編笠山


- GPS
- 04:04
- 距離
- 11.9km
- 登り
- 1,336m
- 下り
- 1,336m
コースタイム
過去天気図(気象庁) | 2023年04月の天気図 |
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アクセス |
写真
感想
高原の春は遅い。中央線の特急が小淵沢に近づくと、途端に車窓には満開の花を咲かせた桜の樹が目立つようになる。昨日は一日中、雨が降り続いていたが、この日は朝から晴天が広がり、雲の上から甲斐駒ヶ岳、鳳凰三山が姿を現す様は壮観というほかない。小淵沢からは南東の方角に富士山が綺麗に見える。
車窓の右手に見える編笠山と権現山のあたりには雲は全くない。最後にこの山々を登ったのは大学時代に友人と共に赤岳山荘に泊まり、北八ヶ岳にかけて縦走した山行のことだった。それよりもこの山々に格別な思い出があるのは家族で登った最初の本格的な登山だからだ。小学生3年生の時のことだ。
午前中の用事が終わり、あずさ号に乗る母親を見送る。時間はまだ13時前だ。編笠山を往復する時間は十分にあるだろう小淵沢の駅のコインロッカーに荷物を預けてタクシーに乗り込む。観音平までとお願いすると、八ヶ岳横断道路から観音平に向かう道路はゲートが開くのは連休前からという。これは大きな誤算であったが、少なくともまだ明るいうちには戻って来ることが出来るだろうと皮算用する。他に登っている登山者はほとんどいないであろうから、下山してくる登山者に怪訝な顔をされる心配がないというのも有難い、
タクシーが小淵沢の駅から高原を北上すると、先ほどまでは綺麗に見えていた権現岳には雲がかかり、編笠山の山頂ももうすぐ雲に呑み込まれそうな雰囲気である。八ヶ岳横断道路でタクシーを降りると落葉松の樹林の中を直線的に伸びる道路を歩き始める。標高が1200m近くから出発することが出来ることの有難さより、山頂までの1300mの高低差が気になるところだ。
道路を右折して、八ヶ岳自然歩道に入るとすぐに牧場の端を歩くようになる。柔らかい道には馬蹄形の足跡が多く刻み込まれている。まさに馬のものだろう。すぐに広々とした牧場の彼方に甲斐駒ヶ岳から鳳凰三山にかけての好展望が広がるが、所々に大きな糞があるので、油断ならない。
やがて左折して、落葉松林の中を切り開かれた広い道を観音平に向かって登ってゆく。やがて唐突に道は終わると、林床に繁茂する笹の間の細い道となる。観音平が近づくと、その手前に大きな岩が現れる。岩の下では希少なヒカリゴケが生育しているらしい。
観音平に出ると南側に大きく展望が広がり、鳳凰三山の右手から北岳が姿を見せ始める。編笠山の上も晴れているようであり、今のところ上空の天気も良さそうだ。観音平からは途端に斜度が緩やかになり、しばらくは平坦な落葉松林が続く。
落葉松林の樹林の上からはゴォーッという風鳴りの音が頻繁に聞こえる。風のお陰で汗をかかないのは良いが、山頂での風が心配だ。やがて登山道は緩やかに尾根を登るようになる。ベンチが設けられている雲海展望台はその名称からは好展望が期待されるところではあるが、わずかに東側の展望が開けているばかりであった。
押手川と呼ばれる谷が近づくと唐突に落葉松の樹林は終わり、苔むした林床の上にトウヒやシラビソなどの針葉樹が広がるようになると途端に林の中が薄暗く感じられる。以前に登った編笠山の記憶に残っているのはこの薄暗い樹林の雰囲気だけであるが、その雰囲気に不気味な印象を感じたせいだろうか。
谷には水が流れる気配はないので、押手川なる川が本当にあるのかと怪訝に思っていたが、確かに水が流れてた。水は残念ながら清冽からは程遠く、茶褐色の水に口をつけようと思うものはいないだろう。どうやら川の水は流れを形成するでもなく、すぐにも地中に吸い込まれていくようだった。
標高が上がるにつれ、登山道にはところどころ残雪が現れるようになる。雪というより氷と呼ぶ方が適切かもしれない。ほとんどの箇所は岩の上に足を置いて進むことが出来るので、問題はないのだが、通行が難しい場所は雪を避けて巻くしかない。
山頂が近づくにつれ、斜度がキツくなってきたせいだろうか。歩行の速度が急に遅くなる。やがてハイマツやシャクナゲの低木帯になったかと思うと、唐突に樹林を抜け出す。森林限界を抜けしたようだ。南に見える甲斐駒ヶ岳の右手には仙丈ヶ岳が見えている。岩稜帯を歩くとすぐに編笠山の山頂だった。
山頂から一赤岳、阿弥陀岳、横岳といった八ヶ岳連峰の主だった山々の展望が一気に視界に飛び込んでくる瞬間は感動的だ。少年時代に元気に先頭を歩いて編笠山の山頂に一番乗りし、後は降りるだけだと思っていたところ、父親があそこまで行くと言って権現山を指差した時の衝撃を憶えている。その権現山は丁度、日陰になっているせいか、その鋸歯のような山頂部はなんとも険阻に見える。山頂に至る尾根にはまだ雪が残っているようだ。
遮るもののない編笠山の山頂からは360度の展望が広がる。八ヶ岳の主脈の左手には北八ヶ岳と蓼科山への稜線、すぐ西隣の西岳の彼方には平坦な霧ヶ峰と美ヶ原を俯瞰する。いつしか風もなくなり、標高2500m以上の山とは思えぬほど暖かく、フリースを着込む必要もない。山頂でゆっくりしたいところではあるが、時間も遅いのでのんびりとしてはいられない。
山頂を後にすると正面に南アルプス、眼下に小淵沢の高原を見下ろしながらのダイナミックな下降となるが、好展望は長くは続かず、すぐに樹林の中へと入ってゆく。再び落葉松の林に差し掛かると、林床に差し込む夕陽が一面の笹を黄金色に輝かせている。
再び牧場に出ると登りでは気が付かなかったが、タムシバが満開の花を咲かせている。観音平からの道路の脇では豆桜が小さな花を咲かせていた。出発地点には観音平で呼んだタクシーが待っていてくれた。タクシーの運転手も山好きでよく八ヶ岳は登られるらしい。小淵沢の駅に戻り、再び屋上の展望台に登ると、八ヶ岳の山々が夕陽を浴びて輝いていた。
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