(はじめに)
この2−7章では、槍穂高連峰の西側にそびえる笠ヶ岳(2898m)と、その稜線沿いにある錫杖岳(2168m)について、その地質と成因について説明します。
笠ヶ岳は、その名のとおり、頂上部がちっちゃい富士山状をした山で、北アルプス中央部の双六岳付近から南へと分岐した尾根上にあります。江戸時代、槍ヶ岳を開山した「播隆上人(ばんりゅうしょうにん)」が、まず笠ヶ岳を開山し、その頂上から槍ヶ岳を望み、「次は槍ヶ岳を開山するぞ」と誓った、という伝説でも有名です。
笠ヶ岳は北アルプスの南西端に位置しているため、北アルプスの他の山から、その姿は意外と見にくいのですが、蒲田川の深い谷を挟んだ西穂高の稜線からは、以外に大きいその山体を望むことができます。
笠ヶ岳は、その名のとおり、頂上部がちっちゃい富士山状をした山で、北アルプス中央部の双六岳付近から南へと分岐した尾根上にあります。江戸時代、槍ヶ岳を開山した「播隆上人(ばんりゅうしょうにん)」が、まず笠ヶ岳を開山し、その頂上から槍ヶ岳を望み、「次は槍ヶ岳を開山するぞ」と誓った、という伝説でも有名です。
笠ヶ岳は北アルプスの南西端に位置しているため、北アルプスの他の山から、その姿は意外と見にくいのですが、蒲田川の深い谷を挟んだ西穂高の稜線からは、以外に大きいその山体を望むことができます。
1)古第三紀の火山としての笠ヶ岳
笠ヶ岳の全体を西穂高の稜線から望むと、山腹に数個の横筋があるのが解りますが、これは実は、笠ヶ岳が古い火山であることの証拠です。
以下、(文献1)、(文献2)に基づいて、笠ヶ岳の成り立ち、地質を説明します。
笠ヶ岳は、隣の槍穂高連峰と同じく、巨大なカルデラ式火山の跡です。ただし、「槍穂火山」が、176万年頃(第四紀)に活動した地質時代的には割と新しい火山であるのに対し、笠ヶ岳火山は、古第三紀 暁新世(ぎょうしんせい)の、約6300万年頃に活動した、相当に古い火山の跡です。
その当時(白亜紀後半〜古第三紀初頭)、西南日本内帯では、海洋プレート沈み込みに伴う火山活動が活発だったようで、笠ヶ岳火山もその頃にできた火山です。
火山のタイプはカルデラ式火山で、4つの活動期に分けられています。第1期活動に続き、大規模な第2期活動が起きました。その時に一個目のカルデラ(直径 約10km)が形成され、カルデラ内は、噴出した溶岩(流紋岩〜デイサイト質溶岩)が堆積しました。第2期の溶岩は、現在の笠ヶ岳山頂の南西方面に残存しています。さらに第3期活動で、第2期のカルデラの内側に、一回り小さいカルデラ(直径 約5km)を作った、二重式カルデラ火山です。
文献2)にある地質概念図や、産総研「シームレス地質図v2」で地質分布を確認すると、楕円形の地質構造が2重になっていることが確認できます。
これらは外側の部分が最初のカルデラの跡、内側が、2回目に形成されたカルデラの跡です。
なお、カルデラの痕跡がこのように、地形ではなく地質的に地表で確認できるものを、地質学用語では「コールドロン」と呼びます。
現在、笠ヶ岳東面に見られる縞模様は、第3期活動で生じたカルデラ内に、溶結凝灰岩を主体とする火砕流噴出物および、溶岩(第2期活動と同じ、流紋岩〜デイサイト質)が順々に地層をなして堆積した跡です。カルデラ内の堆積構造断面を直接見ることができる、珍しい山とも言えます。
さらに最後の第4期活動にて、笠ヶ岳山頂部を構成する火山岩(溶結凝灰岩)が形成されました。第4期活動で噴出した溶結凝灰岩は比較的固い岩で、浸食に抗して、稜線からぴょこんと突き出した「笠」の形の山頂部ができました。
普通、日本各地にみられる火山は、長くても活動寿命は100万年程度です。活動期が終われば、あとは山体崩壊や、河川による浸食で壊れていく一方で、活動終了後500〜1000万年もすれば、山体はバラバラに崩壊し、当時の火山周辺に溶岩層が点在することで、昔に火山があったことが解る程度になります。
