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2017年11月07日 06:59映画全体に公開

ネタバレ閲覧注意 ブレードランナー2049 byドゥニ・ヴィルヌーヴ

TOHOシネマズ上大岡にて鑑賞。
初回10/30は、フィルムノワールでサイパーパンクなサウンドと映像に圧倒されて、あっと言う間に終ってしまい、わたしは誰ここは何処?状態で、筋は理解できたが、オレ何観たんだろ?みたいな。
翌10/31は、ちょっと余裕があったので前回よりは冷静に観られたが、インスピレーションで観られた初回と異なり、ギミックの迷宮にハマり整合性がとれなくなる。
11/2に仕切り直しというかキーポイント最優先で確認しながらの鑑賞に終始し、帰宅後確認作業した結果、答えは決してひとつにならないものの、リドリーとドゥニがベストを尽くしたらどうなるか、という方向性から回答を逆算して、最優先確定事項を初回の双子説に戻す。
11/6、鑑賞4回目にして初めて涙がこぼれた。
この作品のテーマは「レプリカントはどこまで人間なのか?」「生命と非生命の境界をどこに置くのか」「記憶がなくても人は人でいられるのか」「愛するという感情はどこから生まれてくるのか」などなど、あまりにも多岐にわたっているのだが、最大のテーマは「シンパシー」なんじゃないのかな、と。
同情という意味ではなく、共感とか共鳴とかいう意味合いで。

そんなわけで8日で4回鑑賞するハメになってしまったわけである。

なお、映画館なので一時停止も巻き戻しもできない関係上、当然勘違いや記憶違いは多々あると思われるが、御容赦のほどを。

【 序文=2017.11.26作成 】
まず、この作品は、今ハリウッド王道的なエンタメ作品が好きな方にはとてもじゃないけどお薦めできない。
無論、本作はヒロイックアクションとは正反対のベクトルを有しているため、その手の作品が好きな方にはお薦めできない。事実、2時間43分の上映時間中のアクションシーンはトータルでせいぜい5分程度。
「ブレードランナー」とは比較にならないほどSF純度が上がっているため御用心。前作よりもむしろリドリー・スコットに限れば「プロメテウス」に近い風味があるので、「プロメテウス」が苦手なら厳しいかもしれない。
解りやすい作品が好きなら手を出すべきではない。
ハッピーエンドが好みなら回れ右。
勧善懲悪とか、善と悪の対比とか、そういうものとは一切無縁。正義とかいう概念も一切作品をコントロールしない。
※ここまで読んで、好みの作品じゃないと判断できた人はスルーすべき作品。

また、多くのシーンや、詭弁・嘘・写真・情報操作などなどのギミックを駆使して、確定した真実の提供を最小限に抑えることにより、物語の読み方を観客に委ねる手法が用いられているため、単に「奇跡の子供」を誰に置き換えるかという視聴者の選択によってのみでも、マルチエンディングを体感できるように、構築されている。
つまるところ、「誕生した瞬間に作品は監督(エンジニア)のもとを離れる」=視聴者による解釈の自由度を完全に保証している。
しかしながら、実は、物語をただひとつの正解に導こうとするある種の力(仮にこれを共鳴力とする)が作中あるゆるシーンに仕組まれているため、その力と共鳴できた場合に於いては、作品はひとつのベクトルへと流れ出す。
それは、この作品をどう観たらいちばん感動できるのかという、メタファーに支配されたところからのみしか解答に帰結できないトリックであり、ようするに、あなたが観ていちばんきもちよかった見方が正解なわけである。
映像表現は、リドリー・スコットとほぼ同格。
サウンド表現は、映画史上最高峰。
心情描写は、折り紙付き。
ジャンルは「SF」「人間ドラマ」「社会ドラマ」「ミステリ」
主成分は「知識と思想と感情」「愛と生」「経験と記憶」「自分探し」
前作の続編の形をとりつつ、時代を移したリメイクの隠れ蓑をとることによつて成立したメビウスの輪。つまるところ、前作を理解していないと意味不な作品になること請け合い。
前作よりも圧倒的に原作の世界観を反映している。
※ここまで読んで、好みの作品じゃないと判断できた人はスルーすべき作品。ここより、ネタバレ注意。

