【奥高野】神納川・榎谷のミコシ谷 （附 熊野古道アメリカ人女性遭難について）
奈良県
hillwanderer
- GPS
- --:--
- 距離
- 11.4km
- 登り
- 1,051m
- 下り
- 1,053m
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- 山行
- 9:50
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 9:50
| 天候 | 小雨のち曇り |
|---|---|
| 過去天気図（気象庁） | 2025年05月の天気図 |
| アクセス |
利用交通機関：
自家用車
|
| コース状況／ 危険箇所等 |
・ 榎谷への入渓は、山天集落の中を通る道の終点の広場から踏み跡がついている。踏み跡はすぐ二俣に分かれるが、上の方の道を辿ると榎谷に降りられる。踏み跡は概ね明瞭で、見逃すことはないと思う。 ・ 榎谷は下流域は平流が続き、通過に苦労する箇所はほぼない。標高550mでツツジ谷を分けて以降の本谷筋については、ミコシ谷と本谷の二俣（標高約700m）の前後が核心部。二俣の直前には5段50mとされるミコシ滝が掛かり、左俣のミコシ谷に入ってからもやはり4〜5段40〜50mはあると思われる斜滝が落ちている。今回はいずれも右岸を巻き上がったが、なかなか大変な大高巻きとなる。急峻な地形が続くため、滑落に注意が必要。（なお、今回は入らなかったが、当該二俣の本谷側にも20mほどの直瀑が掛かっている。） ・ 上述の滝場を越えてからのミコシ谷は穏やかになるが、それでも源頭までに2か所ほどそれなりの規模の滝場が出てきて、美しい景観を見せる。 ・ 下山は、山天辻から三田谷と榎谷の中間尾根を山天集落まで降りた。下部に行くほど踏み跡も明瞭になりマーキングも多くなるが、上部ははっきりした踏み跡がなく、マーキングも少ないので、一応読図はしっかりしたほうがいい（山天辻にも看板などはないため、自分で同定する必要あり）。なお、地形図では斜面をトラバースするように山天集落に直接降りる山道が描かれているが、実際には山天集落の直前で崩壊地が出てきてこの山道を辿るのは難しくなる。山道が山天集落へとトラバースを開始する地点付近から山道を離れ、斜面をそのまま降りて榎谷への入渓時に辿った小道に出てしまったほうが楽（わずかにピンクテープや黄色の境界杭あり）。 |
写真
榎谷への入渓の起点となる、山天集落。何段にも連なった石垣が美しい。山天という名の通り、天が近い感じがする山村だ。（出発時はまだ暗かったので、帰路に撮った写真です。）
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山天集落の中を通る狭路の終点にある空き地（空き地というか、小さな谷川に掛かる橋がそのまま空き地になっている感じ）。通常はここに駐車して、そのまま山道を辿ることが多い。
榎谷に降り立つ。昨夜からの雨で増水気味だが、深くても股下程度の渡渉で何とか進んでいける（奥高野の谷は水量が少ないところが多いので、沢登り的にはこれくらい増水しているほうがちょうどいいかもしれない）。榎谷の下流域はひたすら平流が続き、周囲は植林で、やや単調の感がある。
標高550m二俣。左が本谷、右がツツジ谷。一般的には右俣のツツジ谷のほうが滝が多く遡行価値が高いとされており、実際ネット上に公開されている記録はツツジ谷のものばかりだが、今回は左俣の本谷に進む。
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本谷を進んですぐ、ここまで穏やかだった谷の雰囲気が明らかに一変する。両岸の斜面が急激に切り立って、目の前に数段の大滝の姿が出現。ミコシ滝、5段50mだ。（なお、実はここまでパトリシアさん捜索の警察の方々が残したと思われるピンクテープが頻繁に見られたが、さすがにこの滝の直下を最後に見られなくなった。）
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（なお、実はここまでパトリシアさん捜索の警察の方々が残したと思われるピンクテープが頻繁に見られたが、さすがにこの滝の直下を最後に見られなくなった。）
2段目の滝を見下ろしながら急斜面を喘ぎ登っていくが、岩混じりでかなり傾斜が強く、立木や木の根を頼りに強引に体を引き上げていくような、なかなか難儀で慎重を要する大高巻きとなる。
2段目を越えたあたりで、何とかクライムダウンできそうな斜面を見つけ、ミコシ滝のうち最大の4段目の下に降り立つ。25mくらいはありそうで、大雨による増水も相まって大迫力な滝だ。
