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記録ID: 128704
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無雪期ピークハント/縦走
槍・穂高・乗鞍

霞沢岳(200名山)〜廃道・八右衛門沢をたどって〜

1994年09月02日(金) [日帰り]
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Junjapa その他1人
GPS
32:00
距離
15.1km
登り
1,408m
下り
1,407m

コースタイム

06:00上高地帝国ホテルバス停-6:55 1840m7:05-8:00沢分岐(2250m)8:10-9:20K2ピーク9:25-9:45霞沢岳10:25-10:40K2ピーク通過-10:50K1ピーク通過-11:35 2320mコブ11:45-12:40JP12:50-13:20徳本峠13:40-14:55徳本分岐-15:00明神15:15-15:45上高地バスターミナル着。

<コースタイム>
上高地バス停(0.55)三本鎗沢出合(0.55)2250m枝沢出合(1:20)K2ピーク(0:20)霞沢岳(0:15)K2ピーク(0:10)K1ピーク(1:40)JP(0:30)徳本峠(1:15)徳本分岐(0:05)明神(0:35)上高地バスターミナル
天候 9/1 晴れ
アクセス
利用交通機関:
自家用車
■往路
小田原19:30=南足柄=籠坂峠=河口湖=一宮御坂IC=松本IC=23:45坂巻温泉
■復路
往路を戻った。
コース状況/
危険箇所等
H2O氏が今回は計画を立ててくれた。去年の5月連休の時に安房峠〜焼岳〜上高地の尾根を縦走したあと登ろうと考えていたのが、この霞沢岳であった。霞沢の源頭にあるこの山ーーー目の前に穂高の大伽藍があるため、また図体がでかいのに見てくれの特徴に乏しいため、きわめて地味な存在に見える。しかし古くは日本山岳会の生みの親、小島烏水が明治35年にこの稜線を越えて上高地入りを果たしたり、神奈川県は小田原の辻村植物公園の設立者で登山家でもあった辻村伊助が大正2年にウエストン、嘉門次とともに今回たどった八右衛門沢づたいにこの山に登頂して穂高の大展望に酔いしれたという話があるくらい古くから注目されていた山なのである。

 最近では日本百名山を著した深田久弥もその100座の選定にこの霞沢岳をいれるかどうかで悩んだということをその後記に記している。
 「…愛するものは選択に迷う。日本アルプスの山々が百名山のうち四分の一以上を占めたのは止むを得ない。本州の背骨をなすここには目立つものを数えただけでもたちまち30を超えてしまう。その中からの選択も私を当惑させた。当然選ぶべきものに雪倉岳、奥大日岳、針ノ木岳、蓮華岳、燕岳、大天井岳、霞沢岳、有明山、餓鬼岳、毛勝岳などがあった。…」

 昭和59年(1984年)に徳本峠からの登路が開かれるまで八右衛門沢が唯一の登路だった。しかしたび重なる水害でこの道も荒れ、今では廃道になっている。

 今回、当初計画では上高地のバスターミナルより徳本峠経由でアタックしてくることを考えたが13時間もの長丁場になるため、思い切ってこの廃道を登路とすることにした。
 
9/1
昨日から小笠原高気圧に日本全体が覆われている。いいぞ! 一路、小田原より上高地のバスターミナルを目指す。冗談で「釜トンネルのゲートが閉まっていたりしてね」といいながら松本ICを下りると、なんと「ゲートは閉鎖」の看板。ゲートが開くことを見越して9月まで待ったのであるが・・・。計画担当のH2O氏は反省することしきり。それなら釜トンの入口にでもクルマを停めてバスで入りましょうよとワタシ。結局、坂巻温泉にとめて、そこからバスに乗ることとした。

