台高山脈 縦走 池木屋山〜大台ケ原
三重県
奈良県
こばっち
体力度について
- GPS
- 31:55
- 距離
- 53.0km
- 登り
- 5,880m
- 下り
- 4,542m
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- 山行
- 7:15
- 休憩
- 0:47
- 合計
- 8:02
- 山行
- 11:08
- 休憩
- 1:34
- 合計
- 12:42
| 天候 | 晴れ、5/4午前中のみ雨 |
|---|---|
| 過去天気図（気象庁） | 2025年05月の天気図 |
| アクセス |
利用交通機関：
電車 バス
|
| コース状況／ 危険箇所等 |
踏み跡無し、岩場は鎖やロープも無し、道迷い箇所多数 |
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感想
台高山脈は、中央の池木屋山を起点として、その様相は大きく変わる。北部の高見山迄は、途中に明神平や桧塚と言った有名な峰が数多く並び、登りやすく、多くの登山者が踏み固めた足跡のお陰で、まず道に迷う事はない。
南部の大台ケ原迄は、これこそが台高山脈の核心部と言える。登山者は少数であり、そもそも各峰への途中からのアプローチルートが無いせいか、人気が無く、登山道自体が無い。そう無いのだ。踏み跡はほぼ無い。自分が歩く場所が道。従って地図とコンパス、GPSを駆使して自ら原生林の中の道を切り開きつつ、各所に自生するヒメシャラの幼木を初めとし色々な草木をかき分け、幾多のピークを登り、そして下っていく形となる。また大峰山脈にも有るような数ｍの岩も無数に有るが、どれも鎖やハシゴと言った気の利いたものは皆無であり、ロープも３本程度有ったか。そのロープですら、ボロボロで掴めば切れそうなもので有り、結果として木の根や岩壁の僅かな窪みに手足をかけ、縦走荷物で２０ｋｇは重くなった自身の身体を、脚力と腕力を駆使して押し上げる他無いのである。
紀伊半島において、最難関と言える山脈は、大峰山脈が一般的な答えだが、台高山脈とそのどちらも行ったことが有る自分は、台高山脈南嶺を自信を持って推薦したい。
5/3
9:00蓮ダムから池木屋山を目指し、宮ノ谷登山口までを歩く。今回、つま先で地面を蹴るように歩くのはやめた。スピードは上がるが、膝付近の筋に過度な負担を強いる為、翌日からランナー膝との激痛の原因となる事が、今までの登山経験で判明したからだ。ペースは標準タイムと同じか、１割程度遅い事を目標に歩く。
11:30。２時間半の後、宮ノ谷駐車場に着く。軽くおにぎりを食べ登山開始。尾根へ出る急登は相変わらずキツイが、この半年間の腕立て伏せの効果で、腕で押し上げる様に登ると、グッとラクになった。
尾根に上がってからは、冗長な登りが続く。第一の宿泊目標としていたコブシ平は14:00頃に通過。ここに１日目で到着出来なければ、下山も考えていた。
15:00。霧降山の手前で別の登山者に会う。何でも、県境稜線を歩きつなげているようだ。彼とは翌日も何度か会い、孤独な旅の良き支えと成ってくれた。
15:45。池木屋山の手前で二人の登山者と会う。明神平迄行くという。台高山脈縦走とは言っても池木屋山の北は、景色も有り、楽しい台高山脈が広がって居るが、未知のストイックさに溢れる南へ行く人間はまず居ない様だ。
16:00。池木屋山を越え、遂に南縦走路へ。ここからが台高山脈の核心部。しかし路と言っても踏み跡が全く無くなり、一体何処を歩けば良いか戸惑う。お陰にヒメシャラの幼木だらけで、これらを掻き分けて歩く他無い。これが台高南の洗礼か。遠くに見えるホウキガ峰へコンパスを当て、ヤマレコGPSを開けつつ、自身の歩く方向を確認しながら激下りを歩いた。
17:00。ホウキガ峰。あと１時間程日が持ちそうだが、初日だしここでテン泊しよう。コブシ平の予定が、縦走路に入れただけでも上出来だ。夕食は写真にも有るトンコツラーメンのインスタント。スープが美味すぎた。しかし麺が生煮えだった。持ってきたラフロイグウイスキーをスキットルで飲んで寝た。
5/4
4:00起床し、朝食のα米とインスタント麺を食べ、テント撤収。しかし明るくなるまでは歩き出す気に成れなかった。道が無い以上、ヘッドランプ登山は道迷いのリスクしか無い。
