雲の平、鷲羽岳付近の地質図
雲の平
鷲羽岳山頂の様子
鷲羽池火口の写真
雲の平と その周辺の火山活動クロニクル
雲の平、鷲羽岳付近の溶岩類の分布図
（はじめに）
さて、2−8章から2−13章までは、三俣蓮華岳を起点に、黒部川の西側に延びる「立山山脈」（広義）の山々について、剣岳付近まで説明してきました。
ここからは、一旦、三俣蓮華岳まで戻り、黒部川の東側に延びる「後立山山脈」（広義）の山々の地質（岩石）について、南側から順に説明していきます。
まずは、日本百名山の一つでもある鷲羽岳と、その近くに広がる「雲の平」高原について説明します。
ここからは、一旦、三俣蓮華岳まで戻り、黒部川の東側に延びる「後立山山脈」（広義）の山々の地質（岩石）について、南側から順に説明していきます。
まずは、日本百名山の一つでもある鷲羽岳と、その近くに広がる「雲の平」高原について説明します。
1）雲の平 〜溶岩台地の秘められた過去〜
黒部源流の山々から望むと、雲の平は、周辺を高い山々に囲まれた標高 約2500mの高原状の地形で、秘境感が漂います。周りをぐるりと囲む黒部川源流とは、薬師沢地点からだと約600mの比高があります。
実際、裏銀座コース、折立コース、新穂高温泉コースのいずれを使っても、登山口から1日ではたどり着けず、2日目にようやくたどり着ける場所です。
北アルプスの奥まった場所に、突然に平坦な高原状の場所が広がっており、秘境、別天地の感じがする場所です。
ここを歩くと、ハイ松が多い植生の中に、岩がゴロゴロと転がっており、あたかも人が作った庭園を思わせることから、「日本庭園」、「スイス庭園」などの地名があちこちに付けられています。
この雲の平高原は、実は複雑な過去を持っています。ここでは文献1）、文献2）、文献3）の記載内容を元に、その過去を紐解きます。
雲の平の表面部分は、歩くとすぐ解りますが、溶岩でできています。この溶岩の噴出元の火山体は、祖父岳（じいだけ）（2825m）付近にあったと推定されていますが、その火山体（火口）はすでに浸食によって失われています。なお祖父岳は火山そのものではなく、雲の平と同様、失われた火山体からの溶岩流でできています。
雲の平では溶岩の厚さは最大で約250mです。産総研「シームレス地質図v2」によると溶岩は安山岩〜玄武岩質。噴出時代は、文献1）によると約10〜20万年前、文献2）によると約30万年前、と書かれてますが、文献3）にはもう少し詳しい説明があり、ここでは数回の噴火活動があり、古いものが約30万年前、雲の平表面を覆っている溶岩流は約10万年前だとのことです。
文献1）、文献3）によると、雲の平表面を覆う溶岩層の下には、砂利の層が150mほど存在します。この砂利層ができたのは、この場所に巨大な湖が存在したからだと言います。
約40万年前、黒部川 上の廊下付近に、火山が誕生しました。そのため、黒部川上流部からの流れがせき止められ、大きな湖ができました。その湖には周辺の山々から川の流れに乗って礫（砂利）がどんどん溜まった、と考えられます。
その後、せき止められていた箇所が崩壊し、湖の水は一気に激流となって黒部川中流へと流れました。その際、上の廊下付近は激流によって深く削り込まれ、現在見るように、険しいゴルジュとなった、というものです。
その時の砂利層は、文献1）によると、薬師沢から雲の平高原までの急登部の途中に露出しているそうです。
実際、裏銀座コース、折立コース、新穂高温泉コースのいずれを使っても、登山口から1日ではたどり着けず、2日目にようやくたどり着ける場所です。
北アルプスの奥まった場所に、突然に平坦な高原状の場所が広がっており、秘境、別天地の感じがする場所です。
ここを歩くと、ハイ松が多い植生の中に、岩がゴロゴロと転がっており、あたかも人が作った庭園を思わせることから、「日本庭園」、「スイス庭園」などの地名があちこちに付けられています。
この雲の平高原は、実は複雑な過去を持っています。ここでは文献1）、文献2）、文献3）の記載内容を元に、その過去を紐解きます。
