山辺の道〜正暦寺（天理〜奈良）
奈良県
山猫
yamaizu
体力度について
- GPS
- 06:06
- 距離
- 23.2km
- 登り
- 448m
- 下り
- 419m
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| 天候 | 晴れのち雨 |
|---|---|
| 過去天気図（気象庁） | 2023年05月の天気図 |
| アクセス |
写真
正暦寺への参道沿いには大きな地蔵が現れるハナキレ地蔵は顔面が欠けていることに由来するらしい
衣紋の模様が木造仏のように繊細に彫られている
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ハナキレ地蔵は顔面が欠けていることに由来するらしい
衣紋の模様が木造仏のように繊細に彫られている
樹林の中で、ここは神聖な空気が感じられる
再び雨が降り始め、生駒山は雨に烟っているようだ
感想
この週末は雨の予報であるが、土曜日は雨が本格的に降り出すまでに時間がありそうなので、傘をさして歩くことを覚悟して山辺の道をあることにする。奈良から桜井まで続く山辺の道はほぼ中間地点となる天理を境に北コースと南コースに分けて歩かれることが多い。見どころの多い南コースの方が人気ではあるが、北コースは以前に途中の崇道天皇陵までしか歩いていないのでの、その先、白毫寺を経て奈良までを歩くことを考える。距離は長くなるが、ついでに正暦寺にも寄り道することにする。
山辺の道を歩くのには出来れば天理から歩きたい。というのも天理駅にはいつも立ち寄ることを楽しみにしている餃子の名店「天雅」があるからだ。天理には店の開店時間の10時の直前に到着する。天雅は天理駅のステーション・センターの一角で営業しているが、ステーション・センターには他のテナントはなく、周囲にはがらんとした空間が広がっている。他には客はいないが、店のカウンターには生の餃子をも求める客が次々と訪れる。餃子が焼きあがるまで時間がかかるが、この店は餃子を焼く前に蒸すという過程があるので普通の店よりも時間を要するのは致し方ない。最近になって￥420から￥490に値上がりしたらしいく、餃子の価格としては高めの部類に入ることになったが、この店の上を行く餃子の店はそうそうないだろう。
天理駅からは昭和の雰囲気の漂う商店街を抜けて天理教の総本山の前に出る。既に梅雨を思わせるような蒸し暑い空気が漂っている。時折、雲を通して日差しがさすが、日差しは蒸し暑さを強調するばかりに思われる。
青紅葉が鮮やかな石上（いそのかみ）神宮の境内に入ると途端に五月らしい爽やかさを感じる。境内では放たれている軍鶏たちが盛んに鳴き声をあげている。朱色の社殿の前からは結婚式を挙げたばかりの若い夫婦が出てくるところだった。
山辺の道は境内の奥に伸びる小径を辿って、石上神宮の裏手に出る。ここから山辺の道は遠回りをしながら、まさに山の辺に沿って進んでゆく。谷にかかる小さな橋を渡ると上流から谷に小さな滝が落ちていた。
車の往来の多い県道に出ると、山辺の道はすぐに県道を離れて左手の小さな谷へと入ってゆく。数件の民家を過ぎると小さな谷に広がる草原には青紫色の花菖蒲が咲いている。近鉄のてくてくマップによると「ハナショウブの栽培」と書いてあるが、到底栽培されているようには見えない。かつて栽培していた花の名残りなのだろう。少し上流に歩くと今度は黄色い花菖蒲の群生が現れる。
やがて道は細くなり、竹林の中を登ってゆく。竹林の左手にある小さな丘は古墳らしい。古墳には前回に寄り道したので今回は通過する。竹林を抜けて貯水タンクの脇を通過すると再び舗装路に出る。右手のなだらかな斜面に一面に広がっているのは葡萄畑のようだ。
名阪国道の下をくぐってわずかに坂を登ると広い白河貯水池に出る。貯水池の堰堤には多くの車が停められ、池畔では多くの釣り人が糸を垂れていた。貯水池の堰堤を進むとその斜面に一面に黄色いたんぽぽのような花が咲いている。タンポポモドキとも呼ばれるブタナのようだ。繁殖力の強い外来種らしい。
貯水池を反対側まで周回し古墳公園に降りる。長い滑り台があったが、滑り台は汚れているようだった。公園とはいえ他には遊具もなく、ここで遊ぶ子供もいないのだろう。ここからは次の弘仁寺に至るまで右回りの東海自然歩道と左回りの山辺の道に分かれる。左回りの山辺の道を進み、車の往来の車道に出るが、気がつくと弘仁寺への分岐を行きすぎてしまったいた。道路の東側の小さな側道に入る必要があったらしいが、ここは判りにくい。
再び山辺の道に復帰し、少し進むと周囲の長閑な田園風景に不似合いなほどに綺麗な公衆トイレが現れる。綺麗さからしてかなり最近に整備されたものなのだろう。公衆トイレを過ぎると左手の法面には蕨が数多く生えていた。
すぐに左手の鬱蒼とした樹林の中に弘仁寺へ石段が現れる。石段を登り詰めると新緑の中に忽然と弘仁寺の立派な本堂が現れる。境内では赤紫色の紫蘭が多く咲いていた。人の気配の感じられない静かな寺院であるが、風格のある佇まいが感じられるところだ。
