記録ID: 8538188
全員に公開
沢登り
大台ケ原・大杉谷・高見山
【台高】銚子川 岩井谷 遡行
2025年08月09日(土) 〜
2025年08月10日(日)
三重県
hillwanderer
- GPS
- 32:00
- 距離
- 15.4km
- 登り
- 1,727m
- 下り
- 1,724m
アクセスを調べる
標高グラフを拡大コースタイム
1日目
- 山行
- 10:10
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 10:10
6:20
10分
駐車地
6:30
170分
岩井谷に入渓
9:20
190分
三平滝の堰堤
12:30
50分
小瀬谷出合（標高点458m付近二俣）
13:20
190分
梅ノ木谷出合（標高約510ｍ付近二俣）
16:30
ビバーク地点（梅ノ木谷出合から約500m上流地点、連瀑帯を越えたところ）
2日目
- 山行
- 12:30
- 休憩
- 0:30
- 合計
- 13:00
5:30
90分
ビバーク地点（梅ノ木谷出合から約500m上流地点、連瀑帯を越えたところ）
7:00
30分
十字峡（標高点764m二俣）
7:30
300分
奥ノ大滝（70m大滝）
12:30
13:00
210分
稜線直前の二俣
18:00
30分
林道に到着
18:30
駐車地
| 天候 | 8/9 晴れのち曇り、夜半から小雨 8/10 雨ときどき曇り |
|---|---|
| 過去天気図（気象庁） | 2025年08月の天気図 |
| アクセス |
利用交通機関：
自家用車
|
| コース状況／ 危険箇所等 |
・ この谷には簡単に通過できる滝場というものがほとんどなく、ほどほどに難しいか、すごく難しいかのどちらかしかない。概して直登が難しい巨瀑が頻繁に現れ、高巻く機会が多くなるが、両岸の傾斜が全くと言っていいほど緩まないので、ひとたび高巻けばほぼ確実に大高巻きになる。そして右岸も左岸もどちらも同じくらい悪そう、という悩ましい場面が多い。その中でのルート選定力と、一旦行き詰っても諦めずに谷に食らいつく粘り強さが試される谷と感じた。 ・ 【注意！】三平滝に続く巡視路の鉄橋の手前付近、谷のど真ん中の大岩に、スズメバチの巣があります。一番通りやすいルート上にあるので、注意していないと気付かずに接近してしまう恐れあり。ここは仕方なく谷の左岸側の隅を隠れるように通過しましたが、ちょっと苦労しました。 ・ 深い淵や釜が多く、泳がされる機会も多いため、ザック内の防水はしっかりしたほうがよい。水温はそれほど低くないので、盛夏であれば普通の沢着でも大丈夫。 ・ 険しい谷のため、良い泊まり場はそれほど多くない。泊まり場の候補としては、�‐�瀬谷出合から梅ノ木谷出合の間、��標高点764mの通称「十字峡」の手前の、谷が北東向きから西向きに湾曲する周辺、��最後の30m滝を越えた稜線直前の二俣のあたり、の3つくらいだろうか。この谷は一旦悪場に入ってしまうと抜けるのに時間がかかるので、夕刻が迫っている場合は無理に突っ込まないほうが良い。 ・ この時期は、数は多くないもののアブやブヨがつきまとって煩わしいので、防虫ネット必携。今回の泊まり場は蚊がいなかったが、たまたまかもしれない。 ・ ヌメリは強めの印象で、フェルトソールで来てよかったと感じた（フェルトでもかなり滑ったくらいなので、ラバーだと苦労しそう）。 【下山について】 ・ 樫山経由での下山ルートをとったが、多くの方が採用している最後に発電所の導水管を降りるルートではなく、樫山から直接南尾根を下って林道に出るルートをとった。このルートはハイカーの方々が樫山に登る際に使われているルートで、導水管を降りるルートに比べて、岩稜などの難所はほとんどなく、ルートファインディングも難しくない点が利点。ただし、最後に銚子川を渡る必要があるので、増水が激しい時は気をつけたほうが良いかもしれない（今回、渡渉箇所の巨大堰堤は全く水が流れていなかったが）。また、ルーファイ注意の箇所が2箇所ほどあるので、詳しくは写真欄を参照してください。 |
写真
銚子川沿いの概ねきれいなダートの林道を走り、銚子川第二発電所最寄りの駐車場兼待避所に駐車。対岸に見えているのが発電所の導水管。
対岸に発電所を見つつ銚子川の河床を少しだけ下って、岩井谷出合。いきなり巨岩がどかどかと鎮座しており、この先の険しさが思いやられる眺め。
と、目の前に美しい20m直瀑が。左岸は圧倒的な高い壁で、巻くなら右岸が良さそうだが、ここまで左岸側を登ってきてしまったため、巨岩の谷を右岸に渡り返すのがめんどくさくなり、左岸巻き。思った通り結構登らされて大変だったが、危なげなく巻けた。
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と、目の前に美しい20m直瀑が。左岸は圧倒的な高い壁で、巻くなら右岸が良さそうだが、ここまで左岸側を登ってきてしまったため、巨岩の谷を右岸に渡り返すのがめんどくさくなり、左岸巻き。思った通り結構登らされて大変だったが、危なげなく巻けた。
