小川山から信州峠へ〜不遇の甲信国境をたどって初登り〜


- GPS
- 13:05
- 距離
- 23.8km
- 登り
- 1,624m
- 下り
- 1,638m
コースタイム
天候 | 1/3-1/4 快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年01月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
東伏見=吉祥寺=調布IC=[中央道]=須玉IC=信州峠P ■復路(1/4) 信州峠P=増富の湯(日帰り湯)=須玉IC=[中央道]=調布IC=東伏見 |
コース状況/ 危険箇所等 |
■コース状況は<行動記録>を参照。 ■水平距離:23.9km/累積標高1592m ■装備 ・防寒対策はしっかりと。 ・チェーンスパイクは持参したが使用せず。ヘルメットは持参せずだが毛帽子などがもっていかれることを考えると通行の円滑性のために持参してもいいかもしれない。 ・ヤブではザックが引っかかったり、毛帽子や手袋、メガネを枝に持っていかれたりといった有りがちなトラブルには十分に遭遇。 |
その他周辺情報 | ■信州峠 ・10台ほどの駐車スペースが山梨県側にある。今回は貸し切り。帰ってきたら山梨ナンバーの車がもう一台。 ・峠への道路状況は要事前確認。(特に南岸低気圧が通過するようになる2月後半〜3月はかなりの積雪がある)山梨県・長野県(川上村は県からの情報をHPにUpしているが、親切に教えてくれる) ・今回、雪は一切なかったが日蔭は氷化している区間があった。スタッドレスを履いていったが、ノーマルでも問題はなさそう。しかし油断は禁物だろう。 ■富士見平小屋 http://www.fujimidairagoya.jp/index.html ・1泊夕食:9000円/人(一泊2食;10000円/人) ・昔ながらの奥秩父の素朴なランプの小屋。小屋主やスタッフは親切で、登山者への見る目は温かい。鹿肉のソーセージや鹿肉のシチューと地元で評判のパンのご機嫌の夕食を振る舞ってくれた。過去の空白期間を埋めて百名山を擁する山小屋として評判を呼びつつあるようだ。小屋の利益だけを考える小屋が多い昨今、貴重な存在と思う。 ■日帰り湯 増富の湯 https://www.masutominoyu.com/#cont73 ・820円/人(北杜市民以外) ・数種類の泉温の浴槽があるご機嫌の鉄泉にしてラジウム温泉。従業員の対応も良い。地元の人の話では経営問題から閉館する噂もあるらしいが、これまで増富温泉が登山客の日帰り湯を敬遠してきたことを考えると、この温泉の存在は貴重。今後もぜひ継続して欲しいと思う。 |
写真
装備
個人装備 |
ヒートテック2枚
毛長袖
フリース
ウルトラライトダウン
雨具上
ヒートテック下
冬パンツ
雨具下
毛手袋
毛帽子
ネックウォーマー
毛靴下
冬山登山靴チェーンスパイク(使わなかった)
ストック2本
GPS
紙地形図
充電バッテリー
一眼レフカメラ
望遠
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共同装備 |
なし
|
感想
<行動記録>
奥多摩から登山道をたどってくると、小川山頂上でそれは終わる。
しかし分水嶺は西に延び八ヶ岳へと繋がっている。
地図を眺めながら、いつかこの甲信国境をたどりたいと思っていた。
「山と高原地図」にはルートの記載はない。単独でロングのヤブ漕ぎにはなかなか食指が動かなかったが、ヤマレコではちらほらここのレコを見かけるようになった。 シャクナゲが折り紙のように葉を閉じている年末年始はヤブ漕ぎも軽くなり、また深い積雪に登高を邪魔されることもない。
問題は日の短さだったが、富士見平小屋に一泊することで、翌日一日をフルに使うプランとすることもできる。
思い切って重い腰を上げることにした。
信州峠からダイレクトに小川山に登ることも考えたが、ヤブ漕ぎルートをきつい登りにとり積雪状態によっては富士見平小屋にたどりつけないことも考慮し逆コースとした。ルートは思ったより厳しく、結果として正解だったと思う。
■第1日(1/3)
吉祥寺で購入した携帯バッテリー導線が断線しており交換のため遅い東京発となる。箱根駅伝をラジオで聴きながら信州峠へと急ぐ。創部初優勝の東海大、往路6位に沈んだ青学が準優勝、13位あたりで健闘した古豪明大は10区で残念な結果。いつもの年の悲喜こもごもの箱根駅伝だ。