境内を通り過ぎて弘仁寺の東側に出ると小さな谷に出る。山の際を北上すると急に涼しい風が吹きはじめた。雨雲が近いのだろう。この風は雨と共に上空から下降する冷たい風のように思える。左手には奈良盆地の彼方に生駒山から矢田丘陵の展望が広がっているが、山のシルエットも霞んでいるようだ。
ここから山辺の道を離れて正暦寺に向かって東の谷に入ってゆく。道路沿いには大きなお地蔵様の石仏が現れ、この道の歴史の古さを物語っている。谷が急に狭くなってゆくが谷の奥まで民家が続いている。山ではないが菩提山という町名がついているのは正暦寺の山号に由来するのだろう。道の法面は一面に躑躅が植えられている。わずかに花が咲いているが、花盛りになるとツツジのカーテンのようになるに違いない。
正暦寺が近づくと道路沿いには次々と立派な石垣が現れる。石垣のつくりは野面積みで相当に古そうだ。正暦寺はかつては八十六の堂宇が立ち並ぶ大寺院として栄華を誇ったらしいが、平重衡の南都焼討の際にこの寺もその堂宇が焼討されたらしい。
寺の前にはイロハカエデが多く、紅葉はさぞかし美しいことだろう。寺の前の駐車場には日本酒発祥の地の石碑がある。この寺で見つかった菩提もとと呼ばれる酵母が現代の日本酒の酵母の起源となっている。門前に到着したところで折下、ポツポツと雨が降り始めた。
正暦寺に入ると何種類もの日本酒が売られている。いずれも「菩提もと」を用いた製法で醸造された日本酒だ。本堂には珍しい孔雀明王とその両脇に愛染明王が祀られている。本堂の庭は小さいながら新緑の借景が美しい。残念ながら寺内は写真撮影は禁止となっている。
正暦寺を後にすると円照寺に向かって右手の尾根に登る道が現れる。小さな峠に至ると車があり、農作業をしている方がおられた。峠からの林道はすぐに舗装道路に変わる。ここでも道沿いにはお地蔵様の石仏が現れる。円照寺と正暦寺を結ぶ信仰の道でもあったのだろう。雨足がきつくなってきたので傘をさして歩くが、広々とした谷に出て左手に貯水池が現れると雨も止んでくれる。
小さな鳥居をくぐって円照寺に向かうと左手の大師堂の小さなお堂が現れる。鬱蒼とした森の中に切り開かれた小さな広場には独特の厳かな雰囲気が漂う。以前訪れた時も雨が降っていたのだが、ここだけ濃密な空気が漂っているように感じられた。
小綺麗な雰囲気の漂う円照寺の参道に出ると、円照寺の山門まで訪れてみる。門内には山辺の道を歩かれるハイカーと思われる男性がおられた。円照寺から右手の林の中を抜け、山中に大きなお地蔵様を祀った祠がある。
柿の果樹園を抜けてと貯水池に出ると正面に崇道天皇の陵墓が現れる。崇道天皇とは実際に天皇として即位した人物ではなく、時の権力者により無実の罪を着せられて謀殺された早良親王のことだ。京都の洛北にも崇道天皇を祀る崇道神社があるが、京都や奈良の街を襲った厄災が早良親王の祟りによると思われたからなのだろう。崇道天皇陵から少し東に向かったところにある島田神社も崇道天皇を祀る神社のようだ。
古い住宅街を歩いて白山比�廖覆靴蹐笋泙劼瓠某声劼魏瓩�ると畑の作業道のようなところを進んでゆく。農作業をしておられる女性に通り掛かりの方が「今年は玉ねぎの出来がいいですね」と会話をしておられる。弘仁寺や円照寺のような厳かな雰囲気の場所があるかと思うとこのような長閑な田園の中を歩くことが出来るというのも山辺の道の魅力だろう。
トマトホームという立派な外観の老人ホームの前を過ぎると再び山裾の樹林の中に入ってゆく。再び道路に出ると右手の鬱蒼とした樹林の中に八阪神社が現れる。このあたりは鹿野園という地名であり、インドの仏教聖地で鹿が多く住むサールナートに地形が似ているため、大仏開眼のために訪れたインドの高僧が名付けたという。八阪神社はこの鹿野園の氏神らしいが、この神社の境内もスピリチュアルな雰囲気に溢れていた。ところで、鹿野園は「ろくやおん」と読むが難読地名の一つだろう。
防獣柵を開けて再び畑の畦道を進むとようやく白毫寺が近づく。階段を登って白毫寺に参詣すると再び雨が降り始める。境内からは奈良の市街と生駒山が一望のもとだ。境内には他に参詣客の姿は見られず、静かな雰囲気だった。
新薬師寺を過ぎて志賀直哉の旧居のある高畑町に入るとここは土塀のある古い住宅が続き、独特の景観だ。すぐ北側には春日大社の境内が広がっており、時折、風に乗って鹿の糞の匂いが漂ってくるように思われた。
奈良公園に入ると雨にもかかわらず多くの観光客が訪れている。その中では外国人の姿が目立つ。観光客の姿を気にせず草を食む鹿の中には若々しい角を生やした牡鹿の姿も見られる。もうすぐ角を切り取られることになるのだろう。
奈良駅に到着すると東向商店街の中にある日本酒の店を訪ねる。まず「うまっしゅ」と「拓」を訪ねるが、いずれも人気店のようで満席であった。大和野菜と串焼きの店「やまと」に入り、豊富な奈良の地酒から倉本酒造の菩提元純米酒「つげのひむろ」、五條酒造の純米吟醸酒「五神」、
八咫烏の特別純米酒を愉しんだのち京都に向かう。奈良の豊富な美酒も山辺の道に惹かれる大きな理由の一つであった。
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