カナダ ワプタトラバース 山スキー編

- GPS
- 26:49
- 距離
- 45.7km
- 登り
- 2,946m
- 下り
- 2,909m
コースタイム
19:30 キャンモアのヤムナスカオフィスにてミーティング&装備チェック
21:00 タクさんとMACでいっしょに夕食
22:00 ホステル熊に戻る ※時計を1時間進めて寝る(サマータイム切替)
●3/10
07:00 ヤムナスカオフィス(キャンモア)集合
07:30 シャトル出発
09:40 シャトル到着 ツアースタート地点
09:50 出発ミーティング・装備チェック・ビーコンチェック
10:20 ワプタトラバースツアースタート 林間をスキー滑降
11:20 ペイトーレイク到着 氷結した湖面を横断
12:10 水平モレーン基部 スキー板を担いでクライム
15:15 ペイトー氷河末端の自動気象観測所 ゆるやかなペイトー氷河を登高
17:00 ペイトー小屋到着
18:30 夕食(スープ:トマトとロースト赤唐辛子、メイン:ビーフチリのごはんがけ、デザート:ナナイモバー)
20:00 就寝(ペイトー小屋)
★本来の予定どうり
●3/11
08:00 朝食(ハッシュポテト、ソーセージ、スクランブルエッグ)
10:00 小屋内でロープワークレッスン 朝のミーティング
10:50 小屋出発 Mt.ロンダ北峰に向ってシール登高
13:40 Mtロンダ北峰の肩で、ピットテストのレッスン
14:00 スキー滑降 & 登り返し & スキー滑降
16:00 ペイトー小屋帰着
18:00 夕食(スープ:スモークドターキー、メイン:チキンカレー、デザート:各種チーズとクラッカー)
20:30 就寝(ペイトー小屋)
★ほぼ本来の予定どうり
●3/12
07:30 朝食(パンケーキのメイプルシロップがけ、ポテト、ベーコン)
09:20 朝のミーティング後、小屋出発
10:40 トライポッド自動観測機 右にセントニコラスを見ながらボウ小屋へ
12:00 ボウ小屋到着 小屋内で行動食
14:10 小屋からセントニコラスに向ってシール登高
セントニコラス肩からスキー滑降 & 登り返し & スキー滑降
16:00 小屋に戻る
19:00 夕食(スープ:マッシュルームクリーム、メイン:バイソンシチュー、デザート:Tobleroneチョコ)
20:30 就寝(ボウ小屋)
★ほぼ本来の予定どうり
●3/13
07:30 朝食(サッポロ一番ラーメン、オイスターの缶詰)
08:00 朝のミーティング
10:00 小屋を出てコルを越えて反対斜面を滑る & 登り返し
13:00 小屋に戻る 行動食
14:30 小屋を出てシール登高&スキーダウン
16:00 小屋裏にてビーコントレーニング(1人ずつ探索時間測定)
18:00 夕食(スープ:トマトクリーム、メイン:ハリラ豆のシチューとラム、デザート:オレオクッキー)
20:00 就寝(ボウ小屋)
★本来の予定
ボウ小屋―セントニコラス峠―Mtオリーブをクライム―峠―バルフォア小屋
●3/14
07:30 朝食(サッポロ一番ラーメン、サーディンの缶詰)
08:00 朝のミーティング ホワイトアウトで午前中は小屋で待機
12:00 昼食に行動食
13:00 小屋を出て、シール登高し、クレバスレスキューのレッスン
15:30 スキー滑降
16:30 小屋に戻る
18:00 夕食(スープ:ポテトリーク、メイン:スパゲッティボロネーゼ、デザート:アーモンドチョコ)
20:00 就寝(ボウ小屋)
★本来の予定
バルフォア小屋―バルフォアハイ峠―スコットダンカン小屋
●3/15
07:00 朝食(サッポロ一番ラーメン)
07:30 朝のミーティング
09:40 ボウ小屋出発
11:40 ゴルジュ通過
12:10 ボウレイク着 氷結した湖面を横断
12:40 ボウレイク・パーキング 今回のツアーゴール
15:30 シャトル移動して、ヤムナスカオフィス着 あとかたづけとミーティング
16:30 タクさんとMACで打ち上げ
18:00 ホステル熊に戻る
21:00 就寝
★本来の予定
スコットダンカン小屋―シャーブルックレイク―キッキングホース峠(ツアーゴール)
-
天候 | 3/10 曇り時々晴れ 3/11 快晴 3/12 曇り時々雪 3/13 吹雪 3/14 吹雪 3/15 曇り時々晴れ - |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2013年03月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス 自家用車
飛行機
http://roamtransit.com/services/canmore-banff-regional ・キャンモア(ヤムナスカオフィス)からツアー出発地点までは、ヤムナスカのクルマ ・ツアーゴール地点からキャンモア(ヤムナスカオフィス)までも、ヤムナスカのクルマ - |