【 ストーリーは大雑把にこんなカンジ 】

1、ロス市警所属のブレードランナーのKはネクサス8型のレプリカントを解任するためにスピナーで農園に向いサッパーを解任(殺害)する。
ニンニクスープ?に興味をもつKの図。
サッパー「お前は奇跡を見たことがないからだ」

2、Kは帰還しようとしたとき、その庭の死んだ樹の根本付近に意味深な空間を発見し、上司である警部補のジョシに報告するも嵐が近づいているため掘削班任せにして引きあげる。
「サクリファイス」な樹。
献花。

3、LEPD(ロス市警)に戻り精神鑑定の問診を済ませ、ボーナスを受け取る。
問診プログラム、カッコイイ。
※ナボコフの「青白い炎」からの流用らしいが未読。

4、メビウス21(コンドミニアム)へ帰宅して彼女ジョイとのひとときをたのしむ。電脳ホログラムな彼女にエマネーター(携帯共有端末機器)をプレゼントして、初めて屋外でのデートをたのしむ。とはいっても屋上だけど。図らずも「her 世界でひとつの彼女」を思い出してしまった。
屋上の文字看板「ア」と「ス」の間にたたずんでKが見たもの。
ジョイが初めて触れた雨。雨。雨粒。肌に落ちる感触。
通信システムの優先により、静止するジョイが間抜けすぎる。
記念日にしたいKのこころが、なんてこったいなゲンナリ顔に。
※ジョイの外部干渉音が「ピーターと狼」なのが、ちょっと怖い。初回鑑賞時には気づかなかったが、狼に丸呑みにされて生きたまま藻掻いているアヒルは、虚構の中で生き続けるKなのか、それとも人類そのものなのか。

5、ジョシの命により市警へ逆戻りし、箱の中身を解析した結果、頭髪および帝王切開により出産したとみられる女性の骨であることが判明。
そして、遺骨には「N7A…」の文字が。
Kはジョシに世界の秩序を崩壊させかねない要因(レプリカントの出産にまつわるすべて)の解任を命じられる。
K「産まれたものには魂が宿るのでは?」
ジョシ「あなたは魂がなくても大丈夫」

6、DNA解析のためKはウォレス社へ赴くも、スキャンでは解析しきれず。タイレル社時代のものとだけは判明。

7、ラヴ、顧客とのトーク中に警告の通知が入る。

8、データ保管庫でもデータが欠損していて読めなかったが、ラヴが交代に来る。
ウォレスの代理と名乗るラヴに、名前をもっていることに驚き、(You must be special.)「キミは特別なんだな」、とK。
失踪した型番のレプリカントの帰還。ラヴはKに、ひとつのミッシングにたどり着いた可能性を示唆して、リックとレイチェルのVKテスト(レプリカント識別テスト)の録画を見せる。
ラヴの、「個人的な質問にはトキメキを覚えるものよ。相手に求められている気がするから」間髪を入れず「仕事は楽しい?」をスルーするK。
ここは、完全無欠に前作のコピーで、レイチェルがリックにパーソナルクエスチョンをかましたシーンへのオマージュと知れる。

9、Kはガフを訪ねるが、リックの行方について何ら情報は得られなかった。
折り紙の羊。
彼は、望むものを手に入れてリタイヤした。

10、ニアンダーとラヴ。
新たに産まれたレプリカントを使ってラヴに繁殖の重要性を説く。
天使は捧げ物なしで神の国に入るべきでない。
嬰児が出来たとは告知できぬものか。
9つの世界。幼児でも指折り数えられる。
人類は全宇宙を支配すべきだ。
盲目?の彼は、視覚伝達機器でサーチしたのち、生まれたばかりの新型のレプリカントの生命を絶つ。
世界を再びエデンの園に。
完成したが失われたタイレルの遺産。

