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更新日:2022年05月15日 訪問者数:1351
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第12部 九州地方の山々の地質、12−8章 祖母・傾山群、大崩山群の地質と地形
ベルクハイル
祖母山の稜線部の岩峰群
祖母山は古い火山岩でできており、深い森と、そこから飛び出た岩峰が特徴の 険しい山容をしている

(筆者撮影)
傾山を望む
傾山は祖母山と同じく古い火山岩で形成され、険しい山容

(筆者撮影)
大崩山群 こずめダキ岩峰側面
花崗岩でできた巨大な岩壁となっている

(筆者撮影)
大崩山群 わく塚岩峰群
花崗岩でできた岩峰群が並ぶ険しい尾根が続く。

なお、遠景(写真左手)の頂上付近の地質は泥岩であり、花崗岩岩峰群と対照的な、なだらかな山容となっている

(筆者撮影)
図1 祖母・傾山群の広域地質図(火山岩類)
・赤い▲は、左側が祖母山、右側が傾山
・黒い線は、祖母ー傾主稜線

・赤い線で囲った2つの領域(薄目の黄色);
 デイサイト/流紋岩質火山岩
・紫色の線(複数)とそれに囲われた細長いオレンジ色部;「コールドロン」を示す環状岩脈(リングダイク)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成
図2 祖母・傾山群の地質図(2)「黒瀬川帯」系
・赤い▲印は、左側が祖母山、右側が傾山

〇中央部の、緑色の線で囲った部分が「黒瀬川帯」系の地質分布領域
 ・グレー各種;メランジュ相付加体(ペルム紀、ジュラ紀)、泥質片岩(トリアス紀〜ジュラ紀変成);(色の区分が微妙で解りにくし)
 ・赤紫色;花崗岩(オルドビス紀〜シルル紀)
 ・青紫色;蛇紋岩

(中新世の火成岩地質部分は、図1を参照ください)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成 
図3 大崩山群の広域地質図
・中央の赤い▲印は、大崩山
・左上の赤い△印は、祖母山、傾山

〇大崩山を中心とした緑色の線で囲った部分;
 (ピンク色、朱色;大崩花崗岩体;中新世)
〇大きく紫色の線で表示した部分;
  コールドロン構造を示す環状岩脈(リングダイク;デイサイト/流紋岩質;中新世)
〇赤い線で囲った部分;デイサイト/流紋岩質火山岩;中新世)

●それ以外の、右上から左下走向(北東ー南西走向)の黄色、水色などの部分;砂岩、泥岩など(白亜紀付加体;四万十帯)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成
図4 大崩山岩峰群付近の地形と地質との関係
〇地形関係
・緑色の線(あちこち);地形図で示された崖マーク
・青い▲印は、中央が「小積ダキ」(岩峰)、上部の2つは「ワク塚」(岩峰群)

〇地質関係
 ・ピンク色;花崗岩ゾーン
 ・水色;泥岩ゾーン

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成  
図5 比叡山(大崩山群)付近の地形と地質との関係
〇地形関係;
・赤い▲印は、右手が比叡山、左手が矢筈岳
・(2つの山の周辺の)緑色の線;地形図で示された崖マーク

〇地質関係;
 ・オレンジ色;デイサイト/流紋岩質貫入岩(大崩コールドロンの環状岩脈(リングダイク))
 
 ・水色;泥岩(白亜紀付加体)
 ・ミントグリーン;砂泥互層(白亜紀付加体)
 ・黄色;砂泥互層(白亜紀付加体)
 ・緑色;玄武岩(白亜紀付加体)
 (リングダイクを挟んで、ズレが生じている)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成
(はじめに)
 この章では九州山地のうち、登山対象としても人気が高く、また地質学的にも興味深い、祖母・傾(そぼ・かたむき)山群、及び大崩(おおくえ)山群の地質と地形について説明します。

 九州の山々は、前章までで述べた通り、開放的な感じが強い火山性の山々が多く、それが九州の山の魅力ともなっていますが、それらの山々の一部は観光地化されてしまっているのは、残念な点です。一方で、観光地化されていなく、山深い感じの山は少数派です。

