Trinity Alps Thompson Peak (北面カール壁下で撤退）
tanno1967
- GPS
- 32:00
- 距離
- 20.9km
- 登り
- 2,088m
- 下り
- 2,088m
アクセスを調べる
標高グラフを拡大コースタイム
幕営地――Grizzly Lake――雪田横断――断念――Grizzly Lake――幕営地――クリーク――乗越――登山口
| 天候 | 晴れ |
|---|---|
| アクセス |
利用交通機関：
自家用車
なお、Trinity Alpsでの泊りでの登山には公園域立入許可証(Wilderness Permit)が必要で、シャスタ―トリニティー国有林の管理事務所に申し込む必要がある。 |
| コース状況／ 危険箇所等 |
地図は「地形図」でご覧いただくとよくわかります。 登山口のChina Gulch（唐人沢？）は標高1350mほどで、そこから尾根の乗越までは針葉樹林帯を標高差450mほどの登り。道は良く整備されており、登りつくと今度は300mほどの下りとなる。カリフォルニアの夏は乾期で、尾根の上は森林とはいえ、地面はカラカラに乾いて下草などはないが、下ってグリズリー・クリーク(Grizzly Creek)まで降りてくると水分が得られるため植生も豊かになる。標高は1500mを少し切る位だ。クリークの脇で、下流のHobo Gulchからクリークを詰めてくるトレールに合流する。こちらのトレールは標高差は少ないが、登山口からここまで片道25kmほどもあり、時間的にはChina Gulchの方が短くて済む。China Gulchという地名は、かつて金鉱掘りが盛んだった時代、中国人労働者がこの峡谷沿いにキャンプでも張っていた名残だろう。 クリークに沿って右岸通しに谷を詰めていくと、歩くこと4�劼曚匹派弦�1800-1900m付近で氷河のU字谷になる。トンプソン・ピークの北面は上中下3段、全部合わせて標高差800mほどの立派な圏谷（カール）となっているが、このU字谷はその下段にあたる。中段のカール底はGrizzly Lakeという氷河湖になっており、湖水はすぐさま30mほどの垂直の滝となって、オーバーハングした下段のカール壁を流れ落ちている。下段のカール底はGrizzly Meadows という湿原・草原となり、中央を清冽な水が流れている。素晴らしいキャンプ地である。キャンプ地は鹿の餌場にもなっているらしく、テントを張ろうとした場所ではしばらく鹿とのにらみ合いとなった。幸い鹿はしばらくで立ち去ってくれたが、後から考えてみれば鹿には悪いことをした。因みにgrizzly bearはヒグマに似て、人を襲うこともあるクマだが、カリフォルニアではgrizzlyは絶滅して久しく、現在アメリカ国内ではワイオミングやモンタナ、そしてアラスカにしか生息していない。カリフォルニアに生息しているのはgrizzlyに比べれば小型で、日本のツキノワグマにも似たblack bearである。この山行中にはクマは見なかったが、翌年反対側からThompson Peakに登った際は至近距離で目撃した。 翌朝、Grizzly Meadows から先には整備された登山道は通じていないが、大体のルートについては予習済みだ。U字谷の右岸(左側）の岩棚を縫うような形で250mほど登ると崖の上に出て、Grizzly Lake（標高2150m） から流れる滝の落ち口を渡った。湖は長径600m、短径400m位のほぼ円形で、三方を岩壁に囲まれた圏谷の底にぴったりおさまっている。湖はまだ氷結し、その上に雪に積もった部分もあるが、雪解け水は湖から流れだし、僅か3mほどですぐに垂直の滝となって、オーバーハングした下段のカール壁を流れ落ちている。この箇所を渡り、湖の右側の森林と岩が交錯する箇所を、雪を縫って登るとやがて上段のカールに広がる大きな雪田に出た。雪が柔らかくて傾斜のある雪田を横切るには苦労したが、なんとか横切ると、カール壁が低くなり、ルンゼを通って稜線に出られそうな個所まで来た。しかし、この時すでに時間が予定を大きく超過しており、またルンゼを登ることができても下りに多少不安があったこともあり、ピークを断念して戻ることにした。予想より随分時間がかかったのは、登山道のないクロス・カントリー・ルートということもあるが、シャスタ山の疲れが残っていた、ということと、シャスタとこの山での雪渓歩きのために、慣れないプラスチックブーツを借りて歩いていたこともあるかもしれない。 元来たルートを慎重に戻り、幕営地に帰り着いたのは午後1時ころだったろうか。乏しくなった食料を食べ、テントをたたんでクリーク沿いの登山道を下っていると、男性二人連れの元気そうなパーティーが登ってきて、食料の乏しくなっていた私は恥ずかしながら食料を少し恵んでもらった。このパーティーは長いトレールを辿ってGrizzly Creekを詰めてきたのだそうで、この日はGrizzly Lakeまで登って湖畔にテントを張り、翌日山頂に向かう予定だという。ビールまで担ぎ上げているのだから元気だ。クリークから乗越への登り返しは日差しに照りつけられて辛かったが、なんとかトレールヘッドに帰り着いた。林道を下ってCecilvilleのよろづ屋(General store)で食べたハンバーガーの味は格別だった。 |