雲の平の表面部分は、歩くとすぐ解りますが、溶岩でできています。この溶岩の噴出元の火山体は、祖父岳（じいだけ）（2825m）付近にあったと推定されていますが、その火山体（火口）はすでに浸食によって失われています。なお祖父岳は火山そのものではなく、雲の平と同様、失われた火山体からの溶岩流でできています。
雲の平では溶岩の厚さは最大で約250mです。産総研「シームレス地質図v2」によると溶岩は安山岩〜玄武岩質。噴出時代は、文献1）によると約10〜20万年前、文献2）によると約30万年前、と書かれてますが、文献3）にはもう少し詳しい説明があり、ここでは数回の噴火活動があり、古いものが約30万年前、雲の平表面を覆っている溶岩流は約10万年前だとのことです。
文献1）、文献3）によると、雲の平表面を覆う溶岩層の下には、砂利の層が150mほど存在します。この砂利層ができたのは、この場所に巨大な湖が存在したからだと言います。
約40万年前、黒部川 上の廊下付近に、火山が誕生しました。そのため、黒部川上流部からの流れがせき止められ、大きな湖ができました。その湖には周辺の山々から川の流れに乗って礫（砂利）がどんどん溜まった、と考えられます。
その後、せき止められていた箇所が崩壊し、湖の水は一気に激流となって黒部川中流へと流れました。その際、上の廊下付近は激流によって深く削り込まれ、現在見るように、険しいゴルジュとなった、というものです。
その時の砂利層は、文献1）によると、薬師沢から雲の平高原までの急登部の途中に露出しているそうです。
2）鷲羽岳
鷲羽岳（わしばだけ：2924m）は、三俣蓮華岳から分岐した（広義の）「後立山山脈」の最南端の峰です。稜線沿いに望むと、意外と鋭い形をしたピークで、日本百名山にも選ばれています。
雲の平にもほど近いので、なんとなく鷲羽岳も火山かと思われますが、産総研「シームレス地質図v2」によると、この山のほとんどがジュラ紀の花崗岩類（正確には花崗閃緑岩）で出来ています。この花崗岩類は、三俣蓮華岳、黒部五郎岳や黒部源流部にも分布しているものの延長です。
さて鷲羽岳に可愛いアクセントを加えているのは、鷲羽山頂のすぐ東側、小型のカール底にある「鷲羽池」です。この池は小さく丸い形状をしていて、立山の「みくりが池」と似ていますが、実際もみくりが池と同様に、火口湖です。
鷲羽池に関して文献1）、文献2）には記載がありませんが、文献4）によると、鷲羽池はやはり火口（鷲羽池火山）であり、最新の噴火は約6000年前と推定されています。また鷲羽岳周辺には、この火口から噴出した火山灰（テフラ）層や火山性豆石が確認されています。つまり鷲羽池火口は、雲の平を作った溶岩の噴出元ではなく、地質学的にはごく最近にできた火口です。
おそらくこの一帯の地下にはまだマグマが存在し、常に噴出の機会を狙っているようです。
雲の平にもほど近いので、なんとなく鷲羽岳も火山かと思われますが、産総研「シームレス地質図v2」によると、この山のほとんどがジュラ紀の花崗岩類（正確には花崗閃緑岩）で出来ています。この花崗岩類は、三俣蓮華岳、黒部五郎岳や黒部源流部にも分布しているものの延長です。
さて鷲羽岳に可愛いアクセントを加えているのは、鷲羽山頂のすぐ東側、小型のカール底にある「鷲羽池」です。この池は小さく丸い形状をしていて、立山の「みくりが池」と似ていますが、実際もみくりが池と同様に、火口湖です。
鷲羽池に関して文献1）、文献2）には記載がありませんが、文献4）によると、鷲羽池はやはり火口（鷲羽池火山）であり、最新の噴火は約6000年前と推定されています。また鷲羽岳周辺には、この火口から噴出した火山灰（テフラ）層や火山性豆石が確認されています。つまり鷲羽池火口は、雲の平を作った溶岩の噴出元ではなく、地質学的にはごく最近にできた火口です。
おそらくこの一帯の地下にはまだマグマが存在し、常に噴出の機会を狙っているようです。
（参考文献）
文献1）原山、山本 共著
「超火山 「槍・穂高」」 山と渓谷社 刊 （2003）
のうち、第2部、ステージ1章「雲の平と黒部川・高天原」の項
文献2）町田、松田、海津、小泉 編
