釈迦ヶ岳

過去天気図(気象庁) | 2024年06月の天気図 |
---|
感想
山行記録676 令和6年6月1日 (土)
風 〜釈迦ヶ岳
単独 地図:御在所山
去年の春、山を再開しようと、足慣らしで入道、鎌、国見を登って、その次に登ろうと思っていたのが釈迦ヶ岳。ところが、ヒザを壊して、それを秋まで引きずって、お預けになっていた。今年に入って足慣らしして、スピードを除けば体はできてきたような気はしている。
ということで、「久しぶりに釈迦」と決めた。この1週間、週間予報のワリには、晴れたかと思ったら雨が降る。金曜日に台風1号が南海上を通過した。コース的には雨は降らないと思っていたが、意外にもまともに降った。
高層天気図をみると、土曜日には乾いた空気(ドライスロット)が南海上に入り込み、天気は回復。実際、天気予報も晴マークが並んでいるから、それを頭から信じてしまった。今、思えば…。
今回はそんなお話である。
6月に入り、日の出が一年で一番早い時期になってきた。早く明るくなるので山も時差出勤。日の出が近づいた頃、朝明の谷に入っていくと、思いのほか風が強い。山頂にはガスもかかっている。朝明の駐車場に着くと、ハッキリと風がある。空気も冷たいから、朝のうちは寒いかもしれない。
雲に朝陽が当たり始めたので出発。尾根を乗越して、何年か前につけられた水平ルートから庵座谷のキャンプ場に入っていく。考えて見れば、前に釈迦に登ったのは4年前。閏年の2月29日。コロナの緊急事態宣言が出される少し前で、外出を控えたり咎めたりする風潮が広がりつつある時期だった。鈴鹿の山の多くは「密」とは縁遠いから、今にしてみればまず問題はないが、コソコソと山を歩いたのがまるで昨日のような…。消え去った4年。感覚的にはそんな4年である。
中尾根道を登り始める。例によって鼻で息ができるぐらいのペースである。森に入ると風が思いのほか強い。森を透かして見る稜線にはガスが懸かっていて、車から見上げていた時よりも低くなったのではないかとさえ思える。
尾根に乗ってなだらかに登り始める。風が強いうえに気温も10℃を少し上回る程度なので、歩いていてもそれほど温まってこない。花の季節が終わって緑も深くなってきたから、道草することもなく黙々と登るだけである。それでも…。
目に留まったのはヤマナメクジ。岩の割れ目に生えるコケに寄り添うようにしてジッとしている。体を丸く曲げてはいるが、コンベックスを並べて見ると、体長は10cmぐらいあるかも知れない。
急登を登りきると鳴滝コバである。樹が茂って庵座の大滝が見えなくなっている。風も強くて滝の音も聞こえない。少し風を避けて休憩。地図を眺める。ここは770mコンターを超えたところ。高さ的にも距離的にもちょうど半分である。この先、890mのピークを越えたら庵座谷道連絡路も近い。風は強いがガスの底は約1000m。風の吹き方もガスのかかり方も冬の季節風のようである。たぶん台風1号の吹き返しだと思うから、台風が遠ざかれば風も弱まり、天気の傾向から見ても上がっていくガスだと思うが、「昼までこんなんかな〜?」。
思うにこの風…。昨日、高層天気図を見ていたんだから予想はできたはずである。「850hPa相当温位・風予想図」の1日9時の予層天気図で、北風が吹き抜けるように矢羽根が並んでいるのを見てはいるが、風速までは読んでいなかった。いったい何を見ていたのか?。帰ってから改めて矢羽根を確かめると10〜15kt/s(5〜8m/s)程度の風だとわかる。予想できない風ではなかった。
庵座谷道との連絡路まで来た。いつもなら登り慣れた庵座谷道へ一旦下るが、今日は偵察の意味で、中尾根を詰め上げることにしている。中尾根をそのまま詰め上げるのは、このルートが開かれてから2回目かな。
連絡路分岐から急登が始まる。庵座谷道の詰めに比べると段差も少なく、ルートも比較的ハッキリしている。悪天候とかで慌てて下るような条件でない限り、ルートファインディングは難しくない。問題は、途中で尾根をはずして登った記憶がある場所。今日はこの区間の偵察が一番の目的である。
頭上に岩尾根が見えてきた。その根元近くで、ルートは西斜面、大蔭のガレの方向へ下り気味に延びている。「迂回路落石注意」の道標もあるが、尾根に登っていく踏み跡もあって、どっちのことを言っているのか迷う所ではある。まあ「迂回路」というのであれば、尾根を素直に登っていない方だろうと決めて踏み込んでみる。