写真
Cecilville から林道を進むと正面奥に Thompson Peakが見える。登山口までの林道には、小さな落石をどかさないと、乗用車では通りにくい場所もあった。
拍手
China Gulch （唐人沢）の登山口から450m登って尾根を越え、Grizzly Creekに向かって降りてきた。アメリカ西海岸は氷河期と乾燥の影響を受けたため全般に植生が単調だが、トリニティ・アルプスのあたりはその中では最も植生が豊かな地域なのだそうだ。
初夏のGrizzly Meadows は地上の楽園だ。正面奥の崖には流れ落ちる滝が見えるが、その上には湖がある。奥に見えるThompson Peakは、湖の上にある大雪渓のさらに上だ。
朝日に輝くThompson PeakとGrizzly Lake。ルートは湖から流れ落ちる滝の落ち口を渡り、右手の樹林帯を斜上して雪渓上部から稜線に出るのが普通だ。
感想
1998年の夏、カリフォルニア州北部の火山、シャスタ山（4317m）に登った後、カリフォルニアの北西部にある山地、トリニティ・アルプスの最高峰、トンプソン・ピーク (2744m)を目指しました。シャスタ山の記録はこちらです。
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-497490.html
トリニティー・アルプスはカリフォルニアの海岸山脈(Coastal Range)の一部をなし、海岸山脈の中では最も高い標高を持つ山々が集まる山域ですが、ヨセミテで有名なシエラ・ネヴァダ山脈や、富士山型の独立火山であるシャスタ山に比べれば、知名度は必ずしも高くありません。標高も最高峰で2744mと決して高くはありませんが、最高峰のトンプソン・ピークを囲む一帯は氷河地形が残り、アルプスというにふさわしい景観を示しています。
特にこの年のカリフォルニアは冬に雪が多く、湖の上部にある北向きの大きなカールには雪が豊富に残り、テントを張ったU字谷の草原には水が豊富に流れ、私が乏しい登山経験の中で見てきた景色の中では最も素晴らしい場所の一つでした。
この時の山行でひとつ記憶に残っているのは、U字谷に向かってクリークを詰めていく途中、ワーグナーのオペラ、『ニーベルンクの指環』のうち「ラインの黄金」の末尾の部分、「神々のヴァルハラへの入場」部分の音楽が、自然と頭の中に浮かんできたことです。ヴァルハラというのは北欧神話に登場する戦場に斃れた英雄たちが向かう殿堂ですが、「神々のヴァルハラへの入場」の音楽は、15時間もある超大作『ニーベルンクの指環』の中でもハイライトの一つになっています。
http://www.youtube.com/watch?v=THmP0GaxhpM
この山行の当時、オペラの内容は良く知らず、ハイライト版のCDを聴いていただけだったのですが、後になって全曲を聴いてみて、実際の景色とよくマッチするシーンの音楽が自然と頭に浮かんできていたことに驚きました。それだけワーグナーの音楽的描写力が優れている、ということなのでしょう。
考えてみれば高山のカールやU字谷ほどヴァルハラにふさわしいところは自然界にはないでしょう。同じカリフォルニアのシエラネヴァダ山脈南部には、（私は行ったことがありませんが)標高3000mを越える場所にある西向きのカールに「ヴァルハラ」という地名がついている場所があります。http://planetrambler.com/
西日が差すとカール壁が黄金色に輝いていかにも荘厳な風景になることからついた地名なのでしょう。
Abendlich strahlt der Sonne Auge; 陽は夕べにその眼を輝かせ
in prächtiger Glut prangt glänzend die Burg. 城は灼熱の壮麗な光に輝く
このTrinity AlpsのU字谷は北向きですが、周囲を岩壁に囲まれ、天空の湖から滝が降り注ぐ楽園で、ワーグナーの壮大な音楽がよく似合う場所でした。ついでにこのグリズリー・クリークの流域はかつて砂金採りが行われた場所で、今でも小さな砂金が採れるそうなので、「ラインの黄金」には本当にぴったり。
アメリカのアリゾナ州では、ワーグナーの『指環』を岩だらけの砂漠で上演する、という企画を見たことがありますが、ここでなくてもどこか高山のカールでやったらさぞ壮大だろうな、と思います。まあ高度が高いと管楽器は厳しいでしょうし、ワーグナーのパトロンとして有名なルードヴィヒ二世でも復活しない限り絶対に無理ですが…
トンプソン・ピークには翌年9月に反対側から再チャレンジし、登頂を果たしました。
しかし、この時の山行はそれ以上に思い出に残るものでした。
こっそり拍手
コメント
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートは、まだ登録されていません。
ルートを登録する関連する山の用語
山行記録を公開しました
X
Facebook
リンク取得
メール
ブログパーツ
情報提供のお願い
山行記録を投稿して、ヤマレコのコミュニティに参加しよう！
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する