11、大衆食堂でライスを食すK。
フレイザは娼婦3人にザッパーを殺した彼を探るよう命ずる。
ひとりがKをブレードランナーと気づき2人は退散し、マリエッティのみ残る。
マリエッティ「生身の女には興味ないの?わたしの眼球もスキャンしてみる?いつでもここにいるわ」

12、Kは最初の現場に戻り、オルガンの中からブリキのキャンディボックスを発見する。
片足のみの靴下。写真。
樹の下に彫られた日付。
6 10 21 (2021年6月10日)
甦る記憶。木馬と炎。
Kは現場を燃やす。
※再度現場を訪れたKに、さも「気付よ」と言わんばかりに提示される一段下がったままの鍵盤は、仕組まれた感が強い。冒頭の解任シーンでもオルガンは映し出されるものの、クローズアップされない上トーンが暗くてキーの形状までは読み取れない。レプリカントが写真好きなのは既に前作で明らかだが、スピンオフの短編でのサッパーの怯えぶりから想像するに、サッパーの死後に仕組まれた可能性が最も高い。
つまるところ、視聴者に解読を任せるための演出に他ならない。

13、ロス市警に赴いたラヴは、ココを殺害して資料を強奪する。

14、ココが死に、骨も消え、イライラMAXのジョシ。
Kは、かの写真の存在をジョシには隠す。
酒をあおり、Kに記憶について訊ねる。
数人の男の子に追いかけられて木馬を隠したKの記憶。
「わたしが酔ったら?」
「任務に戻らねば…」=カンベンしろよ。

15、2021年6月10日の出生記録を洗い出すKとジョイ。
人間の記号はACGTの4つ。わたしは1と0。
そのなかに、まったく同一のDNAをもつ男女の記録をヒットさせる。
Kは、当然ひとつはダミーだろうと決めつける。
二人はモリルコール孤児院に預けられたことになっていた。
女子は遺伝子異常で死亡。男子は消息不明。
※一人はダミーと決めつけるKに、ジョイは「何故?」と当然の疑問を口にするが「有り得ない」とKは否定。
あらゆるデータから検証するジョイと、既成概念で物事を判断してしまうK。

16、スピナーでドライヴなKとジョイはサンディエゴの廃棄物処理場上空を飛行中、スクラップあさりの武装集団に攻撃されて墜落。
ジョイは必死にKを起こそうとするが間に合わず。
しかしながら、ドローンによる地上へのミサイル攻撃で支援したのはラヴだった。
マニキュアされながらポイントするラヴがステキ。
ダテ眼鏡がタイレル氏モドキなのも乙。
前作にはなかったが、原作のレイチェルも派手な防塵グラスをかけていた。
※この武装集団がフレイザ派だったか否かは判読不能。

17、孤児院へ。
その年の記録のみ破られていた。
が、Kは記憶どおりの炉で木馬を見つける。
馬の灰皿。

18、ジョイはKに、特別なあなたに名前がないのは見合わないと言い、ジョーと名乗ることをすすめる。お母さんでもきっとそう言ったわ。
「やめてくれ」、とK。

19、自己のもつ移植記憶データに疑問をもったKは最高の記憶創造者と名高いアナ博士のもとへ出向き、自らの記憶が作り物でないことを告げられる。
アナは免疫不全のため査証は持っていたけどオフワールドには行けず、8才時に、ここに連れてこられてガラスの中で隔離された、と告げる。
また、本物の記憶を移植することは違法であることも提示。
アナ「わたしの想像力は、長かった孤独の経験を活かしているから」
「両親は何でも与えてくれた。人付き合い以外は。たくさんいたのに」
アナ、突然何かを悟ったように涙を流す。=共鳴。彼女は理由も知らず涙を流した。
K、自分が奇跡の子である確信めいた意識が強まり、同時に解任(殺害)しなくてはいけない対象が自分自身という、恐るべきダブルバインドに心底苦悩する。映画宣伝の「知る覚悟はあるか」は、ここにかかっている。
※アナが泣いたのは、レプリカントと思い込んで生きてきたKが実は人間だったことへの同情ともとれる。
※アナは病名を「ガラシア症候群」とかなんとか言っていた気がするのだが、そんな病名は検索しても出てこないので、わたしの記憶違いかもしれない。※「ガラテア症候群」だった。これもググって出ないので、ピュグマリオンのガラテアからとった造語と考えることにする。だとすると、隔離されているというより自らを隔離しているという方が正しいかも。