9/2
朝少し寝過ごす。朝いちばんのバスが5:39なのでそれに間に合うように準備をする。一番バスが来て驚いた! 満員だ。そしてみな眠っている。補助席に座る。20分ほどで上高地帝国ホテルバス停。いよいよここから歩き始める。6:00ちょうど。バス停から50mほど戻ると送電線に沿った切り開きがある。これに入る。少しいくと鉄製の砂防ダムがある。それを”クライミング”して八右衛門沢へと入っていく。雨が降ると土石流が発生するためか、50mほど幅広く沢床が整地されている。しばらくは沢の左岸につけられた林道をたどる。だんだんと沢幅も狭くなりやがて林道の終点についた。何やらアシアトがある。「ほら、だれか登っていますよ」とH2O氏。「砂防工事の人のものではないですか」とワタシ。
 ガイドブックによれば左岸沿いにかすかなフミアトがあるはずだが、今は跡形もないようだ。あってもヤブと化していて相当時間がかかってしまうのだろう。忠実に沢床を行く。ガイドブックによれば三本槍沢まで水流があるはずだが、今はまったくの枯れ沢である。おそらくガレで埋まり伏流になってしまっているのだろう。ときどき数メートルから10数メートルの幅の沢を横切るように一本の電線のようなものが渡してある。
 「ナンだろう?」とわたし。しばらくして技術者のH2O氏がいう「わかりましたよ。これは土石流が発生したことを感知するものですよ」。どうもこれは正しい解釈のようだった。この山行が終わってからA新聞の松本支局に勤務していたことのある友人に尋ねたところ「上高地にはよく取材に行っていたが、八右衛門沢の土砂崩れの様子を見てみたいと五千尺旅館のオヤジさんに申し出たら『あそこはゼッタイに行ってはいかん』と言われた」という。オヤジさんに言わせれば八右衛門沢は、急峻な谷に岩屑が溜まった状態であり、何かあったらすぐにでも崩れてくるという意味だったらしい。また彼が言うには土石流のモニターが釜トンネルの入り口にあって荒天時のものを見せてもらったところそれはそれはすごい迫力だったとのことだった。客観的にみてこの沢は荒天時は入山を控えるべきなのだろう。

 通産省地質調査所の5万分の一地質図によれば、まさにこの八右衛門沢は断層そのものであり、沢が切れ込んで常に崩壊が進んでいるのもまさに頷けることなのである。
 この霞沢岳は常念山脈の南端を飾る山でもあるが、常念岳が屹立した山容であるのに対し、蝶が岳以南から霞沢岳はなだらかな山となっている。常念岳は5千万年前に形成された花崗岩(専門的には黒雲母花崗岩)で作られているが、南下するとその4倍近く古いジュラ紀(約2億年前)の堆積岩(専門的には美濃帯中世層)となる。砂岩や泥岩が主体の山体となり昔海の底だったから保水性が高く、それゆえ頂上まで木が生えている。また水の浸食にも弱いので、蝶が岳から大滝山、そして霞沢岳まで定高性のなだらかな山容を示している。ところが、霞沢岳頂上直下から西側はまた、火成岩である花崗岩や穂高安山岩類で形成されているため、浸食されてなだらかになることなく、八右衛門沢もまた急峻な地形を形成しているのである。

 かつて海の底だった常念山脈。そしてそれを押し退けるかのようにして5千万年前に地底から噴出してきた笠が岳や穂高岳。そしてたった10万年前になって噴出してきた割谷山や白谷山・・・・そしてわずか1万年前になってやっと登場した焼岳・アカンダナ山・・・・大きな大きな地球のうねり、それらが重なったものをいまの時代に生きる我々は一気に目の当たりにしていることになる。
 
 そんなことを考えながら、沢筋を行くとやがて左に三本槍沢を分ける。大小さまざまな石がそこここに転がっておりとにかく落石を起こさぬように細心の注意を払って進む。技術的に困難なところはない。何やらフミアトは上の方に向かって伸びているようだ。上を仰ぐと朝陽にK2ピークが輝いている。H2O氏はと見れば「すばらしい!」を連発している。どうやらご機嫌のご様子で慶賀の至りだ。巨岩は左に右に弱点を見つけながら登る。再び沢の分岐に至るが、それも右を採る。

 とにかく浮石だらけなので登りにくいことこの上ない。分けた沢との中間尾根に登ってみるとフミアトらしきものがあるのでそれを行く。こちらの方が断然よい。フミアトを見つけたり、失ったり、また見つけたりを繰り返しながら登る。基本的には右の岩壁の基部ぞいに以前の登山道は刻まれているようだ。
 稜線が近くになるとピナクルが現れる。これを右から巻くとハッキリしたフミアトが見つかった。岩角や木の根をつかんだ急登をしのぐとひょっこりK2に出た。