コース状況/ 危険箇所等 |
■ カナディアンロッキーの入口にあるキャンモアという街に、ヤムナスカ・マウンテン・アドベンチャーという会社がある。様々な活動をおこなっているが、クライミングや雪山登山、ツーリングスキーの指導的な活動がメインとなっていて、ヤムナスカ登山学校とも呼ばれている。特に日本人を対象にしたツアーを手がけるヤムナスカ・マウンテン・ツアーズという関係会社もあるが、こちらは主として夏に活動している。いずれの会社も日本国内での知名度はきわめて低く、私自身も最近まで知らなかったが、北米のクライマーやスキーツアラーのあいだでは、その名を知らない人はほとんどいない程、有名らしい。 http://yamnuska.com/ http://ymtours.com/ 今回私が参加したヤムナスカ登山学校のツアーは、カナディアンロッキーのワプタアイスフィールドという氷河地帯をスキーでトラバースする山中6日間のツアーで、途中で様々なレッスンやスキー滑降を楽しみながら進んでいくものである。ここで言うトラバースとは日本でのそれとは少々ニュアンスが違っていて、ある地点から目的地へ横断するといった意味合いとなる。hut(ハット)と呼ばれるカナダ山岳会所有の無人小屋に泊まりながらスキーで登り下りしながら進んでいく。これを、hut-to-hut style と呼ぶのだそうだ。カナダの山岳地帯にはヨーロッパアルプスにあるような営業小屋はなくて無人小屋がほとんどだ。営業小屋があるとすれば、それはロッジと呼ばれるホテル並みの施設で、登山者や山スキーヤーが泊まることはあまりない。そこに泊まっているのは、仕事を引退した老夫婦か中国人だ。 http://yamnuska.com/ski-mountaineering/wapta-traverse/ ※ その後、KEN TOKYOさんという方からご指摘があって、カナダの山岳地帯には、私設の営業小屋がたくさんあることを教えていただきました。大変失礼しました。氏はカナダの山小屋事情に、おそらく日本人としては最も詳しいと思います。 最初、このワプタトラバースというツアーを検討しているとき、ヤムナスカの窓口担当であるキャサリンさんにEメイルでいろいろと相談に乗ってもらった。特に英語があんまり駄目なんですが、大丈夫でしょうか? と聞いたときの彼女の回答は次の通りであり、これにより最終的に参加を決定した。 Our guides are very accommodating when it comes to English language skills- they are very used to working with clients from all over the world. I think if you have an open mind and respect their decisions in the field then everyone on the trip will get along very well. 使用するスキーは、日本で言う”山スキー”であり、熟練者に限って”テレマークスキー”での参加も認められている。ハイクアップはシール(クライミングスキン)を使い、スキー靴は、いわゆる兼用靴(ツーリング用ブーツ)であり、ウォーキングとスキー滑降の2つのポジションをもっているものだ。ビンディングはディアミール方式もしくはTLT方式であるが、最近は世界的にTLT方式の拡がりが目覚ましく、今回のツアーで見てきたスキーの7割近くを占めていた。軽さイコール速さであり、速さイコール安全というヨーロッパ登山の文化が、カナダにもそのまま輸入されている。 行ってみて、まず最初に悩まされたのが、ヤムナスカのあるキャンモアというロケーションだ。カルガリーから移動すれば、バンフの25kmぐらい手前に位置する。空港からのバスであれば、キャンモアのSolare Resort前で降ろしてもらうのが最も近い。ヤムナスカ登山学校は、基本的にクルマでの参加者を前提としているので、レンタカーなどを借りていない(北米以外の国からの)旅行者にはとっても辛い。今回はバンフとキャンモアとを繋ぐ、ローム(Roam)というバスが最近運行しはじめたことで助かったが、このバスがないと、バンフとキャンモアは、旅行者にとって絶望的な距離となる。しかもスキーやキャスターバッグなど大きな荷物を担いでの移動なのでとても大変だ。バンフのホテルまでピックアップしてくれとは言わないが、せめてバンフのどこか一箇所に集合して歓送迎してくれるシステムを望みたい。ロームのバスはRoute3という系統を利用し、キャンモア側は109番のバス停がヤムナスカ登山学校に最も近い。