御在所岳

天候 | 西寄りの風風力3前後/晴/24〜28℃ |
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過去天気図(気象庁) | 2024年07月の天気図 |
感想
山行記録679-2 令和6年7月27日(土)
風が吹いている 〜ございしょ自然学校赤とんぼマーキング山行
単独 地図:御在所山
登路:一ノ谷新道 下山:裏道
朝、目が覚めると、ラジオでパリオリンピックの開会式が流れている。特に必死で見なければならないこともなし。それよりも、寝坊しないで起きることができたので、サッサと準備して湯ノ山に向かう。
この1週間、あっちこっちで雷が鳴っていて、昨日の夕方も雷鳴聞いた。やきもきしながら迎えた週末、高層予想天気図を土・日並べてみる。500hPaの太平洋高気圧の中心が南海上から中国地方辺り真上に移動して、御在所の辺りも勢力範囲に入る予報。気温も水・木あたりは-6℃ぐらいだったのが、日曜日には-3℃まで上がる予想にである。そして気になる発雷確率は、日曜日は10%未満なので申し分ないが、御在所周辺に限ってみれば土曜日も20%以下である。
こうして並べてみると、日曜日の方が安定しそうではあるが、土曜日も上空500hPaで高気圧性の回転をしていて気温も-3℃程度であれば、積乱雲は発達しにくいと見て、今週は土曜日に登ることにした。
先週は中道を上がって表道を下りたから、今日は一ノ谷新道を上がって裏道を下山と決める。
御在所山の家の前を、5:09出発。例によって鼻で息ができるペースで歩き始めるが、一ノ谷新道のような、悪路とも言える一気の急登。果たして通用するのかどうか。まあ登ってみればわかることかな。
登り始める。気温22℃。風がなく、湿度も比較的高め。出だしから暑さを感じながらの登りである。ソレナリに段が高い所も多いから、そうそう思うように鼻息だけで登らせてはもらえない。とにかく入りはゆっくり!。歩幅もアルプスを登っている時と変わらない。つまり、こんな歩みでも3000mに登ることもできる。時間もタップリある。気楽に行こう。
690mコンターのピークで小休止。すでに汗が流れている。水分補給して、地図で行く先を確認。次のピッチはこの尾根の核心部と言える岩場の下の870m地点となるのが常である。そこまでコンターの間隔の狭い尾根。途中にいくつかあるちょっとしたコブはコンターに現れていない。
登り始める。一本調子の急登ではあるが、段の高い岩があったり、深く掘れたルート脇を巻く所があったり、樹の根をハシゴにして登ったり。細かく見れば変化に富んでいるから、今どのあたりかがつかめているのは非常に助かる。
岩を一段登った先にある小ピークに達する。最初のうちは、この上が岩場かと思ったらまだ続きがあってガックリということも。そんなことを考えながら、さざ波のように樹の根が折り重なる登りに掛かってきた。これを登り切ると870mである。
と!。足元の岩にイモムシ。体長4cmぐらいの緑色で節ごとに白い斑点が並んでいる。後で調べるために写真を撮る。コンベックスを並べて撮ろうとしたら、伸ばしたコンベックスでイモムシを引っかけて、岩から足下へ転がり落ちる。すると、ヨトウによく似た丸まり方くねり方。選択肢が少し絞れたかもしれない。
870mに到着。目の前に6号鉄塔が聳えるが、森が育ってきたせいか以前ほどの存在感でもない気がする。
ヒノキの根っこに腰を下ろし、森を透かして射し込む朝陽を眺めながらジェット燃料なるヨウカンをついばむ。ここまでちょうど1時間。ペースは悪くない、7時半ぐらいには付けるかもしれない。
気温は高くないが少し蒸すので水を少しばかり多めに摂って、核心部の岩場にかかる。森に包まれているので高度感はさほどでもないが、もし岩だけのルートだったとしたら相当な高度感だと思う。スリップしたら致命的なので、引き締めて登る。
それでも、森の住人たちは普段通りに活動しているわけで、ルート脇のヒノキの幹に蛾が留まった。カメラを取り出してモデルになってもらったが…、「あなたはだあれ?」。枯れ葉に擬態した蛾は極めてありふれているから、写真を撮ったところで図鑑と比べて特定できる自信など全くない。