巻き終えて降り立ったところが、この淵と小滝。ここは泳げば簡単に越えられそうだが、その奥に容易ならざる大滝の気配が…。行き詰る予感がしたため、右岸から巻いていく。
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巻き終えて降り立ったところが、この淵と小滝。ここは泳げば簡単に越えられそうだが、その奥に容易ならざる大滝の気配が…。行き詰る予感がしたため、右岸から巻いていく。
灌木頼りに慎重にクライムダウンして、奥に見えた滝のほぼ落ち口に降り立つと、一見取り付くシマもなさそうなツルツル斜滝のゴルジュが口を開けていた。これは巻いてよかった、と現地では思ったが、帰宅してから調べたところ、恐らくこれは斜滝20mで、非常に美しい姿の滝のようだ。たとえ登れなくても滝下まで行ってみても良かったかもしれない。後知恵だけど。
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灌木頼りに慎重にクライムダウンして、奥に見えた滝のほぼ落ち口に降り立つと、一見取り付くシマもなさそうなツルツル斜滝のゴルジュが口を開けていた。これは巻いてよかった、と現地では思ったが、帰宅してから調べたところ、恐らくこれは斜滝20mで、非常に美しい姿の滝のようだ。たとえ登れなくても滝下まで行ってみても良かったかもしれない。後知恵だけど。
ここはかなり壁が立っていて簡単に谷に戻れず、15mほどの懸垂下降となった。今回の遡行で唯一の懸垂下降。できる限りロープを使わずに遡行したいと常々思っているので、この一回の懸垂がちょっと悔しい。
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ここはかなり壁が立っていて簡単に谷に戻れず、15mほどの懸垂下降となった。今回の遡行で唯一の懸垂下降。できる限りロープを使わずに遡行したいと常々思っているので、この一回の懸垂がちょっと悔しい。
右手前方には、小さな鉄橋が見えだした。あれが三平滝に続いている鉄橋だろうな。
と、谷のど真ん中の大岩に、スズメバチが巣を作っているのを発見！ その周囲をスズメバチが活発に飛び回っている。よりにもよって一番通りやすいと思われるルート上にあり、もう少しのところで気づかず突っ込んでしまうところだった…。ここは身をこごめるようにして谷の左岸側の隅を恐る恐る通過したが、本来は必要ないと思われる泳ぎやボルダリングをやらされて、ちょっと苦労した。
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と、谷のど真ん中の大岩に、スズメバチが巣を作っているのを発見！ その周囲をスズメバチが活発に飛び回っている。よりにもよって一番通りやすいと思われるルート上にあり、もう少しのところで気づかず突っ込んでしまうところだった…。ここは身をこごめるようにして谷の左岸側の隅を恐る恐る通過したが、本来は必要ないと思われる泳ぎやボルダリングをやらされて、ちょっと苦労した。
三平滝の滝壺は発電所の取水口となっており、簡単に滝は見られないということは分かっていたが、一応現地を見学に行くため、巡視路を上流へ辿る。大岩に埋められた谷の空中に、もう一つの鉄橋が掛かっているのが見える。よくこんなところに取水口を設置しようと考えたものだ…。
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三平滝の滝壺は発電所の取水口となっており、簡単に滝は見られないということは分かっていたが、一応現地を見学に行くため、巡視路を上流へ辿る。大岩に埋められた谷の空中に、もう一つの鉄橋が掛かっているのが見える。よくこんなところに取水口を設置しようと考えたものだ…。
三平滝の滝壺にある取水口の堰堤。滝を正面から見るためには、この堰堤を乗り越え、滝壺を泳いで左岸側の壁に乗り上げる必要がある。が、堰堤のハシゴの下部が取り外されており、登るには投げ縄などの工夫が必要。正直そこまでするモチベーションはないので、周囲に簡単に滝を見られるルートがないことを確認だけして、引き返すことにした。しかし、こんな険谷の奥の大滝の滝壺をそのまま取水口にするとは、物凄く前衛的な発想な気がするのだが…。
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三平滝の滝壺にある取水口の堰堤。滝を正面から見るためには、この堰堤を乗り越え、滝壺を泳いで左岸側の壁に乗り上げる必要がある。が、堰堤のハシゴの下部が取り外されており、登るには投げ縄などの工夫が必要。正直そこまでするモチベーションはないので、周囲に簡単に滝を見られるルートがないことを確認だけして、引き返すことにした。しかし、こんな険谷の奥の大滝の滝壺をそのまま取水口にするとは、物凄く前衛的な発想な気がするのだが…。
