大和葛城山


- GPS
- 07:10
- 距離
- 13.5km
- 登り
- 1,007m
- 下り
- 1,042m
天候 | 快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2014年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車
|
写真
感想
葛城山顛末記
【プロローグ】
太宰治の「富嶽百景」に出てくる有名な言葉「富士には月見草がよく似合う」という一節は、「富士山と月見草をいっしょに並べて見たらとてもきれいだった」などと言うものではもちろん無い。全く逆で「富士」という圧倒的、威圧的、世俗的なモノを軽蔑し、車窓に現れた富士に驚嘆する人々に対し、一人真反対の方向を向いて、そこに咲く一輪の月見草を見つけ、「この花は何と美しいのだ」と褒めあげるのだ。「富士」という微動だにしない存在に、まるで一人で戦っているかのように咲く一輪の花。誰にも媚びず、誰にもおもねない凛とした美しさがそこにある。
この気持ち、自分にもよくわかる。昔からそうなのだが、皆が絶賛する美しい景色を「ケッ!」と言って、斜に構えて眺めてみたり、テレビやネットに紹介された人気スポットなどに行っても、(たいしたことねえな・・・)と嘯き、踊らされてしまった自分に腹が立ったりするのだ。まあ、はっきり言って一種のヒネクレモノですね。
そんな俺が何を血迷ったか、本日登山で行く先は、1年で一番人が多く、前日には新聞の1面に紹介されたというおまけまで付いた場所、山つつじが今まさに見頃の葛城山である。
【近鉄御所駅〜葛城ロープウェイ前駅】
すでにタタカイは、尺土の駅から始まっていた。近鉄御所行の普通電車を待つホーム上は、人で溢れかえっており、先に入線していた吉野行の電車に乗り違えそうになったおばさんは、何かを大声で怒鳴っていた。車内は俺が見る限り、7:3ぐらいの割合で女性が多いように見える。終着御所駅の女子トイレも長蛇の列だ。
駅前ロータリーでは、葛城ロープウェイ前行きの合い乗りタクシー(一人300円か400円だったと思う)も出ており、よっぽど乗ろうかと思ったのだが、登山口まで一本道だったことを思い出し、渋滞に巻き込まれる事を懸念して、当初の予定通り駅から歩くことにした。ちなみに、バス停もこれまたたくさんの人が並んでいる。バスに乗ると果たして何時に着くのだろうか。時刻は既に8時半を回っている。渋滞は今からさらにひどくなって行くだろう。
駅から登山口まではほぼ一本道だ。結構な人数が歩いている。天気は快晴。肩の荷は必要以上に重く、汗がダラダラと流れる。
地元の細い道は、ところどころで車両進入禁止の臨時標識が置かれている。渋滞している公道を横目に見ながら、その標識の横をすり抜けて、車が一台も無い道を歩いていく。(しんどい思いをして歩いて行く者の特権だ)などと一人で息巻いていたら、なんの事はない、俺の横を何台ものタクシーが通り抜けていくのだ。どうやら、この裏道は地元のタクシーだけに与えられた特権らしい。(ウーム、こんなことなら、乗り合いタクシーに乗っていたほうが良かったかもしれない)と思ったが、まあ、仕方が無いのだ。
道は老人福祉センターを超えた辺りから、斜度が少しづつきつくなっていき、流不動明王の祠がある辺りからは、ゼイゼイ言いながら歩いていく。まだか、まだか、と思いながら歩いていくと、右手に駐車場が見えて、少し行くとそこがロープウェイ駅だった。
【葛城山北尾根ルート〜葛城山頂上〜葛城ロープウェイ前駅】
ロープウェイ駅も案の定、人、人、人である。「ロープウェイに乗る人は先に予約をしてくれ」とか「ロープウェイは8分間隔でピストン輸送している」とか「予約した人はこの放送が聞こえる範囲に居てくれ」とか、とにかく駅からの放送もけたたましく、殺気立っているのだ。
そんな喧噪を尻目に、自分はゆっくりと登山道に取りついた。ここから葛城山に登るのは今回で2度目だ。前は櫛羅の滝という所を通っていった。今回は北尾根コースを歩く。事前の情報では風が吹き抜ける気持ちのよい尾根道とのことである。
しかし、取り付きからトラロープが張られたいきなりの難所に出くわす。グワシ、グワシと力任せに登っていくが、登り切ったところも休めるような場所は無い。そこから上を見ると、さらなる急坂や階段が永遠と続いていた。
