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2023年11月18日 18:51登山の思い出全体に公開

初めての大峰テント泊/公共交通機関を使った登山のジレンマ

2014年 6/14(土)〜15(日) 単独
ルート:1日目…洞川温泉バス停〜母公堂〜山上辻〜レンゲ辻〜山上ヶ岳〜小笹ノ宿(テント泊)
    2日目…小笹ノ宿〜大普賢岳〜七曜岳〜無双洞〜和佐又山ヒュッテ〜和佐又山登山口バス停

 私は運転免許を持っていない。いまどき天然記念物ものだが、若いころ車に興味がなかったせいか、なんとなく取りそびれてしまった。妻は持っている。車もある。当然、妻の外出と買い物専用になってしまっている。帰省の時も、情けない話だが私は妻の運転に身を委ねるだけである。
 いきおい、山を歩くのもアプローチはすべて電車とバスの公共交通機関に頼るしかない。最初は思っていた。「車で山を歩く奴はたいへんだ。必ず車のあるところに戻らなくちゃならない。ということは同じルートをピストンするか周回するしかない。その点、電車とバスは気楽だ。どこから登ろうがどこから下りようが自由じゃないか。山で酒も飲めるし・・」と。
 ところが、世界遺産の大峰山を歩くようになって、ことはそう単純じゃないということに気付き始めた。ともかく登山口までのバスの便がない。あっても、登山口から遠く離れていたり、到着時刻が朝の9:30とか10:30なのである。そのうえ、終バスの時間までにはバス停に戻らなければならない。観音峰登山口〜岩本谷〜大日のキレットを歩いた時などは、夕方5:55の終バスに乗り遅れ、タクシーで後を追いかけたことがあった。なんとかバスに追いついたが、タクシー代は6千円以上、メーターの刻々上がる音に冷や冷やしたものだった。
 これでは、日帰りなら遠出はまず無理である。せいぜいバス停近くの山をちょろっと登って下りるぐらいしかできない。私の大峰登山歴は貧弱なものにならざるを得なかった。それまでに歩いたのは、洞川温泉バス停からの稲村ヶ岳、山上ヶ岳、五番関。観音峰登山口バス停からの観音峰、岩本谷。友人の車で行ったバリゴヤの頭、同じくトンネル西口からの行者還岳と小坪谷、太尾登山口からの釈迦ヶ岳と大日岳、赤井谷。1人で天川川合から登り、狼平で一泊して弥山から天川辻へ、恐怖の関電道を下山した夏の日の記憶。これぐらいしかなかった。
 2年半近くもひたすら比良山系ばかり歩き続けたのも、比良に魅了されたばかりが理由ではない。ともかく電車とバスのアクセスがいい。朝一番の快速に乗りさえすれば、表からでも裏からでも登るのは自由。駅到着は朝7:40で時間に余裕もある。表に下りれば湖西線の電車はいくらでもあった。裏でも下山してすぐにバス停がある。この手軽さが、比良に通い続けた一番の理由であった。
 しかし、比良山系もほぼ歩き尽くし、比良の山々の全体が手に取るように分かるようになった今、比良を歩いてもワクワクしなくなってしまった。もう一度、山歩きのフィールドを大峰山に戻す時期が来たような気がした。日帰りが無理ならテント泊で大峰を歩けばいい。そのための試運転が、5月の連休中の比良全山縦走だった。
 満を持して戻ってきた大峰の山々、しかし、テントと寝袋と着替え、水分と食糧、そのうえ酒までかついで登る登山は、元々カメの足しかない私の歩行速度を、さらにスローペースにしてしまう。洞川温泉バス停到着は9:20。公共交通機関に頼る登山は登り初めが遅い。車のように深夜スタートで夜明け前に登り始める夜討ち朝駆けができない。バス停から母公堂までの長い舗装路歩きも時間のロスだ。羽虫だらけの山上辻で虫の入ったカップめんを食べたのが12:30。30分の休憩の後、山上ヶ岳に向かって歩き始めた。
 山上辻〜レンゲ辻〜山上ヶ岳までの道は私の好きな道である。何度か歩いたが、いつも新鮮な感動がある。山上ヶ岳で大峰山寺にお参りし、山伏姿の人々に混じって般若心経を唱える。門前の小僧習わぬ経を読む・・とかいうやつ、いつの間にか諳んじてしまった。日本岩でビールを飲み、この日のテン泊予定地、小笹ノ宿に到着したのが午後3:40、時間的にはまだ歩けたが、テン泊では水の確保は至上命題、大事をとって豊かな水の流れるここにテントを張った。
 かつての大峰奥駈道の行者たちの宿のあったここには、今では小さな御堂と役行者の像、護摩壇、数人が泊まれるくらいのみすぼらしい小屋があるだけである。テントを張った後、棒ラーメンを作って食べ、早めにテントに潜り込んだ。深々とした夜の帳が下りると、青い闇の中に黒々とした大樹の影が浮かび上がる。その夜はやけに月明かりが明るかった。