バンフ側のバス停は100番を利用した。 http://roamtransit.com/services/canmore-banff-regional ●3/09 ツアー出発前夜 ツアー出発前日の夕方にヤムナスカのオフィスにてミーティングがあって、担当ガイドからルートの簡単な説明のあと、参加者同士のあいさつと、装備チェックがおこなわれた。我々のガイドは、Nick Sharpe というシニアガイドだ。とても明るくてフレンドリーな方だ。スコットランドに近いイングランドの出身で、残念ながら、私には彼が話す英語はキャッチしづらかった。 今回このツアーに参加者する日本人は私1人だろうとあきらめていたら、マウンテンツアーズのほうからガイドの見習いとして、タクという日本人が派遣?されてきた。これまで不安だらけだった私は、彼の参加により百万力を得たような気持ちになった。彼は大阪出身でニセコや白馬のスキー場でのパトロールの経験を持ち、日本で登攀ガイドの資格も持っていて、クライミング大好きにーちゃんである。まさに鬼に金棒だ!まだ、カナダに来て半年強ぐらいということだが、ネイティブのリスニングもかなりイケテル。この先、彼の存在がどれだけ心強かったか、計り知れない。 私とタクさん以外の参加者は、4人居て、みんなオタワ周辺からやってきたカナダ人だ。まず最初に、いつも明るくしゃべっているデビーおばちゃん、そしてクリスタとグランの夫婦だ。クリスタとグランはふたりとも高校教師で職場結婚だそうだ。そして、科学者のスティーブンである。彼は過去に3年ほど日本に住んでいたことがあるそうで、今回我々と接することで、忘れかけていた日本語を徐々に思い出していってくれた。うれしいじゃないですか! ガイドを含めて7人のパーティとなった。 今回特に注意しなければならないのは、サマータイム切り替えだ。今晩のミーティングは標準時間での集合だったが、明日のツアー出発の集合時間はサマータイムだ。ホステルのベッドで寝るまえに時計を1時間進めておいた。それでなくとも睡眠不足なのに、今日は1時間短くなるのだ。睡眠不足が累積してきて少し心配になってきた。 ●3/10 ツアー1日目 ヤムナスカオフィスに7時集合。あいにく天気は曇りだ。シャトルに乗ってツアー出発地点に移動する。車窓からの景色は、針葉樹と岩稜むきだしの雪山が広がっていて、いかにもカナディアンロッキーらしい。タクさんが登った壁やルートをいろいろと教えてくれる。カナダに来てまだ8ヶ月ぐらいしか経っていないというのに、めちゃめちゃ詳しいし、クライミングの話になるととても楽しそうだ。2時間強ぐらいでツアー出発地点にシャトルが到着し、準備をしてビーコンチェック後スタートする。 針葉樹の林間をしばらくスキーで下っていくと、ペイトーレイクの湖畔に着いた。氷結した湖面のうえにさらに30cmほど雪が積もっていて、そのうえをシールをつけて進んでいく。ちょうどペイトーレイクの上を斜めに横断する格好だ。広大な湖の上を、我々のパーティだけが進んでいくのは気持ちがいいが、いきなりスピードが早い。辛いほどではないが、写真を撮る暇などまったくない。ほどなく小川が流れ込む反対側の湖畔に到着し小休止をとる。ガイドは必ず休憩時間を告げていた。その後、川沿いにトラバースしながら、どんどん高度を上げモレーンの基部まで行って2回目の休憩となるが、1時間に一回あるかないかの間隔だ。モレーンでは岩がむき出しになっていて、15分ほどスキー板をザックにセットして登る。このとき私はスタミナが切れて少々ふらつく。行動食をあまりとっていなかったのが原因だが、パワーバーなどの甘いものをカラダがあまり受け付けない。無理やり食べたら、吐きそうになってしまった。20kg近い荷物が肩にくいこむ。スキーツアーでは辛い重さだ。 すぐ下にペイトー氷河の末端が見える自動観測所のあるコルに到着。ここから少し下ってペイトー氷河の末端に取付き、傾斜のゆるやかなペイトー氷河をゆっくり登って行く。シールをつけたまま滑り込むときに、岩がむき出しになっている場所を避けられず、板だけ止まってカラダだけが前に突っ込んで顔面から転倒してしまった。雪の上で、さいわいケガがなかったが、ふだんなら避けられるのに、相当に弱っている証拠だ。ペイトー氷河では前方になだらかなコルが見えるのに、行っても行っても近づいてこなくって、どんどん逃げていく感じがした。とうとうパーティに着いていけなくなり少しずつ離される様になってきたころ目的地の小屋(ペイトーハット)がすぐ前に見えてきた。タクさんはいつも私の後についていてくれた。 17時に小屋に着いて、皆が夕食の準備をしているのを横目で見ながら、茫然とへたり込んでいた。精魂尽き果てた状態と言うのはこういう状態を言うのだろう。のろのろとシュラフを伸ばして寝込んだ。