岩を登り終えても、まだ少し、荒れた登りが続くのが泣き所であるが、ここさえ抜ければお気に入りの森が待っている。そう思うと知らず知らずペースが上がって息が弾む。「コラコラ!」。ペースを落とす。
6:43、1000mの森に到着。低木が茂って少し雑然としてきた感もあるが、このキツい尾根にあって唯一落ち着ける森。お約束の小休止である。見上げる青空に向かって広げた樹冠が朝陽を浴びて風に揺れている。
もうすぐ7時。ちょっと前までは2時間かからずに登っていたが、すでに1:40。先週の中道より感覚的にもペースは遅い…。けど、山は競争ではないし、なにより山は登って終わりではない。1割2割の力で登っておけば、下山でヒザに楽をさせることもできるから、その分気楽になれる。せっかく山に来ているんだから気楽が一番。言い訳じみた「気楽」かも知れないが「何でもええは」。目の前の樹の幹に留まるヤマキマダラヒカゲも「気楽に行け」と言っている…そんなワケないか!。少なくとも足が疲れてペースが出ていないわけではない。ノン気に行こう。
森を抜けて尾根を回り込み、東多古知谷の斜面に出ると、今日もまたハッキリした北西〜西の風が吹いている。
♪ 風が吹いている ♪ トンボもここで生きている ・・・
頭の中で不意にリピートが始まった。ワシの中でオリンピックというと、風が吹いている、栄光の架け橋、輪になって踊ろう が3本の指に入るからだろうか。デタラメな鼻歌混じりで登っていく。
鷹見岩を過ぎて最後の急登にかかる。途中の見晴らしから下界を見下ろす。今日は雲海もなく、さりとてスカッとした晴れでもない。水蒸気で白濁して木曽三川より向こうはすっかり霞んでいる。それでも陽射しは熱い。山越えの風がハッキリしているから、今日も下界は暑くなるパターンである。
大黒岩に向かうルート分けて、少し勢いが戻ってきたかな?と思えるイブキザサの斜面を横切る。7:24山の上の下界に到着。
自然学校の前のベンチに腰を下ろして、例によってオニギリをついばみながら一休み。見上げる空には、今日もひつじ雲のような雲が目立つ。まだ夏になり切っていないのかもしれない。
マーキングを開始する。風の裏側になる園路には今日もアキアカネがたくさん集まっている。まずは三角点に登る。そのあと国定公園の記念碑に回ってみると、先週よりも風が強いからだろう、トンボは少なめ。だからサッサと御岳神社の入口の周辺へ移動する。やはり茂みにはたくさん集まっている。
8時半を回った。一旦自然学校に戻る。まだ自然学校の人たちは上がってきていない。広場の反対側の日陰でマーキングを始めると、今日の担当さんが先生夫婦と一緒に坂道を下りてきた。「おはようございま〜す」。
マーキングに区切りを付けて自然学校の前に戻ると、今日の担当さんがビーズの入れ物を持ってきた。中に入っているのはオオセンチコガネの糞。何でも…「ウ○コに群がる虫のウ○コを採ってきた」んだそうな…。
9時を回ると雲が広がってきた。背の低い雲で、おそらく気温が上がってくれば消えていくのではないかと思う。空を見上げながら歩くと、今日は冠峰碑の上の斜面にウグイス。声はすれども姿は見えず。いつものことか…。
三角点や国定公園の記念碑へは上がらず御岳神社の入口の方へ歩いて行く。まずは四阿でマーキングをして、少し先まで行ってみることにする。いつもトンボが集まっている御岳神社の入口の茂みは鞍部状だから、シッカリした風が吹いている。だから、もう少し先まで入ってみることにする。
そんな中、ササの葉の上に青紫の小さな蝶。「お初にお目にかかります。あなたはだあれ?」。ソ〜ッとカメラを近づけてみる。意外に逃げないので、そこそこアップで撮らせてもらうことができた。
後で自然学校の図鑑(文一総合出版:日本の昆虫1400)で調べてみた。「ムラサキシジミ」。…オスの前翅表面の青色部は幅広い楕円形だが、メスでは上部が欠ける…とあるから、コイツは♀か。分布が本州、四国、九州、南西諸島となっているから、どちらかというと暖かいところの蝶なのかな。そう思ってウィキペディアを見に行くと、…暖地性のチョウで、日本では宮城県から沖縄県にかけて分布。台湾、中国西部などにも生息している…とあった。それから、…幼虫の食草はアラカシ、イチイガシ、スダジイなどのブナ科常緑樹。これらが少ない場所ではクヌギ、コナラなどのブナ科落葉樹も食べる。…とも書かれている。ブナ科の落葉樹は山の上にもたくさんあるが、どちらかというと村の鎮守の森にあるどんぐりの樹がメインの食草になっているみたいである。御在所のようにブナ科でも落葉樹の多い山の上に居るのは少し場違いなのでは…、などと勘ぐってしまうが、ツマグロヒョウモンが当たり前に飛んでいるし、アブラゼミが鳴くようになったし…。そう考えると…。
