猿投山の大崩壊地形


- GPS
- 03:18
- 距離
- 9.2km
- 登り
- 560m
- 下り
- 560m
コースタイム
- 山行
- 3:09
- 休憩
- 0:09
- 合計
- 3:18
天候 | 雨上がり。稜線は視程50mのガス。 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2025年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
図2で示す公開版と異なり、かつて私が奥村さんから直接頂いた地図には、「ガレ」ではなく「大崩壊地形」と書いてあり、登山道脇に「柵」と書いてあった。誰でも知ってる場所だ。
奥村さんが大崩壊地形と認識したガレについて調べた結果、東の宮の鳥居の南方で、1972年5月に何事もなかった場所が、1972年10月には大規模に崩れている事がわかった。
現在の登山道を合成して分かり易くした。どうでしょう。崩落は、武田道分岐の上、大岩展望台の西側で発生し、谷底を流れ下っていた。観光展望台方面からの直線の筋は索道だろう。修復のためかはわからない。
大看板と空中写真を比較すると観察路分岐、崩壊地形、避難小屋の位置関係はよく似ている。意外なことに大看板は、テキトーな地図ではなさそうだ。すいません、大看板さん、疑っていました。(国土地理院の空中写真 1977年)
ここは東の宮へ行く途中の鉄製桟橋の下。ここには、大崩壊地形の候補地と同じブロックが存在する。両者が関係するのか不明だが、もし関係あるなら、大規模豪雨が原因かもしれない。
感想
長文で失礼します。また大崩壊地形の場所が確定済みであるならご容赦ください。なお、数回の山行と自宅・図書館での調べを基に、これを書いています。
(1)猿投山の大崩壊地形
私は猿投山の達人さん「36話.ずっと探しているものの話」で、“所在不明の大崩壊地形”を知った(図1)。大崩壊地形は、2019年まで存在した第一駐車場の大看板の地図に記されており、猿投山の達人さん、neo☆nさんは、この看板の設置を、看板内の御岳山の噴煙から1979年頃としている。慧眼! 両氏のこの推測がなければ、私は調べをあきらめていただろう。
この看板を元ネタにした地図は複数存在し、崩壊地らしきものを武田道分岐と小屋の間に描いた地図もある。だが、その地図は、おいでんバスが書かれていることから最近の地図だ。武田道を既存の地図にテキトーに追加したとしか思えず、信用できない。
ネットでの調査は行き詰るが、達人さんらの看板作成年代の推論を手掛かりに、その頃の資料を漁った。そして、一枚の地図が見つかった! 驚くなかれ、なんと自宅からだ!
(2)奥村さんの手書き地図に書いてあった大崩壊地形
ところで奥村光信氏を御存じだろうか。奥村氏は、GPSなき1980、90年代、鈴鹿を中心に「手書き登山地図」という分野を開拓された素晴らしい才能の持ち主である。年配の方は三岐鉄道の各駅に、鈴鹿山地の手書き地図が、無料配布されていたことを覚えておられるかもしれない。
私は1987年、奥村さんから直接、大量の手書き地図を頂いており、先日確認したところ、奥村氏が「後藤ぶどう園」さんの案内で、1980年10月12日初めて猿投山を登った際の地図を見つけた。
そこには、避難小屋の一つ上の「ベンチ」と、その上の「鉄製桟橋」の間に、ガレのイラストとともに、「大崩壊地形・柵(サク)」と書いてあった。やっと見つかった!という思い。場所は、誰でもわかると思う。大岩展望台の西側である。
これを見た瞬間、「あぁあそこか!」と思った。現在は木が茂っているものの、確かに、あそこはガレだ。御門杉から東の宮の間で、谷側に柵がある危険地帯はあそこしかない(桟橋、観察路を除く)。何より、大看板に記された大崩壊地形は、素直に読めば現在の大岩展望台のすぐ西側だ。
ただ致命的に悩ましいことがある。奥村さんの地図は、有志の方がネットで公開されている。念のため確認したが、公開版の地図は、私が奥村さんから、直接頂いた地図と微妙に違いがある。致命的な違いは、公開版では「大崩壊地形」を「ガレ」としか説明していないことだ。
私が奥村さんから頂いた「大崩壊地形」と書かれた地図を、ここで掲載したいところだ。しかし、それはプライベートな私信なので、ここでは、(大崩壊地形と書かれていない)公開版の地図を掲載する(図2)。
(3)国土地理院の空中写真でガレの発生時期を特定
前述の通り悩ましいこともあるが、地図作りの才能を持つ奥村氏が、あのガレを一時的かもしれないが、大崩壊地形と認識したことは確かである。このため調べを進めた。手掛かりは、1980年に奥村氏があの場所を崩壊地と認識したことから、当時、あのガレは新鮮だったという可能性だ。その観点で資料をあさると、国土地理院の空中写真のサイトから、あのガレは1972年5月〜10月のどこかで発生したと特定できた(図7)。
カラーで撮影された1977年(図8)の写真がわかりやすい。また、理解を促すため、現在の登山道のGPSを合成した図も掲載する(図9)。これら見ると、歩道から谷底まで派手に崩れ、更に谷を流下していることがわかる。観光展望台方面からは索道?が伸びているように見える。林業のためか修復のためかは不明だ。
拡大図も示しておく(図10)。当時は歩道から、この新鮮な土砂崩れが谷底まで見えていただろう。看板作成の1979年頃、奥村氏が訪れた1980年からすれば、土砂崩れは、遠い昔の事件ではなかったはずだ。大げさすぎるネーミングだが、ここが「大崩壊地形」である可能性が高い。
(4)東海自然歩道との関係
気になるのは自然歩道と、このガレの関係だ。wikiによれば、東海自然歩道は1969年に厚生省で発案、1974年に"全国"整備完了とある。
なので、1972年5〜10月の間に発生した、あのガレは、猿投山の自然歩道の整備直前・直後か、工事中に発生したことになる。関係者はとても驚いたことだろう。なお自然歩道は、予算が確保された市町から工事を始めたことから、整備完了年は市町で異なることも別資料からわかった。
(5)あのガレの発生原因の憶測
現場でガレを確認すると、特徴的な擁壁に気づく。塩ビの穴が2つあいたブロックが使われているのだ(図12)。実は、この擁壁は別の複数の場所にも存在する(図13)。同時多発的な土砂災害か?。なら、原因は大規模豪雨?