1時間ほど経ったのだろうか、夕食のスープが出来たというので起き上がっていただいた。用意されたトマトスープはとてもおいしかったが、胃腸の調子も悪くて、あまり食べられなかった。メインのビーフチリのごはんがけも少しだけいただき、デザートのナナイモバーはしっかり食べた。 ペイトーハットはカナダ山岳会所有の無人小屋で、暖房施設はないが、ガスコンロやランタンは施設のプロパンガスで稼動し、調理道具や食器類も施設に付帯している。水は小屋周辺の雪を融かして作る。就寝スペースは2段になっていて10cm圧のマットが敷き詰められてある。つまり、食料とシュラフさえ用意すればいつでも泊まることが出来る。インターネットなどでカナダ山岳会に申し込むらしいが、ひとり一泊25CAD(カナダドル)、日本円換算で2,000円強で泊まれる。今回はここで2泊するが、我々のパーティだけだったので、気兼ねなく使えた。ヨレヨレの私は、リーバクト(処方箋のいるアミノ酸製剤)を水とともに流し込んで、20時ごろに就寝。ヘトヘトなのになぜか寝付けなかった。こんなに疲れたのは何年ぶりかと考えた。 ●3/11 ツアー2日目 朝7時に朝食ということだったが、他のみんなも疲れているのだろうか、いつの間にかに8時に朝食となった。天気といっしょに、体力はかなり回復した。朝食の後、朝のミーティングがあり天候の傾向や雪の状態と、本日の予定がニックから報告された。今日はトレーニングをしながらロンダ北峰の肩までシール登高して、スキー滑降を楽しむ予定だということだ。それに先立って、小屋内でロープワークのレッスンがあった。面白いことに、バタフライノットの作り方が日本で教えられた方法と同じだった。 最高の天気のなか、11時前に小屋を出発して、途中で行動食をとりながら登り、14時前にロンダ北峰の肩に着いた。昨日の疲れはほとんど回復していて、きわめて快調だった。空荷に近いことも快調の要因だろう。タクさんが私に『当てましたね!』を連発した。その場でピットテストのトレーニングがおこなわれた。これまで日本でやってきたコンプレッションテスト(ポンポンテスト)とほとんど同じだった。そのあと、悦楽のスキー滑降が待っていた。イルカになった。ニックがもう一度登り返して滑ろうという提案に、みんなが同意した。見える限り我々のパーティだけが、この斜面を独占しているかのようにスキー滑降を楽しんだ。スキーツアーの途中であっても、いい斜面があれば登り返してスキー滑降を楽しむというのがカナディアンスタイルのひとつだという。ヨーロッパオートルートツアーではシャモニーガイドのパーティでも見られない行為だった。 16時にペイトー小屋に戻って、夕食の準備をした。夕食のチキンカレーもたくさん食べることが出来た。昨日のような状態は、おそらく”食う・寝る・出す”のバランスが崩れた結果だろう。海外登山の場合、この3つの要素を崩すとエライ目に遭う。我々日本人がこのBCツアーに参加することは、時差ボケや食生活をはじめとして、いろんな意味合いで、北米からの参加者と比べてかなり不利な条件となる。少なくとも、昨晩ゆっくりと寝ることが出来たので、自分でも信じられないくらいの驚異的な回復をすることができた。 夕食後、タクさんといろいろ話をした。彼はロッククライミングやアイスクライミングがやりたくてカナディアンロッキーに来たと言う。彼のレベルは5.12Cで、オンサイトでは5.12Aということだ。さすがにレベルが高い。スキーに関して、今回の彼の板は借り物ということだが、日本ではベクターグライド・コルドバを使用しているという。カナディアンロッキーの山中で、秋庭さんの話で盛り上がったことには、二人とも笑ってしまった。 ●3/12 ツアー3日目 7:30にパンケーキのメイプルシロップがけの朝食をいただき、私の体調はさらに良くなったが、それに反比例するように天候は悪くなってきた。朝のミーティングでニックは、しばらく悪い天候が続きそうだと言った。本来は大回りして次のボウ小屋に向う予定だったが、最短距離で直行することになるということだ。9時過ぎにペイトー小屋を発った。 曇天の吹雪の中、右側にうっすらと現れるセントニコラスの先鋒を見ながら進んでいったら、ちょうど12時にボウ小屋に着いた。ここには、他のパーティもたくさんいた。そのなかにマウンテンツアーズのジュンコさんがいた。今回のマウンテンアドベンチャーへのツアー参加に当たっては、彼女にもたくさんアドバイスや情報をいただいていた。あいさつをしたら、『楽しんでますか?』と質問されたので、『とっても楽しんでますよ!』と答えた。ツアー提供側の立場からは最も気になることなのだろうし、最も大切なことだ。去年オートルートへ行ったときに、神田泰夫さんに同様の質問をされたことを思い出した。 ボウ小屋内で行動食の昼食をとったあと、吹雪が少しマシになったタイミングを見計らって、セントニコラスに向ってシール登高した。