御在所岳・藤内沢2ルンゼ(奥又ルンゼ)アイス
- GPS
- --:--
- 距離
- 4.6km
- 登り
- 742m
- 下り
- 743m
コースタイム
天候 | 雪 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2014年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
感想
じつは、人生で初めての滑落というやつを経験してしまった。
結局止まったし、大きなけがはしなかったから、落ち着いているけど
止まらずに下まで転がっていたら、もっとすごいけがをしていてもおかしくないし
大したケガをしなかったのは運が良かったと思う。
沢登りを始めたばかりの頃、すぐ横をメンバーの1人が落ちてしまい
テラスにバウンドして10mほど下の滝つぼに落ちていった。
あの時も、絶対骨折くらいしている!と思ったけど、
すぐに滝つぼから現れて「だいじょうぶ!」と手を振っていた。
でも本当にびっくりしたし、自分はそこから怖くなってしまった。
それから私も沢で足を取られて転び、完治に1か月ほどかかる捻挫をしたり、
フリーで落ちて足首を骨折したり、といろいろやっている。
今回も、そんな一つの経験に、一見おさまってしまっているけど、
どこかに記憶を残しておかなくちゃと思った。
**
駐車場から歩きだして、裏道登山道から藤内小屋、藤内沢へと進む。
ちょっと調子は良くない気がした。
裏道登山道でも息があがってしまい、
藤内沢へ入ると、さらに体がほてってきつい。
2ルンゼのマイナスの滝から奥又壁へ行く予定で、
奥又壁はトップロープだから、そこまで行ったら私はビレーしてればいいやと思っていた。
マイナスの滝は、取り付きから見るより最後がそこそこバーチカルで、おぉっと思ったけど
よく登られているので手やスタンスもあり、クリア。
しかし落ち口へ顔を出すと、もーのすごい風!!
今日の御在所は、気温などのせいか南国の星の砂のような固まった小さな雪粒が降っていて、
風とともにそれが顔にビシビシ当たるからすごく痛い。
落ち口へ顔を出してから、ものすごい風にあおられて、一瞬体が浮いた気がした。
こらえて、手もすごく冷えていたけど、勢いで抜けた。
左手に中尾根のツルムを見て、それを背に奥又壁前のスペースへ移動。
2パーティがトップロープをはっていて、人数も多い。
今日は登れないと思い、そのまま3ルンゼへ行くか、あるいは2ルンゼの上部を行くか話しあい、
私が行ってみたかったのもあって、2ルンゼ上部へ。
その場にいた方も、なかなかいいよとルートを教えてくれた。
奥又壁の巻き道を登るのだけど、少し行ってみて、けっこう悪いのでロープを出すことに。
ペツルのハンガー2個あった。
なんてことないのだけど、とにかく氷の付きが薄いので、簡単に割れてラク氷してしまう。
それを慎重に選びながら、手足を動かして登った。
奥又壁がトップロープをはっている支点でピッチを切る。
もうそこは2ルンゼの風の通り道で、もーーーさぶい!!
