温暖湿潤な日本列島、特に真夏をはさんだ前後の時季は、山へ分け入る者にとり時々、厄介な出来事がある。その一つが、山ヒルとの攻防だ。山道(獣道も含む)において草が腰まで生い茂る場合は最悪だが、ひざ下の高さでも、奴は十分に体を這いまわっている。そして、肌の露出した部分があればいとも簡単に取りつき、一瞬の刺し痛のあとは、悠然と吸血体勢に入る。私のような渓流遡行をしながら写真撮影する者にとっては、渓にたどり着く前からその道程において、手がかりの岩場が目線よりも上にくる場合があるが、その時は最悪だ。まるで海流になびくイソギンチャクのように、勢いよくこちらにジャンプでもしているかのように、そして複数いる場合は、放射状に中心点である自身の体に集まるかの如くめがけて集まってくる様子は、いつ見ても不気味で、遡行の一瞬の出来事ではあるが、自身の被写体を探して撮るという、「やる気」をそぐような瞬間が不気味だ。わが身のヘルメットやパーカーなど上半身に素早く取りつき、顔や首周りを物色しはじめるからだ。そんな時噛まれてしまっても、自身の安全確保が最も重要であることは言うまでもないわけであるが、次の休憩地点までが何とも言えないもどかしさを感じている。
ある時、ヒルはハッカの成分が苦手であるということと、吸血中はヒルジンというものを分泌しながら嚙みついた部分の血が固まらないように吸っているということを、帰り支度をしながらヒルをはがしていた時、山仕事を生業とする山師に教わったことがあった。さらに、出血を早めに止め、治りを早くするために、吸血部分にたばこの乾いた葉をお灸のように盛り、その上から絆創膏を強く貼ることも教えてくれた。
そこで、本題であるが、医学的根拠があるのかどうか諸説あろうが、それ以来私は、中学生時代にニキビ予防に使っていたハッカ成分の化粧水シーブリーズ)をワンコインショップで手に入れたアトマイザーに小分けに入れ持参しているている。また今では、喫煙していないが、たばこは新鮮なものが良いだろうと、年に一度は適当な一箱を買い求めている。さらに、毒を吸いだすポイズンリムーバーで吸血部を吸ってやると、ヒルジンの成分がうすくなるのか、処理しないときに比べ、早く止血やかゆみが止まるような気がして、面倒ではあるがこれらのことを念頭にチェックしている。
行動開始時には通常、この液体をアトマイザーで、手首や足首回り、そして首まわりに吹きかけるのであるが、汗で成分がうすくなるのではと、休憩時に吹きかけてい
る。万が一噛まれた場合は、直接吹きかけることで、簡単に体からはがすことができる。かけられた個体はもがきながら次第に動きを止め死んでいるようだ。そのあとポイズンリムーバーで吸出し、オキシドールをかけ、たばこの葉を載せ絆創膏で上から抑えて終了だ。今夏も首すじ、両手の指の間、アキレス腱など数か所をかまれたが、おかげとその痕跡はない。
私が住む愛知県東部は湿潤な南アルプスの環境下、本格的な山岳地帯がなくとも低山ハイクに適した山並みが広がっている。ある自治体では、限界集落ゆえの現象なのか、人々が山里を去っていくことにより、それまでその境界で留まっていた獣たちが、いまでは超えてきており、その体表に寄生したヒルが運ばれてきてしまっているとの見解から、ヒル除けの予算を増額しているとのことである。見方を変えれば、人々が移動することによって、体にとりついたヒルを運んでしまっているということも考えられる。
そういえば、ずいぶん前は山の専門店にしか置いてなかったヒル除け材が、今では町のホームセンターで売られているのを見ても、ヒルと人間との生活圏域がより濃厚になった証なのであろうか。
しかし一方で思うことは、SDGsの取り組みに共感をしつつ、山への愛好家が増えたことによる経済的ニーズも一役買っているかもしれないが、環境保全に配慮した山行において、まさかヒル除け材の効能が逆行するようなことにならないよう願うばかりだ。
とてもわかりやすく、新聞のコラムを読むように楽しかったです。ヒルが及ぼす人体と経済への影響‥興味深いです。
はじめまして、こんばんは。
ご笑覧いただきありがとうございました。
ヒルへの想いは、いろいろとありますが、共生ならぬ郷闘の仲と。
私にとりましては、シーブリーズは欠かせないものです。
ありがとうございました。
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