とはいうものの、ちょっと未練があり、少し手前から左岸岩壁を巻く形で三平滝を眺められないか試みてみたが、左岸側の尾根もかなり険しい岩稜で、簡単ではないことが判明。差しあたってはそれだけ分かれば満足だ。
とはいうものの、ちょっと未練があり、少し手前から左岸岩壁を巻く形で三平滝を眺められないか試みてみたが、左岸側の尾根もかなり険しい岩稜で、簡単ではないことが判明。差しあたってはそれだけ分かれば満足だ。
三平滝を右岸から巻くため、今度は巡視路を逆に下流側へと辿り、右岸の尾根へと乗り上げる。
右岸尾根の上にはマーキングもあり、遡行後に樫山経由で発電所に下山する際のルートにもなっているが、かなりの急斜面であるうえに随所に岩稜が発達していて、確かにこれを下りで使うのは大変そうである。というか、登りで使うのも大変…泊まり装備の重荷もあり、体力をごっそり持っていかれた。
右岸尾根の上にはマーキングもあり、遡行後に樫山経由で発電所に下山する際のルートにもなっているが、かなりの急斜面であるうえに随所に岩稜が発達していて、確かにこれを下りで使うのは大変そうである。というか、登りで使うのも大変…泊まり装備の重荷もあり、体力をごっそり持っていかれた。
急斜面が緩んだところの浅いコルから谷状地形を急降下し、何とか歩いて谷に戻れたが、目の前には相変わらず巨岩に埋め尽くされた谷と、その向こうに堂々と瀑水を落とす大滝が。
急斜面が緩んだところの浅いコルから谷状地形を急降下し、何とか歩いて谷に戻れたが、目の前には相変わらず巨岩に埋め尽くされた谷と、その向こうに堂々と瀑水を落とす大滝が。
高さ以上に野太い感じの15m滝。ここは左岸にロープが下がっていたが、何となく悪そうなので、容易に取り付けそうに見えた右岸から巻いていく。（帰宅してから調べると、「ルート100」では左岸巻きとされている。どっちが容易なのかは不明）
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高さ以上に野太い感じの15m滝。ここは左岸にロープが下がっていたが、何となく悪そうなので、容易に取り付けそうに見えた右岸から巻いていく。（帰宅してから調べると、「ルート100」では左岸巻きとされている。どっちが容易なのかは不明）
右岸のルンゼを少し登ると、上流側に明瞭なバンドが出てくるのでそれを辿り、最後は15m滝の落ち口に続く岩のリッジを灌木頼りに降りて、ドンピシャで落ち口に出ることができた。
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右岸のルンゼを少し登ると、上流側に明瞭なバンドが出てくるのでそれを辿り、最後は15m滝の落ち口に続く岩のリッジを灌木頼りに降りて、ドンピシャで落ち口に出ることができた。
上流側に続く涼やかな淵。岩井谷は水の透明度がかなり高く、淵はみな美しいエメラルド色を呈する。
滝場の岩場には、必ずと言っていいほどキンレイカの黄色い花があちらこちらに見られた。三重県で絶滅危惧2類ですが、基本的に手が届かないような（つまり、シカの食害も届かないような）岩場にしか生えていなかったので、写真載せます。
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滝場の岩場には、必ずと言っていいほどキンレイカの黄色い花があちらこちらに見られた。三重県で絶滅危惧2類ですが、基本的に手が届かないような（つまり、シカの食害も届かないような）岩場にしか生えていなかったので、写真載せます。
でも、こんな1mの小滝でも、簡単に登ったりヘツったりできなかったりして、地味に苦労するところは、さすが岩井谷…遡行者への悪意が徹底している。
谷が開けたところで、小瀬谷出合（標高460m付近二俣）を通過。小瀬谷は予想以上に水量が少なく、注意していないと見逃しそう。
石垣あり。おそらく飯場跡だろう。かつてはこんなに険しい谷の奥を生活の場とし、山仕事に従事していた人々がいたのだ。沢ヤなんてかわいいもので、一番すごいのはこの人たちかもしれない。
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石垣あり。おそらく飯場跡だろう。かつてはこんなに険しい谷の奥を生活の場とし、山仕事に従事していた人々がいたのだ。沢ヤなんてかわいいもので、一番すごいのはこの人たちかもしれない。
おいおい、炭焼き窯跡まであるよ…。焼いた炭を搬出すること自体、一苦労だったと思うのだが。
そして梅ノ木谷出合に到着（標高約510m二俣）。思ったより狭い二俣で、本流も急角度で右に曲がりこむ狭いゴルジュになっているので、危うく見逃すところだった…。