 ここで説明する祖母・傾山群および大崩山群は、九州の山としては山深く、自然林も多く、加えて岩っぽい山であり、登りごたえがある山群です。

 このうち祖母山は、古くは九州最高峰と考えられていた時代があり、あのウエストンも登った山です(文献6)。また百名山の一つでもあります。

 傾山(かたむきやま)は、祖母山から続く稜線の東端にある岩山であり、祖母〜傾の稜線は、九州では数少ない、本格的な縦走が楽しめるルートです。

 また大崩山群は全国的な知名度はやや低いのですが、花崗岩でできた巨大な岩峰群が特徴的な山です。
1)祖母・傾山群の火山性地質領域
 祖母山(そぼさん:1756m)と傾山(かたむきやま;1605m)は、一塊の山群を作っており、前述のとおりこの2つの峰の間は、1400−1600m級の山々が連なる稜線(縦走路)となっています。
  祖母山の山頂近辺、傾山の山頂近辺、縦走路の一部、及び祖母山から東北に延びる障子尾根には岩峰や岩壁があり、割と険しい山容です。

 これらの岩峰、岩壁を形成している岩石は火山岩であり、祖母・傾山群は、実はかなり古い時代の火山の跡です。
 以下、(文献1−a)、(文献1−b)、(文献2)をベースに、祖母・傾山群のうち火山性地質領域の成り立ちを説明します。(図1もご参照ください)
 なお祖母・傾山群には、古生代〜中生代にかけての、非火山性地質も分布していますが、その領域については、本章の第3節で説明します。


 まず話は、「日本海拡大/日本列島移動イベント」が起きた、約20―15Maに遡ります。

 この「イベント」により、祖母・傾山群を含む九州本土(広く言えば「西南日本」全体)は南の方向へと移動し、そこにあったフィリピン海プレートの上に、強制的に乗り上げた形となりました(約15Ma)。フィリピン海プレートは当時、まだ形成されてから時間(地質学的な意味での時間)がさほど経っておらず、まだ比較的熱い状態だったと推定されています。
 詳細なメカニズムは不明ですが、その乗り上げの後、西南日本弧の下敷きとなったフィリピン海プレートもしくはその下でマグマが形成され、15Ma〜13Maにかけ、西南日本外帯の一帯では、あちこちで火山活動が生じました。
(なおこの、中新世における西南日本外帯での火成活動に関しては、多数の文献、書籍で説明されていますが、例として(文献3)、(文献4)を挙げておきます)

 祖母・傾山群も、その頃に形成された火山です(文献1−a)、(文献1−b)。

 この頃に活動した「西南日本外帯」の火山群としては、近畿地方のうち室生地域の火山岩分布域、四国東部(香川県)の溶岩台地群、四国西部の石鎚山とその周辺などが良く知られています。
 また別章で詳しく説明しますが、屋久島も、この時期に地下で形成されたマグマ溜り由来の巨大な花崗岩体でできています。

 祖母・傾山群と、南に隣接する大崩山群は、当時、合計3つのカルデラ式火山が形成されたと推定されており、それぞれ「祖母山コールドロン」、「傾山コールドロン」、「大崩山コールドロン」(注1)と呼ばれます(文献1−b)。

(文献1−b)では、これら3つの火山群の活動の順序や活動様式について、複数の学説が紹介されており、活動史は明確ではありませんが、いずれにしろ、大規模火砕流を伴う3つの大きなカルデラ式火山ができたことは間違いありません。

 産総研「シームレス地質図v2」を確認すると(図1を参照ください)、祖母山については、南東部、東部に、部分的ではありますが環状の貫入岩(デイサイト/流紋岩質)が分布しており、これが「祖母コールドロン」の痕跡と思われます。
 また傾山については、山体の東部に南北走向の貫入岩(デイサイト/流紋岩質)が分布しており、これが「傾山コールドロン」の痕跡と思われます。
(大崩山付近(大崩コールドロン)については、次の節で改めて述べます)。
 それらの火山岩、花崗岩の年代測定により、この火成活動は、14−12Maの活動だと推定されています。

 産総研「シームレス地質図v2」を細かく確認すると、祖母山を中心とした火山岩分布域と、傾山を中心とした火山岩分布域の2つが確認されます。岩質としてはどちらもデイサイト/流紋岩質の火山岩であり、おそらく上記の大規模火砕流で噴出したものと思われます。
 また、さらに細かく確認すると、祖母山の南東側山麓にはわずかながら、深成岩(花崗岩類)が分布しています。火山噴出の元となったマグマ溜り由来の深成岩と思われます。
 前述のとおり、それぞれのコールドロンの証拠となる環状岩脈も、この地質図上で確認されます。

※ “Ma”は百万年前を意味する単位
(注1) 「コールドロン」について
「コールドロン」(Cauldron, Caldron)とは、
地学事典(文献5)の説明では、
「「カルデラおよび火山構造性陥没地」もしくは「円形の陥没地形または円筒状の陥没構造」
を意味する」 とされています。

