※ 前回に引き続き、初心者の方を想定して書いています。
<前回のおさらい>
「センサーに集まる光量(露出)は三要素(ISO感度、シャッタースピード、F値/絞り)で決まる」と書きましたが、ややこしい絞りは置いておいて、ISO感度とシャッタースピードは数値に比例して光を集めることができます。つまり、ある設定で写真を撮って、「倍の光を集めたい」と思ったら、ISO感度かシャッタースピードのどちらかを倍の数値にして撮ればOKです。では、問題です。
(例題)
下記の設定で撮った写真では星があまり写らなかった。空も暗い。倍の露出にしたかったらどんな設定で撮ればよいか。焦点距離は24mm(35mm判換算)固定とする。
・ISO感度1600、シャッタースピード10秒、絞りF2.8
(正解の例)
(A) ISO感度3200、シャッタースピード10秒、絞りF2.8
(B) ISO感度1600、シャッタースピード20秒、絞りF2.8
(A)(B)はどちらも最初の設定から倍の露出になります。しかし、比較した場合、(A)は「星は点で写るがノイズが比較的多い写真」、(B)は「ノイズは少ないが星が少し流れる写真」になります。どちらをとるかは撮影者次第。
「正解の例」と書きましたが、実は他にも正解はいくつもあります。何故なら、ISO感度とシャッタースピードの両方を変えてもいいですし、絞りを変えても倍の露出になるからです(それが可能なレンズであれば、ですが)。
しかし、そんな面倒な計算をする必要はありません。よく分からないうちは、ややこしい絞りは開放もしくは少し絞った値で固定してしまって、ISO感度やシャッタースピードを変更しながらベストな露出を探っていけばOKです。
※ 前回、余談で書いた「絞り」の部分を理解できた方なら、下のような設定もできるようになります。
(C) ISO感度800、シャッタースピード10秒、絞りF1.4
(D) ISO感度100、シャッタースピード1280秒、絞りF5.6
(A)〜(D)は全て同じ露出ですが、それぞれ違った仕上がりになります。こういった設定を意図してできるようになったら、またステップアップ完了です。
<撮影手順の例>
では、実際に撮影する時の手順を見ていきましょう。
※ 以下は一例であって、こうでなければならないというわけではありません。また、カメラによって設定名が違うものもあります。
(1) 広角レンズを装着する(ズームレンズであれば広角側にする)
(2) 三脚の雲台にしっかり固定し、リモートレリーズを接続する ※1
(3) 設定を下記の通り変更する
→(a) 撮影モード:「マニュアル(M)」
→(b) ISO感度:「3200」(3200が厳しければ1600)
→(c) 手ぶれ補正:OFF
→(d) フォーカスモード:MF(マニュアルフォーカス)
→(e) ライブビュー:ON
→(f) 画像の記録形式:RAW ※2
(4) できるだけ明るい星に狙いを定めて拡大表示する ※3
→もし街の灯りが見えるなら、それでもOK。その方がピントは合わせやすい
(5) レンズのピントリングを動かしてピントをあわせる
→レンズ上の「無限遠」の位置が基本ですが、微調整は必要
→星の場合、一番小さく見えるところを探す ※4
(6) 撮りたい方向にカメラを向け、左右の水平をとり、次の設定で試し撮りする
→ISO感度3200、シャッタースピード15秒、F値最小(できればF2.8以下)
(7) 試し撮りした写真を確認する
→ピンボケなら(4)に戻る
(8) 構図、露出を調整して再度撮影する
※1 リモートレリーズが無い場合、ドライブモードを「セルフタイマー(○秒後シャッター)」にしてください。
※2 星景写真は後から調整が必要になることが多いです。RAWで撮っておけば、多少の露出失敗は調整できますし、ノイズも処理できます。JPEGだとほとんど何もできません。
※3 想定される構図とは関係なく、全天から明るい星を探してやりましょう。構図はその後で決めます。画面端に写っている星だとピント調整時に形がゆがむことがあるので、画面中央付近に捉えてやります。なお、ライブビューの拡大表示機能を「MFアシスト」と呼ぶカメラもあります。
