夏の北陸遠征3 荒島岳・・・熱中症の記
- GPS
- --:--
- 距離
- 9.1km
- 登り
- 1,282m
- 下り
- 1,266m
コースタイム
天候 | 晴れ 朝から気温が一気に上がる。 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2015年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
きれいなトイレ、登山届入れポスト |
コース状況/ 危険箇所等 |
基本的に急登、急下りの道 岩、土、木の根、何でもありだ。 最初スキー場に上がっていくところで太陽に照らされ汗を絞られる。ここで体調が決まる。 |
写真
感想
ゆったりとした風が頬をなで、さわやかな夏の夕暮れを演出しようとしている。西からの光芒は次第に明度を下げながらも、目の前の山々を突き抜けている。私は勝原スキー場ゲレンデの上部に膝をまとめて座り、急降下するコンクリートの一本道と、その先に連なる駐車場の一台の車を見ていた。そう、夕暮れが押し迫ってきていた。
私は、意識を半分ほど無くしながらも、「何とかこの難しい戦いに勝利した」と確信した。
登山が好きな私は、この週末に金曜日、月曜日の休みを加え、3泊4日の登山旅行を企画した。金曜日に医王山、土曜日にはこの夏の目標の一つである白山に登りきった。日帰りで登る人は半分以下であるが、休日を効果的に使いたいということで、慌しく白山登山口に帰ってきた。その後は、温泉と多めの夕食をとり、睡眠もしっかりととった。行動食、水分も十分である。
今日の舞台となる山は、福井県の名山の一つである荒島岳、深田久弥氏が選んだ「日本百名山」にも選出されている。1523mの頂上は花畑で、蝶が舞い踊り、天気がよければ木曽御岳や白山が遠望できるという。しかし、登り始めの標高は300m台、登り返しもあるので累積標高差は1300mほどである。それを約5kmで登るのだから急斜面である。いつも基準にする丹沢大倉尾根コースと比較すると、登り始めや頂上の標高はあまり変わらず、斜面は丹沢大倉尾根コースより2.5kmほど短い、つまり斜面は急で、少々荒れている。
そして、水分を補給できる小屋や水場はない、自分で持つ分がすべてである。
日曜日は気温が高くなることが予想された。したがって、早朝からの登山とすること、水分を多く持つこと、新たに岩塩飴を持つことなど予想される高温対策を取ったつもりだ。水分は3.5リットル持っている。
荒島岳勝原コースは、移動距離が一番短いコースであるため、標準コースタイムは一番短い、登り3時間20分、下り2時間20分である。予定であるならば、午前中に山頂に到着し、昼食を取って午後早くには下山予定であった。その後は当然のようにある温泉やグルメなど登山後の楽しみに心は浮かれていた。
そして、早朝からの登りは、かなり汗をかいており、コースタイムを大幅に超えてしまっているが、本人は全然問題がないレベルであると判断していた。過去にも登りでコースタイムを大幅に超えてしまうことはあったのだ、特に登山を始めたばっかりに登った瑞牆山、金時山はコースタイムの倍以上を費やして頂を自分のものとした。当然、その2山は下りは快調に下ってきたのである。
頂上に着いたのは、正午を越え12:40ごろである。コースタイム3時間20分のところ6時間以上かけて登ってきた。そして、頂上では花や蝶を撮影しおにぎりを食べた、香川県から来たグループにかんきつ類をわけていただいた、疲れた体に芯が入るようだ。そのグループの人たちとは飯野山の話で盛り上がった。水分は残り1.5リットルほどである。普通であれば問題ないと考える。
そして、13:00、私は山頂を飛び出した。快調に下っていたが、前荒島で体調の変化を感じ、座り込んでしまった。呼吸が荒い(下りで呼吸がこんなに荒くなることはない。)、心臓の拍動が弱く速い、立ちくらみがした。座り込んで数分呼吸を整え、ダブルストックを使い立ち上がり100歩ほどまた下る。そうすると目は次の休憩地を求めている、脳の一部分が自らの意思とは別に休憩地を探してしまうのだ。2,3度同じように呼吸を整えながら降りてくる。しゃくなげ平まで降りてきたとき私は観念し認識した。「私は熱中症になったのだ、この熱中症とうまくやりくりしながら麓まで戻るのだ」。頭の中でゴングが一つ鳴った、そこに悲壮感はなかった。