  一般的には、古いカルデラ式火山の跡を示すと考えられる地質構造(全般)として使われている地質学的用語です。

その地質構造としては、内側を火山岩(and/or 深成岩)で充填された円形状の構造、内側が非火山性地質である環状(リング状)の火山岩の岩脈(「環状岩脈」(Ring dike)と呼び、リングは、閉じてないものも含む)、さらには重力測定による円形状の負の重力異常地域もコールドロンと呼ぶことがあり、専門書でも文献でも、この用語の使い方は、微妙に違う場合があります。
2)大崩山群の地質と地形
大崩(おおくえ)山群は、祖母・傾山群の南側にある山群で、最高峰は大崩山(おおくえやま:1644m)ですが、それ以外にも1400−1600m級の山々が多数あり、一つの山群を形成しています。

  大崩山群の魅力は、山群の中に林立している巨大な花崗岩の岩峰群や岩壁です。例えば「小積(こずめ)ダキ」、「わく塚」などと呼ばれる岩峰は、深い自然林の森のなかから驚くほどの大きさで屹立(きつりつ)しており、奇景というイメージがぴったりです。
 またこの山群の奥へと入り込んでいる祝子川(ほうりがわ)とその支流部は、美しい渓谷として知られており、特に「三里河原」一帯では、沢歩きが楽しめます。

  さてこの大崩山群の地質とその成り立ちですが、前の節でも述べたように祖母・傾山群と同じく、新第三紀 中新世(約14−12Ma)に活動したカルデラ式火山の跡と考えられており、「大崩山コールドロン」と呼ばれています(文献1−a)、(文献1−b)、(文献2)。
  
  大崩山群の具体的な地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると(図3もご参照ください)、地表に噴出した火山岩はあまり分布しておらず、地下のマグマ溜り由来と考えられる花崗岩が広く分布しています。
 この花崗岩体が浸食を受けて、上記のような岩峰群、岩壁を形成しています。

 なお深成岩類(花崗岩、貫入岩類)の分布域は、大崩山群の中心部にあるだけではなく、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山群中心部から10−20km離れた場所に、東西 約25km、南北 約15kmの楕円形状のリング(環状岩脈)が認められます(図3もご参照ください)。岩質はデイサイト/流紋岩質の貫入岩と説明されていますが、ざっくり言えば、花崗岩に近い岩石です。
 (文献1−b)によると、「大崩山コールドロン」火山の長期間の活動のうち、この環状岩脈部分をカルデラ縁として内部一体が陥没するとともに、その部分に地下からマグマが上昇(貫入)して形成された岩脈です。
 前述の通り、祖母・傾山群のほうにも部分的に環状岩脈がありますが、この大崩山群ではこの明瞭な環状岩脈が、カルデラ式火山であったことを示す地質学的証拠と言えます。

 この環状岩脈ゾーンのうち、大崩山群の南側にあたる領域には、比叡山(ひえいざん:760m)、矢筈岳(やはずだけ:666m)、行縢山(むかばきやま;830m)といった山があります。
標高は低いものの、いずれも花崗岩質(正確にはデイサイト/流紋岩質の貫入岩)でできた険しい岩山であり(図5もご参照ください)、九州を代表するロッククライミングのメッカとして知られている山々です。

 さて大崩山群における地形と地質との関係を、産総研「シームレス地質図v2」を参照しつつ見てみると(図4もご参照ください)、岩峰群、岩壁が多いのは花崗岩の分布域です。一方、最高峰の大崩山山頂付近は、登ってみるとどこが山頂かわからないほどなだらかな山容ですが、地質を見ると花崗岩ではなく、付加体型の泥岩(白亜紀/四万十帯)が分布しています。
 花崗岩と泥岩との浸食に対する抵抗力の差異が、地形に反映されているようです(この段落は私見を含みます)。

  また、この山群の北部に地質境界があり、それより北側にある五葉岳(ごようだけ;1570m)あたりは、ジュラ紀付加体である「秩父帯」の地質(メランジュ相、チャート、石灰岩)が分布しています。この付近も地形的には、大崩山群の中心部のような岩山っぽくはなく、やはり地質と地形との対応関係を示しているようです。
3)祖母・傾山群の、非火山性地質領域
 産総研「シームレス地質図v2」を確認すると、祖母・傾山群のうち、それらの山々にまわりを囲まれた盆地状となっている尾平(おびら)地区や、稜線部の一部には、中新世の火山岩ではなく、堆積岩や変成岩などが分布しています。
 これらの地質は、祖母・傾山群がカルデラ式火山として活動した時代(新第三紀 中新世の中ごろ;約0.14−0.12億年前)より大幅に古い時代(古生代のオルドビス紀〜中生代の白亜紀;約5〜0.7億年前)の地質です。

