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曰く、「人類は人に化けた爬虫類型宇宙人に支配されている」
曰く、「原爆投下もアポロ月面着陸も嘘である」
曰く、「ディープステートが政治を支配している」
曰く、「ワクチンにはマイクロチップが入っている」
曰く、「気候変動問題は捏造である」
曰く、「選挙結果は操作されている」
いかにも荒唐無稽な話で、多くの専門家やメディアによって否定されているが、大真面目に信じている人がかなりの数いるとのこと。実際去年の米大統領選や今年の参院選ではそのような主張をする候補や発信者の言説が大きく影響し、当選につながっている。
どうもこのような主張は「おかしい人」や「愚かな人」がするとは限らないようだ。今まで普通に生きていた身近な人が陰謀論にはまってしまったという話もよく聞くし、私の職場でも至って真面目で優しい同僚がこんな話をしていたりする。
このような陰謀論は「証拠」を並べ立てる。もっともらしい「証拠」の一つ一つが「陰謀」という一つの線で結ばれ、それによって世の中の裏にある事実が理解できたような気持にさせるようだ。一度その理解の仕方にはまると、その後得た情報もその「証拠」にふさわしいよう解釈される。専門家や当事者による否定や反証も、「陰謀のために我々を騙そうとしているのだ」と解釈され、むしろ「証拠」として確信を深めさせてしまう。そこからの脱出は困難を極める。
さて、ある程度登山をする人はこの心理状態に心当たりがないだろうか。登山道を見失い、「道迷い」に陥った時のあの感覚である。登山道をロストしたとき、不安と焦りに気持ちを抱えながら現在地を探る必要がある。地形図と地形を照合し、「あの尾根はこの支尾根か?」「ここで沢筋が屈曲しているからいまここにいるはず」などと考える。正しく観察すれば現在地がわかるが、後になって誤っていることが分かるときもある。冷静に見ればそんなわけないような誤りをしていることもある。この時、観察した地形は自分の現在地はここに違いないという仮説に合うよう、歪んで解釈されている。等高線と斜面の形が一致していてほしいという気持ちに、判断力が負けてしまうのだ。
道迷いの時は「早く正しいルートに戻りたい」「遭難したくない」といった焦りや不安の気持ちがある。陰謀論を信じる人々にも、経済的な不安、社会的文化的な不満、複雑すぎる世界の理解困難などがあるのではないだろうか。そこに一本の理解の補助線を引き、救い主を名乗るものが現れた時、自分の現在地と進路が分かった時のような安心感を得てしまっているとすれば、その気持ちだけは少しわかる。
確かでない道は別ルートであったり獣道であったりして、そのまま進むと遭難につながってしまう。登山では確実な場所まで戻ることが原則である。嘘や詭弁、デマを含んだ情報が氾濫する今、引き返せる「確かな現在地」とはどこだろうか。「ポストモダン」と言われだして数十年、世界秩序や社会通念も大きく変化している。道迷いを遭難事件にしてはいけない。現在地を把握する地図をどう作り、どう読むか、考え続けなければならない。
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