タクさんに『北鎌から見た槍みたいやね?』って言ったら、『右側に小槍があるしね!』って返ってきた。とてもうれしい。オヌシ本物やね(笑)。1時間ほど登ったあたりでシールを外して、スキー滑降を楽しんだ。天候はイマイチだったが、再度、同じ斜面をシール登高して、モサモサの斜面の滑降を楽しんだ。小屋にもどったら、吹雪から逃れてきたスキーツアラーでいっぱいになっていた。約50人近くになるだろうか、しかし定員以上の予約はできないようになっているので、最小の就寝スペースだけは確保されるようになっているという。特に管理人もいないので、モグリもいるのではないか?と聞いてみたら、まずあり得ないということだった。 夕食後、ニックは衛星電話(サットフォン)で本部に天候を確認し、その情報でミーティングが開かれた。現在の吹雪は明日も続き、さらに悪化するという。そこで、明日以降の行程について3つの選択肢が提示された。 � 明日の本来の予定であるバルフォア小屋までは進行し、そこで一泊して、またこのボウ小屋に戻ってくる。 � もし、このボウ小屋に宿泊の余裕があるのなら、そのまま連泊して天候の回復を待つ。 � ボウレイクまで下っていったん下山し、レイクルイーズあたりの別のエリアに転戦する。 いづれの選択肢でも、バルフォア・ハイコルを越えてスコットダンカンハットへ進むことは論外となった。つまり、今回はワプタトラバースを完走できないことが決定的となった。最大の原因はアバランチコンディションで、昨日と今日で40cm以上(日本の感覚では1m以上)積もっているということで、アルパイン、ツリーライン、ビローツリーラインのあらゆる地域でハイリスクという判断が下された。とても残念な状況となってしまった。 ●3/13 ツアー4日目 果たして吹雪は今朝も収束する気配を見せなかった。さらに悪化しているようにも感じる。再度、衛星電話にて本部に状況を確認したニックが言うには、先のスコットダンカン小屋に突っ込んだパーティが、小屋から出られず、レスキュー要請を出したという。そんな状況だから、我々もボウ小屋を出て先に進むことは出来ず、さりとて小屋から下へ下山することもままならないという、小屋内に缶詰めされる状態となった。結局、このボウ小屋で3連泊することに決まった。 それでも、吹雪が少しマシになったタイミングを見て外に出てハイクアップした。雪崩が発生するのは、30度から45度の斜面であり、それ以下の斜面を選んで登高した。この先、ワプタトラバースに進めない気持ちといっこうに止まない吹雪のせいでパーティのみんなも無口で雰囲気も悪かった。気温は0度前後で暖かく雪の状態は深い湿雪で、登るのには問題ないが、スキー滑降には最も難しい状態だった。これも練習だと思って、ジャンプターンを特訓した。こんな状況でも、タクさんの滑りはバツグンだった。 一旦小屋に戻って待機していたら、ニックがビーコントレーニングをするという。小屋の裏側で約1mぐらいの深さに埋めたビーコンを2つ発見するまでの時間を、ひとりづつ計測していった。その結果、グランが最速で5分、私はその倍近い時間を要してしまった。敗因はビーコンを振り回しすぎてしまったことだ。あれだけ国内でトレーニングしていたのに情けない。でも、一時的ではあったが、天候のことを忘れていた。これはニックのワザだったのか? ●3/14 ツアー5日目 シリアルの朝食を嫌がった私のために用意された朝食は、サッポロ一番のラーメンだった。イワシの缶詰めも付いていた。配慮に感謝したい。吹雪のほうはまだ収まらない。ニックに言わせると、彼が担当してきたワプタトラバースツアー史上、最悪だという。こんなに雪が降り続いたことは、かつてなかったという。そもそもカナディアンロッキーの東側にあるワプタアイスフィールドは、いつもはそんなに雪が降らない地域である。これも地球温暖化の異常気象によるものであろうか?あんまりじゃ〜。今朝は小屋の周りに出て行くのもチャレンジングだという。デビー、スティーブン、グラン、クリスタの4人は、とうとうトランプを始めてしまった。ユーカー(Euchre)というゲームで、ぎゃあぎゃあ盛り上がっていた。 軽い昼食の後、クレバスレスキューのトレーニングをするというので、外に出てハイクアップした。3人以上のコンティニュアスで登っている途中で、クレバスに落ちた人を、コンテのひとつ前の人が、1/2システムで引き上げる最もベーシックなクレバスレスキューのロープワークなどをトレーニングした。この発展形として、1/2システムにさらに1/2システムを加えて、1/4システムも学んだ。 やはり難しい斜面をスキー滑降して小屋に戻ったら、風雪が徐々に強くなっていった。ようやく天候が変わる兆しがみえてきた。風は大きな小屋全体を揺さぶるほど強く、一晩中吹き荒れた。