すぐに頭に浮んだのは、”小原と藤岡に壊滅的な土砂災害をもたらした伝説級の豪雨”のこと。「それって、いったいいつの事?」という疑問。まさか?と思って調べると、ビンゴ!
■昭和47年(1972)7月豪雨 1972年7月12〜13日
空中写真で判明した崩落期間の1972年5〜10月にピタリ一致する。ちなみに豊田市にとって「昭和47年(1972)7月豪雨」は、「伊勢湾台風」「東海豪雨」に並ぶ最大級の気象災害だ。
話を元に戻す。こうなると、次に市内の自然歩道の正確な整備完了年が、いつなのか気になった。手こずったが、図書館でわかった。
■豊田市内の自然歩道の整備完了 1972年4月1日
つまり、豊田市が自然歩道の完成を宣言した、わずか3か月後に崩落した可能性があるという事である。出来たばかりの歩道も道連れにしただろう。
(6)まとめ
今回、奥村さんの地図をきっかけに、大岩展望台の西側のガレは、自然歩道の整備完了(1972.4.1)直後、1972年5月から10月のどこかで発生したことを明らかにした。歩道も崩落しただろう。更には、昭和47年(1972)7月豪雨で崩落した可能性まである。
その影響で、駐車場の大看板に「大崩壊地形」として記されたものと推測する。看板に描かれた大崩壊地形の位置とも一致する。
崩落から7年もすれば、(風化花崗岩地帯の)土砂崩れ自身やその修復作業も、猿投山の(社会的・自然科学的な)見どころの一つとして評価され、大看板に記されたのであろう。何より当時は、とても新鮮な光景の中を自然歩道を通過していたのである。
が、残念ながら、今回は「●●が大崩壊地形である」と記した疑義のない文書が見つかったわけではないので、正確には、有力な候補地が見つかったというところだろう。
(注:奥村さんの2枚の地図の一方に、ガレ、一方に大崩壊地形と書かれていることから、私は、残念ながら、現時点では”疑義”が残ると判断した。もちろん、今回、判明したガレの崩落時期・状況などから、とても有力な候補だと思っている。)
(7)最後に
前述の通り、40年前、(偶然、南木曽岳と宮指路岳でお会いした)奥村さんから、御親切なことに、大量の手製の地図を頂いた。当時、私は学生だったので、手紙でのお礼しかできなかったのが残念だ。この場を借りて、改めて奥村様にお礼申し上げます。
あと、ネットで、様々な方のサイトを参考にさせて頂いた。特に、猿投山の達人氏、neo☆n氏、luneaciel氏、てっぱん氏の記事は何度も読ませて頂いた。お礼申し上げます。
【参考1:やぶこぎネット 奥村さんの絵地図】
奥村さんの地図は、「通風山」様が「やぶこぎネット」で公開されています。
(猿投山は、西三河の上から7番目にあります)
https://www.yabukogi.net/viewforum.php?f=14
奥村さんの地図は、GPSなき時代の登山地図のあり方の一つと思っています。ぜひとも上記サイトをご覧頂ければ幸いです。ただ、古い地図なので利用には十分な注意が必要です。特に、鈴鹿は2008年の記録的豪雨で登山道が劇的に変わってしまったと思います。
【参考2:私のホームページ】
言いたいことのすべては、このヤマレコに書きましたが、ホームページには少し、書き足してあります。現場付近の3D立体表示を国土地理院サイトを利用して作っています。少々いい加減ですが、ドローン気分????が味わえます。御興味がありましたら、どうぞ。次のページの一番下です。
https://sumashiroku.main.jp/014/014.html
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