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ミコシ滝の上は、ちょうど標高700mの二俣となっており、右俣が本谷、左俣がミコシ谷だ。写真は右俣の本谷の出合にいきなり掛かっている20m滝。堂々たる直瀑だ。以前来た時は、この滝を越えて本谷に入った。
今回はこの左俣のミコシ谷に入る。ミコシ谷も出合からいきなり斜滝が連なっている。（なお、この写真の5mほどの斜滝を直登した上で、パトリシアさんのものである可能性がある遺留品を発見した。本当に彼女のものかどうかは不明だが、念のため警察には情報提供済み）
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1段目は直登したものの、その先がどうなっているか分からなかったため、2段目以降は右岸から巻き上がっていく。果たして4〜5段ほどの斜滝が峻険なゴルジュの中に連なり、全部で40〜50mくらいはありそうだった。突っ込まなくてよかった…
滝場の上に降り立った。穏やかな榎谷の中にあって、この標高700m二俣の前後にある滝場の規模と険しさは実に特異的だった。ツツジ谷のツツジ滝（3段60m）と双璧だろう。
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写真がブレてて申し訳ないですが、20mほどの優美な斜滝。この前にも40mほどの多段の斜滝が連なっているので、それも合わせればなかなかの規模だ。この滝は左岸から巻いていった。
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ついに源頭。なかなか良い雰囲気の森に包まれている。（なお、ミコシ谷出合の滝で遺留品らしきものを見つけて以降は、パトリシアさんに関連しそうな物品は見当たらなかった。というかそれ以前に、近年人間が入った痕跡自体が全く見られなかった。）
山天辻付近の稜線に出た。霧に包まれていて風があり、遡行後で体が濡れていることもあって、かなり肌寒い。テルモスに温かいお茶を詰めてきて正解だった…
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稜線上の山天の高（△1317.1m）方向には、頻繁にテープがあり、道迷いで山天辻まで上がってきた場合、テープにつられて山天の高方向に歩いてしまいそうだ。
そしてこれ、山天辻のすぐ東側の小ピークの写真。このピークから写真の奥側（南東側）に顕著な尾根が派生しており、山天の高方面から歩いてきた場合（もしくは山天の高から元の方向に戻ろうとして引き返してきた場合）、気を抜くと山天辻と間違えて、このピークから南東方向へ尾根を下ってしまいそうだ。その場合、先ほど越えてきた榎谷の標高700m付近二俣の険しい滝場の真っ只中にピンポイントで降りてしまうという最悪の事態が待っている。（後述のように、山天辻のピークにもこのピークと似たようなマーキングと石柱があり、間違えやすさを助長している）
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山天辻のピーク。ここから南方向へ三田谷と榎谷の中間尾根が派生しており、山天や五百瀬方面へ下山するには、ここを降りるのが正しい。（このピークにも、先ほどの一つ東側の小ピークとよく似た石柱があり、特に道迷い中で慌てていたりすると、引き返そうとしたときに2つのピークを取り違えやすい気がする）
下部はマーキングや踏み跡がはっきりしてくるが、地形図の点線路の通りに山天集落に出ようとすると集落直前で崩壊地が出てきて道が消失してしまうので、点線路が山天集落に向けてトラバースを始めるあたりで山道を離れ、直接斜面を下っていくと吉（わずかながらマーキングあり）。
ちなみにこれは、三浦峠登山口へ通じる橋の反対側斜面（今回下山で辿った尾根の末端）にある、山天辻へ向かう踏み跡の登り口。写真の通り、ちょうど登り口のところに熊野古道の道標がある。矢印は逆方向を指しているし、小さく英語表記もあるものの、日本語に不慣れで土地勘のない外国人の方は、もしかしたらこの道標の真下にある踏み跡が熊野古道だと勘違いしてしまうこともあるかもしれない。パトリシアさんは、ここを登って行き、山天辻付近に出てしまったのだろうか？
装備
| 備考 | ・ フェルトソール沢足袋使用。それほどヌメリはないように感じたので、ラバーでも大丈夫かも。 ・ ロープなど沢登りの基本装備は携行したが使用場面なし。ただし、ミコシ谷と本谷の二俣の前後にある滝場はかなり険しいので、ロープ等は必携。 |
|---|
感想
神納川の榎谷にはいくつかの枝谷があるが、沢登りの対象としては標高550m右俣のツツジ谷が最も登られていて、ネットでもツツジ谷の記録しかヒットしない。といっても、榎谷自体がそもそもマイナーなので、そのツツジ谷の記録でさえ数えるほどしかないが…。私自身、過去にツツジ谷を目指してこの谷に入渓し、釣りに夢中になるあまり出合を見逃してしまい、気が付いたらこの谷で最も人が入らないと思われる本谷を詰めていたという、ある意味貴重な体験をしたことがある（アホですな…。でも本谷にもいくつか滝があって、そんなに悪い谷ではなかった記憶がある）。