小屋の中に居ても恐ろしさを感じるほどだから、こんなときに外にいたら、ひとたまりもないだろう。 ●3/15 ツアー6日目 下山日の今日は、静かな朝になった。まだ朝靄のなかであったが、これからどんどん天候が回復するような気配のモヤで充満していた。朝食の後、ミーティングがあった。まだまだアバランチ・コンディションは悪いが、昨日よりは少しマシになったようで、朝の早いうちの雪のコンディションが良いうちにスキーダウンすることになった。ニックの判断で、ボウ小屋にいたパーティのうちで、一番最初に出発した。 下山のスキーダウンでは、ニックが通過した後、30秒待って続いてこいとか、間隔を50m以上保って下れとか、さまざまな指示が飛んだ。実際、かなりの雪が積もっているので、どこで雪崩が起こっても不思議ではなく、危険な場所はビビリながらプルークで通過していった。0度前後と気温が高いので、雪がさらに腐ってくると、弱層で剥がれるような雪崩が発生しそうで恐かった。 最も危険な場所を通過して、針葉樹の樹林帯に入っていったら、続々と登ってくるパーティと出合った。そう言えば、今日は金曜日だ。これから天候は回復していくので、入山するパーティをうらめしく思った。入山者のリーダーはヤムナスカのガイドのオレンジ色のウェアを着たニックに情報を求めた。 樹林帯を下っていったら沢に出た。ここから先は沢沿いに下るという。あちこちにデブリが出ていたが、現状では谷沿いを下るのが最も安全なのだという。それでも50m間隔で下っていったら、沢はゴルジュになった。ゴルジュの底をスピードコントロールしながら、時折左右の壁を見上げながら、また、まれに見える水の流れに注意しながら下った。ゴルジュを抜けたら視野が広がり、川は湖に流れ込む準備を始めているかのようであった。さらに下って右に曲がると、スカーンと視界が抜けた。ボウレイクの湖畔に出たのだ。ここでシールを装着して、氷結した湖面に積もった雪の上をボウレイクの対岸に向って横断した。今回のツアーのフィナーレであり、名残惜しくて、写真を撮りまくった。その都度、置いてけぼりになるのだが、それでも良かった。 対岸にはボウレイクロッジがあって、その駐車場にヤムナスカのシャトルが置いてあった。たいして埋まってなかったが、脱出するのに皆でクルマを押さなければならなかった。30分ぐらいかかったが、ニックは”カナダへようこそ!”と言って開き直っていた。この程度の雪なら、日本の優秀なスタッドレスタイヤなら全然問題ないのに・・・と思った。 2時間ほどシャトルに乗ってヤムナスカオフィスに戻った。窓口担当のキャサリンさんや、マウンテンツアーズのカオルさんやジュンコさんがいた。キャサリンさんは、想像していたより若くて可愛らしい女性であった。緊張?してしまってあまり会話を交わすことが出来なかったが、いつも微笑をたたえている素敵な女性であった。また、カオルさんは物腰の柔らかそうで、賢そうな雰囲気の方だった。今回はワプタトラバースを完走できなかったのに、ニックから完走証明書というサーティファイが発行された。このままではあんまりなので、たとえ4日間ツアーの方になっても、必ずまた来ますよと、ジュンコさんに約束した。 - |
写真
感想
今回参加した”ワプタ・アイスフィールド・トラバース”スキーツアーは、よくヨーロッパ・オートルートと比較されるそうで、カナダのオートルートと呼ばれています。去年の4月にオートルートを完走した私が、最初に食い付いたのもこのキャッチフレーズでした。その後、調査していくにつれて、カナディアンロッキーの大自然のなかを、カナディアンスタイルで楽しむツアーであることを知るにつけ、だんだんと引き込まれていきました。本来、静かで寂しいぐらいの雪山が大好きな私にとっては、オートルートのような華やかで賑やかなツアーよりも、ワプタトラバースの方が性に合ってるんじゃないかと思って参加した訳です。
実際、いま今回のツアーを振り返ってみて、どうだったか?正直な感想を述べてみますと、今回は判らなかった・・・というのが本音のところです。初日はヘロヘロすぎてツアーを味わう余裕どころでなく、3日目以降はずっと天候が悲惨すぎました。ましてや、そのせいで全行程の半分も行ってません。ただし、2日目のペイトーハットで過ごした時間は、天候も最高で、我々以外のパーティもおらず、忘れがたいものとなりました。いい斜面があれば、少々しんどくても登り返してその斜面のスキー滑降を楽しむといったカナディアンスタイルは、文明の利器に毒された一般スキーヤーに語りかけるなにものかがありそうで、本来の自然に人間がかかわる方法は、どういったかたちでなければならないかを示唆しているようでなりません。かく言いながら、性懲りもなく大枚をはたいてスキー場の1日券を買う自分がまだまだここにいるのですが・・・。
