____________
昔から奇特な人はおるもので水のない土地に井戸を掘ったり、水を引き込んだりということは割と聞く話であります。
山越えの厳しいところにお助け小屋を架ける者もおったそうで、これから伝えるのもそんなお話なれどきちんと伝えられるものやら……。
そこのところを含み置いてくださいよ。
____________
『 松を植えた人 』
わしらの村から隣村へ行くには海岸沿いの道をたどり三叉路を右に曲がって山越えしなければいかんのじゃが、あそこには今のような松並木は一本もなかったのじゃ。
あの潮風の強い三叉路で嵐や吹雪に遭うと隣村から帰るときに三叉路と気付けずにまっすぐ進んで崖下の黄泉路へと引き込まれる者が後をたたんかったのじゃ。
そんな昔々のことじゃった。
村の○○という者が「三叉路に目印となる木を植えたらどうじゃ。」と言うたが村の皆は「あんな潮風の強ぇところにゃ、木どころかぺんぺん草すら生えんわ。」とあざけ笑うありさま…。
じゃが○○は諦め切れなんだ。
「嵐のときでも医者の先生を呼ぶことができる、先生を呼ぶのが無理でも隣村から薬を持ち帰ることができる。」と独りで木を植え始めたのじゃ。
「植えるなら松がえぇが風の強ぇ土地に根付かせるのは大変じゃぞ。」と教えられた通り、苗を植えては枯らすの繰り返しの連続じゃった。
村の者から「○○はどこかおかしくなった。」と罵倒されても○○は松を植えるのを辞めんかったのじゃが、その間にも何人も何人も崖下へと消えていったのじゃ…。
結局○○は松が根付くのを見届けることなく亡くなったんじゃが、その何年か後に不思議なことがおこったんじゃ。
隣村に移り住んで数十年近くたつ男が村に残した母親の危篤に駆けつけようとしたんじゃが、おり悪くものすごい嵐になったんじゃ。
男も危険な三叉路のことは知ってはいたんじゃが足下すら見えるかどうかの大嵐に困っていたら、うっすらと○○が村の方向を指し示してくれたおかげで村にたどり着けたんじゃと。
村人は○○の亡霊でも出たかと訝しみ恐れたが、男は間違いなく○○のおかげで臨終に間に合ったと○○の亡くなったのを信用しなかったんじゃ。
村の墓地は三叉路をまっすぐに進んだところにあるんじゃが、葬式のときに三叉路にさしかかったところ一同皆がえらい驚いたんじゃ。
子供ほどの高さとはいえ一本の松がしっかりと根付いていたんじゃと。
ありがたや、ありがたや。
その後、松はどんどん増えて今では○○松並木と呼ばれるほどになり、安全に隣村との行き来ができるようなったのじゃ。
どんとはらぇ。
____________
上記の日本版「木を植えた人」はかなり以前に読んだ昔話のうろ覚えです。
タイトルも忘れている位なので記憶間違いにより詳細が変更されていると思います。
現在では外的要因による植生変化が問題視されるかも知れませんが安全対策のひとつとしての紹介です。
今回の話のような一般に篤志家と呼ばれる人達は非常に希少且つ貴重となります。
魚止めの滝の上流部に魚を放流・繁殖して山奥での食料確保とした人はかなりいます。
登山道しか歩かないという人のなかにも目についたゴミを回収している方もおります。
遭難者が多い山域では沢に標識を設置しているところもあり、地図を所持していれば無事にルート復帰することができます。
知らないところで支えられているのなら、知られないほどの小さな善意によりお山と支え合ってゆきましょうよ ?
eof 07
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する