20、外は雪、ジョシの命により、市警に帰還したKは精神鑑定で甚だしいストレスを関知されるが、子供を解任したと嘘をつき、48時間の停職処分で免れる。
※ジョシがKの答えに100%納得して、証拠の提出を要求しないのは不自然という御指摘があったため追記。そもそもKの仕事はネクサス8型の解任であり、上への報告もせず独断でKに処分を一任したのは、ジョシの職権乱用による越権行為であり、この事実は誰にも知られたくないため当然記録にも残せない。さらに、ジョシはKに全幅の信頼をよせていた。

21、帰宅したKは、ジョイの計らいでマリエッティを通じて同期したふたりとメイクラブする。
心底嬉しそうなジョイに対して困惑気味のKの温度差が凄い。
たしかにKはジョイを愛しているけど、その愛は、生物のもつ種族保存上のそれではなく、唯一の安らぎとしてのそれだった。
Kはマリエッティに事後、発信器を仕掛けられてしまう。
ジョイはコンソールから離脱し、Kにエマネーターに入れてくれるよう懇願。
文字通り裸になるため「失いたくない」と拒否るKだったが、彼女の決意は固かった。
ジョイ「本物の彼女のように」
※ネットワークに繋がっている時のジョイの直感はいつだって正しいわけだが、やはりそれが自分事への判断となると人間同様万能ではなくなる。
離脱してからのジョイは(初めて世界に飛び出した子供のように)ほとんど役立たずになる。

22、ジョシがウォレス社のネットワークから離脱して突如目標を見失ったラヴは血相を変える。

23、木馬の解析をDr.バッジャーに頼んだところ、トリチウムの含有量から地域が特定できたため、Kとジョシはラスベガスへ出向く。
Dr.バッジャー「馬でもオフ・ワールドへの査証でも何でも用意できるぜ」

24、Kのアパートへ出向いたラヴはまんまと出し抜かれたことに気づく。

25、荒涼とした砂漠地帯に女神像。
熱分析。
ライフの存在を確認。

26、市警に乗り込んだラヴによりジョシは殺害される。
ラヴ「彼が本当のことを言ったとでも?」「なぜなら私たちは嘘をつかない」
変化を恐れるジョシ。
変革を望むラヴ。
そう、レプリカントだって嘘はつけるのである。
殺したあと、ジョシの眼球でプログラムにアクセス。
Kの行方を追うはずが、停職の文字。

27、砂漠・石像群。そして蜂。
なんと、地球に生命が戻り始めていた。
デッカードだったら大喜びしたのだろうが、ジェネレーションギャップは相当に大きい。
※ニンニクや献花のときの表情もそうだけど、Kが人間以外の生物を生で見たのは何せほとんど初めてのことであるし。

28、K、建造物に侵入する。ピアノと犬。
リック「お前さんもしかしたらチーズを一切れ持ってないかい?」
「何日もチーズの夢を見た」
K「ピアノの音が聴こえた」※これも前作でリックがレイチェルに言ったシーンだ。
7発のパンチにノーガードのKに根負けしたリックの提案により二人は酒を飲み交わす。そりゃ生身の人間(または、人間もどき)ではどーにもならないわな。
ここのところ夜は暇だから本ばっかり読んでいた。
昼は忙しいようだが、何してるんだろうか。
※「宝島」は、50年くらい前に一度読んだだけだから、台詞が本にかかっているの否かは、判別不能。
その犬は本物かい?
知らん。そいつに訊け。
世間知らずのKには判らないけど、リックは当然知っているはずだが、ちょっとだけ意地悪。※そのくらい自分で知れ、みたいな親心的な意味での。かと思ったが、「本物だろうがなかろうが、それに何か意味があるのか?」の、ひよこ隊長説も採用の価値あり。
プログラムされたことしか出来ない電気犬は酒を呑まないだろ。
KD6-3.7と名乗るKにそれは名前じゃない、とリック。Kはジョーと名乗り直す。※Kの名前がKeyなら、そう名乗るべきだった。が、名乗っていたら当然リックは息子と気づいてしまったためストーリーの進行上妥当だったとしかいえない。
※リックが渋々ながらもKにレイチェルの名前を告げたところだけは、真意を読みにくいが、Kが敵ではないと本能的に悟ったということにした。仮設の域を出ないけど、ブレードランナーとしての経験上、ある種の信頼が生じた可能性もある。※=共鳴。
子供に逢いたくないのか?
愛しているから逢いたくない。
子には逢わずに去った。
そうすることになっていた。
記録の欺き方や痕跡の消し方を教えた。
みなそれぞれに役割があった。
オレはそうすることになっていた。
K「他人に乾杯!」