海外でBCのスキーを楽しんでいるときにいつも感じるのは、日本で登山やクライミングを楽しんでいる人でスキーが出来る人が本当に少ないということです。スキーの伝統が全然違うと言ってしまえばそれまでですが、日本の著名なクライマーのパーティがヨーロッパのとある壁に挑戦した際に、アプローチにスノーシューを使って、現地クライマーの笑いものになったという話もあります。これは単にスマートなやり方でないばかりか、ヒドンクレバスの危険性が大きくなることにもなります。今回のガイド見習いのタクさんのような方が、もっと増えればと思うのですが、スキーをやっておれば、雪山登山の世界が広がることは言うまでもありません。スキーをやってて良かったあ! というのが、今回、自分に対する最大の感謝です。
しかし、敢えて苦言を呈させてもらいます。今回のようなバックカントリースキーは、ゲレンデスキーの延長線上にはありません。雪山登山の延長線上です。スキーの雑誌では、こんなことは絶対に言いませんが、この部分を誤解しているスキーヤー、スノーボーダーが雪山で問題を起こしています。そういう意味で、雪山登山やアイスクライミングをやっている若い方にこそ、スキー技術を磨いて、海外に飛び出してもらいたいのです。ゲレンデスキーヤーが雪山登山を経験していくよりも、結果としてハードルは低いと感じている次第です。スキーは雪山登山の世界を間違いなく広げてくれることを請合います。 (2013.3.31記)
-
コメント
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートは、まだ登録されていません。
ルートを登録する
kumaさん、お帰りなさい
ツアー中もトレーニングもあって
かなり充実した日々でしたね。
雄大で素晴らしい写真にうっとりです。
熊さんの様に普段から訓練を重ねているからこそ
こんな景色の中を滑れるんですね。
でも実際は疲労困憊な日もあって大変だった様ですね
帰国後の片付けとか記録の整理も大変ですね。
地名も舌を噛みそうな名前ばかりで
覚えるのも大変そう。
私、花粉症で目がシバシバ。
涙を流しながらこの力作レポを
読みました
ただいま。
今回は日本に帰ってからの時差ボケがきつかったですね。
一般にも、ヨーロッパよりも北米から戻ってきたほうが時差ボケはきついのですが、
そのなかでも、今回は強烈でした。
ヤマレコに入力しようとしても、いつのまにかノートブックを抱いて寝てるんですからね・・・
しかし、僕の文章を読んで、泣いていただけるなんて、
たとえ花粉症でも、光栄っす。
クマ
クマさんのカナダレポまだかな〜、
と待っていたら知らない間にアップされてるではないですか!
マイページに反映される日時的な条件があるんですかね。
何はともあれツアーも力作のレコもお疲れ様でした。
いいですね〜、カナディアンロッキーのスキーツアー
時差、天候、言葉、食文化などタフなコンディションを乗り越えてやっとたどり着ける素晴らしい世界に魅入られてしましました。
カナダの山事情なんかも興味深く拝見しました。
無人小屋というと日本では避難小屋みたいなボロい小屋を想像してしまいますが、設備の整った立派な小屋なんですね〜
山食とかトイレとか、山文化のお国柄っておもしろいですね。
2日目の写真の素晴らしさといったら!
こういうのを見せられると困るんですよね〜
私もいつかこんなところでスキーを!
しかし、私にopen mindがあるのだろうか?
respect their decisionについては、
「シリアルなんか食えるか!
もっとマシな食いもんよこせ!」
とサッポロラーメンを出させるぐらいの自己主張はできないとダメだってことですよね?
山スキー楽しんでるみたいですね!
一日目…かなりつらかったみたいで
あのタフなクマさんがバテてたのが信じられず
読みながら心配していましたが、良かった!
さすがやなぁ(笑)
クマさん山行記録がほんと楽しくて、のめり込んで数時間見てました(笑)全く知らない事だらけで楽しかったぁ!ご飯もそうだし、衛星版ポケベル?衛星電話、ハンドサニータイザー?お水のつくり方も違うし
なんといっても素晴らしい景色!
読んでてほんと楽しかったです
その素晴らしき山スキーの世界、憧れますがなかなか簡単には(^^;)
どうぞこれからもたくさんの山行記録アップをお願いします
カノスケどん、そのとおりです。
複数の民族から成る多くの国においては、以心伝心という日本の好慣習はありません。
したがって、海外では、いい意味での自己主張をしないと、
何を考えてるか判らないと言って、非難されます。
しかし今回は事前にヤムナスカの厨房からフードクエスチョンというかたちで
ヒアリングがありました。
その際に、シリアルの朝食を変えてくれと頼んだわけです。
多分、来年の同じ時期に再挑戦するかも知れません。
もし良かったら、一緒に行きますか?
