのバスが出発する。登山口まで1時間近くかかって10時半頃のスタートとなるが、天狗岳からは夕方までには戻って来ることが出来るだろう。
渋の湯を出る最終のバスが14時55分とかなり早い時間なので下山後はタクシーを呼ぶことになる。下山は唐沢鉱泉の方が都合が良いのだが、タクシー会社に電話すると冬季は唐沢鉱泉まではタクシーは入らないという。確かに他のレコを拝見しても四駆のスタッドレスでかなり冷や冷やしながら運転することになったとの記事を見かける。
新宿発の特急あずさ1号、前日に指定席を購入した時点では空席が50席以上はあったのだが、本日は座席は全て予約で満席となっております」とのアナウンスがかかる。車内に乗り込むと、相当数の登山客が乗車しており乗客の半数近くを占めるのではないだろうか。大型リュックも多く見受けられるので、泊りがけの登山客が多いようだ。
あずさ号が甲府盆地に入ると左手の車窓には甲斐駒ケ岳、白根三山から塩見岳に至るまで南アルプス北部の名峰が白銀に輝く頂きがずらりと勢揃いである。南アルプスは今日は好天が期待できそうだ。
予想通り、ほとんどの登山客は茅野駅で降りるようだ。特急列車から吐き出された登山客のほとんどはそのまま八ヶ岳へと向かうバスに列をなす。コインロッカーに出張の荷物を預けてからバス停に向かうと既に渋の湯行きのバスは満席となっており、乗れなかった登山者達が列を作っている。どうやら2台目のバスを用意してくれるらしい。1台目が出発してからまもなく2台目のバスが到着する。こちらのバスは座席には十分な余裕があり、二人がけの隣にはリュックも腰掛けることが出来た。
茅野から見上げると南アルプスの山々とは対照的に八ヶ岳から北八ヶ岳に至るまで重苦しく鉛色の雲にすっかり覆われている。西の空には晴れ間がのぞいているので、午後から雲が上がってくれることを期待するほかない。
渋の湯に至る道路はほとんど雪はないが明治温泉を過ぎたあたりから道路の周囲には雪が現れる。除雪と融雪剤のせいで雪がないのであろう。唐沢鉱泉までは四駆のスタッドレスでかろうじてたどり着くことが出来るというのに納得である。
渋の湯からは?の川にかかる橋を渡るとオオシラビソの樹林の中を進んでゆく。雪の上にはしっかりと踏み固められたトレースが出来ている。同じバスで来たと思われる登山者達が先を歩いている、失礼して先を行かせて頂く。ほとんどの登山者達は12本爪のアイゼンを装着しておられるが、傾斜も緩やかであり、目下のところその必要性は感じない。
まもなく先に大きな段ボール箱を二つほど背負って歩かれている方に追いつく。長靴であるにも関わらず、かなりの快速で歩いておられることからも相当に山慣れしているのだろう。
「黒百合ヒュッテの方ですか?」「そうです。」
歩荷されているダンボールの一つは石川県の酒屋が記されている。
「石川のお酒なんですか?」
「最近、テレ東で紹介されていた能登の家族経営の造り酒屋のお酒で、美味しかったら小屋に置こうと思って手に入れてみたんです」
なるほど、ここではテレビ東京のことをそう訳すのか。果たして関西ではどれだけ通用するのだろうか?その後、山梨の地酒のことで話が盛り上がり、大将がお勧めの地酒を教えて頂く。
本日の黒百合ヒュッテは収容者数がおよそ100名のところ90名ほどの宿泊の予約があるそうで、相当に忙しそうだ。相手は話し方は丁寧ではあるが顎髭を蓄え、強いカリスマ性を放っているように思われる。そのオーラはほぼ間違いなく小屋の大将のようだ。
「今日は最終のバスで?」と聞かれるので、「流石に渋の湯発14時55分発には間に合わないので、渋の湯にタクシーを予約しています」とお応えする。北横岳のロープウェイのバス路線は山麓にかなりの人が生活しているために人々の足として夕方遅い時間までバスを運行しているらしいが、こちらの渋の湯はあくまでも観光客のためのものであり、大赤字路線なのでいつなくなっても不思議はないくらいだということを教えて下さる。
「それにしても早いですね。一般の登山者の方とこうして一緒に歩くことはないことです。」と大将が仰る。しかし、大将が背負っておられる歩荷は25kgほどあるらしく、それだけの重量を背負いながらこのスピードで歩くのは私には到底無理である。後ろの相方の姿が見えなくなって時間が少し経過してしまっているので、黒百合ヒュッテまでは後わずかのようだが、大将とお別れして、相方を待つ。
樹間から北側の中山の斜面が見えるので、takhim君を待つ間に写真を撮ろうと思ってトレースから雪の中に踏み出して驚いた。トレースを一歩でも外れると股下まで一気に沈み込む。黒百合ヒュッテの大将が、それまで極めて少なかったのが、ようやく今週になって雪が降ったと話しておられたことを思い出す。どうやら周囲の雪のほとんどが今週に降った新雪なのだろう。そして新雪の下はハイマツの藪のようであり、下手に踏み抜くと這い上がるのが相当に厄介だ。