 産総研「シームレス地質図v2」で細かく確認すると、以下の地質体がごちゃごちゃと分布しています。
  (1)古生代前期の花崗岩(オルドビス紀〜シルル紀;約5〜4億年前)
  (2)古生代前期の非付加体型泥岩
    (オルドビス紀〜デボン紀;約4.6〜3.9億年前)
  (3)古生代末、ペルム紀の付加体型地質(メランジュ相;約2.7−2.5億年前)
  (4)中生代、トリアス〜ジュラ紀の高圧型変成岩
    (主に泥質片岩で一部は苦鉄質片岩、変成年代は約2.5−1.5億年前)
  (5)中生代、白亜紀の非付加体型泥岩(約1.5〜1.2億年前)
  (6)蛇紋岩(マントル由来の超苦鉄質岩)

 祖母・傾山群のうち中新世の火山岩との関係は、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、断層関係ではなく、これら古い地質体の構造的上位に、中新世の火山岩が乗っかっているようです
(但し、祖母山南東部山麓との境界の一部は、祖母コールドロンが形成された際の貫入岩が線状に分布して、境界となっている)。

 12−4章でも少し触れましたが、この一帯の基盤地質の大部分は、ジュラ紀付加体である「秩父帯」や、白亜紀付加体である「四万十帯」の地質です。
 が、九州では「秩父帯」の地質ゾーンに重なるように(あるいは「秩父帯」の北側に)、これらの古い地質体が分布しています。これらの地質体はまとめて「黒瀬川帯」(「黒瀬川構造帯」とも呼ぶ)という「地帯」に属するとされています(文献1−c)、(文献1−d)、(文献1−e)。
 ただし、上記構成要素のうちどこまでを「黒瀬川帯」に含むとするか? には諸説あり、明確ではありません(文献1−c)、(文献1−d)。

 「黒瀬川帯」については、この「日本の山々の地質」連載のうち、「四国地方の山々の地質」の部で詳細説明(予定)なのでこれ以上詳しくは触れませんが、日本列島に分布する各「地帯」のなかでも、中部地方にある「飛騨外縁帯」(ひだがいえんたい)とともに、謎の多い「地帯」です。
 この領域は、九州では比較的少ない、古生代の地質体がまとまって分布しており、かつ場所的に観察も容易のようなので、個人的には興味深いと思います。
(参考文献)
文献1) 日本地質学会 編
   「日本地方地質誌 第8巻 九州・沖縄地方」 朝倉書店 刊 (2010)

   文献1−a)  文献1)のうち、
     1−5−3節「九州・沖縄の新生界テクトニクスプロセス」の、
      1−5−3−b)項 「新第三紀 中新世」の項

   文献1−b) 文献1)のうち、
     6−4−2−a)項 「大崩山 火山深成複合岩体」の項

   文献1−c) 文献1)のうち、
     4−1章「(九州地方の)中・古生界;概説」の項、
     4−1−1節「(九州地方の)中古生界の分布・構造の概略」の項、及び
     4−2−2節「黒瀬川帯のペルム紀付加体」の項、

   文献1−d) 文献1)のうち、
     7−5−1節「黒瀬川帯の変成岩類」及び、
       図7.5.1 「九州黒瀬川帯の地帯構造区分」
 
   文献1−e) 文献1)のうち、
     6−2章 「(九州地方の)古生代深成岩」の、
      6−2−1節 「古生代黒瀬川帯」の項、
      6−2−1−c)項 「緒方南部地区」の項、及び
       図6.2.1 「九州中軸部の黒瀬川構造帯の分布図」


 文献2) 町田、太田、河名、森脇、長岡 編
   「日本の地形 第7巻 九州・南西諸島」 東京大学出版会 刊 (2001)
      のうち、
     3−3―3節 「九州山地の隆起」の項、及び
           「大崩山火山深成複合岩体」の項


 文献3) 日本地質学会 編
    「日本地方地質誌 第5巻 近畿地方」 朝倉書店 刊 (2009)のうち、
      2−3章「始新世〜中新世の構造発達史」の、
       2―3−4節 「前弧域の火成弧化と島弧発達史」の項


 文献4)小泉 著
    「日本の山ができるまで」 アイエンドエフ社 刊 (2020)のうち、
      第15章「1400万年前の火成活動でできた山々」の項


 文献5) 地学団体研究会 編
    「新版 地学事典」 共立出版 刊 (1996)のうち、
     「コールドロン」の項

 文献6) 深田 著
    「日本百名山」 新潮文庫版 (1983)のうち、
      「祖母山」の項
【書記事項】
・初版リリース;2022年5月15日
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