まずは、長丁場であることを自分自身に納得させる。下山予定時刻を日没時と設定し、真っ暗になるまでに下山口(スキー場を超えたところにある登山口)にたどり着けなければ携帯電話で救援を呼ぶことと設定し、携帯電話の電源を切る。デジタルカメラの撮影も止める。水分(残り1.5リットル)、岩塩飴30個、ミルキー30個、しょうが飴20個、おにぎり1つの食べ伸ばし方針を考える(結構持っているなあ)。体調は、立ちくらみ、呼吸困難、心臓の拍動異常である、まだ筋肉の攣りや嘔吐などの症状はない。
したがって、息が切れたら座り、息を整えたらまた歩く、水は舐めるように飲む、筋肉の攣りが出てきたら岩塩飴を食べるというとりあえずの方針を立て、よろよろと下っていく。
白山ベンチのあたりでとうとう筋肉の攣りがやってきた。両手は何かを握ったように、足の一部の筋肉も突っ張って痛みを発生させる。岩塩飴を舐めるとそれがある程度やわらぐ、岩塩飴と筋肉マッサージ、これで湿布があって冷やせればなお良いのだが、本日のザックには湿布は入っていない。呼吸と心拍が落ち着いたらまた歩く。
荒島岳勝原コースは急下りだ、そして岩と土と木の根の道だ、滑るときには滑る、予定より時間が遅くなり森の中はだんだん暗くなってくる。そうすると、見えるものが見えない、ある一歩で私は木の根に右足を滑らしたとき「バキッ!!」と大きな音がした。それは、わずか2週間前に買ったばかりのストックが折れた音である。これは撮影しておこうとデジタルカメラを取り出す。
こういう失敗をしたときは、気が動転している、とにかく休むのだ。私は、もう服やザックが汚れてもいいと観念し、その場に座り込んで息が落ち着くのを待った。
筋肉の攣りが次の段階に来た。両脇ばら、右腕にもやってきて、あちらを収めればこちらと回りだしたのである。体の内部からは岩塩飴によるミネラル補給、外部からはマッサージ、一時良くなったら立ち上がり歩き出す。ストックが1本に減ってしまい歩きにくさを感じる。
しかし、ここら辺りからこの戦いの潮目がかわる雰囲気を感じた。まずは、夕方に近づき風が爽やかになってきたのである。風が頬を揺らすと気持ちよいと感じるようになったのだ。また、トトロの木を超えると斜面が緩やかになるのを思い出したのだ。そう、戦いの終わりが見えたのだ。水はまた1リットルを残している
荒島岳勝原登山口の表示を越えると、丸いベンチがある。私はそこで横になった。鉄のベンチに1日当たった熱が私の背中を暖める、それが心地よい。5分くらいそのまま寝転がったろうか。ここからはスキー場を下るだけだ、最初は石の登山道、最後にコンクリートの道。石の登山道を下っているとき、2パーティが私の横を挨拶して通り過ぎていった。これで、私はこのコース最後の下山者である。うしろにはもう誰もいない・・・。 それまで「まだ後ろにパーティがいる」ということもよいモチベーションになっていたのだ。でも、もう先が見えている。
ゆったりとした風が頬をなで、さわやかな夏の夕暮れを演出しようとしている。西からの光芒は次第に明度を下げながらも、目の前の山々を突き抜けている。私は勝原スキー場ゲレンデの上部に膝をまとめて座り、急降下するコンクリートの一本道と、その先に連なる駐車場の一台の車を見ていた。沈み行く夕焼けは赤と黒の世界を作り出し、自然に黒の世界の比率を高くしていった。
私は、意識を半分ほど無くしながらも、「何とかこの難しい戦いに勝利した」と確信した。
そして、整った息を使って緩やかに自分の体をさらに下降させた。
車にたどり着いた私は、ザックをおろし、靴を履き替え、Tシャツを着替え、車のエンジンをつけた。急速冷房が車内を冷やす、助手席にあったポカリスエット500mlを2回に分けて飲む。リクライニングを倒しそこに体を預ける、そこから20分くらい意識をなくした(寝てしまった)。
目覚めた時刻は19:20、下山時刻は18:50ごろであろうか。下山に6時間近くを費やした。車を走らせ、勝山市のコンビニエンスストアへ行く。アルコール飲料、水、アクエリアス、おにぎり、そばを買う。しかし、そのコンビニエンスストアの駐車場で一気に筋肉が攣った、あれはどうみても悶えているようであった。アクエリアスと水を飲み、全身マッサージ、そして助手席にあった湿布を体のいたるところに貼り出す。この時刻ではもう温泉もあきらめなければならない、昨日寝た道の駅で食事を取り寝ようと思うが、食欲よりも睡眠欲が勝ってしまう。結局、何も食べずに道の駅で寝てしまった。