御岳神社の入口に戻る。雲底が高いので、風上側の土山方面が晴れているのが見えている。まあ、そんな確認をしながら自然学校に戻っていく。そろそろ貸し出したタモを持つ子供たちも増えてきている。
受付の横でマーキング。時々、翅に「G」を書いて見せたり、♂♀の実物を見せたりしながら…。今日は、赤とんぼのほかに、木の枝やどんぐりなどを使った工作教室。時々「こんなん作ったよ〜」と子供が見せに来てくれる。
昼近くになった。すでに400を超えている。ハッキリした風が吹いているので♂♀拮抗しているが、先週のように♂の方が多いと言うことはない。午前の部は、♂…243、♀…256、合計499である。
午後の部。雲がかなり取れてきたので、トンボも舞い上がっているかもしれない。園路には子供たちがたくさん居るから、自然学校から少し離れて三角点へ行ってみる。茂みで翅を休めるトンボもソレナリに居るが、ここのトンボは普段から落ち着きがなく、見かける数のワリには数はかせげない。それに、相変わらず風が吹いている。エサになる小さな虫は風に吹き飛ばされてしまうんだろう。♂♀拮抗の状態は変わらない。それほど多くは飛び上がっていないと見える。
そのまま国定公園の記念碑へ行ってみる。風の強さは朝からそれほど変わらない気がするが、風向きが微妙に変化すると、地形との兼ね合いなのか、風が遮られて弱まることもあれば、収束して強まることもあるようで、強まったタイミングだと翅を休めることができる強さではなくなって、姿を見かけなくなる。
トンボが居なければマーキングもできないから、もう少し行動範囲を広げて峠道の入口まで行ってみる。御岳神社の入口の先の尾根を回り込む辺りから風が遮られてトンボも増えてくる。しかし風で追いやられたヤツらも多いからだろう、落ち着きがない。
ちょっと油断していたら雲の状態などすぐに変わるもので、いつの間にか少し背が高めの雲が空を覆っている。それほど暗い雲でもないが、一応は気にかけながら御岳神社の入口へ戻ってみる。今日は雲底が見えるので、本当に気分的に楽である。風上を見ると、相変わらず隙間のある雲が少し密に並んでいる様子が見て取れる。雨が落ちる様子もない。
2時を回った。ノドも乾いたので、一旦自然学校に戻る。受付の脇でマーキング。途中経過は699。今日は1匹足りないことになっているのか?。午前の部も499だった…。
時刻は2時半。打止めの目安としている3時まで、最後の一回り。まっすぐ御岳神社の入口の先へ行く。風が吹いているから、相変わらずトンボが落ち着かない。それに、風向きが若干変化したようで、尾根を回り込む辺りまで吹き込むようになって、少しばかり手こずる感じである。
四阿でマーキングしたら、自然学校に戻りながら最後の一網となる。今日も観光客がたくさん赤とんぼに参加して居たから、特に三角点の階段から自然学校までの園路はトンボも散っている。
自然学校に戻ってマーキング。結果は、♂…347、♀…391、合計738。今日も数こそ♀が上回ったが、♂率が47%と高い。この♂♀の数の関係は、一日を通して同じような感じで推移している。やはり、風が吹いているためにエサになる小さな虫が高く舞い上がれず、トンボもそれを追いかけて舞い上がることもなく、結果、比較的高く舞い上がると言われる♂も多くがタモが届く範囲に止まっていた。そんな感じだろう。
タモを片付けてマッタリしていると、先生の奥さんがビーズの入れ物にセセリチョウを入れてきた。「キマダラセセリですかね〜」。担当さんが持ってきた図鑑には、キマダラセセリとヒメキマダラセセリが並んでいて、即席見分け方教室。翅裏に斑点のような模様があるのがキマダラセセリで、後翅の裏が全面やや黄色っぽいのがヒメキマダラセセリ。だから入れ物に入っているのはヒメキマダラセセリだと判明。帰ってからウィキペディアをのぞいてみると、…年2回発生し、5・6月にかけて1回目の成虫が、8・9月に2回目の成虫が出る。…とある。7月の末だから、2回目の成虫だろう。気温が高く推移しているから、発生も早まったと考えられる。