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そして梅ノ木谷出合に到着（標高約510m二俣）。思ったより狭い二俣で、本流も急角度で右に曲がりこむ狭いゴルジュになっているので、危うく見逃すところだった…。
これが「10人は泊まれる」とルート本に書いてあった岩小屋だろうか。思った以上に湿っていて狭く、あまり泊まる気になれない。梅ノ木谷出合は予想外に平地が少なく、泊まり場になりそうな河原もぱっと見で1箇所くらいしかなかった。1日目はここで泊まる予定だったが、時間的にもまだ1時過ぎだったため、予定を変更して先に進むことにした。
これが「10人は泊まれる」とルート本に書いてあった岩小屋だろうか。思った以上に湿っていて狭く、あまり泊まる気になれない。梅ノ木谷出合は予想外に平地が少なく、泊まり場になりそうな河原もぱっと見で1箇所くらいしかなかった。1日目はここで泊まる予定だったが、時間的にもまだ1時過ぎだったため、予定を変更して先に進むことにした。
これが痛恨のルートミス。左岸はやがて高い岩壁の袋小路となって、どうにも行き詰ってしまい、登ってきた急斜面をヒイヒイ言いながらクライムダウンする羽目になった。これで小1時間くらい浪費にしてしまった（これが後になって効いてくることになる）。
これが痛恨のルートミス。左岸はやがて高い岩壁の袋小路となって、どうにも行き詰ってしまい、登ってきた急斜面をヒイヒイ言いながらクライムダウンする羽目になった。これで小1時間くらい浪費にしてしまった（これが後になって効いてくることになる）。
仕切り直して右岸から巻いたところ、今度は腹立たしいくらいめちゃくちゃ簡単に巻けてしまった…。ここばかりは右岸巻きが完全に正解なようだ。普段からルート本にできるだけ頼らないようにしており、今回も遡行図は持参していないので、こういうところでどうしても無駄が出るのは仕方がない。
仕切り直して右岸から巻いたところ、今度は腹立たしいくらいめちゃくちゃ簡単に巻けてしまった…。ここばかりは右岸巻きが完全に正解なようだ。普段からルート本にできるだけ頼らないようにしており、今回も遡行図は持参していないので、こういうところでどうしても無駄が出るのは仕方がない。
息つく暇もなく、左右の岩壁もビッグスケールな、18m・10mの連瀑が現れる。
ここは迷った末に左岸から巻いていくが、かなり壁が立っていて傾斜が強く、厳しい高巻きとなった。獣道らしき薄い踏み跡はあるが、どれも途切れ途切れで錯綜しており、どれが滝上へ繋がっているのか定かではない。
ここは迷った末に左岸から巻いていくが、かなり壁が立っていて傾斜が強く、厳しい高巻きとなった。獣道らしき薄い踏み跡はあるが、どれも途切れ途切れで錯綜しており、どれが滝上へ繋がっているのか定かではない。
一度でもスリップしたら谷底まで確実に転落する強い傾斜の中（この谷ではこれがデフォルトの状況なのだが）、眼下に滑り落ちる瀑水との距離を推し量りつつ、岩角や木の根にかじりついて危ういトラバースを重ねる。
一度でもスリップしたら谷底まで確実に転落する強い傾斜の中（この谷ではこれがデフォルトの状況なのだが）、眼下に滑り落ちる瀑水との距離を推し量りつつ、岩角や木の根にかじりついて危ういトラバースを重ねる。
やっとのことでクライムダウンできる箇所を見つけ、一旦谷に戻ると、そこには堂々たる幅広の18m滝が。帰ってから知ったけど、この滝、樋上嘉秀氏の「台高の沢」のカバー写真の滝なんですね。厳しい高巻きの中、一旦降りてでも見ておくべき滝だと思う。
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やっとのことでクライムダウンできる箇所を見つけ、一旦谷に戻ると、そこには堂々たる幅広の18m滝が。帰ってから知ったけど、この滝、樋上嘉秀氏の「台高の沢」のカバー写真の滝なんですね。厳しい高巻きの中、一旦降りてでも見ておくべき滝だと思う。
幅広18m滝を眺めてから再び左岸を巻き上がるが、相変わらず岩が基調の急斜面で厳しい。
脚下にはさらに大きめの斜滝が見えてくる（おそらく「ルート100」の15m滝）。滝壺に降りられる箇所も見つかったが、直登できないのは遠目に見ても必定であり、これ以上この巻きで時間を消費したくないので、そのまま巻いていく。
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脚下にはさらに大きめの斜滝が見えてくる（おそらく「ルート100」の15m滝）。滝壺に降りられる箇所も見つかったが、直登できないのは遠目に見ても必定であり、これ以上この巻きで時間を消費したくないので、そのまま巻いていく。
苦しい高巻きが連続する連瀑帯を終え、やっと谷に降り立つが、今度は巨岩とCS滝が連なるゴルジュとなり、気を休める暇もない。
谷に戻ると、美しい15m滝。これも右岸から巻き上がるが、お決まりのように岩壁がいつまでも途切れず、思った以上に巻かされる。