起きたのは27日午前1時ごろ、今日は関東に戻る日だ。本当ならば途中で楽な山を一つと思っていたが、もうとても考えられない。どうやって安全に自宅までたどり着くかだ・・・。
まずは、国道を運転し2時ごろ高速道路に入る、そして近くのSAにたどりつく。おにぎりをひとつ食べる。運転をして疲れたのかまた寝てしまう。たぶん、1日中こんな感じだ。朝にたどり着いたSAでそばを食べ、トイレに行く。まだ体のあちこちが攣っている。再度、スポーツドリンク投入である、そしてしばらくまた寝るのだ。
昼食では、静岡のSAでざるうどんを食べた。大食漢なのでいつもだったら3玉くらいペロリであるが、1玉のうどんを25分かけてむしゃむしゃ食べた。本来のど越しを味わうはずだが、のどを通らないので咀嚼して少しずつ飲み込んだ。
19時ごろ、自宅近くの吉野家で牛丼を食べた。いつもは大盛りペロリである(それ以上はコストパフォーマンスが悪くなるので食べない)。しかし、今日は25分かけて大盛り牛丼を食べた。
自宅に着き、車を駐車しあっという間に寝てしまった。
追記
今回した怪我や破損
・右足首捻挫
・左膝外傷(木を引っ掛けた?)
・ストック破損
・重度の熱中症(数日影響が続く)
・デジカメ補助バッテリー紛失
熱中症の原因として考えられるもの
・当日の気温
・連日登山による疲れ
・汗だくのTシャツを取り替えたものが3枚荷物になったこと
・持っていった水のうち2リットルはスポーツドリンクではなく水であったこと。(白山の湧き水)
対応としてよかったこと(本文中にあることを除けば)
・登山届けを提出していたこと
・とにかく冷静に行動できたこと
今後気をつけること
・連日登山場合の山選定
・薦められたからといって行く山を変えない
・登山保険の検討
とりあえず、今週末は温泉程度にし、山は避けたいと思います。来週末から1週間休暇を取ってあるが、本来行く予定であった北アルプスにするか、標高をあげたすずしい日帰り登山にするか、温泉観光旅行にするか検討しなおします。
aideiei さん
無事に下山良かったです。
熱中症とは!この時期の は気を付けなければいけませんね。
私もaideiei さんほどではありませんでしたが、まだ大丈夫と思い歩いていた所、山中で突然気持ちが悪くなり歩けなくなったことがあります。
山高原地図にも記載がないルートで、戻るに戻れず木陰で休み何とか帰ってきました。
その時のことを思い出しました。
ストックとデジカメ補助バッテリーは、お金で買えますが、命は買えません。
hamburg
hamburgさん、ご来訪ありがとうございます。
きっと今週もどこかを歩かれていると思います。熱中症には気を付けましょう。
一度熱中症になると、体温調節機能がやられてしまうのか、少々の温度変化でも過敏に反応してしまいます。職場の冷房で寒くなってしまったり、家でも冷房のつけたり消したりを頻繁に行うようにしたり・・・。悪く言うと、融通が利かなくなったなあと思います。したがって、一度熱中症や低体温症を発症した人はしばらくは山に行かないほうが良いということなのでしょう。
私の復活はもう少し先になると思います。ぜひ、夏の歩き、楽しんでください。楽しい記録を待っています。
aideieiさん、ご無事に帰られて何よりです。
白山のレコの最後に「楽しみに拝見」などと書いてしまったこと、申し訳ないです。
熱中症…自分も金時山でかかってしまいました。
低山だからかも知れませんが、ぐいぐい登っているときには調子よく感じて、それが下山時に一気にやってきた感じでした。自分の場合はもともと途中で水分補給が少ないようで、そのときも同じペースだったのですが、mamemama曰く、「もっとこまめに飲めッ 」だそうです。
自分の場合は相方やお嬢がいたので、不安は少なかったのですが、単独だったaideieiさんはさぞ心細くなられたかと思いますが、落ち着いて対処された様子が伺えて、それが無事に下山できた第一の要因だったのでしょうね。
一応、このようなときのために、瞬間冷却剤(叩けばすぐに冷えるやつ)をいつもバッグに入れています。一時的ではありますが、効果的ですので、お勧めです。
今週末はゆっくり静養され、また楽しい山登りを
mamepapa
mamepapaさん、お久しぶりです。
