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更新日:2020年07月25日 訪問者数:241
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日本の山々の地質;第2部 北アルプス 2-13章 立山・剣岳周辺の古い地層 〜飛騨帯とはナニモノか?〜
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2−13章 立山・剣岳周辺の古い地層 〜飛騨帯とはナニモノか?〜
〜飛騨帯とはナニモノか?〜 第一節

 さてここまで北アルプスの稜線にそびえる高峰群について、それらの地質(岩石)の説明をしてきましたが、この章では、立山・剣岳の西側の山腹にある古い地層「飛騨帯」(飛騨変成岩)について説明します。

 まず基本的なことですが、日本の地質学では、日本列島の地質を「〇〇帯」という区分で分類することになっています。ただし前提として、「〇〇帯」は堆積岩および変成岩をもとに分類、区分され、火成岩(火山岩、深成岩)は分類の対象として考慮されていません。また堆積岩でも比較的新しい地質(新第三紀、第四紀の地質)も、対象外となっています。そういう前提のもとに、日本列島は約20個の「〇〇帯」に区分されています。

 この章で説明するのは、その中で「飛騨帯」と呼ばれる地域と、そこの地層(地質)です。

 まず「飛騨帯」の範囲ですが、富山県の全域、能登半島を含む石川県のほぼ全域、福井県のうちいわゆる嶺北部(福井平野、大野盆地など)、それと岐阜県飛騨地方の北側が、地質学上の「飛騨帯」とされています。

 「飛騨帯」を特徴づける地層(岩石)は、この「飛騨帯」ゾーンのなかでも、限られた場所にしか地表に露出していません。一か所は岐阜県飛騨地方の北部から富山県境にかけて、もう一か所は富山県の北アルプス 立山〜剣岳〜毛勝三山の中腹部です。後者は北アルプスの一部ではありますが、登山道が多い場所ではないし、おそらく樹林帯なので、(私も含め)普通の登山者が見かけることは稀だとは思います。

 なお2つのゾーンの間は、手取層群(白亜紀の淡水性堆積層)に覆われていますが、おそらくは手取層群の下に飛騨帯の地層が続いているものと思われます。
 また富山県のうち平野部、石川県および福井県には、飛騨帯の岩石類はごくわずかに点在するだけです。これらの一帯の地下に飛騨帯の地層が連続して分布しているかどうかは、私としては疑問です。というのは、約20〜15Ma(注1)に起きた日本海拡大イベントにおいて、北陸各地を含めた日本海側は、海底火山の噴火が盛んに起き、その時点で、古い地層は失われたのではないか?と考えるからです。
   (注1)「Ma」は、「100万年前」という意味の単位で、
       地球科学ではよく使われます。

  さて、「飛騨帯」の特徴的地層(岩石)は、古い変成岩(片麻岩)類です。片麻岩(へんまがん)とは、結晶片岩と並び、日本列島の変成岩として多く見られる変成岩で、目視的には筋状の模様が特徴的な変成岩です。結晶片岩が高圧型で、プレート沈み込み帯に関連して生成した変成岩と考えられているのに対し、片麻岩はどちらかというと高温型の変成岩です。

 「地質図」によると、「飛騨帯」の地質(岩石)は、以下の4つの種類に区分され、前期の飛騨地方北部ゾーン、剣・立山山腹ゾーン ともに、4種類の地質が分布しています。

  (1)石灰質片麻岩
  (2)苦鉄質片麻岩(注2)
  (3)珪長質片麻岩(注3)
  (4)(片麻状)花崗岩

  (注2)「苦鉄質」とは、鉄分、マグネシウム分が多い岩石のことを指し、
     英語ではマフィック(Mafic)と言います。
     例えば玄武岩、ハンレイ岩です。
  (注3)「珪長質」とは、シリカ(SiO2)成分が多い岩石のことを指します。
      例えば花崗岩、流紋岩です。

 いずれも片麻岩質の変成岩であり、そのため、これらの地層(岩石)類をまとめて、「飛騨変成帯」や、「飛騨片麻岩」とも呼びます(注4)。
 また、その変成時期は、「地質図」の記載によると全てトリアス紀
 (約2.5年前〜約2.0億年前)(注5)です。