何とか歩いて谷に降り立つと、今度は長淵の向こうにややこしそうな岩間滝…。おいおい、一体どこまで悪場が続くんだ？
泳いだところで登り切れるか未知数のため、左岸に降りてきていた岩のリッジを灌木を引っ掴んで強引に登り、再び巻き上がる。今日何度目の高巻きだろうか。そして御多分に漏れず、当初の意図に反して大高巻きとなった。
泳いだところで登り切れるか未知数のため、左岸に降りてきていた岩のリッジを灌木を引っ掴んで強引に登り、再び巻き上がる。今日何度目の高巻きだろうか。そして御多分に漏れず、当初の意図に反して大高巻きとなった。
やっとのことで谷に戻るが、期待に反してまだゴルジュ地形が続いている…。地形図上でここまで来れば多少は谷が開けるかも、と事前に予測していた地点まで来ているのだが。先ほど梅ノ木谷出合の先で犯したルートミスで浪費した小一時間が、ここになって効いてきている。やはり岩井谷は甘くなかった。
やっとのことで谷に戻るが、期待に反してまだゴルジュ地形が続いている…。地形図上でここまで来れば多少は谷が開けるかも、と事前に予測していた地点まで来ているのだが。先ほど梅ノ木谷出合の先で犯したルートミスで浪費した小一時間が、ここになって効いてきている。やはり岩井谷は甘くなかった。
いつも通り遡行図は携行していないので、この先どこまで滝場が続くか分からない。時刻はもう4時過ぎ。もともと今夜から悪天の予報で、既に小雨が降り始めている。これ以上行動を続けていいと判断できる材料はひとつもない。泊まり場としては下の下だが、狭いゴルジュ内の小さな河原にタープを広げることにした。もちろん、雨が強まって増水した際に逃げられるよう、背後に無理なく登れる斜面のある場所を選定した。（だいたい、梅ノ木谷出合から500mほど遡り、谷が東に90°屈曲した地点）
いつも通り遡行図は携行していないので、この先どこまで滝場が続くか分からない。時刻はもう4時過ぎ。もともと今夜から悪天の予報で、既に小雨が降り始めている。これ以上行動を続けていいと判断できる材料はひとつもない。泊まり場としては下の下だが、狭いゴルジュ内の小さな河原にタープを広げることにした。もちろん、雨が強まって増水した際に逃げられるよう、背後に無理なく登れる斜面のある場所を選定した。（だいたい、梅ノ木谷出合から500mほど遡り、谷が東に90°屈曲した地点）
前後を不気味な淵で挟まれ、ゴルジュの壁に滝音が反響する暗黒の夜。ポツポツと断続的にタープを叩く雨音に耳を澄ませながら、不安で眼が冴えて眠れない…なんてことはなく、日ごろの睡眠不足と持参した焼酎の酔いが強烈に作用し、シュラフカバーにくるまって2秒で熟睡してしまった。
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前後を不気味な淵で挟まれ、ゴルジュの壁に滝音が反響する暗黒の夜。ポツポツと断続的にタープを叩く雨音に耳を澄ませながら、不安で眼が冴えて眠れない…なんてことはなく、日ごろの睡眠不足と持参した焼酎の酔いが強烈に作用し、シュラフカバーにくるまって2秒で熟睡してしまった。
翌朝、雨は降り続いているが、ありがたいことに小雨どまりで、水位は全然変わっていない。いきなり淵で泳がされるが、突き当たりの小滝で体をどうしても引き上げられず、すごすごと左岸巻き。（まだ早朝で光量が十分でなく、真っ暗な写真ですみません。）
翌朝、雨は降り続いているが、ありがたいことに小雨どまりで、水位は全然変わっていない。いきなり淵で泳がされるが、突き当たりの小滝で体をどうしても引き上げられず、すごすごと左岸巻き。（まだ早朝で光量が十分でなく、真っ暗な写真ですみません。）
上段が洞穴のようになっており、なんか不思議な形の3m滝。左岸から小さく巻き。
やっと谷が開け、安心できる河原に出た。幕営適地も何か所かある。昨日、頑張ればここまで来られたかもしれないが、先が分からない状況であの判断は仕方がない。
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やっと谷が開け、安心できる河原に出た。幕営適地も何か所かある。昨日、頑張ればここまで来られたかもしれないが、先が分からない状況であの判断は仕方がない。
ここにも左岸側に石垣があった。おそらく飯場の跡だろう。一体どんな杣道をたどって、こんな奥地まで来ていたのだろうか…。この険谷の奥で、どんな生活が展開されていたのだろう。
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ここにも左岸側に石垣があった。おそらく飯場の跡だろう。一体どんな杣道をたどって、こんな奥地まで来ていたのだろうか…。この険谷の奥で、どんな生活が展開されていたのだろう。
しばらく進むと、再び両岸が立ってきて、標高点764mの二俣、通称「十字峡」に到着。十字峡といっても、一方の枝谷はちょろちょろと水を落とす程度で、それほど十字峡らしくはない。
