三国峠〜シンコボ☆廃村永谷より色づく若丹国境稜線へ
- GPS
- 06:44
- 距離
- 13.8km
- 登り
- 1,011m
- 下り
- 1,006m
コースタイム
過去天気図(気象庁) | 2022年10月の天気図 |
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アクセス |
写真
感想
芦生演習林の北縁をなす三国峠から五波峠までの間の若丹国境稜線は踏破するのが難しいところだ。ここを一気に縦走したのは三年前のことではあるが、福井県の名田庄の側からアプローチしてみたいと考えていた。
名田庄の中でもこのあたりは虫鹿野ノ内という変わった地名がついている。虫鹿野を流れる久田川の上流に幾つかの集落が点在していたのでそのように呼ばれたのだろう。これらの集落のうち、現在でも人が住んでいるのは木谷の集落のみである。
かつてこの久田川には1965年ごろに挙原ダムの建設が持ち上がり、上流に位置する挙原、出合、永谷の集落は水没する運命に晒されることになる。当然ながらこれらの集落には強い反対運動が生じるが、どのような背景があったのだろう、1985年には永谷集落の住人達も離村を余儀なくされる。しかし、その後、県境の反対側に広大な演習林を有する京都大学の強い反対もあり、ダム計画は2005年には白紙撤回となる。
永谷集落には当時の家屋がまだ残っているらしく、ここを起点として三国峠からシンコボまでの若丹国境稜線を歩くことを計画する。ちなみにこのあたりでは峠というと山をさし、一般的な意味で用いられる峠は坂という名称で表現される。
久田川の本流から永谷川に沿った道に入ると道路上には早速にも石が散乱している。石を除けながら先に進むが、まもなく道を何本もの唐木が塞いでいる。致し方ないのでバックで戻ると、出合に戻り、道路余地に車を停めて出発する。
先ほどの倒木を潜って先に進むが、次々と倒木が現れる。ネットでは廃村の永谷を訪れた記録が散見し、昨年は車で永谷まで入ることが出来たようなので、この倒木はこの一年の間に生じたものなのだろう。道路沿いでは次々と現れる苔むした石垣が集落の古い歴史を物語る。昔からわずかばかりの平地を利用しての耕作の行ってきたのだろう。道路に沿って電信柱が続いているが、電線は既に取り外されている。
川の左岸に渡ると突然、谷が広がり、廃屋が現れた。廃屋の前には大きな桜の樹があるが、その支幹が折れてしまっている。川の対岸にも比較的、状態の良い廃屋が残されているが、対岸に渡る橋は流されて欠失している。廃屋の納屋には「関電の発電反対」と赤い文字で記された看板が掲げられている。
集落の右手の谷奥に小さな神社がある。加茂神社らしいが、社殿は無惨にも倒壊している。祭壇の前にはまだ未開封の日本酒が供えられていた。集落を先に進むと錆びついたブランコがある。かつてはブランコで遊んだ子供達がいたようだ。桜や色づく紅葉の樹々に囲まれた集落はかつては美しいところだったのだろう。
集落からはさらに先に林道が続いている。永谷集落までの道路とは異なり、林道には倒木はほとんど見当たらない。林道は芝生や緑の苔に覆われている箇所が多く、緑のカーペットの道を快適に進んでゆく。
堰堤が現れ、林道が終点となるが、さらにその先に明瞭な道が続いている。「野田畑峠・三国岳登山口」と記された小浜山の会の古い道標が現れる。しばらく川沿いに続く道を辿ってみることにする。
左手の谷からは10m以上はあると思われる二段の滝が現れる。滝のすぐ上流で右岸に渡渉する。再び小浜山の会の道標が現れたところで、左手の尾根にかすかな踏み跡があることに気が付く。ここで谷を離脱して、尾根に取り付く。
尾根は下生は少ないが、何しろ急登である。樹を掴みながらのモンキークライムとなる。下降のルートには適さないだろう。しばらく我慢して急登を登るとca500mのあたりで斜面が緩やかになると植林が広がるようになる。杉の樹林を見ていると熊が爪を研いだ跡が多い。
植林を抜けると自然林のなだらかな尾根となり、国境稜線が近づくとブナの樹林の広がる緩斜面となる。緩斜面をトラバース気味に進んで三国峠を目指す。
このp767から三国峠にかけての一帯は五波峠への稜線の中でも林倉が素晴らしいところだ。
Ca810mに進む。このピークの周りでは色づいた樹々が綺麗だ。ピークからはシンコボ、ブナノキ峠、笠峠といった芦生原生林の山々も俯瞰することができる。
紅葉の景色を眺めながらランチを調理する。この日はチャーシューを炒めてライスを投入するだけの料理とも呼べないものだ。食事の後、コーヒーを淹れて一服すると野田畑峠を目指す。
野田畑峠はあくまでも本来の意味での峠であり、この峠の南にかつて存在した野田畑の集落に向かうための鞍部となっている。鞍部とはいえ左手の谷とは全く標高差がなく、一旦、谷に下降することになる。野田畑峠には古い道標があり、永谷へと続く道が示されていた。
ここからはシンコボにかけて完全に二重尾根となり、左手の大谷の源頭とほぼ並行して尾根を緩やかに登ってゆく。細い尾根はカエデやブナの樹々が立ち並ぶ回廊となっている。尾根の上部に至るにつれ、色づいた樹々が眼を愉しませてくれる。ただ、気になるのは先ほどから熊の糞を多く見かけることだ。
シンコボの山頂は国境稜線のジャンクション・ピークからわずかに北西に進んだところにある。山頂は樹林に囲まれた地味なところではあるが、山名標の近くの色づいた樹々が山頂に華やかな雰囲気を添えていた。
下山は山頂から北に伸びる尾根を・・・と思っていたのでそのまま尾根を歩き始めるが、当初の計画とは違う尾根であることに気が付く。この尾根を進んでも永谷集落に下降することは出来るのだが、p551を通る尾根を下降するつもりだったので、山頂に戻り尾根を探る。しかし、どう見ても地図で記されている箇所には尾根らしきものが見当たらず、急斜面があるばかりだ。方向がた正しいことを信じて急斜面を下降すると明瞭な形の尾根が現れた。
果たしてこの尾根の状況次第では下山に大幅に時間を要るすことを覚悟してはいたのだが、伊賀にも尾根は下生は少なく歩きやすい。ca550mのあたりでは境界標の石柱が現れ、尾根上に薄い踏み跡やテープ類が現れるようになると安心だ。尾根はかなり標高が低いところまでブナが現れる。標高が500mを切ってもまだブナ林が続いているのは驚いた。尾根の下部では多少、斜度がキツくなり馬酔木の藪が現れるがそれでも大したことはない。
左手に小さな谷が現れると導水施設が見える。林道に着地するとすぐに永谷集落に到着する。集落の納屋に白看板には「関電の電発に反対」と記された赤い文字が否応なく眼を惹く。ダム計画に翻弄され、ここを離れることを余儀なくされた人々の悲痛な叫びだったのだろう。
再び何本もの倒木を潜ったり跨いだりして出発地に戻る。車に乗り込み、山影となった深い谷間を走る。夕陽を浴びる木谷の集落を目にすると、別世界から現実の世界に戻ってきたように感じるのだった。
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