なぜか、悲壮感はなかったんですよね。それは、後続のパーティが結構いたということ、最初から最後まで携帯が通じるエリアであったこと、帰りであり知っている道であったこと、日没までにかなりの時間を残していたことなどいろいろな要因があったと思います。
昨日病院(ホームドクターみたいな人ですね)に行ってきて、顛末を報告しましたらやっぱり、ポ○リス○ッ○が水本補給には良いとおっしゃっていましたね。ただの水では塩分や糖分の補給ができないと。その人も山をやるのですが(最近は海外ばっかりだとか)いくつか熱中症になりにくいコースを聞いてきましたので(最初から標高が高い、緯度が高いなど最初から最後まで気温が低い)少々検討してみたいと思います。
瞬間冷却材、いいですね。それも検討してみます。
あとは、山岳保険をかけようかな・・・。と・・・。(自分が入っている損保では、特約として山登りにかかわる部分もあるが、捜索隊やヘリコプターには対応していないんだよなあ・・・)
私も昨夏軽い熱中症になりました。前半のゲレンデでの照り付けだと思います。雪の荒島はそんなに危険個所もなく(雪の状態にもよると思います)すばらしいです。
mmokkoさん、ご来訪ありがとうございます。大峰山脈のレポート拝見いたしました。途中で体調を崩されたということで・・・よい判断だったと思いたいですよね。私は昨年夏に八経ヶ岳・弥山に登りましたが、やはりかなり厳しい道で、水2リットルとスポーツウォーター1リットルを飲み尽くしました。夏の登山は、その時期しか行けないところに行けるけど、体調管理が大変だなあと思っています。
雪の荒島ですか・・・。雪山に登ったことがないのでわかりませんが、たぶん私の知らない種類の感動があるのだなと思います。一応6本爪アイゼン、ワカン、スノーシューは持っているのですが(アイゼンは白馬大雪渓用、それ以外はもらった)一度も使ったことがありません。まずは、近くの山で挑戦してみようかなあと思いました。
次回、体調にご留意され良い山行になりますことを願っております。今回はご来訪ありがとうございました。
医王山、白山と巡って来ました。
今回の三山の中では、今から25年以上も前に、白山だけ登っています。
観光新道・砂防新道を使って、室堂で一泊しました。
医王山は名前は知っているだけで・・・300名山なので興味津々です。
さて、この荒島岳、塔ノ岳よりは厳しい行程との分析・・・さもありなんですね。
最初にコースタイムを見て、妙に時間が掛かっているなぁと思いましたが、極度の体調不良(熱中症)・・・それまでの積み重ねの集大成が、一気に噴出してしまったのでしょうか?
その中で、冷静に、下山して自宅に戻って・・・何よりです。
拙者も大いに参考にすべき事例です。
隊長
yamabeeryuさん、コメントありがとうございます。
あれから、2週間ぐらいして、体調は良くなってきたのですが、まだ右足首捻挫の回復が今一つなんです。8日の土曜日は、最初山行を考えましたが温泉程度にとどめておきたいなあと思います。
日曜日午前に用事があり、その後土曜日いっぱいまで休日なので、最初は北アルプスを歩こうと思っていたのですが、右足首次第・・・。という状況です。ずいぶん、長引いているなあと思っています。
今年は予想が外れ猛暑ですので、荒島は9月中旬以降が良いのではないでしょうか。特に勝原コースは最初ゲレンデの急斜面を登るため、直射日光が当たり体力を消耗したり汗が出てしまったりします。最近の荒島岳の記録を見ていると、切にそう思います。予定を変えずに能郷白山(200名山)だったら・・・、経ヶ岳(300名山)だったら・・・。ちょっと後悔ですね。
しかし、自分にとって様々なことを考えるきっかけになった山行です。正直、救助を呼んだら私はもう山は止めよう思っていました。でも、来週1週間、自分で行けそうなところに準備万端にして登ってみたいと思えるようになりました。軽めの登山×複数(休養日ありで)で、来週楽しんで来ようと思います。
熱中症は突然やってくる、とは誰かのレコで目にした言葉です。今年の猛暑とうまく付き合いながら、救助の世話にならずに楽しみたいと思っています。隊長の楽しい記録、また楽しみにしております。旅先から携帯電話でのぞかせていただきます。ご来訪ありがとうございました。
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