 念のためにザイルなども持参したが使うことはなかった。ここから霞沢岳の頂上はすぐだ。地質はこのK2から砂岩などの堆積岩の世界となる。
 登山道はかなりしっかりしている。一般の登山道と何ら変わらない。下を見ると登山者がやってくるのが見える。早朝に徳本峠を発ってきた人たちだろう。
 森林限界も超えハイマツ帯をゆっくり行けばそこは頂上だった。日本200名山。
 風采はあがらないけれど、穂高の展望台としての価値は高い。3等三角点がちんまり鎮座している。

 パンを食べているとさきほどの登山者がやってきた。「どちらからですか?」といぶかしげ。それもそうだろう、唯一の登山道と思われた道を一番でやってきたのに先行者がいたのだから。
 「八右衛門沢からです」と私。
 「あそこは登れるんですか?」とオウム返しにその方。
 「登れますよ!だって現にわれわれはそこを登ってきたんだから!・・・・」とH2O氏。
 「当たり前のことを聞くな!」といった風情で、初対面の人を相手に、やたら怪気炎を発している。
 H2O氏とは他人のフリをしたかったがもう遅かった。

 その方は徳本峠小屋に2泊もしてこの山を目指してきたそうである。
 昨夜は宿泊者は2人だけだったが、2人とも霞沢岳狙いだったらしい。
 われわれは日帰りで帰れそうなので「コストダウンが図れた」というその一点でH2O氏は心行くまで満足そうだ。
 「登頂を果たした」という満足感はもうどこかへやらだ。

 頂上は暑いので辞去することになる。時間が早いのとガラガラの八右衛門沢を下るのがイヤなので、徳本峠を経由して下ることとする。
 K1ピークを過ぎるとさしもの大展望ともお別れ。樹林帯のかなり急な下りとなる。途中で遠回りな峠経由はやっぱりやめてザイルなどもあるから、懸垂で沢を下ろうという話も出たが、結局安全かつ確実な峠経由とした。

 いつもは元気なH2O氏が息をぜいぜいさせながら歩いている。どうも彼は暑さが苦手だ。たいして暑くもないのに「暑い!」といい、湾岸戦争で追いつめられたイラク兵のように「水!水!」と叫んでいる。
 休憩をとると、買ってきたイチジクをそれこそ馬がかいばを食べるように無心に貪っている。ただひたすらであるところは鬼気迫るものがある。

 H2O氏は、調子が良い時には歩きながら、美しい、氏にはもったいない奥さまの「は~い」という声色を気持ち悪くも裏声でモノマネし、ワタシの山の中のモノ思いを見事にブチ壊してくれることになるのだが、今はそれもなく、ひたすらゼイゼイである。
 だから逆に私は歩きながら裏声で「は~い」などと言って、氏に誘い水を撒いてみるのだが、無反応で、ただひたすらゼイゼイである。

 奥秩父のような美しい樹林帯を過ぎてJPの登りにかかるとますます苦しそうで「は~い」はぜんぜん効果がない。やっとのことでJP頂上に到着し休憩を取るや否や、「水だ!水だ!」。とっくに氏のボトルは空だ。残り少ない私の水を止む無く与えるが、「ありがとう」の一言もなく一瞬のうちに空にすると、今度は居眠りをし始めた。

 暫く寝かせてあげると、やにわに起き出して「徳本峠小屋で水を買うのだ」と言って立ち上がる。居眠りでしかしかなり楽になったようではある。
 JPからの下りは地形図では急な傾斜だが、きれいな苔のジグザグが切ってあり比較的楽に下れる。
 やがて植生がササ帯にかわると徳本峠からの下りの道にぶつかる。
 指導標に「あと0.2km」とあり、H2O氏は「まだそんなにあるのか」とツブヤク。
 おまけに登りである。
 
 着いた小屋は相変わらずだった。まずはビール。そしてカップラーメン。中で座って食べようとしたら若い小屋番が「そこには座らないで下さい」。
 思わず「俺たちは客なんだぜ」といいたくなった。