ところが、この笠ヶ岳火山は、約6300万年という非常に古い火山にもかかわらず、火山構造がいまだ残っているのは珍しいことです。
おそらく、カルデラ噴火によって、火山の中心部は大きく陥没して、標高は低くなり(カルデラ底は海面下になったかも?)、その後、他の堆積物で覆われて、地中深くに、まるで冬眠しているかのように、ひっそりとその形を残していたものと思われます(この段落は私見です)。
その後、前の章でも述べたように、約130万年前頃から、北アルプス一帯が大きく隆起するのに伴い、地中で冬眠していた火山体が地表に現れ、さらに標高2800m余りの高さまで持ち上げられたと思われます。
新穂高温泉のある蒲田川の深い渓谷を挟んで相対する、槍穂高連峰と笠ヶ岳は、どちらも同じカルデラ式火山ですが、約6000万年以上の年の差を越え、現在、素知らぬふりをして、並び立っているのです。
以下、(文献1)、(文献2)に基づいて、笠ヶ岳の成り立ち、地質を説明します。
笠ヶ岳は、隣の槍穂高連峰と同じく、巨大なカルデラ式火山の跡です。ただし、「槍穂火山」が、176万年頃(第四紀)に活動した地質時代的には割と新しい火山であるのに対し、笠ヶ岳火山は、古第三紀 暁新世(ぎょうしんせい)の、約6300万年頃に活動した、相当に古い火山の跡です。
その当時(白亜紀後半〜古第三紀初頭)、西南日本内帯では、海洋プレート沈み込みに伴う火山活動が活発だったようで、笠ヶ岳火山もその頃にできた火山です。
火山のタイプはカルデラ式火山で、4つの活動期に分けられています。第1期活動に続き、大規模な第2期活動が起きました。その時に一個目のカルデラ(直径 約10km)が形成され、カルデラ内は、噴出した溶岩(流紋岩〜デイサイト質溶岩)が堆積しました。第2期の溶岩は、現在の笠ヶ岳山頂の南西方面に残存しています。さらに第3期活動で、第2期のカルデラの内側に、一回り小さいカルデラ(直径 約5km)を作った、二重式カルデラ火山です。
文献2)にある地質概念図や、産総研「シームレス地質図v2」で地質分布を確認すると、楕円形の地質構造が2重になっていることが確認できます。
これらは外側の部分が最初のカルデラの跡、内側が、2回目に形成されたカルデラの跡です。
なお、カルデラの痕跡がこのように、地形ではなく地質的に地表で確認できるものを、地質学用語では「コールドロン」と呼びます。
現在、笠ヶ岳東面に見られる縞模様は、第3期活動で生じたカルデラ内に、溶結凝灰岩を主体とする火砕流噴出物および、溶岩(第2期活動と同じ、流紋岩〜デイサイト質)が順々に地層をなして堆積した跡です。カルデラ内の堆積構造断面を直接見ることができる、珍しい山とも言えます。
さらに最後の第4期活動にて、笠ヶ岳山頂部を構成する火山岩(溶結凝灰岩)が形成されました。第4期活動で噴出した溶結凝灰岩は比較的固い岩で、浸食に抗して、稜線からぴょこんと突き出した「笠」の形の山頂部ができました。
普通、日本各地にみられる火山は、長くても活動寿命は100万年程度です。活動期が終われば、あとは山体崩壊や、河川による浸食で壊れていく一方で、活動終了後500〜1000万年もすれば、山体はバラバラに崩壊し、当時の火山周辺に溶岩層が点在することで、昔に火山があったことが解る程度になります。
ところが、この笠ヶ岳火山は、約6300万年という非常に古い火山にもかかわらず、火山構造がいまだ残っているのは珍しいことです。
おそらく、カルデラ噴火によって、火山の中心部は大きく陥没して、標高は低くなり(カルデラ底は海面下になったかも?)、その後、他の堆積物で覆われて、地中深くに、まるで冬眠しているかのように、ひっそりとその形を残していたものと思われます(この段落は私見です)。