29、ラヴが一軍を率いてやってくる。
最初に気づいたのは、腐っても犬。
最初に二人を攻撃したのは、フレイザ派であろう。3台のスピナーと6台のスピナーが別々に映し出されるもののカエルスキルでは未だ解読できない。
どう見ても殺そうとしていたように見えるので、ラブ側では有り得ない。
フレイザ派は、ラブが到着してしまったためいったん隠れた可能性大。
Kの奮闘虚しく、ラヴの踵落としに虫の息。
「我が社の製品には御満足いただけたでしょうか」といいつつ振り上げられた脚。
絶命寸前のアイラブユー。
しかし、お気に入りのKにはとどめをささず。
そしてリックは連行された。

30、マリエッティたちによって手当を受けたK。
マリエッティが追跡機器をKから回収したのは、やはり女心であろうか。
続いてフレイザ率いるレジスタンスの一党が大挙して現れ、あらかじめ体よく手にもった写真をこれ見よがしに見せびらかし、Kを洗脳にかかる。
Kは反乱軍のリーダー、フレイザより、リックの口封じを任される。
こんなに胡散臭いキャラはいないのでミエミエ。そもそもリックとフレイザ派がつるんでいたのなら当然とっくに処分している。
同時に、Kが奇跡の子供であることを否定される。Kは、その説を鵜呑みにしてしまう。
自由の身になりたければ仲間になれ。

生まれたのは女の子。
わたしが子供をこの手に抱き上げた。
子供はわたしを見て、雷鳴のごとく泣き叫んだ。
わたしは死にゆくレイチェルを看取り子供を託された。
青い服を着せて逃がした。
※まるで某新興宗教団体の布教宣伝みたいな、いちばん意味不な台詞。
孤児院に隠したはずだが?そもそもフレイザは何も知らない可能性が高い。さらに言えば、前作のレイチェルですらなかったはずの幼年期の写真を持っていた。おそらくアナの居所も知らないのだろう。リックが奇跡の子の居所を暴露してニアンダーに奪われる事態を避けたかっただけだろう。リックの居場所も初めて知ったはず。ほかにも理由はあるかもしれないけど、フレイザは都市伝説めいたもの以外は何ひとつ知らない、というのが正解のようだ。
大義のために死ねるのは最も人間らしい、という、国が国民を欺くために古代から用いられた大義名分の常套句にコロッと欺される、人生経験が浅すぎるK。
いつか彼女を世界に知らしめる。
彼女が我々の軍を率いる。
リックとレイチェルは愛し合っていたのであり、子供が革命のシンボルとして利用されるのを望むはずもなく、こんなヤツラに大切な子供を任せるわけがない。
ニアンダーは科学者として子供が欲しかった。
フレイザ派レジスタンスはシンボルとして子供が欲しかった。
ジョシはレプリカントが自然増殖する来たるべき未来の驚異として子供を抹殺したかった。
レイチェルとリックは、ただ無事に生きのびて欲しかった。※ただし、ふたりが子孫をつくるためだけにデザインされた特別なレプリカントだった場合のみ、上述の説は当てはまらない場合がある。しかしながら、それなら二人に厳重なマークがあらかじめ付いていて然るべきなので、実際にはほぼ有り得ない。