 テントに潜り込んだ後、残しておいた酎ハイのロング缶で一人祝杯を上げ、しばらくランタンの灯りの中で本を読んだ。それも数時間、やがて疲れた体が深い眠りに落ちていく。夜中に何度か目が覚めた。さすがに1600mの山中、下界とは10℃以上も気温が違う。しかし、テントの中は暖かい。換気のために煙突のような換気孔がテントには付いている。テント入口も少しだけ開けて外が見えるようにしている。それでも内と外との温度差のためか、テントの内部は著しい結露に悩まされる。寝袋の端がテントの内壁に触れる部分が結露に濡れる。
 外が明るくなり始めた早朝4:00、用を足すためテントの外に出た。寒い!・・思わず体が芯から震える。慌ててテントの中に潜り込んだ。とても起き出してテントをたたむ気になれない。もうしばらく、明るくなるまで・・と再び惰眠をむさぼった。結局起き出して顔を洗い歯を磨き、出発の準備に取りかかったのは5:30を過ぎていた。ペグを抜き、結露を丁寧にふき取りテントをたたむ。タオル一枚がビショビショになるほどである。帰ってから一日干さなければならないだろう。
 ようやく小笹ノ宿を出発したのは、朝6:40頃であった。ここからの大峰奥駈道は圧巻だった。朝の光に濡れる苔の道、竜ヶ岳周辺の美しさ、竜ヶ岳を過ぎた辺りの尾根の風情、所どころにシロヤシオが咲き残り、美しい大峰の森に溜息が漏れる。しかし、ここでハプニング、突然画面が暗くなり動かなくなったカメラ、一瞬何が起こったのか分からなかったが、デジカメの電池切れだった。失敗だ。充電するのを忘れていた。悔しいがこれからの大峰の景色は私の瞼の奥と記憶に留めておこう。
 阿弥陀ヶ森分岐を過ぎて、大普賢岳(1780m)が迫る頃になると、景色は深山幽谷の相を深めていく。大普賢岳東側の谷が深い。小普賢岳とその前衛の岩峰がガスの中に浮かび上がる。まるで中国の山水画のような景色だ。仙境にでも迷い込んだかのような風景に思わず足を止め、忘我の境地で辺りを見廻す。ここまで誰にも会わなかった。
 大普賢岳手前の分岐で和佐又方面から来た10人以上のパーティーに出会った。大普賢岳山頂は多くの登山者でにぎわっていた。だが、そんなことは気にならないくらいの絶景、神童子谷を挟んで稲村ヶ岳とバリゴヤノ頭が西に連なり、南には、これから向かう奥駈の山々が頂を並べる。その先には、遥かにのっぺりとした山容の弥山(1895m)が見えた。
 一先ずの目的地であった大普賢岳山頂までは着いた。これから、どう下山するかが問題である。この時点で9:00過ぎ、時間はたっぷりあるように見える。事実、もう一泊する積もりなら余裕で弥山までも行けるだろう。しかし、明日は仕事、今日中にバス停のある場所まで下山しなければならない。それも終バスに間に合う時間に。
 2つの選択肢があった。1つはこのまま来た道をピストンで引き返し、洞川温泉バス停でバスに乗る方法。終バスは夕方5:50だから時間的にはこの方が余裕がある。・・が、できれば同じ道のピストンはしたくない。もう1つは、七曜岳まで足を延ばし無双洞から和佐又山ヒュッテに下山する方法。ヒュッテから1時間歩けば和佐又山登山口バス停がある。しかし、こっちのバスの時間は確認し忘れた。確か3:30頃に近鉄大和上市駅行きのバスがあったはずだ。何とも心もとない。しかも、テン泊の大荷物を背負って、初めてのルートをコースタイム通りに歩けるか不安である。ままよ、終バスに乗り遅れた時はヒッチハイクでもするさ・・腹をくくった。
 水太覗の絶景を探勝するのもそこそこに先を急いだ。団体に先行されでもしたらそれを抜くのにどれだけ時間をロスするか分からない。それでも、国見岳から稚児泊へのとんでもない下りの鎖場の途中、鉄の梯子から見えた大普賢と小普賢〜日本岳の尾根の幽玄な景色に、思わず足を止め、水を飲みながら見惚れてしまった。
 無双洞への分岐に着いたのが10:50、ここからコースタイム通りなら約3時間で和佐又山に着けるはず。しかし、無双洞からの上り返しがきつそうだ。地形図からある程度予想はしていたが、ここの上り返しは想像以上のスーパーアスレチックコースだった。重いザックを背負いながら、大汗をかき、余りの難コースに苦しみながら逆に笑えてくる。すごい“道”だった。
 和佐又山ヒュッテ到着が午後1:30。ヒュッテでバスの時間を確認すると3:23。バス停までの長い舗装路歩きが1時間とみても2:00に出発すれば余裕だ。30分は休憩できる。どうやらヒッチハイクはしないで済みそうだ(笑)。ヒュッテでロング缶のビールを買うと、砂漠に浸みこむ水の様に体に流し込んだ。最高に気持ちが良かった。

