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鹿島槍ヶ岳(かしまやりがたけ)

氷河を抱く秀麗な双耳峰


鹿島槍ヶ岳は富山県と長野県にまたがる双耳峰です。標高2889mの南峰と標高2842mの北峰があり、どちらも鋭く天を指しています。両峰を結ぶ稜線は「吊尾根」と称され、しなやかに弧を描いています。登山家であり随筆家でもあった深田久弥(ふかだきゅうや:1903-1971年)はこの吊尾根を「品の良い美しさ」と褒め上げ、鹿島槍ヶ岳を日本百名山に選び出しました。

"鶴の雪形(中央左)、獅子の雪形(中央右)"
"鶴の雪形(中央左)、獅子の雪形(中央右)"

古くは長野県側で「鶴ヶ岳」や「しし岳」と呼ばれていました。これは春先に斜面に現れる雪形(残雪と岩肌が織りなす模様)が、飛び立とうと伸び上がる鶴や、駆け下る獅子に見えたためです。
また、双耳峰にちなんで「背比べ岳」の山名もありました。一方で富山県側での古名は、立山連峰の奥地を意味する「後立山(ごりゅうざん)」でした。

"鹿島集落:鹿島山荘"
"鹿島集落:鹿島山荘"

"鹿島"を冠する山名は、鹿島明神に由来します。
古くは北アルプスを震源とした大地震で川が氾濫し、麓に甚大な被害をもたらしたそうです。そこで、地震を鎮める神である鹿島明神を勧請し、東麓の集落を「鹿島」、山名を「鹿島大岳」あるいは「鹿島山」に改めたと伝えられています。
"槍ヶ岳"と付くのは、北アルプス南部の槍ヶ岳に対してで、大正時代に陸地の測量や地図作成を行っていた陸地測量部が発端とする説があります。

平家の落人伝説が宿る氷河

"カクネ里雪渓(氷河)"
"カクネ里雪渓(氷河)"

鹿島槍ヶ岳は多彩な自然を感じることができる山です。
高山植物の宝庫で「花の百名山」「新・花の百名山」に選定されており、山域にはライチョウが生息しています。
また、鹿島川の源頭部「カクネ里」は深い谷です。夏でも大きな雪渓が広がっており、2018年に長野県で初めて氷河に認定されました。カクネ里は、隠れ里が転じた地名です。古くは平家の落人が隠れ住んでいたとされ、鹿島集落の住民はその末裔です。

日本の近代アルピニズム発展の地

"北壁"
"北壁"

鹿島槍ヶ岳の山体は非対称山稜です。後立山連峰の山々によく見られる特徴で、西側の斜面は比較的穏やかです。一方で東側は急峻な尾根や、北壁や荒沢奥壁などの崖が立ちはだかります。
日本の登山史においても知名な山で、国内で近代登山が幕開けすると、多くのルートが競うように開拓されました。近代登山は、登山を宗教や狩猟目的ではなく、登ることそのものを目的としており、明治時代に欧州人によってもたらされました。当時、鹿島集落にある「鹿島山荘」は初登攀争いの拠り所となった民宿で、名だたる岳人らが通っていたそうです。

"北壁主稜に取り付く登山者(積雪期)"
"北壁主稜に取り付く登山者(積雪期)"

積雪期のバリエーションルートは、現在も確かな人気を得ており、多くのアルピニストらが取り付いています。

"盟主"にふさわしい眺望

"鹿島槍ヶ岳南峰:剱・立山連峰を望む"
"鹿島槍ヶ岳南峰:剱・立山連峰を望む"

鹿島槍ヶ岳は後立山連峰のほぼ中央にあり、また美しい立ち姿から「後立山連峰の盟主」と評されています。
山頂からの見晴らしも相応しく、黒部峡谷を挟んで望む剣・立山連峰は壮観です。

"鹿島槍ヶ岳南峰:五竜岳と白馬連峰を望む"
"鹿島槍ヶ岳南峰:五竜岳と白馬連峰を望む"

稜線続きには五竜岳や爺ヶ岳、蓮華岳などの後立山連峰の山々や、槍・穂高連峰などが連綿と続きます。
安曇野の町の向こうには富士山も確認できます。

"鹿島槍ヶ岳北峰:南峰と吊尾根を望む"
"鹿島槍ヶ岳北峰:南峰と吊尾根を望む"

また北峰から望む南峰は端正な尖峰で、"槍ヶ岳"と称される由縁が頷けるほどです。

定番の柏原新道

"モデルコース(柏原新道〜爺ヶ岳〜鹿島槍ヶ岳)"
"モデルコース(柏原新道〜爺ヶ岳〜鹿島槍ヶ岳)"

1日目:6時間47分 8.1km
柏原新道登山口(115分)→ケルン(161分)→種池山荘(65分)→爺ヶ岳(中峰)(51分)→冷乗越(15分)→冷池山荘
2日目:9時間16分 14.3km
冷池山荘(69分)→布引山(53分)→鹿島槍ヶ岳(南峰)(28分)→鹿島槍ヶ岳(北峰)(32分)→鹿島槍ヶ岳(南峰)(34分)→布引山(41分)→冷池山荘(19分)→冷乗越(73分)→爺ヶ岳(中峰)(44分)→種池山荘(97分)→ケルン(66分)→柏原新道登山口

"扇沢駅"
"扇沢駅"