黒百合ヒュッテはやはり大勢の人で賑わっている。
ヒュッテの前には壁のような急斜面があ理、斜面の下には天狗岳方面への道標がある。takhim君はここでアイゼンを装着し、行動食を食べるというが、私は一足先に多くの踏み跡がつけられた斜面を上って、上で彼を待つことにする。斜面の上に立つと途端に目の前に大きく天狗岳の眺望が飛び込んでくる。天狗岳も雲に覆われていることを予想していたのでこれは嬉しい誤算であった。
上から単独行の男性が降りて来られ、ここから先にはトレースが全く見当たらないと引き返して来られる。「ここはスノーシューがないと歩けない」とのこと。この斜面はヒュッテに宿泊される方が天狗岳を展望するために登るだけのようだ。
尾根に上がると確かに途端に風も強くなる。そして雪は相当に柔らかく、男性の言葉は正しいように思われる。ここはまずはスノーシューをつけることにした。どうやら天狗岳に向かう登山者はすべからく中山峠からの東側のルートを歩いていくようであり、天狗の庭を経由する西側のルートはトレースがないようだ。
やがてアイゼンを装着し終えたtak him君が斜面を上ってくる。スノーシューがあっても吹き溜まりではかなり深く沈み込むので、天狗の庭ルートはまず無理だろう。すりばち池の東側の尾根伝いに歩けば中山峠からの登山道に合流するだろうと、トレースのない尾根を歩く。スノーシューで一度歩いただけではトレースはまだ柔らかく、相当に沈みこむらしい。一度、takhim君のところに戻り、もう一度歩くと少しはマシになったことかと思う。
すぐに中山峠からのルートと合流すると、スノーシューは全く不要なほど、先ほどの黒百合ヒュッテまでの道と同様、ガチガチに踏み固められたトレースとなった。
登るにつれて背後には中山の樹林帯を俯瞰するようになる。その先にある筈の茶臼山、縞枯山のあたりは相変わらず雲に覆われたままだ。
まもなく雪も降り始める。左手の手指の先がかじかんで来たので、樹林帯に入ったところで手袋を重ねて装着する。
樹林帯を抜けると天狗の鼻への急登となる。有難いことに雪は止み、風も徐々に収まりつつあるようだ。天狗岳東嶺のピークに到達すると、硫黄岳、赤岳、阿弥陀岳などの南八ヶ岳の峰々が一気に視界に飛び込むのだが、残念ながらこれらの峰々の山頂部はいずれも雲がかかっている。
山頂ではお二人のご婦人とご一緒になったので、山名標と共にお互いの写真を撮っていると、その間に雲の下から硫黄岳、阿弥陀岳が次々と姿を現し始める。takhim君が足が攣り始めたので、東天狗岳の山頂からは黒百合ヒュッテに戻ることにしたいというので、私は単独で天狗岳の西峰まで行かせて頂くことにする。
東天狗岳から西天狗岳にかけての吊尾根を辿る。そのわずかな間に雲の間から光が広がったかと思うと、遂に赤岳も雲の下から姿を現し、陽光がおたって白銀に輝く様はやはり壮観だ。
下山は躊躇なく、天狗の奥庭へのルートへと入る。折角、スノーシューを用意してきたので、このトレースのないルートこそスノーシューで闊歩するのに相応しいところだ。折しも背後からこれから進んでゆく尾根の上に光が降り注ぎ、黒胡麻をばら撒いたかのような黒い岩と純白の雪のコントラストを際立たせる。おそらくもう少し雪が深ければこれらの岩も雪の下に隠れてしまうのだろうが、雪の上に岩が顔を出してくれているお陰で特異な景観を見せてくれる。
斜面を下り始めると風雪でほとんど消えかけてはいるものの、所々にツボ足で歩いた踏み跡の痕跡がシュカブラの乱れから見分けることが出来る。おそらく今朝かあるいは昨日のものだろう。スノーシューでもかなり沈み込むので、ここをツボ足で歩いたのは相当に苦労されたのではないだろうか。
やがて正面の蓼科山、北横岳も暗い鉛色の雲の下からようやくその姿を現す。この天狗岳とは対照的にこれらの山々は山頂部に至るまでほとんど雪が見当たらず、山肌には雲が陰鬱な影を落としている。後ろを振り返ると天狗岳の山頂の上は蒼穹が大きく広がっているのだった。登りの強風が嘘のように穏やかな微風が荒涼とした景色の中を通り過ぎてゆく。
やがて尾根の先に黒々とした岩が集簇する隆起が近づいてくる。その様はまるで知られざる恐竜か怪獣の背中を想起させる。一際大きな岩があるところには天狗の奥庭と記された道標が立てられていた。岩の特異な景観が素晴らしいのだが、すぐ東側の登山道を大勢の登山者が往復しているとは思えぬ程のひと気のない静けさが嬉しい。
果たして岩の間を無事、通過することが出来るものかと懸念したが、岩と岩の間にはスノーシューで通過するのに十分な積雪がある。岩稜の間を縫って進んで行くのは迷路を辿るような愉しさがある。とはいえ、下るにつれて岩につけられた白い○印が目につくようになり、ルート・ファインディングに苦慮することもないのだが。