大和上市駅到着は夕方4:30
帰宅は夜8:00
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コメント

参考になります ありがとうございます
2023/11/18 19:02
まさあきさん、コメントありがとうございます。
ほぼ10年前の記録ですが、それでも参考になるのなら幸いです。
2023/11/19 21:35
下山後ビールで喉を潤し電車で爆睡できるのが公共交通機関ハイクの醍醐味ですね。クルマでササっと日帰りできる山を重い荷物でわざわざテン泊するのも一興。
2023/11/18 19:57
BuchanPapaさん、コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、下山後のアルコールは格別です(笑)。クルマを運転する方には味わえない贅沢ですね。近場の低山でテント泊もおもしろいかもしれません。ただ、水の確保が難しいので、背負って登るしかないでしょうか。
2023/11/19 21:51
どうも。はじめまして。
実は自分も大阪にいたころ、バス利用で奥駈道を分けて歩いてましたが、南奥駈道、持経の宿に宿泊し池原の方に下山しバス停で待っていてもバスが来ず、よく見たら学校登校日だけの運行でした。その日は地元の民宿に宿泊を余儀なくされましたが、いい想い出です。
今はマイカー登山三昧ですが、ピストン登山は大嫌いで周回登山をできるだけセッティングしてます。ほんと、吉野、熊野は隠地というか車ないと秘境になってますよね、
2023/11/19 5:16
typemoonさん、コメントありがとうございます。
私はその後、2泊3日で弥山〜前鬼までは歩きましたが、残念ながら、未だ南奥駆まで足を延ばすことはできていません。その代わり、弥山〜吉野までは季節を変えて2回歩きました。吉野がゴールだと、帰りの電車を心配する必要がありませんから安心です(笑)。
大峰奥駆道は、季節を変えて何度歩いても飽きない美しい稜線です。マイカーがあれば、毎週でも通いたいところです(笑)。
2023/11/19 22:13
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