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2023年01月18日 21:37登山の思い出全体に公開

冬の始まり/大峰 八経ヶ岳〜弥山

2014年 11/15(土)〜16(日)
単独

 冬型の気圧配置となり、近畿一円にも寒気が蔽った週末、久しぶりの土日連続晴れの予報につられ、テントをかついで大峰に出かけた。バスで大峰を歩く場合、起点となるバス停は限られる。近鉄下市口駅からの奈良交通バスならば、洞川温泉、観音峰登山口、天川川合ぐらいである。このうち天川川合から登るとしたら、天川村役場横からの登山道しかないと思っていた。後は全部登山口が遠すぎる。タクシーでも使わない限り無理だ。かといって、トンネル西口まで5000円というタクシー代を払う気にはなれない。
 ところが9月に弥山〜前鬼まで歩いた時、同じバスに乗った人に弥山のテント場で出会い、話を聞くと、その人は天川川合でバスから降りた後、熊渡まで舗装路を歩いてカナビキ尾根から登られたという。午後2時には弥山に着いたというから私より2時間近く早い。その時思った。そうか、トンネル西口や大川口までは論外だけど、熊渡までなら歩いても1時間ちょっと、苦にはならないし時間のロスも少ない。今度一度歩いてみよう・・
 今回、カナビキ尾根から登って、あわよくば弥山ではなくさらに先へ行って、一ノ垰辺りでテン泊しようと考えた。そうすれば大普賢岳まで足を延ばし、和佐又山登山口バス停までぎりぎり間に合うかもしれない。そんな淡い期待を抱いていた。
 熊渡から林道を歩き登山道に取り付く。カナビキ尾根は初めてだったが、大峰の破線道にしては明瞭な踏み跡のある立派な登山道だった。標高1100mを越えた辺りから地面に白いものがちらつき出した。昨夜降った粉雪のあとらしい。標高1450m、ナメリ坂手前の尾根に到達する頃には地面は一面雪でまっ白に蔽われ、樹林にも霧氷が付きはじめていた。空は晴天の予報に反して一面雲に蔽われ、寒々として冷たい風が吹きつのる。
 高崎横手からレンゲ道に入る頃には、霧氷はさらに分厚くなり、トウヒかシラビソかの針葉樹にまるでクリスマスツリーの様に白いヴェールとなって樹木全体を被う。寒さは厳しくなり、毛糸の手袋に帽子、ネックウォーマーを着込んだ。空は時折気まぐれに青空が覗いたり隠れたりする。そのたびに、グレーのモノクロームの世界にまばゆいばかりの白と青の色彩がよみがえり、また消えていく。
 明星ヶ岳手前の弥山辻1870mに至ると強風が吹き荒れ、脱いでいた手袋と帽子を慌てて着けたが、耳がちぎれそうに痛い。冷たくかじかんだ手の指の感覚もしばらく戻らなかった。強風の稜線を八経ヶ岳山頂1915mまで歩く。途中、数人の登山者に出会ったが、強風の弥山から早々と撤退して来たという。立ち枯れた樹木に付いた霧氷は、着実に“モンスター”たちを成長させ始めていた。八経ヶ岳山頂からは、眼下の水晶谷と遠望する山々に陽が当たり美しかった。しかしすぐに辺りはまたガスが蔽い、モノクロームの世界に戻った。弥山山頂までの下りとわずかな上り返しが、悲鳴を上げはじめた私の足にはきつかった。
 弥山山頂到着は午後3:40頃。ここまでの寒さと積雪は想定外だった。今はまだ5cmくらいの雪だが、今夜一晩でどれだけ積もるかも分からない。私のテントには積雪期用のスノーフライシートは用意していない。最悪、狼平まで下りて小屋泊まりも考えなくてはならない。試しに弥山小屋の横まで行ってみると、そこにはすでに5張のテントが張られていた。見ると、みな私と同じ普通のフライシートで、特にスノーフライシートを付けているテントは無い。ということは、私の装備でも何とかなるかもしれない。よし、ここにテントを張って一晩を過ごそう・・そう覚悟を決めた。
 風のしのげる小屋の横はすでに5張のテントがひしめいていた。私もその近くにと場所を探したが、適当な場所が見あたらない。仕方なく、国見八方覗きの台地の上に一人テントを張った。樹木の側で幾分か風はましだが、時折吹きつのる風にテントがバタバタ音を立てた。
 テントを張り終えて中にもぐり込んだのが4:40頃。寒さで何もする気になれない。外はまだ明るいが、寝袋の中にもぐり込んで動けない。やがて陽は落ちて暗くなり、ランタンを灯す。気晴らしに本を読んだりウィスキーをあおったりしてみるが、ともかく寒い。持ってきたものすべてを着込んで、手袋と帽子も付けたまま寝袋にくるまらないと眠れない。