ルートはゴーロ状の斜面を水平に横切っている。ゴーロの割には歩きやすいが、落石が積み重なった斜面には違いない。シカが石を落とすこともあるから注意しないといけない。斜面を横切ってちょっとした支尾根に近づいたあたりで、こんな斜面にしては大きめのカーブを描くように向きを変えて直登になる。尾根に取付く手前には、少しばかり岩をよじるような所もあるが、庵座谷道の詰めに比べればちょっとした段差である。尾根に到達。振り返ると鋭く切り立った岩が立ちはだかっている。「これを巻いとるんやな」。
そこからは東斜面に入る。尾根の西側は大蔭のガレ場。窓のような小鞍部に差し掛かると強風が吹き抜けている。「白毫で引返そか」と思うぐらい…。
そんなことを考えながら、白毫に到着してしまった。頂上へのこだわりはないが、大蔭のガレ縁を渡ってしまえば、松尾尾根の頭までひと息である。この風の中、足場の悪いルートを下るよりは、ノン気に歩ける縦走路を取った方が気楽である。真冬のような氷点下の風でもないし、このまま登ってしまおう。
大蔭の手前のピークからガレ縁を見下ろす。相変わらずのヤセ尾根。鞍部を強い風が吹き抜けて、その辺りの2〜3歩が要注意である。風速は安定しているから、サッサと渡ってしまおう。「突風吹くなよ」と思いながらヤセ尾根を渡る。あとは50m程度の急登で、7:34松尾尾根の頭に到着。「あ〜あ、来てしもた!」。
風が強いからそのまま三角点に移動する。縦走路を合わせて尾高山からの尾根を分けるあたりで目の前がパッと明るくなった。ガスに包まれた森にヤマツツジの赤。色彩とモノクロームの対比がなんとも怪しい。
三角点に到着。ボチボチ登ってくる人もいるからさっさと退散してしまおう。松尾尾根の頭との分岐から縦走路を取って釈迦の西ピークとの鞍部へ下っていくと、山に遮られて風が弱まってきた。静かなガス。モノクロの中に、時々ヤマツツジの赤が浮き上がるのを楽しみながら西ピークを越える。ガマズミかカマツカか見分けはつかないが、花びらが5枚の小さな白い花が集まる枝が、縦走路の真上に突き出て満開だったりするので、道草しながら緩やかに鞍部へ下る。
猫岳の登りにかかる。いつも「キッツいな〜」と足を引きずりながら登る所であるが、今日はなぜか全然平気。やはり、鼻で息ができるペースというのがいいのかもしれない。時間的に大して変わらないのであれば、涼しい顔をして登れる方がいい。平成元年、初めて槍に登った時、70ぐらいのばあ様が、何食わぬ顔をして登っているのを見て驚いたことを思い出す。「ガシガシ登るだけが能ではないゾ!」と言わんばかりに。ワシもそんな境地に辿り着けたら嬉しいな。
猫岳で小休止。ここから908m独標までは下り基調のアップダウンで比較的穏やかな道。10m先をイノシシが走り抜けるのを見たのはどの辺だっただろう。そんなことなど考えながら歩く。茂みに入るとシロヤシオの樹が5枚ずつ葉を広げて青々している。思えばこの縦走路も花の時期に歩いたことがない。「いっぺん歩いて見やなあかんな〜」。などと考えながら歩くうち、908m独標手前のブナの大木の所まで来た。いつ見上げても、老練な風格のブナ。根元から見上げてあいさつして、実生が無いか根元を見渡してみる。ドングリのカラも見当たらない。やっぱり去年は凶作だったのかな?、それとも、落ち着いて探せばいくらでも転がっているのかな?。
908m独標でルートは西を向いて下り始める。いつもながらの急降下をひとしきり下ったら、目の前に白滝谷道の道標が現れた。今日は意外に近く感じる。9:16羽鳥峰到着。
風が弱まり晴れ間も広がってきた。とりあえず、石を並べてお絵かきの斜面の下の端っこに陣取ってメシにして、「さて、下りますか」。
通い慣れた羽鳥峰の山道を下る。林道に出た。しかしここからが長い。まだ森に包まれているから涼しいが、いつの間にか陽射しは暑い。風もそれほど強いものではなくなった。最後の舗装路は、日陰を選びながら、駐車場に帰還した。
今日は見事に天気の予層を外しっぱなしとなった。真冬だったら、朝、風が強ければ、夕方まで弱まらないことが多い。たぶんその感覚にとらわれていたから、白毫で引き返そうか…みたいなことが頭をよぎったんだと思う。3年も山にご無沙汰して、去年もロクに登れなかったから、相当感覚が鈍っていると思わないといけないだろう。もっといえば「な〜んも考えてなかった」。そんな山だったと思う。
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する