しばらく進むと、再び両岸が立ってきて、標高点764mの二俣、通称「十字峡」に到着。十字峡といっても、一方の枝谷はちょろちょろと水を落とす程度で、それほど十字峡らしくはない。
ナメの向こうに、これまでとは明らかに雰囲気の異なる、明るい大空間の気配。
そして、この大滝をさらに壮麗なものにしているのは、何といっても滝の足元へと一直線に続く、一枚岩の広いナメ床の景観だろう。
滝の真下から。左右の巨大な岩壁には、キンレイカのレモンイエローがそこここに揺れている。私には大滝登攀など思いもよらないが、この滝を登りたくなる気持ちだけは、何となく分かる気がする。
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滝の真下から。左右の巨大な岩壁には、キンレイカのレモンイエローがそこここに揺れている。私には大滝登攀など思いもよらないが、この滝を登りたくなる気持ちだけは、何となく分かる気がする。
大滝の左岸側は圧倒的な岩壁で固められており、巻きは樹林帯の右岸から。下からは簡単に見えたが、登ってみると途中から岩が出てきて、その裂け目を縫うような登りとなり、思いのほか苦労。
大滝の左岸側は圧倒的な岩壁で固められており、巻きは樹林帯の右岸から。下からは簡単に見えたが、登ってみると途中から岩が出てきて、その裂け目を縫うような登りとなり、思いのほか苦労。
大滝の上は5mと8mの滝が連なり、そのまま右岸から巻いていく。ここも安全ルートを探していたら結構大きな巻きになってしまい、相変わらず傾斜も強く、70m大滝の巻きよりも苦労したかも。
大滝の上は5mと8mの滝が連なり、そのまま右岸から巻いていく。ここも安全ルートを探していたら結構大きな巻きになってしまい、相変わらず傾斜も強く、70m大滝の巻きよりも苦労したかも。
2段8m滝。この滝は1段目は右隅を直登し、2段目は瀑水を渡ってから左隅を登り、久しぶりにしっかり直登した。
ようやく谷が開ける。この時点では、もうだいぶ上流まで来ている気がしていて、さすがにもう岩井谷も終了かな、寂しいな…なんて思いに浸っていた。
が、しばらく進むと、再び険悪なゴルジュに。
え、なに、まだなんかあるの…？（さっきまで寂しいとか言ってたくせに…）
え、なに、まだなんかあるの…？（さっきまで寂しいとか言ってたくせに…）
全然終わってないやん！ 強烈な極細ゴルジュに、CSが詰まった一番イヤな光景が出現。さっきまでのセンチメンタルな気持ちに浸っていた時間を返してくれ…。たまらず左岸から巻く。ここも思った以上の大きめの巻きになってしまった。
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全然終わってないやん！ 強烈な極細ゴルジュに、CSが詰まった一番イヤな光景が出現。さっきまでのセンチメンタルな気持ちに浸っていた時間を返してくれ…。たまらず左岸から巻く。ここも思った以上の大きめの巻きになってしまった。
ゴルジュの巻きを終えて谷に戻ると、行く手に大きめの滝が連なっていて仰天！ ここから「ルート100」で言う「最後の連瀑帯」の始まりだが、遡行図を携行していないのでそんなことは知る由もない。もう水も細いのに、この期に及んでまた滝が連続し始めたのでビックリしてしまった。この15m滝は右岸から巻く。
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ゴルジュの巻きを終えて谷に戻ると、行く手に大きめの滝が連なっていて仰天！ ここから「ルート100」で言う「最後の連瀑帯」の始まりだが、遡行図を携行していないのでそんなことは知る由もない。もう水も細いのに、この期に及んでまた滝が連続し始めたのでビックリしてしまった。この15m滝は右岸から巻く。
お次の6mは左岸巻き。下部ほどの厳しさは影をひそめるものの、壁は相変わらず立っていて、地味に難しい滝場ばかり。一体、いつになったらこの状況から解放されるのか…
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お次の6mは左岸巻き。下部ほどの厳しさは影をひそめるものの、壁は相変わらず立っていて、地味に難しい滝場ばかり。一体、いつになったらこの状況から解放されるのか…
12m滝は1段目を登り、左岸側のガリーを直上、適当なところで斜面に取り付いて滝上に出た。
そして、数字以上の大きさと広がりを感じる、30m滝。ホールドは豊富そうで登れそうにも見えたが、無難に右岸から巻いていく。ここの巻きはそんなに難しくなかった。
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そして、数字以上の大きさと広がりを感じる、30m滝。ホールドは豊富そうで登れそうにも見えたが、無難に右岸から巻いていく。ここの巻きはそんなに難しくなかった。