信州峠。誰もいない。ひとりクルマのエンジンを停め、ひとり準備をして歩きはじめる。箱根駅伝と大違いだがこれが自分でやる”一人の駅伝”でもある。ときおりクルマが通過するが登山者でなく山梨ナンバー。地元の人の初春の往来だろう。
夕陽に焼ける瑞牆山の鋸歯が何とも素晴らしい。瑞牆山荘前からは登山道を歩き、富士見平小屋に入ったのが夕暮れ直前。宿泊者は大阪から来られた方と2人。夜は小屋主やスタッフさんと歓談。温度は相当下がったが、心豊かな一泊となった。
■第2日(1/4)
・05:00 富士見平小屋発
朝食は食べず、真っ暗な中を朝5時に出た。星が降っている。「星降る街角」という唄があるが「星降る小屋角」は初めて。本日の晴天を予想させてくれる。20分ほどで八丁平への分岐を右にとる。しばしで凍結した沢を渡り、また渡り返す。真っ暗な中の平坦な地形ではテープがとても役に立つ。地図より長く感じる道のりで八丁平指導標。そこからは良い道になりカリカリ登る。途中から雪が旺盛になり踏み締めながらの登高。やがて天地の開闢のように夜が明ける。身が引き締まる荘厳さだ。
・06:50 2240m(主稜線が瑞牆山支尾根を派生するピーク直前の露岩)休憩
積雪の縦走路をたどると樹林中の左上がぽっこり開けている。上がると2240mの露岩。外界の様子は雲ひとつない快晴。静けさが支配している。眼前に金峰山。遠くに南アが真っ白だ。八ツが朝陽に輝く。ザックに着けたスポーツドリンクが凍っているのを見る新春の山である。7:00発。
・08:20 小川山着
いつしか真っ白なトレースとなり廻り目平よりのルートで少し増えたトレースをたどり小川山頂上。小屋のオヤジから「4時間だな」と言われたが、9時前に着いた。頂上は10~15cmほどの積雪。三角点も白い綿帽子を被っている。山名の標柱がある他はシャクナゲの擁壁に囲まれる頂上。一体何が面白くてこのピークに来るんだという論評は100%agree!というくらい地味だ。ずいぶん前に廻り目平よりここに来たこともあったが、その時よりも随分と狭い印象だ。小屋でもらったフランスパンを喰いながら今後の道程を占う。本当の登山はこれからだ。進む西南西の方向にはロープが張ってあり「やめろ遭難するぞ」と囁いてくる。「西尾根のお誘いだよ」と呟く。8:40発。
・9:25 2280m等高線ベロ上の露岩通過
小川山頂直下左手の露岩に引き込まれ西南西に進むべきところ南西に下り、早速ひどいヤブにトラップされる。これまでと段違いに遅いペース。フミアトかと思うとヤブ、ヤブを抜けるとまたフミアトかと何度も騙される状況がしばらく続き、まるでツンデレの女性と話すような下降が続く。標高2360mまででようやく尾根上に戻り(地図のログにそれが現れている)、フミアトが続くことをこの時点で確信した。そこまでヤブの中をさまよい歩き無駄な時間を費やしたような気もする。
この西尾根は信州峠まで結論としてはフミアトがあると言っていいと思われる。(頂上付近は上記により不明)だが数多くの倒木やシャクナゲなど頑強な灌木の成長でそれが妨げられ縦走者を惑わす状況となっている。2280mの平坦地に行くまでに3か所のテープと2ヶ所ほどの境界見出標を確認できた。ちなみに2280mの平坦地上には写真のような顕著な露岩があっていい目印となっている。
・10:20 ・2101/・2171鞍部岩峰で休憩
2280m露岩を過ぎると尾根が広くなりオリエンテーションが極めて取りにくくなる。GPSが活躍するが、低温でGPSが機能しなくなると大問題で、iーPADを脇で温めながら5分歩いては現在地点を確認する状況。鬱蒼とした樹林帯で見通しが効かず、大木の倒木が多く、フミアトを辿っていたとしてもそれを迂回しているうちにフミアトを失うこともしばしば。ログにある2210mの”彷徨い”もそんな理由で起きた。
2190m圏内ベロ上にも小さな岩峰あり。左側から巻く。独立標高点・2171あたりは写真のような倒木の嵐。インディージョーンズの映画のように倒木の海をみて俺はどうしたらいいのか?!という気分に襲われる。・2171は直進に注意。・2101との鞍部あたりに到着すると地図には現れない小岩峰が現れ、そこで自分を鬱蒼の世界からシャバに出してくれた。下ってきた尾根や白い浅間山などが望め初めて来て良かったと思えた。 10:25発
・11:00 松ネッコ着
先は長いが、小川山の難しい部分を下りきったと考え昼食を取ることにした。頂上には初めての指導標。小川山とここの間には指導標等はない。考えてみればおかしなものだ。一般道なのか?バリルートなのか?