でも、同じ日程で長期休暇をとるのは至難の業でしょうね!
クマ
やがなどん、元気そうでなによりです。
そして、コメありがとう。
数時間もこのレポを楽しんでいただけたんですか?
それはもう、ありがたいことです。
人生スキー初心者SもBCスキーに出るようになり、
べっちも、ゲレンデ参戦するようになってきました。
やがなどんも是非スキーワールドにいらしてください。
お待ちしております。
しかし、ハンドサニータイザーではありません!
サニーが出てきてどうするんですか?
サニタイザーですわ。伸ばしません。
ひさびさに、やがなどんの天然ぶりに触れて、
心が温まりました。
クマ
>もし良かったら、一緒に行きますか?
この
行きたい、行きたい、行きたい...
しかし、休みはそれなりの覚悟と根回しでなんとかできないことはないので、クマさんの鼻をあかしてやりたいところですが、まだBCスキーデビュー前の身としては、ハードルが高すぎですね〜
来シーズンから経験を積んでクマさんの足手まといにならないギリギリぐらいになったら、ぜひっ!
来年は天気がいいといいですね
ここで使った”
『やーい、くやしかったら、カナディアンロッキーでバックカントリースキーやってみな〜!』
っちゅう意味ではなく、単なる”テレ”です。
誤解されないように!
来シーズンでも、国内でご一緒できたらいいですね。
バックカントリースキー道具の使い方については、私でよければ伝授可能です。
逆に、深雪の滑り方などについては、教えていただけたら幸いです。
そのあと、カナダを考えましょう! マジで言ってます。
クマ
情熱溢れるレコ!!
興奮しながら一気に最後まで読み通してしまいました!!
山への情熱、スキーへの情熱…
ホントに感動しました
自分の見る世界とかけ離れた世界…、そんな世界を垣間見る事が出来るヤマレコって素晴らしいなぁ
山はやっぱり最高だって改めて思いました
そこまで興奮して読み通していただけたなら、
こちらとしても気合を入れて書いた甲斐があります。
そして、おとうさんに山の基本を教え込まれた娘たちは、
そんなに遠くない将来、海外の山にも挑戦することでしょう!
決してかけ離れた世界ではなく、山はどこでも最高ですよ。
山スキーはそれを深めてくれます。
クマ
はじめまして。今シーズン Chamonixから プチ・オートルートを経験しました。夏の海外登山は、何度かしましたが、雪上は
初めてで、吹雪、霧などの悪天候で ガイドの指示が
なかったら 全くの幼児同然でした。しかし 晴れた日の
アルプスの景色には 日本と比にならぬパノラマに 圧巻されました。
くまさんのレコを興味深く読ませて頂きました。
山に対する真摯な姿勢は、脱帽しますね。是非
カナディアンロッキーツアーを夢見ます。
今回のツアーもそうでしたが、夏山からの基礎体力作り、ゲレンデスキーを含めてスキー技術のアップが大事と納得しました。これからも 面白いレポお願いします。
banchan97さん、はじめまして。
Chamonixからプチ・オートルートというのがあるのですか?
現地のツアーですか? それとも日本からのものでしょうか?
スネルスポーツの神田さんには、お会いされましたか?
よろしければ、ヤマレコにレポートをアップしてください。
ダイナミックな景観を楽しみたいのなら、ヨーロッパアルプスやカナダは最高です。
日本の山ではとても経験できませんね。
でも、日本の山の様に、四季の変化の美しさはありません。
クマ
ワプタ・トラバース素晴らしいですね、、、
関連会社で仕事を始めようとしていながら、アドベンチャーズの商品を全然把握できていない自分に呆れました。
今はマウンテン・ツアーズでの勉強で手いっぱいですが、オフシーズンには私もバックカントリーに繰り出したいです。
ので、忙しい合間をぬって勉強しておきます!
「タク」誰かと思っていたら、谷ですね!
同僚ですが、私にとっては憧れる先輩でもあります。
ジュンコ、カオル、キャサリン、今年も変わらないメンバーですね。
また来てください!
私もできるだけここに留まりたいと思っています。
次回、アシスタントとしてご一緒させて頂けるように腕を磨いておきます!
アドベンチャーズのツアーレポートでありながら、
出場人物はツアーズのほうのヒトが多いですね。
英会話がイマイチなので、こうなりました。
このたびのツアーでは、タクさんに本当に世話になりました。
ところで、ヤムナスカ・ブログでデビューされましたね!
プロとしての始動ですね。期待しています。
クマ
ありがとうございます!
全てにおいて未熟ですが、引き続き頑張っていきます
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する