30m滝の滝上に立つ。右岸側の広場から、岩井谷左岸の険しい峰々と、その向こうに雲海に埋まる熊野灘が眺められた。入渓以来、初めて遠望する下界の景色。あの峰々の下からずっと登って来たのだと思うと、感慨深い。
30m滝の滝上に立つ。右岸側の広場から、岩井谷左岸の険しい峰々と、その向こうに雲海に埋まる熊野灘が眺められた。入渓以来、初めて遠望する下界の景色。あの峰々の下からずっと登って来たのだと思うと、感慨深い。
ようやく、本当に、滝場が終わったようだ。ここまで強パンチと必殺技しか繰り出してこない無茶な敵キャラのようだった岩井谷にも、遡行者をねぎらう良心はあるようだ。ご褒美のように美しいナメ床がしばらく続いた。
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ようやく、本当に、滝場が終わったようだ。ここまで強パンチと必殺技しか繰り出してこない無茶な敵キャラのようだった岩井谷にも、遡行者をねぎらう良心はあるようだ。ご褒美のように美しいナメ床がしばらく続いた。
稜線直前の二俣に到着。これまでの岩一色の世界が悪い夢だったかのような穏やかな樹林帯で、幕営適地多数。当初は2泊3日で計画しており、ここで2泊目のつもりだったが、まだお昼過ぎだし、雨も降り続いてるので、今日中に下山してしまうことにした。（ラーメンだけ炊いて遡行終了をひっそりお祝いした。スパムときゅうりのキューちゃんトッピング。これくらいの贅沢？はしてもいいだろう。）
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稜線直前の二俣に到着。これまでの岩一色の世界が悪い夢だったかのような穏やかな樹林帯で、幕営適地多数。当初は2泊3日で計画しており、ここで2泊目のつもりだったが、まだお昼過ぎだし、雨も降り続いてるので、今日中に下山してしまうことにした。（ラーメンだけ炊いて遡行終了をひっそりお祝いした。スパムときゅうりのキューちゃんトッピング。これくらいの贅沢？はしてもいいだろう。）
ここからは下山。まずは樫山を目指して稜線を南下。マーキングはあまりなく、尾根のつながりが分かりにくい箇所が多数あるので、慎重な読図が必要。その代わりほとんど藪はないので歩きやすい。
ここからは下山。まずは樫山を目指して稜線を南下。マーキングはあまりなく、尾根のつながりが分かりにくい箇所が多数あるので、慎重な読図が必要。その代わりほとんど藪はないので歩きやすい。
樫山に到着。メインの尾根筋からわずかに南東に外れたところにあるのでご注意。
ここからは、ほとんどの記録では尾根を東に向かい、発電所の導水管を下って下山しているが、なかなかの難路との呼び声が高いので、樫山の南尾根を直接下り、林道に出てしまうルートをとることにした。ハイカーの方々が使っているルートであり、悪場はほとんどなく、マーキングもかなり頻繁についている。
ここからは、ほとんどの記録では尾根を東に向かい、発電所の導水管を下って下山しているが、なかなかの難路との呼び声が高いので、樫山の南尾根を直接下り、林道に出てしまうルートをとることにした。ハイカーの方々が使っているルートであり、悪場はほとんどなく、マーキングもかなり頻繁についている。
標高750m付近の尾根がやや緩む箇所で、ルートはそれまでの南南西から南南東へと方向を変える。この箇所はちょっとわかりにくいので、しっかり読図しておく必要あり。マーキングを見逃さないように。
標高750m付近の尾根がやや緩む箇所で、ルートはそれまでの南南西から南南東へと方向を変える。この箇所はちょっとわかりにくいので、しっかり読図しておく必要あり。マーキングを見逃さないように。
さらに、標高450m付近、尾根が再び緩んで東へと方向を変え始めるあたりで、ルートは急に再び南南西へと方向を変えるので、ここも見逃さないように。写真のケルンが目印。
さらに、標高450m付近、尾根が再び緩んで東へと方向を変え始めるあたりで、ルートは急に再び南南西へと方向を変えるので、ここも見逃さないように。写真のケルンが目印。
ケルンからルートが曲がった方向の先には、写真のきらびやかなマーキングがついているので、これも目印になる。
途中で古い木馬道らしき水平道が横切るが、道はこの水平道を無視して、そのまま小尾根伝いに急降下していく。（このあたりは、その昔大台ヶ原から木材を搬出するルートに当たっていたそうで、こうした遺構が数多く残存しているが、先人の詳細な記録がいくらでもあるので詳述は控えます）
途中で古い木馬道らしき水平道が横切るが、道はこの水平道を無視して、そのまま小尾根伝いに急降下していく。（このあたりは、その昔大台ヶ原から木材を搬出するルートに当たっていたそうで、こうした遺構が数多く残存しているが、先人の詳細な記録がいくらでもあるので詳述は控えます）