スリバチ池の縁に辿り着くと、黒百合平の上の展望台に到着する。ここからは再び数多くの踏み跡で凹凸がつけられた斜面を下ることになる。踏み跡は多いが、スノーシューによるものは全く見当たらない。黒百合平ヒュッテに下ると、小屋の前でアイゼンを外しているtakhim君の姿が目に入る。
このまま渋の湯に下るとタクシーを予約していた16時半にはかなり時間が余ってしまう。しかし電波は通じないので早く下山して、温泉から電話をかけるしかないだろう。黒百合ヒュッテからはスノーシューを外して、なだらかなトレースの上を快適に下ることが出来る。人が多く登る山には滅多に行くことがないので、出来上がったトレースの上を歩くということが実に久しぶりなのだが、それはそれで快適である。
数組のパーティーを追い越すが、他の方々は一様にアイゼンを付けておられるので、アイゼンがない我々はスピードの点では数段、速いのは当然である。渋の湯も近くなったところで初老のご婦人方が二人でゆっくりと降っておられる。
「お二人で車で運転されてきたのですか?」
「バスで来たんですけど、この人が体調が悪くなったので黒百合平から降りてきたのよ」
見ると、確かに少し顔色が悪そうだ。大勢のパーティーで来られたようだが、他の方達は黒百合平に泊まって、明日、天狗岳を目指されるようだ。
「最終のバスに乗って帰ろうと思っているんですけど」
「最終のバスは30分程前に既に渋の湯を出発してしまっていますよ。」
バスの時間を知らないことに吃驚したが、本来は明日に下山の予定だったので、最終のバスの時間は確認してこなかったのは無理もない。しかし、15時前に最終のバスが出てしまうというのは想定外だったのだろう。
「私館は先に降りてタクシーを呼びますから、良かったらご一緒に乗って行かれます?」
「よろしければ、是非」
渋の湯に到着したのは丁度15時半、日帰り入浴は15時までとのことであり、入浴はにべものなく断られる。タクシーに時間変更をお願いすると30分ほどで到着するとのこと。間も無く先ほどのご婦人方も到着された。体調を崩された方に付き添われているご婦人は厳冬期の天狗岳は4回目らしい。やはり今年はかなり雪が少ないとのこと。お話をしているうちにもすぐにタクシーが到着する。タクシーは蓼科湖にいたとのことで、道理で早い訳だ。
茅野駅に向かって八ヶ岳エコーラインを下ると八ヶ岳の南の山々の上にはすっかりと雲が取れて、蒼穹が広がっている。今頃、山の上にいる人達は歓声をあげていることだろう。
東京方面に帰るtakhim君も一本早いあずさ号に乗ることが出来るになった。私は塩尻で30分以上の待ち時間が生じたが、やはり一本前のしなの号に乗ることが出来たのだが、自宅にたどり着いたのは下山してから6時間後のことだった。
雪の天狗岳の素晴らしさもさることながら、不要と思われたスノーシューを敢えて担いで行ったが故に思いがけず楽しむことが出来た天狗の奥庭の静けさがなんとも印章的であった。
yamaneko0922さん、こんばんは。
普段誰にも追いつかれないヒュッテの大将に追いつくとは流石ですね!
相方さんも足が攣ってしまうでしょう(・・;)
大将とのやり取りも大変興味深く拝見しました。ただ渋の湯からの登山は以前より考えてるのでバスが無くなってしまったら困りますね(TT)
最初は曇ってたようですが、途中から青空になって蓼科から赤岳までの眺望が広がり、さぞ雪山を満喫されたでしょう。
スリバチ池からの天狗岳の写真もいい感じです。
yukkyさん コメント有難うございます。
昨日は遅くまで出かけていたので遅レスすみません。
黒百合ヒュッテの大将は相当、日本酒にこだわって選択しているようなので、yukkyさんはきっと気に入られるのではないでしょうか。
私の相方の足が攣ってしまったのは黒百合ヒュッテから中山峠をショートカットするルートが新雪でラッセルが厳しかったのと寒さのせいかと思っているのですが
天狗岳に行かれるなら眺望の良さではスリバチ池を通るこの天狗の奥庭のルートがいいかと思いますが、冬季はこちらはあまり人が通らないみたいです。
aoitoriさんとニアミスだったのですね。
何時もレコを興味深く読ませて貰っています。
近くだったらログを参考にして、自分が行けそうなレベルの所は跡を辿ってみたいなと思いながらです。(笑)
それにしてもyamaneko0922さんの同行者は大変、無傷では帰れないみたいですね。( ´艸`)
sea1020さん
コメント有難うございます。
いえ、同行した彼は無傷で無事、帰りましたよ。
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