 夜中に何度も寝返りを打った。浅い眠りが延々と続いたような気がする。外では風が吹く音が聞こえる。時折、ぱらぱらと粉雪がテントの上を叩く。寝袋の表面には、私の体から出た水分がテントの天井に届く間もなく結露し濡れている。テントの天井には結露ならぬ氷の結晶が、霧氷の様に張りついていた。
 寒さに何度寝返りを打ったことだろう。時計は朝5:00を指していた。寝たり起きたりを繰り返しながら10時間近く眠ったことになる。外はまだ真っ暗だが、風は止んでいる。屋根を叩いていた粉雪の音も聞こえない。用を足しにテントの外に出てみた。いつの間にか、中天に月がかかり夜空を皓々と照らしている。ともかく何とかこの寒さの中、一晩を過ごすことができたという安堵感でいっぱいになった。
 新しい積雪は数cm、テントが雪で埋もれるかという心配は杞憂に終わった。気温はおそらく−7〜8℃くらいだろうか。厳冬期用の寝袋でもこれだけ寒いのだから、もし積雪期の大峰でテン泊するなら薄手のダウンジャケットが要るかもしれない。外に置いておいたら氷ると思い、テントの中に入れておいた水は、それでもザラメ状に氷り始めていた。テントの中が氷点下だったのである。
 しだいに明るくなり始めた東の空に、うっすら赤みが差し始める。美しい夜明けだった。国見八方覗きの台地上をうろうろ歩き回りながら夜明けを待った。じっとしていると手足の先の感覚が無くなってくる。写真を撮っていると、弥山小屋の横でテントを張っていた人や弥山小屋の宿泊客らしき人が、八方覗きの崖の上から写真を撮るために何人もやって来た。
 陽が上り周囲が明るくなり始めた6:30頃、テントをたたみ始めた。まず、寝袋を畳んで収納する。案の定、寝袋はぐっしょり濡れていた。テントの中の荷物をすべて出し、ペグを抜いていく。フライシートはパリパリに氷っていた。表面に付着した氷を何度もはたいて叩き落とす。普段なら結露を拭き取るのだが、その結露が氷っているのだから(笑)、その必要もない。テント本体は支柱を付けたまま、ドーム状のテントを何度も振り回しては天井をはたく。すると、天井に張り付いていた霧氷のような氷の結晶が大量にテント内部に落ちてきた。これをテント入口から外に捨てる。こんな氷ったテントの中で寝ていたのか・・と改めて思い、可笑しくなった。少々氷は付いたままだが、支柱を抜いてテントとフライシートを丸めて収納した。
 ザックの荷物の整理をあらかた終えたところで、コースタイムを見るために登山地図を取り出し、どこから下山するか考えた。弥山でテントを張った時点で、和佐又山への下山はなくなった。明け方4時頃出発しないと間に合わない。とてもそんな気力は無かった。もう一つは、狼平から栃尾辻を通り天川河合バス停へ帰るルート。これもほぼ来た道を引き返すようで面白くない。よし、nikkorさんがよく使う小坪谷から下りよう。トンネル西口から長距離の舗装路を歩くのは嫌だが、大川口くらいからなら何とか我慢して歩けそうだ。
 そうと決まれば、時間はたっぷりある。晴天の下、今日はのんびり気持ちのいい大峰の縦走路を楽しもう。出発前に袋麺の味噌ラーメンをガスバーナーで作って食べる余裕もできた。冷えた体に温かい食べ物が沁みるようでありがたかった。
 朝8:00前、弥山山頂を出発。弥山小屋の営業もこの日が最後ということだった。これから大峰は本格的な冬を迎えることになる。2日目の天気は、打って変った青空となった。昨日までの冬の様相が嘘のようだ。トンネル西口から弥山へ登る登山道で、何人もの登山者とすれちがう。この人たちは、きっと極上の青空とまっ白な霧氷に蔽われた弥山と八経ヶ岳を目にすることだろう。
 奥駈出合から向こうは、ほとんど人に出会わない静かな山道だった。天川辻の行者還小屋手前、大台ケ原方面の展望が開ける場所にしゃがみ込んで、最後の昼食をとる。8年振りくらいに歩いた小坪谷は、かなり荒れている気がした。標高が下がり、散り残りの紅葉を楽しみながらガレた谷を下っていった。

 つり橋を渡り国道に着いたのが昼1:30
 天川河合バス停到着が夕方4:00
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