その後、前の章でも述べたように、約130万年前頃から、北アルプス一帯が大きく隆起するのに伴い、地中で冬眠していた火山体が地表に現れ、さらに標高2800m余りの高さまで持ち上げられたと思われます。
新穂高温泉のある蒲田川の深い渓谷を挟んで相対する、槍穂高連峰と笠ヶ岳は、どちらも同じカルデラ式火山ですが、約6000万年以上の年の差を越え、現在、素知らぬふりをして、並び立っているのです。
2)錫杖岳の大岩壁
笠ヶ岳から南への稜線をたどると、錫杖岳(しゃくじょうだけ;2168m)という山があります。標高は笠ヶ岳よりかなり低いのですが、錫杖岳の東面、クリヤ谷に面した場所は大岩壁となており、ロッククライミングの記録もしばしばみられる、岩山です。
蒲田川沿い、新穂高温泉の手前あたりから、その険しい大岩壁の一部を望むことができます。
(文献1)によると、この錫杖岳の東面を形成している岩壁は、上記の笠ヶ岳火山から噴出した流紋岩質の火山岩です。
蒲田川沿いにできた断層によって、笠ヶ岳山塊が隆起し、それとともに蒲田川の支流であるクリヤ谷による浸食が進み、このような険しい岩壁が形成されました。
なお、この岩壁形成には、ひょっとしたら氷期の山岳氷河による浸食も関与しているかもしれません、ただしその証拠は特にないようです(この段落は私見です)。
蒲田川沿い、新穂高温泉の手前あたりから、その険しい大岩壁の一部を望むことができます。
(文献1)によると、この錫杖岳の東面を形成している岩壁は、上記の笠ヶ岳火山から噴出した流紋岩質の火山岩です。
蒲田川沿いにできた断層によって、笠ヶ岳山塊が隆起し、それとともに蒲田川の支流であるクリヤ谷による浸食が進み、このような険しい岩壁が形成されました。
なお、この岩壁形成には、ひょっとしたら氷期の山岳氷河による浸食も関与しているかもしれません、ただしその証拠は特にないようです(この段落は私見です)。
(参考文献)
文献1)原山、山本 共著
「超火山 「槍・穂高」」山と渓谷社 刊(2003)
のうち、第2部、ステージ2章 「薬師岳、笠ヶ岳」の項
文献2)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第4巻 中部地方」 朝倉書店 刊 (2006)
のうち、9−6章「笠ヶ岳流紋岩のカルデラ断面展望」の項
(本章の執筆者;原山 智氏)
「超火山 「槍・穂高」」山と渓谷社 刊(2003)
のうち、第2部、ステージ2章 「薬師岳、笠ヶ岳」の項
文献2)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第4巻 中部地方」 朝倉書店 刊 (2006)
のうち、9−6章「笠ヶ岳流紋岩のカルデラ断面展望」の項
(本章の執筆者;原山 智氏)
このリンク先の、2−1章の文末には、第2部「北アルプス」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
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【書記事項】
初版リリース;2020年6月1日
△改訂1; 写真の追加。図の注釈を追記。
本文の章立ての変更。文章見直し、一部修正。
(2)錫杖岳の項を追記。参考文献の項、一部追記。
山名追記。2−1章へのリンクを追加。
書記事項新設、記載。
△最新改訂年月日;2022年1月8日
△改訂1; 写真の追加。図の注釈を追記。
本文の章立ての変更。文章見直し、一部修正。
(2)錫杖岳の項を追記。参考文献の項、一部追記。
山名追記。2−1章へのリンクを追加。
書記事項新設、記載。
△最新改訂年月日;2022年1月8日
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