昨日の午後、いつもの仲間たちと顔を合わせた。
あうんの呼吸で通じるような、長年ともに歩いてきた山の友人たち。集まると、言葉数は多くなくても、そこには確かな信頼がある。
春の陽が少しずつ伸びてきたこの時期、話題は自然と夏の山行計画へと向かった。
今年の盛夏までに、どこを歩くか。どこまで攻めるか――そんな話を、湯呑み片手にゆるやかに交わしていく。
地図を囲み、ノートを開きながら、私は口火を切った。
「やっぱり、今年の核心は南アルプスになるだろうな」
誰もがうなずいた。静かに、けれど確かに。
南アルプス。その名を聞くだけで、身体の奥が少しざわめく。
登山口から主稜線にたどり着くまでに、すでに宿泊小屋が一つあるという。つまりは、それだけ道が急で長いということだ。
「どんだけ斜度あんだよ」
思わず笑いながら、心の中ではその厳しさを予想していた。
けれど――もしこれを無事に歩ききることができれば、日本アルプスの北と南、その連なりのほとんどを制覇したことになる。
残るは、ただ一座。黒部五郎岳。
「最後に残るのは、やっぱりそこか」
誰かがそうつぶやいたとき、ふと場が静かになった。
この長い山旅も、ようやく終盤を迎えようとしているのかもしれない。
道のりは厳しくても、そう思えることに、どこかほっとするような、寂しさのような、言葉にしにくい感情が胸の奥に広がった。
あと二十座。
それが今の自分に残された、名山との約束の数だ。
この一年で、どこまで歩けるか。
それが、これから先の歩き方の「定石」になるだろう。
山は逃げない、とは言う。けれど、こちらの時間はそうではない。
だからこそ、ひとつひとつの計画を丁寧に、慎重に、そして静かに情熱を燃やしながら、歩いていく。
そんなふうに、今という時間を重ねていきたいと思った。
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