今回は、ネット上に近年の記録が見当たらず、現在流通している市販のルート本でも詳細な遡行図が掲載されていないミコシ谷（標高700m左俣）に入ってみた。標高700m二俣の直前にあるミコシ滝（5段50m）、また同二俣からミコシ谷に入ってすぐに出現する4〜5段40〜50mはあると思われる滝場は圧巻で、ツツジ谷のツツジ滝と並び、穏やかな榎谷における地形上の一つの特異点といっていいだろう。大小を問わず榎谷に流れ込む枝谷は高い滝を掛けているものが多く、ほかの枝谷も探ってみたいと思わせる一日だった。
ところで、ご存じの方も多いと思うが、つい先日、一昨年の4月に熊野古道の小辺路で行方不明になったアメリカ人女性であるウームラッド・パトリシア・ピーツェンさんの遺骨の一部（左大腿骨）が、この榎谷で発見されたとの報道があった（実は、既に昨年9月、同谷でパトリシアさんのザックが釣り人により発見されていたのだが、私はその際の報道は見落としており、今回の報道で初めて知った）。故人のご冥福をお祈りしたい。また、捜索を続けられていたご遺族やその関係者の方々の心境は、察するに余りある。
しかし、多くの方は、今回の発表に少なからず驚かされたのではないだろうか。パトリシアさんの遺骨が発見された榎谷は、彼女が本来進もうとしていた方向である三浦峠登山道（熊野古道の一区間）とは180°逆方向なのだ。榎谷についてはこの2年間で何件かの沢登りの記録がネット上にアップされているが、そのいずれも山天集落から入渓してツツジ谷に入っており、道中で何かを発見したという記述は見当たらないので、彼女が降りてしまったのはツツジ谷出合よりも奥、ミコシ谷か本谷のいずれかであり、遺骨や遺留品はそこから流されてきたものである可能性が高い。いったい彼女はどのような経路をたどって、全く予想外の榎谷（しかもとりわけマイナーで人が入らないミコシ谷か本谷）に迷い込んでしまったのだろうか。
ご遺族や警察の方々を差し置いて、私のような部外者があれこれ推論を弄ぶのは慎むべきかもしれない。しかし、同じ山域を歩く者として、やはりどうしても気になってしまう。もしかしたら、パトリシアさんは誤って山天辻に向かう尾根（今回の山行の下山路として使った尾根）の踏み跡に入ってしまったのかもしれない。この尾根は、三浦峠登山口に向かう橋のすぐ反対側にあり、ちょうど踏み跡が始まる位置に熊野古道の道標が立っている。もちろん、その道標は三浦峠登山道の方向を指しており、小さく英語も併記されているのだが、日本語が読めず土地勘もない外国の方は、この道標の真下から続いている踏み跡（つまり、山天辻に向かう踏み跡）を熊野古道と勘違いしてしまう、ということも起こりうるかもしれない。
パトリシアさんがそのまま山天辻のあたりまで登ってしまったと仮定すると、付近の稜線に付けられたマーキング（山天の高や赤谷峰への登路として使われているので、道標はないものの、稜線沿いにマーキングが点々と付けられている）に惑わされてしばらく彷徨したあと、どこかで辿ってきた尾根から外れて、榎谷に降りてしまったのかもしれない。個人的には、山天辻のピークのすぐ東側にある小ピークが何となく気になる。このピークには山天辻のピークとよく似た石柱が立っていて紛らわしいうえ、南東方向に顕著な尾根が派生していて、山天の高方向へ一旦歩いたあとで五百瀬方面へ引き返そうとした場合、山天辻と間違えてこの尾根に入り込みやすいように思う。さらに悪いことに、誤ってこの尾根を降りてしまうと、今回の山行で最も手こずった標高700m二俣の前後の険しい滝場にピンポイントでたどり着いてしまう（なお、ちょうどこの尾根を降りきった地点、標高700m二俣をミコシ谷側に入ってすぐのところにある滝の中ほどで、今回、気になる遺留品を見つけた。彼女に関連するものかどうかは不明なので詳細は差し控えるが、念のため警察には情報提供済み）。
榎谷（ミコシ谷）は概して穏やかな谷だが、この標高700m二俣周辺の滝場だけが異様な険悪さを剝き出しにしている。よりにもよってここに降りてしまったとしたら…通常の山歩きの装備で、しかも道迷いで疲弊した状態では、あの悪場を越えて下流に抜けることは難しかったかもしれない。
以上はもちろん私の憶測に過ぎない。今回はミコシ谷に入っただけなので、他の枝谷に何らかの足跡が残されている可能性もある。しかし、もしかしたら、今回の遡行で眺めたミコシ滝をはじめとした幾つかの大滝を、彼女も彷徨の末に目にしていたのかもしれない。そう思うと、その滝下に立ちながら、ただ瞑目するほかなかった。
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