※4 ピント位置を無限遠の方に動かしていくと、ぼやけた星が少しずつ小さくなっていき、あるポイントを越えるとまた大きくなっていきます。この、星が一番小さく見えるポイントがピント位置です。
以上です。簡単ですね!ピントや構図に問題がなければ露出をチェックします。空が真っ白になってしまう(=露出オーバー)ようならISO感度かシャッタースピードを減らして試し撮り。星が写らない(=露出アンダー)ようならISO感度かシャッタースピードの数値を増やして試し撮り。この繰り返しです。
※ RAW現像前提であれば、「空が少し明るいかな?」くらいの露出で撮っておくと後で調整しやすいです。
ただし、ISO感度やシャッタースピードの数値を大きくする時は前回書いた「デメリット」を頭の片隅に入れておいてください。同じ構図でも色々なパターンで撮っておくと、「全部失敗写真」という事態を避けられます。
ちなみに、今までF値/絞りは無視していましたが、もしISO感度やシャッタースピードに余裕があるならF値を少し大きくする(=絞る)のも「あり」です。絞り開放での撮影には、前回も書いたように下記のような弊害があるからです。
・四隅の光量が低下する
・画質が低下する
・画面端の星の形が崩れる ※
※ サジタルコマフレアといって、大口径の広角レンズほどこれが起きやすいです。開放F値が大きいレンズだとあまり気にする必要はありません。
これはひとえにレンズの性能によります。これらの弊害が少ないレンズもありますが、そういうレンズは重くて価格が高くなる傾向にあります。絞っていくと上記の弊害は小さくなっていきますが、その分ISO感度やシャッタースピードの数値を大きくしないといけないので、今度はそちらの弊害が目立ってきます。落としどころを探しましょう。
<ありがちな失敗例と対策>
(イ) ピンボケ写真ばかりだった
→(甲) ピントをあわせたあと、うっかりピントリングに触れていませんか?
→(乙) ピントをあわせたあとに焦点距離を変更していませんか?
→(丙) ピントをあわせたあとにF値を大きく変更していませんか?
→(丁) ピントをあわせてから気温が大きく変化していませんか?
(ロ) ブレている写真がある
→(甲) 手順(3)の(c)で手ぶれ補正をOFFにしていますか?
→(乙) 強風で三脚が振動していませんか?
→(丙) リモートレリーズを使っていますか?
(ハ) 他の光が明るすぎて星が写らない
→構図を変えてみましょう
(ニ) 星は写っているけれども目立たない
→ソフトフィルターを使ってみましょう
(ホ) 全てギリギリの設定でやっても星が写らない(又はノイズだらけになる)
→明るいレンズを買うか、カメラを買い換えましょう…
★(イ)のチェックポイント
(甲) 当たり前ですが、ピントをきめたらピントリングには触らないようにしましょう…。テープでとめてしまう人もいます。
(乙) ズームレンズで焦点距離を変えるとピント位置が微妙にずれます。「え?同じ無限遠なのに?」と思われるかもしれませんが、レンズ設計の問題なので、そういうものだと諦めてください。無限遠に合わせればいいというわけではなく微調整がいる理由の一つがこれです。
少し脱線しますが、星景写真に限らずズームレンズを使ってMFで撮る時は必ず焦点距離を決めてからピント調整をするようにしましょう。厳密な定義だと「ズームレンズ」は焦点距離を変えてもピント位置が変わらないレンズのことなのですが、一眼のズームレンズでそういうのはほとんどありません。どのくらいずれるのかはレンズによります。
※AFだとシャッターを切るときにピントが微調整されるから問題にならないのですが、MFだとこの弊害が現れます。
(丙) 上記(乙)ほど顕著ではないので気にする必要はありませんが、レンズによってはF値を変化させてもピント位置がほんのわずかにずれることがあります。こだわる方は注意しましょう。
