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視点その1 選考委員の視点
芥川賞は文芸春秋社が開催している年に2回の文学賞です。基本的に短編から中編を対象とした新人賞で、文芸誌に掲載された作品が対象となることが多いです。今回は9名の選考委員により検討されました。選考委員のほとんども、過去に芥川賞を受賞しています。
選考委員のほとんどは登山を趣味としているわけではなく、山に登ったことがないと言う方もいらっしゃるのではないかと思います。そのような方々に、この小説が評価されたのは「文章のわかりやすさ」「魅力ある登場人物」「小説としての構成」「読後感」が多かったようです(文芸春秋に選考委員の講評が載っており、私も一読しました。)
新人が書く小説として一定の基準を超えており、今後も大いに期待することができるということで、選考委員の票を集めたのではないかと想像できます。
視点その2 読者の視点
この本を手にする読者は、大きく2つに分かれると思いました。それは「山に行く人」と「山には行かない人」だと思います。山に行く人にとっては、この本はいろいろな読み方ができる本だと思います。Mさんという魅力的な登場人物が出てきます、主人公の私が山と出会い、続いてMさんと出会い、交流を深めていく中で「山に行くこととは何か?」考えていきます。もちろん、現在の登山で欠かすことができない登山サイトの事や、いろいろな道具のこと、山に行く人にとっては納得できる内容が多いのではないかと思います。あとは、この本の「バリ山行」に共感できるかどうかが大きいと思いました。
「山に行かない人」がこの本を読んだときに、1番感じるのは「本当にこんなことあるの?」と言うことだと思います。物語の後半、私とMさんが2人で六甲に行く「バリ山行」の内容がとにかく凄すぎます。登山の危険さを1番感じてしまうのではないかと思いました。また、私やMさんが勤めている業界について詳しければ、そこに対してリアリティーを感じることもあると思います。そういうところに関しては、描写がうまいなぁと思うのではないかと思います。
視点その3 自分の視点
小説を読むうち、大事な事は自分がどうなのか、自分が読んで、どう思ったのかということだと思います。ということで、上の2つの視点はあくまでも想像、大事なのは、この視点その3だと思っています。
もちろん「俺はヤマレコ」という言葉はキラーワードだと思いましたし、YAMAPの方が多く、山行記録が上がってることに対して「ヤマレコがんばれ!」と、本を読みながら思ってしまうこともありました。
まず、自分だったら、山に関するSNSを職場の人と共有するだろうか。そういう職場もあるのだろう。でも、自分はそう思わない人なので、職場で山の話はしないし、自分が山をやってることを知ってる人もほとんどいないし。そういう点については、そういう職場に最初から勤めていればこのような世界も広がったのかなと思いました。
そして、自分も「私とMさんが行った六甲山行」が激しすぎて、少々置いていかれました。想像ができなかったのです。よって、その後の私やMさんの状況についても共感を持つことができませんでした。
そこから振り返ってみると、団体山行の中で勝手にショートカットの道を行ったりするMさんの行動も???と思い返しました。
ただ、この本を読んだ直後、職場でカップラーメンの昼食をとっていた時に、なぜかMさんを感じてしまいました。そういう意味では、作者は非常に魅力的な登場人物を作り出したと思いました。
非常に読みやすい小説で、難しい言葉もほとんどなく、読み進めるのにストレスはありませんでした。文章の意味が直接頭の中に入ってくるようでした。意味を確かめるために読み直しをすることもあまり必要ではありませんでした。そういう意味では、次作が出たらまた読んでみたいと思わせる作家だと思います。
ヤマレコにてこの日記を目にすることがある人には、充分お勧めすることができる小説だと思います。
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