5:00。行動開始。弥次平峰を目指す。細かなピークのアップダウンを繰り返す。巻きたいが、峰の側面は急峻な斜面で有り、トラバース出来る様な踏み場は無い。結局、尾根を行くのが一番安全なのだ。途中、さっと雨に降られた。テントが濡れなくて良かった。ザックの中にずぶ濡れのテントは入れたくない。
6:30。大黒尾根の水場。30〜50m歩いた所で湧いており、2.5L給水し、更に1Lの生水を飲んだ。これで半日は水を飲まずとも安心だろう。更に700ｍｌペットへ、粉末ポカリスエットを溶かす。昨年の大峰の経験から、適度なスポドリ摂取がもたらす、登りパワーへの強さを期待してのことだ。
7:30。弥次平峰。あまり覚えて居ないが、ここから痩せ尾根や、岩場の尾根も出だした様に思う。林道から離れており、伐採から逃れた樹齢数百年はあろう巨木がそこかしこに有った。岩場が突き出す急峻な峰を原生林が覆っており、そこを縫うように、私は登り、下った。登りも下りも、踏み跡が無く、柔らかい土の斜面を、低木を避けて直登、直降する他なかった。途中、3〜4ｍはある崖に出会う。大峰山脈なら業場クラスだろう。当然、ロープも鎖も無い。何とか木の根、岩を掴んで降りた。その先で、昨日会った県境稜線を歩く青年と再会した。今から池木屋山の登山口まで戻ると言う。健脚な方だ。お互いの無事を祈り別れた。
10:30。馬の鞍峰。お昼として昨日のおにぎりを食べる。全然イケる。そこから地池越を目指した。途中から、杉の人工林が少しずつだか見え出す。下に林道が走っているからだろう。こんな山奥まで、伐採で入って来れるのか。当時の木こりは命懸けでこの山へ木を切りに入ったのだろう。伐採の歳に、ボロボロの峰や斜面がならされたせいなのか、このあたりの峰の岩場は、少し緩かった。それにしても小さなピークがいくつも続く。50ｍ程登っては下る。その繰り返しだった。
途中、他の登山者に出会う。彼女は北へ向うらしい。台高山脈は道が無く、ルート選定が難しい、との話で一致した。そしてブナノ平の水場はバイケイソウだらけだと教えて貰った。そこからの下りが難しかった。最早崖だ。ボロボロのロープがかかって居るが、切れそうなので掴めない。木の根、岩を掴み、ツイスターの様な3点姿勢で慎重に降りる。ミスれば命は無いだろう。ゆっくり歩いているせいで、膝の痛みが無いのが救いだ。10ｍ程降下して、やっと急斜面の尾根に出る事が出来た。
15:00。カコウキ越。その後ろの山ノ神の頭からが難しかった。山ノ神の頭から下り出したが、何故か元来た道を戻り出してしまった。コース上に居るのでヤマレコもアラートを鳴らさない。鞍部に出てから5分ほどして気づき、再度登り返す。その際、若干のトラバースを行ったが、靴が足裏に対して斜めになったせいか、足裏のテーピングがズレた。そして左右の足の皮が明らかにズレた感覚を持った。今回の山行では、いつもの膝の痛みは無いものの、足裏の皮の痛みがネックとなり始めていた。
その後、湯谷ノ頭周辺への痩せ尾根もしんどかった。右手の西斜面は崖。左手側も危ないが、地図上では下に林道が走って居るという安心感があった。今日中にブナノ平までは行っておきたい。私は休憩中に気付薬に持ってきたコーラを半分飲んだ。効果はてきめん。血糖値が上がり力が出るように成った。カフェインのお陰で倦怠感も一掃された。コーラパワーはやばい。足の裏は更に痛みを増し、明らかに皮がむけだしている感覚を持ち始めて居たが、気合で我慢をしつつ、コーラパワーのお陰でキビキビと岩場と巨木を縫うように歩いた。
18:00。ブナノ平。ここは水場が有るから、明日の朝、給水に行ける。ささっと設営し、食事を準備した。今日もトンコツラーメンだが、麺は4〜5分煮込んだお陰で、本来の美味さが出た。ついでにお湯で、α米２つを戻した。１つは朝食、もう１つは昼食だ。
予定よりかなり早く歩けている。２日目の予定は馬の鞍峰。この分なら、明日、頑張れば16:00の大台ケ原のバスに間に合うかもしれない。そう考えつつ、ラフロイグを飲んで寝た。
5/5
3:30起床し、朝食、撤収を4:30に済ませる。ギリギリ外が明るみ出したので、水場へ行った。
