鳥海山【日本百名山】


- GPS
- --:--
- 距離
- 17.5km
- 登り
- 1,627m
- 下り
- 1,609m
コースタイム
- 山行
- 6:31
- 休憩
- 1:04
- 合計
- 7:35
前回きた時はまだ登山装備もなく、ハイキング感覚で山を歩いていた。
数時間登って「御浜神社」に着いたら、もう登頂したかのような気になりそのまま下山した。今でこそ、そんなものでは満足できなくなってしまったが、あの時はそれでも一日タップリ歩いた気になっていた。
そして何より、稜線上の情景、夏の山の気候、匂い、そこで食べたお昼ご飯などが後々までやけに記憶に残った。そのせいかまた夏がくると、山に行きたくなった。そんな積み重ねが私を山好きにし、同時に俗世から遠ざける一因となったのだと今になって思う。
今回のルートは象潟口の「鉾立(ほこたて)」から「御浜(おはま)神社」を通り、「七五三掛(しめかけ)」を基点に「七高山(しちこうさん)」と最高峰「新山(しんざん)」を踏み「鉾立」まで戻るというもの。コースタイムで7〜8時間といった所だが、決して難しいルートではない。実際はもっと短時間で回れるハズだ。
天候 | 雲量はあったが概ね良好 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2017年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
千蛇谷に雪渓。アイゼンの必要はなし。 |
その他周辺情報 | 本山行の詳細はブログでイラスト付きでご覧いただけます。 http://takaman.teketen.daa.jp/?eid=24 |
写真
装備
個人装備 |
長袖シャツ
Tシャツ
ズボン
靴下
グローブ
雨具
ザック
昼ご飯
行動食
飲料
地図(地形図)
ヘッドランプ
日焼け止め
携帯
サングラス
カメラ
テント携行(縦走シミュレーションのため)
|
---|---|
備考 | 千蛇谷を下山中、キャップ上のオークリーを吹き飛ばして失くす。七五三掛直下から9合目の御室小屋まで捜索のために登り返すことに。 |
感想
9時45分、象潟口から山行開始。
登りの石段が続く。暫くすると稜線が顔を見せた。
この日見た稜線からの景色は、10年前と変わらず美しかった。
30分過ぎた辺りで「賽の河原」を通過。途中で雪解け水の小川を見つける。
標高が上がり気温は下がっているが、登りと照りつける太陽により体温は上昇している。サングラスを外し、冷水で顔を洗う。濡れた肌に吹き付ける風が心地良い。
スタートから1時間で前方に鳥居が見えた。最初のチェックポイント「御浜神社」だ。昔と違い、違い随分あっさりと着いてしまった。
以前はここが折り返し地点だったが、今回はまだまだこれから。まずは岩に腰掛け小休止をとる。辺りには多くの登山客がいる。
休憩を終え、火口湖の外輪に沿って先に進む。登山道の脇には多くの高山植物が咲き乱れる。何度かアップダウンを繰り返した後、本格的な登りが始まった。
立ち止まって深呼吸をする。湿度を含んだ暖かい風が体内を通り抜けるが、街中と違い寧ろ心地良い。
御浜神社から30分で「七五三掛(しめかけ)」に到着。ここから道は二手に別れる。谷沿いに山頂にアプローチする「千蛇谷(せんじゃだに)ルートと、稜線上から山頂にアクセスできる「外輪山ルート」だ。私は右手の外輪山ルートで反時計回りに山頂を目指す。
稜線上を歩く。左手には最高峰「新山」、少し奥にもう一つのピークの「七高山」が見える。右手には日本海が広がっているはずだが、雲に覆われ視界はない。それでも稜線歩きは楽しい。樹林帯の少なさと、稜線歩きが多い「鉾立ルート」は私の趣向にマッチしている。ここまできたのは初めてだが、「このルート好きだなぁ・・・」と、しみじみ思った。
稜線は左に湾曲していき、「文珠岳」を通過する。
その後、小屋と七高山への分岐に行き当たる。まず七高山を落としてからここまで戻り、新山にアタックする事に。両ピーク共もう目と鼻の先だ。