けっこうな激下りを終えると、広い河原に出る。（今回は写真の通り全く水が流れていなかったが、増水時はどうなるか分からないので注意）
斜面を適当に50mほど上がれば、きれいな林道に出る。ここまで来ればほぼ下山終了。（今回は適当な斜面を登ってしまったが、後日、巨大堰堤よりやや上流側にしっかりしたマーキング付きの踏み跡があることが判明。）
斜面を適当に50mほど上がれば、きれいな林道に出る。ここまで来ればほぼ下山終了。（今回は適当な斜面を登ってしまったが、後日、巨大堰堤よりやや上流側にしっかりしたマーキング付きの踏み跡があることが判明。）
感想
銚子川支流、岩井谷。台高随一の険谷と言われる谷である。
沢登りを始めたころは、自分がこの谷に入ることはおそらくないだろうと思っていた。私はほとんどが単独行で、それにどうひいき目に見ても登攀的な遡行者とは言えない。自分にとってはあまりにもグレードが高すぎ、手の届かない谷だと考えていたのだ。そのため、最近までほとんどこの谷について記録を読むことも、調べることもなかった。
しかし、この3連休の行き先を考えるにあたって、近隣の谷で2泊3日の日程に耐えうるような長い谷は既にほとんど遡行済みで、もうあまり多くの候補は残されていないことに改めて気づかされた（もちろん、沢は工夫次第で如何様にも長くし、また繋げることができるので、「行き尽くした」なんて言い方は一生できないとは思うが）。そこで、充実した内容を持ち、流程も長く、通常は2泊3日で遡行されている岩井谷に、はじめて目を向けた。そして先人の記録やルート本をざっと読むうちに、なんの気負いも衒いもなく、たぶん行ける、行きたい、行こう、という気持ちに自然になることができた。これは自分が成長したということだろうか、それとも単なる身の程知らずの無謀な奴になり果ててしまったということなのだろうか（後者ではないと信じたい）。
私はこの谷最大の核心部である三平滝を巻いてしまっているので、この谷について十全に語る資格を持ち合わせていないかもしれない。しかし、三平滝抜きであっても、この谷は相当に厳しい谷だった。この谷には、滝下から眺めて一目でルートが分かり、安心して通過できるような悪場がほとんどない。直登も難しそうなら高巻きも難しそう、高巻くにしても右岸も左岸も同じくらい難しそうで、また高く巻いても低く巻いても結局は難しそう。どれが正解か分からない、それでも地形図を読み、周囲の地形を見合わせて、自分のルートを決めなければいけない。しかも、両岸ともに終始切り立った容易ならざる地形が続くため、正解のルートが分かりにくいうえに、そもそも正解のルートは極めて限られている。自分の選んだこのルートは果たして滝上まで続いているのか？ 日暮れまでに安全な河原にたどり着くことができるのか？ 谷底まで切れ落ちた急斜面で岩角にかじりつき、木の根に飛びつきながら、そんな疑心暗鬼に陥りかける場面が、出合から源頭まで何度も繰り返される（ずっと遡行図と首っ引きで遡行するのであれば、話はだいぶ簡単になり、わざわざこんな思いはしなくて済むのかもしれないが）。
難しい谷の遡行中は、どんなに美しい大滝に出会い、翡翠色の淵に酔いしれているようでも、やはりどこかで絶えず緊張していて、無意識のうちにも早くこの危険な谷底から逃れたいと願っているらしい。谷の壮麗さに惹かれながらも、いきおい目はルートばかり追ってしまい、自然と早足になってしまう。そしてついに遡行が終わりに近づき、岩壁が途切れて谷が開け、穏やかな源頭の森へと迎え入れられたとき、はじめて軽い後悔の念に打たれることになる。自分はこの谷を本当の意味で楽しむことができていたのだろうか。
しかし、さしあたって今は、この谷を無事に抜けることができたことだけでも喜んでおくべきなのだろう。この谷で見てきた一つ一つの風景が、はじめて鮮やかによみがえってくるのは、帰宅してから記録をまとめつつ、沢の湿りと匂いが残る地形図を破らないようにそっと広げて、もう一度水線を目で追い始めるときなのかもしれない。
それに今は、まだ長い下山が残っている。日が暮れるまでに、無事に林道までたどり着けるだろうか。こんなふうにこの源頭に呆然と座り込んでいるのは、もうやめにしなければならない。
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hoshi_1967 さん
さては、その不安がないと物足りなく感じる身体になってしまいましたね？
お久しぶりです！
私は基本的に臆病なので、全く歯が立ちそうになくて100％不安しかないような谷には入りませんが、おっしゃる通り、そういう不安や緊張が沢に入るときの大事な要素になっているのは否み難い事実ですね。
というか、沢登りなんて酔狂を好き好んでやっている人は、多かれ少なかれ皆そうなんじゃないでしょうか。もちろんalpine3Bさんも含めて😁
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