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2015.3.1
登山家 野口健の講演会に行ってきた。
この山レコの広告欄でも宣伝していたものだ。
無料なので申し込んだが、当初、内容はあまり期待していなかった。
この講演は、企業のエコロジー活動の一環である。
エコについては、温暖化対策等、差し迫った問題であることは充々承知しており、私自身もあくまでも日常生活の中で、関心を持って取り組んだ時期もあったが、
Г周囲にいくら勧めても誰も取り組まないし、自分だけやっているみたいでバカバカしい」
Г危機感ばかり煽られるのは食傷気味」
という、エコに対する倦怠感があったので、むしろ「山の話が聞ければ充分」という心持ちだった。
しかし、今回は、良い意味で期待を裏切ってくれた。
講演の内容は、彼のこれまでの半生についてで、前半はエベレストに登頂成功するまでの話、後半は現在取り組んでいるゴミ拾いを中心とした環境浄化活動についてだった。
正直、今回の講演を聞くまで、彼の印象は「理想を追求するロマンチスト」だと思っていたが、意外にも、「社会を直視していているリアリスト」だった。
ヒマラヤ山行中の死への実感や、孤独感は、噂に違わないものだったが、新鮮だったのはヒマラヤ山行のためのスポンサーの獲得活動だった。
彼は当初、訪問先の企業で「自分の山に対する思い」を熱く語っていたところ一蹴され続けたという。
企業にとっては、山はГ所詮、個人の道楽」であり、彼の熱い思いより、利得が重要だからである。
そこで、対象の企業を徹底してリサーチし、商品宣伝やイメージアップ等、彼のスポンサーになることでの利得を筋書きに盛り込み提示することで、スポンサーを獲得していったという。
これは、現在の環境浄化活動にも繋がっているという。
自分が「どんなに素晴らしく、正しい」と思うことでも、実は見方、立場、利得が反すると、全くそうではなくなる。
ゴミ拾い活動を始めた時も同じであり、エベレストでは山岳会から「過去の日本の実績を否定することになる」と、富士山では観光への影響を懸念されて、観光関係者から、それぞれ痛烈の批判を受けた。
彼曰わく、信念を持つことは大切だが、「自分の考えが常に正しい、素晴らしい。」と思っている内は、他人に受け入れられないとのこと。
相手の立場を理解し、粘り強く説いていくと共に、当初は、なかなか賛同を得られないことでも、地道に取り組んでいると、少しずつ賛同を得られ、仲間も増えてくる。
何事も一人の力はたかがしれているが、大勢でやれば、大きな成果になる。
特に環境問題は、そうである。
環境の環とは、正に人のГ環(わ)のことである。」と述べていた。
また富士山は、年間37万人が訪れる山故に、複雑に利権と利得が絡む山であり、さらに麓の樹海は悪質業者による不法廃棄物が山積みされており、日本の裏と表が凝縮されているとのこと。
環境問題は自然と向き合う問題と思われがちだが、実は人間社会の陰陽を直視し、向き合う問題とのことであった。
今回の講演は、山行や環境に限らず、何か事を成そうする際の、人生のアドバイスになるものであった。