   (注4)飛騨変成岩は、複数回の変成作用を受けたと考えられていますが、
       トリアス紀以前の変成作用の時期、回数などは不明確です。
   (注5)「トリアス紀」は日本語で「三畳紀(さんじょうき)」とも呼びます。

 なおこれ以外に、飛騨変成岩類の周辺にあるジュラ紀の花崗岩(「船津花崗岩」(注6)とも呼ばれる)も飛騨帯の地質(岩石)の構成要素とする考えもありますが、生成時期がかなり違うので、ここでは、ジュラ紀花崗岩は飛騨帯特有の地層(岩石)としては扱いません。

  (注6)「船津花崗岩」という用語はかなり以前から使われている用語で、
      飛騨地方の船津という地名から命名され、飛騨帯の古い花崗岩を
      総称して船津花崗岩と呼ばれていました。
       しかし最近の研究では、船津花崗岩類は生成時期が複数回に分かれること
      などから、「船津花崗岩」という用語自体、使われなくなって
      きています。

 これらの飛騨帯変成岩は、トリアス紀に変成作用を受けて、片麻岩化しているため、その源岩がなにか? いつ頃のものか? は定かではありません。

 飛騨帯(飛騨片麻岩)の地層(岩石)が、元々はなにであったか? どこで形成されたか? について、古くから地質学の分野では研究がなされていますが、私が調べた限り、今もって定説はないようです。
 その中で、代表的な2つの学説があります。どちらが正しいかはまだ解りませんが、どちらの説も、時空的に雄大な説ではあります。

2つの説を、次の節で述べます。
[学説1;大陸プレートの一部としての飛騨帯]
[学説1;大陸プレートの一部としての飛騨帯]

 飛騨帯の岩石類は、プレート理論による日本列島の地層(岩石)の解釈が進んだ1980年代以前より研究されており、その岩石、地層の地質学的特徴から、朝鮮半島や中国大陸の地層(岩石)との類似性が指摘されていたようです。

 つまり、もともと飛騨帯のゾーンはアジア大陸(大陸プレート)の一部であり、原生代あるいは太古代(注7)の地層(岩石)が源岩であろう。という学説です。そして、日本海拡大イベント(=大陸から日本列島が分離した)の際に、たまたま、大陸プレートの一部が大陸側と離れて、日本列島の一部に組み込まれた、という考え方です。

 (注7)原生代;約5.5億年前〜約25億年前の時代
     太古代;約25億年前〜約40億年前の時代

 一例として、文献1)の記述を引用します。
  「飛騨帯は日本最古の岩石が分布する地帯と考えられている」
  「飛騨帯の変成岩類の源岩はおそらく先カンブリア紀の大陸性基盤と、その上に乗る
   石炭紀までの陸棚的な堆積物であろうと思われる」

 他のいろいろな地質関係の書物にも同様の考え方が記載されているところを見ると、この学説は、2000年頃までは、ほぼ定説化していたようです。
 私自身も、この学説を信じていました。

 ただし、飛騨帯の地層(岩石)の年代測定を行って、先カンブリア紀時代の岩石が源岩である、というような、明確な根拠データは少ないようです。
 文献2)には「飛騨帯・・の岩石(の中に含まれるジルコン)が太古代の年代を示すことから、飛騨帯は北中国地塊に帰属することが確認された。」との記載がありますが、明確性に欠けるように思えます。
[学説2;トリアス紀の大陸間衝突帯としての飛騨帯]
[学説2;トリアス紀の大陸間衝突帯としての飛騨帯]

 この学説は、1991年、93年には提案されています。(文献3)、(文献4)
 その後、2000年以降に主流な学説となったようです。(文献5)、(文献6)

 この学説によると、中国の主要部は、北中国(中朝)地塊(注8)と、南中国(ヤンツー)地塊とが、トリアス紀(約2.5億年前〜約2.0億年前)に衝突、合体してできたものだが、その衝突合体ゾーンの東の延長部が、飛騨帯の変成岩類だ、という考えです。
 また飛騨片麻岩のうち石灰質片麻岩は、両大陸プレート間にあった海に存在した海山由来と考えられています。