登りで暑かったこともあり、ウエア調整がいまいちだった。
風が強まる前、マイナスの滝の取り付きで、1枚着こんだり首回りに追加しておくべきだったけど
この風の強さは出てみないと分からなかった。
さすがにここで、厳冬期用のインナー手袋にだけは変えた。着こむのは風が強すぎて無理だった。
2ピッチ目、うわさのナメの氷の庭園へ。
樹氷も合わさってめちゃくちゃきれいだ。
技術的には、確かに全く問題ない。
潅木までロープ届かず、スクリューでピッチを切る。
幸い沢が広くなったので、風は多少弱まって助かった。これなら大丈夫だ。
あと少しで氷からは抜けられる。
少しなので、私がそのままロープを延ばして右へ回り込んだ樹林へ。20mくらい。
ノーロープで問題ない箇所だけど、慎重な判断だった。
樹林に入ってロープをたたみ、直登は傾斜がきついので右の支尾根をまわりこんでいくと
支尾根の隣は広いルンゼだった。こちらが2ルンゼ本流かもしれない。
あたりは真っ白な雪。昨日かなり降ったんだろう。
ふかふかの雪はその新雪のようだった。
そのままルンゼの向こうへトラバースを続けたら3ルンゼへ出るようだけど、
すでに下山を開始するべき時間だったので、そのまま支尾根を登ることにした。
途中、やや急で不安定な数m。
これまで何度もこういうところを登っているので、大丈夫だろうと正直思っていた。
本当に心配だったら、雪+草付きに、バイルをしっかりかけてから登るのだけど、
このときは足が階段状だったこともあり、確実な手を作っていなかった。
右足に直径5センチくらいの木が2本縦にあって、そこへ足をのせて上がるつもりだった。
普段、全く問題なく足をのせるレベルの木だったけど、
くさっていたのか、上がった瞬間にボキィッという音がして、足元はあっけなくなくなり落ちた。
ゴロゴロと斜面を転がり落ちる。
転がっているとき、少し考える時間があって、「私転がってる」と思った。
ヘンなたとえだけど、スキー場で体を横向きにして斜面を転がって遊んだことがって、
それと全く同じ感じだった。
転がっているときは視界がないので、どこをどう自分が転がっているかは全く分からなくて、
「ヤバイ」とか思う感覚はなかったけど、もっと長い時間転がっていたら、ヤバイと思うだろうな。
ただ簡単には止まらなくて、
「あーゴロゴロ転がってるよ」と思ったら、幸い太めの木がちょうど私の胴体を受け止める形になって、止まった。
この木に止められたこと、深雪で転がった衝撃がなかったこと、樹林の下はやや傾斜がゆるくなっていたこと、バイルやアイゼンでけがをしなかったこと、これらが幸いした。
よくある話で、せっかく止まったのに体を起こしたことで再び滑り始めることがあるらしい。
これは確かにそうで、止まった時、不用意に体を起こしてしまった。もみくちゃの状態から、正常になりたいという心理なんだと思うけど、確かにそれはよくないと思った。
上体を起こして、そのままでいると、仲間から声がかかり、「大丈夫!」と返事をする。
仲間が樹林を慌てて下りてくる。
落ちたところからは直線距離で10〜15mくらいだろうか。
樹林の下は潅木がまばらになっていて、私が止まったところより下は、1段下に大きめの岩、それを越えて落ちていたら、もう見えないところまで落ちてしまっていたかもしれない。止まったところより下には、木がないのだ。ここで止まったのは、運に助けられた。
傾斜がゆるくなっていて、速度は落ちていたけど、「止まるきっかけ」が必要なんだ。
滑落っていうのは、やっぱり止まらない、止められないと思った。
しばらく、まだ体が衝撃で思うように動かず、数分は座ったまま心を静めていた。
落ちたとき、いろいろ打ったけど、一番は右大腿部を強打していたことだった。
骨折などをした経験から、ケガは大したことないと思った。
数分休んだだけで、また登り始めた。
同じところへ戻ってくる。木は2本とも折れていた。
ただ根本の5〜10センチほどは残った状態だった。私は根本よりやや上を踏んでしまったのと、荷重を確かめないで載せてしまったのがよくなかったようだ。
今度は慎重に、まず手をしっかり決めてから、登った。大丈夫だった。
そこから50〜100mほど上がると、中道登山道へ出た。
太ももは、けっこう痛かった。
自分の体重を右足だけで支えるとかなり痛い。
中道の下りは、サクサク歩けなくて、痛い足をカバーしながら時間をかけて下った。
**
転がっていたときの自分、その感覚は、今はまだあるけど、
いずれ薄れると思う。
木で止まらなければ、あるいは同じ距離を落ちていても、ヘンな衝撃が加われば骨折や裂傷があってもおかしくなかった。普段行っている場所が、なんてことないところも危険だという感覚が、だんだん麻痺していることも感じた。
私は臆病で心配性な人間なのだけど。
少し覚悟した、御在所2ルンゼだった。
遭難一発で死ななくてよかった。
小さな事故を重ねて、強くなる方がいい。
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