 暫く休むとH2O氏は元気を取り戻した。「”ラーメン効果”ですね」と僕がツブヤくと、「う~ん、ラーメン効果だラーメン効果だ」と何度もつぶやいている。
 そのうち、元気が出た事がだいぶんに嬉しかったらしく「もう一個、ラーメンを食べよう!」などと言ってきた。
 このままで行ったら、イチジクのようにラーメンを4個も5個もバカバカ食べてしまいそうなので、話を別に振って忘れさせることとした。

 明神に向けて下っていくと結構上がってくる人たちがいる。
 みな、口ぐちに「あと、どのくらいですか」と訊いてくる。
 そのうち若くて可愛い女の子二人連れがはーはーいって休んでいる所に出くわす。
 訊くと上高地の帝国ホテル(!)に宿泊して徳本峠に行くところだという。
 地図を見せてあげて距離は2/3ほど来ているが、これからが登りが急になると伝えるが「地図は良く分からない」とのこと。
 
 傾いていた体勢を戻したH2O氏はH2O氏で「日が暮れてしまうから無理デスヨ!」などとやたらに威勢がいい。
 先ほどのぜーぜーはどこへやら、一転してオンナのコに大攻勢をかけているのは全く見ていて微笑ましい限りである。

 そういえば箱根の二子山にこっそり登った時(登山禁止なので)はH2O氏はあまり若くない方々にもチョッカイを出していたのを思い出す。若いのだけでは物足らないというのは、微笑ましいを通り過ぎて困ったものだということである。

 広々とした平坦な道を下ればやがて上高地街道に出た。看板には「穂高”蓮”峰」と書いてある。”ホダカはハスじゃねーぞ”と言いたくもなる。

 上高地街道では一転して観光客の世界となる。夕方だというのに明神くらいまでは散策に来る人が多いのか、たくさんの人と行きかう。
 H2O氏は林道歩きに至って完璧に立ち直り、向こうからやってくる女性の品定めに忙しい。そんな独演会を返事も返さずひたすら傾聴していたら、あっという間にバスターミナルに着いたのだった。

 久しぶりに「楽しい」を実感できた山だった。
 なお、バスターミナルから坂巻温泉まで820円とバス代が割高だったが、坂巻温泉の露天風呂が300円と割安で極楽だったので、それはそれでヨシとしようと思えたのである。

 こうして鋭気を養い翌日の割谷山に備えた弥次喜多道中だったのである。
 
その他周辺情報 ■費用
・ガソリン:483.9km÷8km/LX115円/L=6960円/台・往復
・食糧;一般食糧 3400円/2人 徳本峠ラーメン300円/杯 ビール500円/本
・交通費:御坂トンネル 250円/台・片道
     中央高速(一宮御坂ー松本)2750円/片道・台
     バス(坂巻温泉・帝国ホテル)750円/片道・人
     バス(坂巻温泉・上高地)820円/片道・人
     東富士道路 1030円/片道・台
・温泉 坂巻温泉風呂 300円/人  
合計 12650円/人
八右衛門沢から見上げた岩峰。たしか三本槍とか言った岩峰が有名だったが、この時までにその一つが、崩壊してなくなっていたはず。この写真からどれがどれだかは分からない。
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八右衛門沢から見上げた岩峰。たしか三本槍とか言った岩峰が有名だったが、この時までにその一つが、崩壊してなくなっていたはず。この写真からどれがどれだかは分からない。
振り返った西穂〜奥穂の稜線。一番左が独標かな。
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振り返った西穂〜奥穂の稜線。一番左が独標かな。
稜線に出た。素晴らしい景観。目の前はK2か。
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稜線に出た。素晴らしい景観。目の前はK2か。
焼岳。いかにも昭和新山的だ。この山が噴出する前は、梓の流れは岐阜県側に流れていたという。信じられない話だ。
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焼岳。いかにも昭和新山的だ。この山が噴出する前は、梓の流れは岐阜県側に流れていたという。信じられない話だ。
ピークから乗鞍方面。
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ピークから乗鞍方面。
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