  (注8)ここでの「地塊」という用語は、
     「大陸プレート」とほぼ同意語として使っています。

 北中国地塊と南中国地塊との衝突合体ゾーンは、中国では、陜西省 泰嶺(Qinling)山脈から安徽省 大別山(Dabieshan)、山東半島(Sulu area)にかけてほぼ東西に延び、その東の延長は朝鮮半島のイムジンガン帯(Imjingang area、韓国/北朝鮮国境付近)、もしくはオクチョン帯(Okcheon belt、韓国の中央部)と考えられています(文献2)。
 そしてそのさらに東の延長部が、飛騨帯の変成岩類、という考えです。

 中国大陸の形成と日本列島とが関連しているというのは、なんとも壮大な学説だと思います。

 現在のプレート理論では、北海道の一部を除く日本列島のほとんどが、海洋プレート沈み込み帯で出来たと考えられています。
 が、ヒマラヤ山脈(ユーラシアプレートとインドプレートとの衝突)や、ヨーロッパアルプス山脈(ユーラシアプレートのうち、ヨーロッパ部分と、アフリカプレートとの衝突)と同様に、日本列島の一部がプレート間衝突で形成されたという説は、魅力的な説だと思います。
(参考文献)
参考文献)
 (文献1)小澤、平、小林(文) 「西南日本の帯状地質構造はどのようにして
      できたか」科学、第55巻 p4-13 (1985)
     ・・論文集「日本列島の形成」 岩波書店 刊 (1986)に収録
 (文献2)大森、磯崎 「古生代日本と南北中国地塊間衝突帯の東方延長」
      地学雑誌、第120巻、(2011)
 (文献3)磯崎、丸山 「日本におけるプレート造山論の歴史と、日本列島の
      新しい地帯構造区分」地質雑誌、第100巻、p697-761 (1991)※
 (文献4)相馬、椚座(くぬぎざ) 「飛騨ナップの形成と中生層のテクトニクス
      ;飛騨地域の構造発達史」 地質論文集、第42巻、p1-20 (1993)
 (文献5)日本地方地質誌 第4巻「中部地方」日本地質学会
      朝倉書店刊 (2006)
 (文献6)椚座、清水、大藤「年代学から見た飛騨変成作用から日本海誕生を経て
      今日に至るまでの包括的構造発達史」 地質学雑誌、第116号
        p83-101 (2010)

      ※ なお文献3は、ネット上では本文を見れなかった。
剣岳〜毛勝三山にかけての地質図
・中央の帯状の部分が「飛騨帯」の地質が分布するゾーン

・青色;石灰質片麻岩、グラノフェルス(トリアス紀)

・濃いあずき色;苦鉄質片麻岩(トリアス紀)

・薄い朱色;珪長質片麻岩(トリアス紀)

・それらのゾーンの西側の、薄いあずき色;花崗岩(片麻状) (トリアス紀)

・くすんだ緑色;泥質片岩 (トリアス紀)

・毛勝三山山頂部を含む稜線一帯の濃いめのベージュ;花崗岩(ジュラ紀)

・山麓部の黄色、薄い黄色;溶岩類(安山岩質、デイサイト質、流紋岩質)(新第三紀 中新世)
立山中腹〜山麓部の地質図
・青色;石灰質片麻岩(トリアス紀)
  (飛騨片麻岩類)

・朱色;花崗岩(ジュラ紀)
・ミントグリーン;手取層群(白亜紀)
飛騨帯の地質の分布図
・青色;飛騨片麻岩類(飛騨帯)

・赤っぽい色;花崗岩類(いわゆる船津花崗岩類)

・グレーで横線部分;手取層群(白亜紀堆積岩)
中国でのプレート衝突と、飛騨帯との関係模式図
(左図)平面図;緑色=北中国地塊、青色=南中国地塊、赤色=衝突帯

(右図)断面図;色分けは上記と同じ

・約2.5億年前(トリアス紀/ジュラ紀境界時代)
 の想像図

※ (文献6) Fig.6 より引用
ジュラ紀における東アジアの古地理(推定図)

・青色;北中国地塊
・赤色;南中国地塊
・黒い帯状の地帯;衝突帯


(文献4) Fig.3 を引用
飛騨帯のダイアグラム(推定図)
・横軸;時間(年代、単位=Ma) 5
・縦軸;地中深さ(単位;Kb(圧力))

「飛騨帯」が衝突事件(250Ma)の後、一旦、地中深くに潜り込んで変成作用を受け、その後再び地表にでてきたことを表している。

(文献4) Fig.5 より引用
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