三国岳☆大樹と夏の終わりの小さな輝きを求めて
- GPS
- 05:21
- 距離
- 13.3km
- 登り
- 810m
- 下り
- 810m
コースタイム
天候 | 曇りのち雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2021年08月の天気図 |
アクセス |
写真
感想
夜風に乗って聞こえてくる虫の音の夏の終わりを感じさせる。この季節になると訪れたくなる山がある。出来ればあまり気温が上がらない天気の方が良いので、この日の曇り空は都合がいい。午後の遅い時間は雨の予報であるが、朝は家内が家事に時間を費やし、出遅れることになる。
北山のあたりは雨が降っていたらしく、路面が濡れている。久多を通り過ぎて、針畑川に沿って北上すると、道路沿いには路駐された車が目立つ。川で竿を垂れている釣り人達の姿が多い。古屋の集落を過ぎて秀尻橋のたもとに車を停めて出発する。保谷に沿った林道に入るとそれまでに降った雨のせいで水浸しになっている箇所が多い。
やがて林道を右折してモチノキ谷に沿った林道の支線にはいる。苔むした林道の周辺はイワヒメワラビが繁茂する小さな草原が随所に現れ、一面の深い緑の世界が拡がるようになる。後ろから小さな悲鳴が聞こえたので、振り返ってみると、どうやら家内の靴に早速にもヒルが這い上がってきたらしい。
林道の終点には一本の大樹が強い存在感を放っている。その樹影は遠くからでもトチの木と判るが、近づいてみると樹の根元にも「栃の大木」と刻まれた石標がある。果たしてこの山奥でこの大樹を目にする者がいるのだろうか。鬱蒼とした植林の中で一本だけ、大きく枝ぶりを広げたその優美な佇まいは大樹ならではの独特の気品を感じさせるものであり、畏敬の念を感じつつしばしその姿に見惚れる。この樹に出遭うためだけでもこの林道を奥まで進んできた甲斐があったというものだ。
林道終点からはまずは左手の尾根に取り付く。尾根にはテープの類いはないが、かすかに人のものと思われる踏み跡がある様に思われる。所々にユズリハの藪が現れるが、かすかな踏み跡を頼りに藪の間を縫って尾根を登ってゆく。幸いにして進退が窮まるような藪はない。風もなく、蒸し暑い空気の中の急登となり途端に汗が噴き出す。登り始めてまもなく足元に蘭の葉が数株あることに家内が気がつく。残念ながら花茎には花はなく、何者かに齧り取られたようだ。
やがてp652に到達すると、ここで大きく北西に向きを変えることになる。途端になだらかで歩き易い尾根となり、左手の谷からは涼しい風が吹いてくる。尾根の左手にはブナの樹林が、広がっており、木洩れ陽が気まぐれに林の中を照らしては樹林の中に溶け込むように消えてゆく。久しぶりに眺めるブナの樹林は緑の柔らかさがなんとも目に心地よい。
p818から北東に伸びる尾根に合流すると、国境尾根にかけてなだらかで歩きやすい尾根が続く。ca700mの小ピークではブナの樹林の中で中心には一際大きなブナの大樹が聳える。以前、この尾根を辿った時もこのブナの大樹の圧倒的な存在感が印象的であったことを思い出す。
p818のピークへの登りをこなすと、高島トレイルと合流し、ようやく踏み固められた明瞭な登山道が現れる。ピークには二本の台杉が道標のように屹立している。尾根は右手の由良川の源流のあたりから涼しい風が吹いてくる。
岩谷峠を過ぎると家内が林の中が明るくなったというが、空が明るくなったせいのようの気もするが、林床の馬酔木やユズリハの下生が少なくなって見通しが良くなったのは確かだ。ca910mにかけて登りが続くが、尾根の途中からは左手に好展望が開け、百里ヶ岳が見える。その右手に見える三重獄は白く霞んでいるようだ。少し登ると今度は蛇谷ヶ峰の左手には乳液を流し込んえだような白い湖水を湛える琵琶湖が広がった。
p941から東に続く尾根と合流すると、京大演習林となる右手の大谷の源頭部にはいくつもの小さな囲いがある。鹿の食害から何かの植物を保護する目的なのだろう。イワヒメワラビの草原が広がる緩斜面を登ってジャンクション・ピークにたどり着くと三国岳の山頂はすぐ近くだ。
三国岳の山頂は3ヶ月前に訪れた時には多くのハイカーが訪れていたが、今回は人の気配は全く感じられない。山頂には前回はナナカマドの白い花が咲いていたが、似たような花が慎ましやかに咲いている。リョウブの花だ。
三国岳からは丹波越を目指して尾根を南東に進む。すぐにも平坦で広々とした尾根が広がるようになり、樹高の高い自然林がなんとも気持ち良いところだ。広々とした樹林の林床に目を凝らすと登山道から逸れたところで、薄紫色の小さな輝きが目に入る。尾根の南側には所々でイワヒメワラビが繁茂する草原が広がり、比良山地や峰床山、桑谷山といった北山の山々の展望が広がる。
展望を眺めにいったところで足元をみると美しい紫色のキノコが表面のぬめりのせいで光沢を放っている。ムラサキアブラシメジモドキだろう。一見、口に運ぼうとは思えぬような色ではあるが、このキノコは美味である。
しかし、丹波越まで0.5kmと記された道標のあたりから雨が降り出した。丹波越からは桑原橋までは道標には2.9kmとあるが、歩き易い下り坂のおかげで短く感じられる。桑原橋から古屋までは3km近くの舗装路歩きとなる。雨の中を傘をさして車を停めた秀尻橋を目指す。車に戻り、帰路につくとすぐにも雨は止むのだった。
自宅に戻ると早速にもムラサキアブラシメジモドキを豚肉と共にバターで蒸し焼き風にしてみる。期待以上に美味であった。ムラサキアブラシメジモドキもさることながら、山行の充足感を高めてくれたのは今年も山中で出遭うことが出来たナツエビネやミヤマウズラの花々であった。弦楽器を思わせるような官能的な形の小さい花々は晩夏のどことなく重苦しい空気の中で不思議な清涼感を感じさせてくれるのだが、それは同時に過ぎ行く季節に対する切なさを感じさせるものでもあった。
コメント
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可愛い花を眺めながらの行程は楽しそうですね
紫色のキノコに驚き その上食べてもおいしいとは もっと驚きです
リョウブの花はまだ見たことがありません
暑いからとサボっていては当然ですね💦
紫色のキノコ、毒々しいようにも思えるかもしれませんが、他のキノコにはない不思議な美しさがあります。採って時間が経つとその色合いの美しさは急速に色褪せてしまい、料理するとさらに紫色は退色してしまうのですが。
リョウブは北山でも比良でも多いですが、慎ましやかな花に出会うと嬉しくなります。
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