鹿島槍ヶ岳への定番登山ルートは、「柏原新道」から後立山連峰の主稜線を目指し、爺ヶ岳を経由します。(登山口:柏原新道登山口
登山口は、山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」の起点である「扇沢駅」の近くにあります。そのため交通アクセスに優れ、また危険箇所も比較的少ないことからよく選ばれています。

"柏原新道"
"柏原新道"

柏原新道は、種池山荘の二代目オーナーであった柏原正泰氏によって開削されました。長い登りが続きますが、よく整備されており歩きやすい道です。

"柏原新道"
"柏原新道"

「八ツ見ベンチ」「石畳」「アザミ沢」など、ポイントごとに地名や注意事項が書かれた看板が設けられています。
「水平道」から「水平岬」の間は、名の通り平坦な道がしばらく続きます。

"後立山連峰の主稜線より種池山荘と剱・立山連峰を望む"
"後立山連峰の主稜線より種池山荘と剱・立山連峰を望む"

「鉄砲坂」を越えると、後立山連峰の主稜線に着きます。お花畑の中に種池山荘が建っており、山荘の名物は焼きたてのピザです。
ここから絶景の稜線歩きが始まります。

"爺ヶ岳(左)と布引山(右)"
"爺ヶ岳(左)と布引山(右)"

山頂へは爺ヶ岳、布引山を経由します。
爺ヶ岳は3つのピークを持つ山で、麓からもその特異な姿はよく目立ちます。

"冷池山荘:テント場"
"冷池山荘:テント場"

多くの登山者は冷池山荘(つめたいけさんそう)で1泊し、翌朝に鹿島槍ヶ岳を目指します。テント場は小屋からやや進んだ稜線上に設けられており、爺ヶ岳や鹿島槍ヶ岳、剱岳などの絶景が堪能できます。

健脚向け・赤岩尾根

"モデルコース(赤岩尾根〜鹿島槍ヶ岳)"
"モデルコース(赤岩尾根〜鹿島槍ヶ岳)"

1日目:6時間47分 8.1km
大谷原登山口(83分)→西俣出合(181分)→高千穂平(90分)→冷乗越(15分)→冷池山荘
2日目:9時間51分 12.7km
冷池山荘(69分)→布引山(53分)→鹿島槍ヶ岳(南峰)(28分)→鹿島槍ヶ岳(北峰)(32分)
→鹿島槍ヶ岳(南峰)(34分)→布引山(41分)→冷池山荘(19分)→冷乗越(140分)→
高千穂平(115分)→西俣出合(60分)→大谷原登山口

"西俣出合"
"西俣出合"

大谷原(おおたんばら)から赤岩尾根を伝うルートは、高低差が大きく「長ザク尾根」とも言われるほどです。(登山口:大谷原登山口
序盤は大冷沢(おおつべたざわ)沿いに付けられた林道を進みます。
西俣出合に着き、堰堤下のトンネルをくぐると、本格的な登山道に入ります。

"赤岩尾根:鉄製の梯子"
"赤岩尾根:鉄製の梯子"

樹林帯の中の長い急登で、所々に階段や梯子が設けられています。

"高千穂平"
"高千穂平"

高千穂平は平坦で休憩に適した場所です。ここから展望が開けていき、目指す鹿島槍ヶ岳を望みながら登り詰めて行きます。

"赤岩尾根:鎖場"
"赤岩尾根:鎖場"

赤岩尾根の上部にはガレた岩場があり、鎖が掛けられています。

熟達者向け・八峰キレット越え

"八峰キレット"
"八峰キレット"

後立山連峰の主稜線の縦走は根強い人気があり、鹿島槍ヶ岳を含めた行程もよく注目されています。
ただし、五竜岳から鹿島槍ヶ岳の間は痩せた岩稜帯が続き、エスケープルートもありません。時間に余裕を持ち、岩場の基本的な歩き方である「三点支持」を駆使して通行する必要があります。
鹿島槍ヶ岳北峰からすぐ北にある「八峰キレット(はちみねきれっと)」は、V字に深く切れ込んだ地形で特に難所とされています。

"八峰キレット小屋"
"八峰キレット小屋"

八峰キレットの近くにある八峰キレット小屋は両側が切れ落ちた狭い場所に建てられています。
登山口 柏原新道登山口
大谷原登山口
基本情報
標高 2889m
場所 北緯36度37分28秒, 東経137度44分48秒
カシミール3D
山頂
危険個所 ★平成25年ゴールデンウィーク中、遭難3件(1名不明・死亡、1名滑落・重傷、1名滑落・軽傷)ー長野県山岳遭難防止対策協会 提供ー

山の解説 - [出典:Wikipedia]

鹿島槍ヶ岳(かしまやりがたけ)は、富山県黒部市、中新川郡立山町および長野県大町市にまたがる後立山連峰(飛騨山脈)の標高2,889 mの山。中部山岳国立公園内にある。後立山連峰の盟主とされる。
山頂は南峰(標高2,889 m)と北峰(標高2,842 m)からなる双耳峰で、吊尾根と呼ばれるなだらかな稜線で繋がっている。山頂部は森林限界を越える高山帯で、1922年(大正11年)10月12日に多くの高山植物が自生する白馬岳や五竜岳を含む周辺の西面は「白馬連山高山植物帯」の特別天然記念物に指定された。剱岳・立山・唐松岳と並び、日本では数少ない氷河の現存する山である。
日本百名山、新・花の百名山の一つに選定されている。旧北安曇郡にあった旧美麻村を代表する山として鹿島槍ヶ岳の眺望が『信州ふるさと120山』の一つに選定されている。

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