昨日の話の通りバイケイソウだらけだった。登山道すら無い原生林だらけの山脈で、農水省の測候所が異様だった。沢の傾きが緩く、ペットボトルへ思う様に給水出来ないが７割入って良しとした。そして１L水を飲み、後の給水を減らす。そして当日分のポカリスエットを700ｍｌ作った。5:00に出発した。
父ヶ谷山へのルートは、単純な登りだったが実にキツく、良いウォーミングアップになった。さっそくポカリスエットを飲みつつ登る事になった。朝の風が冷たかった。
そこから振り子辻を目指す。実に台高らしいルートだった。相変わらず道が無いので、適当に歩きやすそうな斜面を登る。足の皮の痛みが増し始めており、トラバース等の無理は出来なかった。巨木と岩場を縫うように歩く。遠くの大峰山脈が実に雄大だ。次は大峰かなぁと気を抜いていると、ピークからの降り口が分からないので、何回かに１回は支脈へ入りかけヤマレコのアラートに助けられる。本当にGPSが無ければ遭難してたと思う。
8:00振り子辻。道間違いも有ったが、このペースなら、何とか今日中に下山できるかもしれない。休憩の度に、せっかく慣れた足裏の痛みや、豆と成った皮の水ぶくれへ、新たに体液が入り、また歩き出すと押し出されて多少は痛みが和らぐ事の繰り返しだった。
9:30。引水サコ。ここから御座グラまでが最後の難所と言えた。まずは残りのコーラを飲んで気合を入れる。血糖値が上がり、明らかに力が出やすく成った。斜面を急登し、その上は3ｍ以上の岩壁。シャクナゲの枝が無数に飛び出ており、登り切った場所が見えない。何にせよピークへは岩壁と木の根をよじ登らないと行けない様だ。いつも行く手をお邪魔するシャクナゲの幹を掴んで登る。ロープは相変わらず腐ってちぎれそうだが、ここのロープは掴まないと怖かった。
やっとの思いで上がると、またもやシャクナゲで鬱蒼とした岩場。そこから登った先には大峰山脈の雄大な景色と５月の青空が広がっていた。絶景もそこそこに、同じ様な危険な岩場を下る。そこから添谷山までは、歩ける場所が１本しか無いのか、踏み跡のルートが着いていた。今までルート等無かった台高山脈に於いて、少しだけ感動してしまった。何だか久し振りに人間の営みを見た気分だ。
11:00。添谷山。今日中の下山が出来るかもしれないとの期待を胸に、昨日戻したα米をかき込む。そこから大台辻までは、岩場がなくなって行き、なだらかな尾根道と成っていった。巨木が林立する見通しの良い道。今までの台高山脈とは全くに違った顔だった。今までの台高が嵐なら、この巨木の街道は春の陽気で有った。足裏の痛みはピークだが、道のなだらかさのお陰で、そんな事はどうでも良くなっていた。
12:30大台辻。立札に、今まで来た道が「悪路注意」と書いてある。「路」では無いと思う。ここから池木屋山までは「路」すら無い、文字通り道なき道なのだ。ここで実質的に台高縦走は終わったと思う。しかし、最後の筏場道もなかなかの難路だった。ところどころトロッコ道の跡である石垣は崩れ、通行不可能な程の倒木も有った。三津河落山を素直に登った方が良かったかもしれない。
単調なグネグネ道をひたすら歩き、時に崩落した沢を崖伝いに越え、時に倒木を潜り踏み越え歩いた。途中で２人目の台高縦走者に出会った。５０代ぐらいの男性か。休憩しているようだ。少し会話し、高い登山経験を感じさせた。私は急がないとバスに間に合わないと言って、後にした。その後、更に道を埋め尽くす倒木が有り、久々に岩壁を越えるようにクリアしたが、あの縦走者は越えられたろうか。バスには間に合わなかったみたいだが、越える分には問題無いだろう。この山脈を踏破出来る実力が有れば、怖いものなど無いのだ。
14:30。車道手間の笹原に出る。何と明るく開けていることか。今までの鬱蒼とした登山道が嘘のようだ。まるで天国の花畑だ。味わう余裕も無く車道へ出た。そこから20分歩く。行楽日和なのかハイカーが多い。
15:00大台ケ原登山センターに着いた。
この台高山脈縦走は、私の登山経験の中で、比類無き行き困難さだったと思う。感無量のあまり、少し涙がでてしまった。
記念写真を撮り、バスに並んだ。皆、大杉谷を登って来たようで、どこか小綺麗だった。私はと言うと、全身が薄汚れていた。自分との「綺麗さ」の違いに苦笑してしまった。
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