道中には「ア」「イ」などと書かれた看板が立てられている。救急発生時に自分の現在位置を伝えるための看板だ。この看板は「ア」から「コ」まである。心が折れそうになった時には、この看板を頼りに登る。(次は「ウ」次は「ウ」)などと、心の中で念じながら登るのだ。
今回の山行き、正直に白状するが、俺は相当にバテた。日頃の不摂生もそうだが、御所駅から登山口までの歩きが相当堪えていた。おまけに、直前に慌てて準備したので、なんやかんやとザックにぶち込み、ズシリと重くなっていた。
道中、ヨタヨタと歩く自分は、他のハイカーには、さぞ、迷惑だっただろう。できるだけ道を譲り、何人もの人に抜かされた。疲労困憊し、ほうほうの体で頂上に辿りついた時には、既に昼近くであった。実に、登山口からここまで、標準的なコースタイムの倍近くかかっているのだ。
直ぐに飯にしようと思ったのだが、余りにも疲労しており、恥ずかしながら、吐き気なども催す始末。直ぐに帰ろうかと思ったのだが、ベンチに座って奈良側の景色などをボンヤリと眺めていると、幾分体力も回復したので、荷を軽くしたいという思いもあって、コンビニにぎりとカップヌードルリフィルをビールと共に食らった。無理やり詰め込んだ感のあるその昼食は、正直、あまり旨くはなかった。
食後、お目当てのツツジ園のほうに歩いていくと、登山客とロープウェイで上山した一般客も交え、そこはもう、ほとんど山の上とは思えない光景だった。とにかく、人で溢れかえっているのだ。そんな中、人ごみに交じって、俺も絶景ポイントを探す。人ごみを掻き分けて、山裾に出ると、一瞬、息を飲んだ。そこから見下ろしたツツジの群れは、まるで血の海のように真っ赤だったのだ。そう、ここのツツジはピンクや紫ではなく、恐ろしい程に「真っ赤」なのである。夢中でシャッターを押したが、何を撮っても真っ赤なので、しまいに飽きてしまった。
ロープウェイ山上駅まで引き返し、櫛羅の滝コースを通って下山することも考えたのだが、なんとなく、体調があまり芳しくなく、素直にロープウェイを使って下山することにした。ロープウェイに乗るのに1時間ぐらい並んだろうか。やっとこさ乗ったのだが、5分もかからずに、下山口に着いてしまった。
帰りも徒歩で駅に向かうことにする。途中ですれ違う車道では、この時間にも関わらず、車が数珠なりとなって、下のほうまで続いている。道路脇に置かれた看板には、「駐車場まで3時間、ロープウェイ乗車まで2時間」などと恐ろしい事が書かれてあった。
【エピローグ】
帰宅して風呂と飯を済ますと後は泥のように眠った。朝方、嫌な夢を見て目を覚ましたとたん、強烈なこむら返りに襲われた。泥酔して寝込んだ時に良く起こる、例のこむら返りである。土踏まずなどを押さえながら、ベットの上でしばし煩悶。気が付いたら起床時間だった。
残念ながら「葛城山には山つつじが良く似合う」とは言い難い。別に葛城山で無くても、あの真っ赤なつつじの大群は、それだけで絵になるからだ。
俺はつつじの見頃が終わった時にもう一度行ってみたいと思う。多分、花の無い山つつじは誰にも見向きされなくなっているだろう。しかし、全く恥じる事は無い。堂々とそびえる青白い金剛山をバックにした山つつじのその緑は、とてもつつましく、そして、とても美しいだろう、と俺は思う。
コメント
この記録に関連する登山ルート
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太宰治は私も大好きです。
若いころに夜行バスに乗って彼の墓参りに行ったことがあります。
葛城山は隣の金剛山に比べてつつじの時期以外は不人気ですね。
ですが、つつじのない時期は静かでいいものです。
展望台の上に座ってぼんやりと向こうの金剛山を眺めるのはいいですよ。
文章がお上手ですね。楽しませていただきました。
また、次のレコを楽しみにしています。
oris さん、コメントありがとうございます。
太宰、芥川、漱石、若い頃によく読みましたが、太宰が一番好きでした。
お墓参りというと、桜桃忌の頃でしょうか。
残念ながら、自分は一度も行けたことがありません。
葛城山から眺める金剛山は威風堂々として本当にいいですよね。
逆に金剛山から眺める葛城山は、頂上のハゲ山ばかり目立ってしまって、ムフフとなってしまいますが(笑)
oris さんのレコも楽しみながら読ませて頂いています。
特に、5/18の鈴鹿のレポ、興味深く読ませて頂きました。
今後ともよろしくお願いいたします。
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