数分で七高山の山頂に到達した。ここで少し休憩。
サーモスを取り出す。サンドイッチを食べながら、朝家で淹れてきたホットコーヒーを飲む。山、ご飯、コーヒー…最高の組み合わせだ。
小休止後、分岐まで戻る。
斜面を下り、残雪を渡ってから登り返す。登った先には御室小屋。
山頂へと岩稜帯が聳える。バックパックをデポしてもいいが、トレーニングも兼ねてそのまま山頂へアタックした。
取り付きから15分で鳥海山最高地点の「新山」山頂に到達。
周囲を見回すと、北の方角に「男鹿半島」や「寒風山」が見えた。山頂からは秋田沿岸部の特徴が良く分かる。
山頂から10分で9合目の山小屋まで降りてきた。
周りを峰々に囲まれていて、何となく火口に建つ隠れ家みたいだ。天気のいい時はここで一泊して御来光を見るのも良さそう。
駆け足で坂を下る。下山は「千蛇谷」を通り「七五三掛」まで戻るルートだ。
脚をフル回転させ駆け下りると、汗が吹き出し身体がヒートしてきた。
道中で雪渓を何度か通る。その度にクラストした氷を手に取り、顔と髪と首筋に擦り当てて冷やす。最後にもう一掴みしキャップの中に突っ込む。これでオーバーヒートせず進むことができる。
「七五三掛」直下まできた。
目の前の雪渓を渡り、急斜面を少し登れば分岐だ。例によって氷でクールダウンし、一息つく。9合目の御室小屋からここまで30分。中々いいタイムだ。
「さて、スタート」と雪渓を歩き始めるが、半分程進んだ所で違和感を感じる。
その違和感の元に引き寄せられるかのように手を頭に伸ばす。指先が濡れたキャップにゴツンと触れる。
「オークリーがない!」
キャップに乗せていたはずのサングラスがそこにはなかった。
その時、脳裏にある光景が浮かぶ。
雪渓上でキャップを脱ぎ、首から上を氷まみれにしている自分の姿だ。
「あの時か…!」
一も二もなく雪渓を引き返す。ここまで山行時間は約5時間。
最後にオークリーを確認したのは9合目の御室小屋。そこまでの雪渓は3箇所。
水も食糧も尽きかけ、後は登山口に戻るだけのはずだった。そこから最悪、9合目付近まで再登攀しなくてはならないとは…
登り始めてから1時間後…山頂御室小屋の前で立ち尽くす。
「終わった・・・」
3箇所あった雪渓で見つけられなかった時点で半ば諦めていたが、とうとうここまできてしまった。
これからまた引き返す。確かに最初と同じ視点で下り直せば、見つかる可能性は上がるかもしれない。だが、気持ちは既に諦めていた。
「これはもう見つからないパターンだ」
帰りの時間が迫っている。
疲れきっていたが、下りを前回同様30分掛けて疾走する。
ポラライズド加工されたオークリーのレンズは、「あわよくば…」という最後の希望の光を反射する事はなかった。
16時半、御浜小屋まで戻ってきた。この時点で山行開始から約7時間。
後は駐車場まで下り一辺倒。元気な状態なら30分あれば降りられるだろう。だがもう走り続ける事が出来ない。そして妙に息切れする。
脚の疲労もそうだが、身体が明らかに脱水症状の兆候をみせている。数十メートル走っては脚の力が抜け、立ち止まってしまう。歯を食いしばって何度も走り直すが、遂には脚が痙攣しだし、崩れ落ちてしまう。
運動しててこんな風になるのは初めてで、ショックを受ける。サングラスを失くした上に、鳥海山の登山道で行き倒れるとは何とも惨め…
まさに「泣きっ面に蜂」だ。
よろめきながら往路で休んだ小川に辿り着き、ボトルで清流を汲み上げ一気に飲み干す。すると脚の震えがおさまり、倦怠感が薄れていく。
やはり人は水なくして動けないのだ。雪渓には苦い思いが残ったが、雪解け水には助けられた。死に体を何とか蘇らせることができた。
動けるようにはなったが、それでも身体が重たい。
下方に駐車場が見えてきた。
強い西日が日本海に反射し、目に飛び込んでくる。残り1kmが遠い。
17時20分、御浜神社から50分で象潟口の駐車場に戻ってきた。
標高2,236mの出羽富士は美しくも、苦い教訓を残した。
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