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朝ご飯を抜くと、血糖値と運動機能はどうなるか。山本正嘉は「中高年者に対する登山指導と事故防止」Jpn J Spoerts Science. No.13:213-219, 1994.で調査した結果、朝食を食べた場合、登山と同じ運動強度では2時間経っても血糖値は80mg/dL以上が保たれたのに対し、食べない場合は76mg/dLから始まり1時間は保てたものの、1時間半で60mg/dLに低下し、2時間20分後に運動が不可能になっている(70mg/dLで低血糖)。ここで糖分の入ったジュースを飲むと血糖値は急速に回復して再び運動ができるようになった。バテたときは飴を舐めるとよい、と言われるが、このようなしくみがあるからである。
なお、朝食でいわゆる甘いもの(砂糖など)を摂ると血糖値が低下し、逆にバテやすくなるので、デンプンである米・麺・パンとして炭水化物を摂るのが適切である。
栄養素は、炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラルの5種類に大別されるが、登山では炭水化物と脂肪の2つが主なエネルギー源として消費される。体内には炭水化物は1時間半分、脂肪は7.4日分が貯蔵されている。しかし脂肪は炭水化物と一緒でなければ消費されない。したがって、脂肪を効率よく消費するためには、炭水化物を少しずつ補給しながら登山しなければならない。また脂肪は炭水化物よりも約10%多く酸素を消費し、容積は大きく、筋疲労により乳酸が蓄積するとあまり消費されないという不利な点がある。
炭水化物を補給しないまま運動を続けると、筋肉や内臓のタンパク質を分解して炭水化物に転換し(糖新生)、エネルギー源として消費しようとする。タンパク質には窒素分が含まれており、消費すると尿素をつくるため肝臓と腎臓の負担が増加する。山から帰った後に、手足がむくむのは、肝臓と腎臓が疲労して水分の排出機能が弱っているからとも考えられる。
行動中のエネルギー消費量は、図のような式で表される。kcalをmLに読み替えると、脱水量を表す式としても使える。なお、悪路・積雪・向かい風のときは、値は大きく修正されることに注意する。なお、黄色の枠内で囲まれた部分を「コース定数」と呼び、ヤマレコでもコース定数を基に、体力度が自動で計算されるしくみとなっている(https://www.yamareco.com/guide/faq/stamina_index/ )。コース定数に体重とザックの重量の和をかければ、必要なカロリーと水の量が計算できる。
それでは、登山中にどれくらいエネルギー補給をする必要があるか。
ランニングなど、持久力のトレーニングを積んでいる人ほど脂肪の消費能力が高いが、そうでない初心者や中高年、子どもでは登山中に70%以上の補給が必要である。体力に優れ、よく登山する人でも登山中に50%の補給は必要である。
なお、日本におけるスキー発祥の地とされる新潟県の高田連隊の、1911年の食事は、朝食米1.5合と一汁三菜、昼食は米2合のみ、夕食は米2.5合と一汁三菜。と記録されている。合わせると4000kcalになる。
行動食は2時間おきに300kcalずつ(できれば1時間おきに150kcalずつ)食べるべきであり、食べる炭水化物は砂糖でもデンプンでもよい。登りでも下りでも同等のエネルギー消費量があるので、同じ間隔で食べることを心がける。
スポーツ選手は運動後、1時間以内に炭水化物とタンパク質の摂取を行う。登山も同様である。諸事情で1時間以内の摂取が難しいときは、行動食の余りで食いつなぐとよい。自炊の登山を1週間以上も続けるときは、栄養サプリメントの摂取も重要である。
良く知られたサプリメントとして、アミノ酸サプリメントがある。味の素株式会社が開発したアミノバイタルを飲み、階段を使って1200m登り、1200m下る実験をしたところ、筋力低下や筋肉痛の抑制効果は見られなかったが、バランス能力や俊敏性は、飲まない時の登山前より29%低下に対し、飲むと登山前より11%上昇した。ただし、トレーニングをしていない人、行動食を十分に補給していない人が、アミノ酸だけ補給しても意味はないことに注意したい。
萩原正大, 山本正喜,大澤拓也,片山美和「登山をシミュレーションした階段歩行時の疲労に及ぼすアミノ酸サプリメント摂取の効果」登山医学 No.28:p.103-112, 2008. <<https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902224258906672 >>
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