3時半を回ると観光客も落ち着いてくる。店じまいを手伝ったら足ごしらえを始める。「また来ま〜す」。15:59裏道に入る。
とにかくスピードを抑えて下る。それでも国見峠通過は時間的には変わらない。
北谷に入っていくと、7合目までの付替ルートが少し歩きやすくなっている。最小限の道普請が施されたような感じである。7合目の水場の脇では、下りで迷い込みがちな枝道がロープで塞いである。その下の崩壊地を巻く付替ルートも歩きやすくなっている。「やっぱり道普請が入っとる」。
根曲がりの杉を過ぎ、落石の巣のような沢を渡り、6合目の道標を過ぎると、一番イヤな鎖場。ここもやがて足下が抜けて通れなくなるかもしれない場所。以前から少しずつずり落ちている岩も、とうとう一番下の足場まで落ちているし、鎖に頼らずに抜けることができていたのが、今では鎖がないと心許ない。
裏道は昔からよく「山の入門編」と言われている。しかし、登りにしても下りにしても、いつ歩いても結構厳しい。だから「『入門編』の前に『岩山の』が付くよ!」とよく言っている。平成20年の土石流以降、ソレナリに難しい場所があって、子供には無理があるかもしれない。
とは言え、これが「入門編」と言うのであれば、それも良いだろう。どんなルートでも鎖場やロープが張ってある場所はある。
山とはこんなもの。現代の人間社会の常識など通用しない自然の摂理に支配されている。それを受け容れなければ、山を知る、自然界を知る、その入口にも立てない。さらに、失敗しない人はどこにも居ない。どんなに山に慣れていても、失敗(=遭難)して命を落とすパターンも常に頭に置いておかなければならない。何しろ電話で救急車を呼ぶことはできないし、その前に居場所がわからないこともザラにある。山とはそんなものである。
鎖場を抜けて、岩に足を置きながら下っていくと藤内壁出合。そこからは少し歩きやすくなる。いつもの調子で歩いて行こうとすると、足の置き場が変わったところがある。やはり、それほど大規模な道普請ではないが、地味に直してもらっているような感じである。
水場で頭から水をかぶって日焼けを冷やし、水をついばんだら、岩場を抜けてウサギの耳。藤内壁を振り返ったら河原に入っていく。
土石流。それまで森だった所が真っ白な岩で埋め尽くされ、ここが北谷の河原、氾濫原であることを認識させられた。それから15年。すっかり緑が目立つようになってきた。あと10年もすると、すっかり森になって、以前のようにここが氾濫原であることが分からなくなるのかもしれない。そんなことをボンヤリ考えながら河原を下りていく。少し前までは、藤内小屋の屋根が見えて来て「着いた着いた」と思っていたのが、やはり樹が育って隠れ始めている。そのうち屋根が見えるよりも先に電源のエンジンの音が聞こえるようになるのかな。
17:00藤内小屋到着。「どうしとったん?」「ほかの山に浮気しとったもんで…」常連さんから早速声がかかる。お馴染みの面々がいつものように玄関先に居て、「コーヒー飲んでって」「ありがとう」「ビールは要らんか」「車に乗るであかん!」「真っ赤っかやんか、もう飲んどんのとちゃうの」「日焼け日焼け!」。やがて大将も加わって、いつもの感じで駄弁り大会。夏の元気なごあいさつである。
今日は藤内小屋でも30℃まで上がったとか。「夏になり切ってないのかな、山の上でもずっと西風が吹いとって、それが吹き下ろすで暑いんやに」「気候がおかしくなってきて下には居れんようになってきた」「昔は最高気温33℃で『うぇ〜っ!』て言うとったもんな〜」。30〜40年前はそうだった。毎日現場に出ていたから体が知っている。
駄弁り始めると腰が落ち着いて根っこが生えてしまうので、「また来ます」とソコソコで切り上げる。ヒグラシの声を聞きながらノン気に歩き、18:24、駐車場に帰還。
帰り道で山を振り返る。上空の薄い雲にはまだ陽が当たって明るく光っているが、その手前の山はすでにシルエットになりつつある。山のすぐ上の雲が頭を南に傾けて山を越えて流れていく。結局山の上は、陽が沈んでも風が吹いている。
夏になりきれないでいる夏の夕暮れである。
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