ヤマレコマップにはこの松ネッコを南側で巻くトレースもあるが、地形を見る限り悪くないと思う。松ネッコというイモピークに拘らないのならそのルート採りもあり。ただし倒木状況等歩きやすさは不明だ。このピーク北方に大双里(△2102.4)があってそこを往復してくる登山者もいるようだ。自分は松ネッコ(2110m圏内)より低い三角点ピークに食指が動かずパス。標高は高く風が吹くと寒い。11:30発。
・12:35 ・1915露岩通過
松ネッコからはV字型に折り返す。直下は倒木の嵐。早くにフミアトを失う。南よりの進みやすい斜面を下り、そののち右よりにフミアトを拾うようにしたらよいだろう。下りきった2030m圏内でうっかり直進し2040m圏内のアメーバ等高線の南尾根に誘いこまれどうも変だと思って戻る。こまめなGPSチエックが肝要だ。フミアトは西北西に向かい、標高2000mちょうどの等高線に露岩が乗る。このあたりフミアトは明確でフミアトを失うようなら進行方向は正しくないと考えてよい。相変わらず尾根は広く、5分おきのGPSだ。・1915にも大きな露岩があり直進を誘われるトラップであり要注意。ここから径は直角に左に曲がり、特徴のない平坦な斜面を下る。
左手の山腹に「境界見出標」が張ってあり一瞬、尾根でもない場所になぜ?と思うが、そこが実は国境稜線。ここでストックを手にしていないことに気がつく。やばい!と取りに戻る。すぐにあって良かった。
・13:00 萱ダワ 通過
・1915からの細い尾根の下降はヤブは濃く見通しも利かず地形も切り立っており要注意だ。等高線に出ていない露岩がいくつもある。巻き道を見極めながら、足場を決めて下る。フミアトも乱れており見極めに時間がかかりイライラする。はたして本日中に信州峠に行けるのかが不安になり始める。この細い尾根になぜこんなに時間がかかるのか。萱ダワには林道が来ているから遭難の可能性はないが、プランを中途で終わらせたくもない。萱ダワの直前の平原に出たときにはホッとした。萱ダワには林道の終点があり、テントを張るにはちょうどよい素晴らしい空間だ。水場も近くにあると聞いた(未確認)
・13:25 フシノソリ北峰 休憩
萱ダワからは一転して気持ちのよい疎林の中を行く。春に来たら新緑できれいだろう。冬枯れのこの季節にも木の間越しに真っ白な八つを見ることができる。疲れた脚を鼓舞しながらフシノソリ(厳密には双耳峰となっており南の岩峰をフシノソリと呼んでいるようだ。北峰は平原状で何もない。そこで休憩) 13:40発
・13:50 △1657.7通過
フシノソリからは右に直角に折れて草原上を行く。1710m圏内の肩を直進しかけて戻る。肩からは左折する。良くみればテープあり。見逃しやすいポイントだ。引き続き気持ちのよい尾根を行くと四等三角点のある△1657.7を通過する。
・14:40 石ッコツ着
・1657.7と石ッコツとの鞍部には未舗装の林道が通過している。その手前の1600mのコブは右から巻いたが、道がなく倒木中の笹原に歩きにくい歩行を強いられた。鬱陶しいコブだが着実にピーク上を行ってトレースを拾うと良いだろう。・1605を過ぎるとゆったり登り、頂上は岩塊の石ッコツ。左から巻き泥壁を攀じ登り到着する。滑らないよう注意。頂上に人工の石碑のような岩が屹立しており登れない。かろうじて頂上に手を置いて”登頂”。厳冬期の甲信国境はすでに風が冷たい。手の指が痛くなってきた。 14:55発
・15:35 信州峠着
夕日アタリ肩から夕日アタリの頂上はパスして100mほどの疎林の中を下る。ササにふくらはぎを洗われながら斜面を下って行くと、やぁ久しぶり!といった感じの信州峠にひょっこり出た。出発時に1台だけだったクルマがもう1台。誰にも会わない山旅だったから仲間でも見つけたようで嬉しかった。横尾山にでも行っているんだろうか。自分の山旅もここで終えることにする。クルマの暖房を全開にすると夕闇せまる峠を後にした。