(丁) 星空撮影などの解説で「昼のうちにピント調整をしておきましょう」ってのがたまにありますが、それだとうまくいかないことがあります。温度が下がるとレンズは収縮するので、ピント位置が微妙に変化します。温度変化の大きい条件だと、ピントリングに触れなくても勝手にピンボケになってしまうことがあります。長丁場の場合は、何回か撮影したら厳密にピントをチェックしましょう。
★(ロ)のチェックポイント
(甲) 手ぶれ補正は普段ONにしている人も多いかと思いますが、三脚を使ってスローシャッターで撮る時に入れっぱなしだと誤作動を起こして逆にぶれてしまうことがあります(手ぶれと三脚の振動では周波数が異なる為)。撮り終わってから全部失敗写真だったら悲しいですから、必ず切る癖をつけましょう。バッテリーの無駄な消費もおさえられます。
※ 三脚に対応した手ぶれ補正機能もあるので一概には言えないのですが、ほとんどは手ぶれ補正のOFFを推奨しています。
(乙) 稜線上で無風ということは滅多にありません。しっかりした三脚が理想ですが、山に重くて大きい三脚を担いでいくのは大変です。できる対策としては…
・脚を伸ばしすぎない
・エレベーターは伸ばさない
・ストーンバッグを使う
・エンドフックがある三脚なら、ザック等をぶらさげる
・テント場なら、テントの中から撮る(笑)
・風が避けられる場所を頑張って探す
このあたりでしょうか。
(丙) リモートレリーズがない場合、セルフタイマー2秒でぶれる(振動が収まらない)ようなら、もっと長い秒数で試してみましょう。
★(ハ)のチェックポイント
構図の中に星以外の光をいれてしまうと、露出がそちらに引っ張られてしまいます。RAWで撮っておけば、ある程度はあとから調整可能ですが、テントや街の灯りを意図的に構図に組み込むのでなければ、避けた方が無難です。(合成写真でどうにかする方法は、私はやらないので分かりません)
星を撮るには月も大敵です。たとえ構図の中になくても空全体を明るく照らしているので、星が写るくらい露出を上げると空が真っ白になってしまうことがあります。星をたくさん写したい場合は、月明かりのない時間を選びましょう。
↓以前書いた日記をご参照ください。
山での星景写真撮影について(3)「家でもできるロケハン」
http://www.yamareco.com/modules/diary/77872-detail-107592
※ ただし、星と一緒に景色を(影ではなく)しっかり写したい場合は、三日月程度の月明かりが理想です。その場合は順光でないとうまくいかないですし、時間も限られてくるので、より条件は厳しくなります。事前のロケハンは必須です。
また、仮に直接見えなくても街の灯りは夜空を照らしています。これをなんとかおさえようと思ったら特殊なフィルターに頼るしかありませんが、デメリットも大きいので注意が必要です。
↓光害を除去するCLSフィルターについて書いた日記
http://www.yamareco.com/modules/diary/77872-detail-107054
★(ニ)のチェックポイント
レンズフィルターの一種、ソフトフィルターを使うと明るい星を目立たせることができます。ただし、あまり効果の大きいフィルターを使うと景色もにじんでしまうので、星景写真ではよく考えて使う必要があります。
★(ホ)のチェックポイント
身もふたもないですが、結局のところ、行き着くところは「明るくて優秀なレンズ」です。ただ、カメラは年々進化していて、以前よりもかなりノイズ耐性が上がってきていますので、数年後にはこの状況は変わっているかもしれません。
まだ続く…?
dhumeさん、こんばんわ。
毎回、懇切丁寧にありがとうございます。
最近になってようやく、この7割がたくらいが
理解できるようになってきましたが、、、
まだまだですね。。最後はやっぱり明るいレンズに
いいカメラ。そしてそれを支える三脚と、
それを担ぐ体力。。と財力。。
これがなかなかに難しいですね(笑)
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