「日本の地形 第5巻 中部」 東京大学出版会 刊 （2006）
のうち、4−4−（3）節「雲の平と周辺火山」の項
文献3）及川、原山、梅田
「飛騨山脈中央部、上廊下〜雲の平周辺の
第四紀火山岩類の K-Ar 年代」
火山（誌）、第48巻 p337-344 （2003）
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kazan/48/4/48_KJ00001053256/_pdf
文献4）FC2ブログ
「早川由紀夫の火山ブログ」より「鷲羽池」の項 （2016年 投稿）
（2020年7月閲覧）
http://kipuka.blog70.fc2.com/blog-entry-747.html
「超火山 「槍・穂高」」 山と渓谷社 刊 （2003）
のうち、第2部、ステージ1章「雲の平と黒部川・高天原」の項
文献2）町田、松田、海津、小泉 編
「日本の地形 第5巻 中部」 東京大学出版会 刊 （2006）
のうち、4−4−（3）節「雲の平と周辺火山」の項
文献3）及川、原山、梅田
「飛騨山脈中央部、上廊下〜雲の平周辺の
第四紀火山岩類の K-Ar 年代」
火山（誌）、第48巻 p337-344 （2003）
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kazan/48/4/48_KJ00001053256/_pdf
文献4）FC2ブログ
「早川由紀夫の火山ブログ」より「鷲羽池」の項 （2016年 投稿）
（2020年7月閲覧）
http://kipuka.blog70.fc2.com/blog-entry-747.html
引用文献3）
黒部川上の廊下、雲の平などの火山岩の噴出年代を、K−Ar年代法によって測定した文献（2003年)
黒部川上の廊下、雲の平などの火山岩の噴出年代を、K−Ar年代法によって測定した文献（2003年)
引用文献4）
鷲羽池（鷲羽池火口）の噴火年代を、周辺のテフラ、火山性豆石から調べたもの（2016年）
鷲羽池（鷲羽池火口）の噴火年代を、周辺のテフラ、火山性豆石から調べたもの（2016年）
このリンク先の、2−1章の文末には、第2部「北アルプス」の各章へのリンク、及び、序章（本連載の各部へのリンクあり）を付けています。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
【書記事項】
初版リリース；2020年7月18日
△改訂1；文章見直し、一部修正。
山のデータ追加。2−1章へのリンクを追加。
書記事項の項を新設、記載。
△最新改訂年月日；2022年1月14日
△改訂1；文章見直し、一部修正。
山のデータ追加。2−1章へのリンクを追加。
書記事項の項を新設、記載。
△最新改訂年月日；2022年1月14日
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※この記事はヤマレコの「ヤマノート」機能を利用して作られています。
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bergheilさんこんにちは。
日本の山々の地質：ヤマノートを読み進めてやっと雲ノ平にたどり着きました。
本文中にも記されていますように「２日掛けてやっとたどり着ける秘境、それが雲ノ平」このフレーズが山に登る人を引きつけます。
私の場合は森村誠一氏の「青春の源流�機銑検С兩酳幻法廚鯑匹漾△修良饌罎箸覆襪里�まさしく雲ノ平から高天原温泉ということで知りました。
それ以来訪ねてみたいと思いつつも、２０代の初めに数回行ったきりの北アルプスでしたので、体力的な不安がつきまとい、なかなか実行に移すことは出来ませんでした。しかし４年前、新穂高温泉から折立へ抜けるコースでやっと実現することが出来ました。
このヤマノートに記されている地質解説を読むと、ありありと現地の風景が蘇ってきます。ありがとうございました。
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