■感想
地味な山域ながら国境稜線だけあってフミアトはありました。もし完璧なヤブ漕ぎだったら、一日では絶対に抜けられないでしょう。過去同じような岳人たちがこのルートに関心を持ってたどるうちにフミアトになってきたものと思います。途中では枝を刈り払ったあとも見受けられたことから、篤志家により多少の整理がされたのかも知れません。多くの倒木やシャクナゲの伸長で迂回を余議なくされたり、踏み跡が曖昧になっていたり、また尾根の広いところでは複数の踏み跡があったりで、5分おきのGPSによる現在地の確認が必要な山行でした。
もう一度行くかと問われれば微妙ですが、疎林の明るい草原、広々とした鞍部、露岩のアクロバチックな登高、南アや八つの展望、など山登りの楽しい要素を含むルートではないかと思いました。聞くところでは水源地という事で長野県の営林署がルートの伐開に賛成していないとのことでした。
いま群馬のロングトレイル構想が花開き、白砂山〜三国峠も開通したことを考えると、奥多摩から清里までロングトレイルが開かれて良いように思いますし、それが地域の発展に貢献するのではないかと思いました。奥多摩湖に沈んだ集落の方々の多くは、その後、清里の町に移住したとも聞きます。もしこのルートが開かれたら、彼らの故郷と自分たちの町をつなぐ架け橋になるのかも知れません。
コメント
この記録に関連する登山ルート
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junjapaさん
いつも楽しいレコありがとうございます。
登山記録というよりも「短編紀行」のようで、また、ルートについての詳細もあり、これから行かれる方も重宝する内容だと思います。
やはり、雪では無く「ヤブ漕ぎ」と「寒さ」に苦労されたようですね。
身体は大丈夫でも指先の冷えを何とかしないとと、いつも思います。
単独行の心細さが追い打ちをかけているのだと思いますが、周囲の(遠くの)山々が応援してくれたということでしょうか?
レコからGPSの有難さも改めて感じました。そのようなこともあり、小川山〜信州峠はイメージよりも時間がかかったようですね。でも、明るい内に下山出来てよかった。
朝陽は何度見ても身体中にエネルギーが沸いてきますね。
写真を拝見しただけで元気が出ました。
今回のレコを見て、いつもi-Padを小脇に抱えて「危ないな〜」と思っていましたが、温めていたのですね。了解しました。
今年も機会がありましたら山行にご一緒させて下さい。
今年も充実した登山が出来ますように祈念しています。
(学ばせていただいたこと)
・ストックは忘れないように、また、喰われないように。
・冬場はお湯を沸かすだけで寒いので、出来れば、山専ボトルにお湯を持っていくこと。
ご訪問いただき、また読んでいただき有難うございます。厳冬期とは言えどもさすがに奥秩父、八ヶ岳と比較すると各段の雪の量の違いを感じました。言いかえれば厳冬期といえども奥秩父には、我々が行くことができるフィールドが十分に広がっているということを再認識した山でもありました。雪はあまりありませんでしたが、冷えは十分なリスク要因と成り得ると思いました。防寒対策は必須ですね。今回のようなヤブ尾根をたどるときにはさらに道迷いもリスク要因です。GPSがなかったらおそらく地形図と高度計とをニラメッコしながら3割増しの時間はかかっていたことでしょう。GPSの便利さ、手軽さをも再認識したプランでした。また機会をつくり楽しい山旅
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