31、リックとニアンダー。
リック「俺には何が本物だか解る」
リックはレイチェル(のコピー)と再会し、レイチェルの死を知らないため最初は心を奪われたものの、一言目で戸惑いが生じ、二言目を聴いた途端に表情を変え、「レイチェルの瞳の色は緑だ」と咄嗟に嘘の情報を流す。※VKテストのモニター越しだとグリーンにもオレンジにも見える場面があるため思いつき易かったと推測。
本当のレイチェルなら走ってきて抱きつくし、「さびしかった?」ではなく「さびしかったわ」だし、とち狂っても「愛してないの?」など言うわけがなかろう。言語道断である。
※「ブレードランナー」の劇場公開版にある「レイチェルの寿命の制限はない」は既にリドリー・スコットにより削除されて、なかった事になっているため、リック自身がレイチェルを6型と思い込んでいて、既に死んでいることは理解していて、それでもなお想い出に翻弄された、と解釈することも可能ではあるものの、おもしろみは半減するので却下が妥当。
所詮急ごしらえのまがい物とはいえ、あまりにも間抜けなコピーの失態に、ニアンダーの指示も待たず、一応アイコンタクトはしたものの、即座に射殺するラヴの図。彼女はニアンダーの忠実なしもべである以上に完璧に右腕格。自他ともに認める「最上位天使」。
※ラヴもニアンダーもレプリカントであると仮定した場合むしろ、レイチェルの言動の不自然さに気づかず単に「瞳の色はグリーン」に対応してしまった可能性も若干ではあるが完全否定できない。
ひらけぬ扉をあける鍵。
子供。
神はラケル(レイチェル)を。
フクロウ。
ニアンダー「子供を隠した協力者がいたはずだ」「あなたはまだ痛みを知らない」「オフワールドにはあなたの口を割らせるすべてがある」
オフワールドへ。
※なんかもの凄い秘密がありそうで、ちょっと観てみたい。

32、ロスへ戻ったKに、巨大ホログラム女のジョイが、「ハンサムさん、グッドジョーみたいね」と。
電脳システムまでが彼に共感をもつ始末。
※名付けてもらった「ジョー」の名前も全体意識のそれと解ると無味乾燥となり、恋人と信じていた彼女も文字通り意味の根底から否定され、何もかも失ったKは、だがはたして失意のどん底で一番の記憶に拠り所を発見する。

33、移送中、スピナーの機内でリックはラヴに問う。
どこへ向ってるんだ?
「Home」
オフ・ワールド。
すべての答えはそこにあるらしい。

34、スピナーをを打ち落としたKは、ラヴとの死闘の末、リックを救い出す。
ラヴの死の接吻。
しかしながら、Kの心臓にナイフを刺すこともせず、またもとどめを刺さなかったラヴのこころ。
ラヴ「I,m a best one.」
再び死闘。
ラヴを戦闘不能状態に陥らせながら、頸骨をへし折ることもせず、とどめをささなかったKのこころ。

35、降りしきる雪のなかで、K(Key)はリックをアナ(Ana)と逢わせ、未経験の感情の奔流の処理に戸惑いつつも冷たい雪の温度をたのしむ。
図らずも、アナはそのとき、見えるはずのない雪を屋内に降らせていた。=共鳴。
K「オレの最高の記憶は彼女(アナ)のものだった」
リック「オレいったいキミのなんなんだ?」

図らずも親子三人が勢揃いするラストシーンが胸に染みいる。
だが、当の三人は、お互いが家族であることをまだ知る由もなかった。
※Kが死んでしまったと読み取っている方が多いらしいとひよこ隊長より報告を受けたが、それはほとんど有り得ない。
なぜなら、彼には大請け合いした以上、リックが死んだと偽装する責任があるし、何よりこんな状態でリックとアナを放り出すのは許されざる行為であることくらい世間知らずのKにだって当然理解できるからであり、Kはそこまでバカじゃないし無責任じゃない。
横たわって目を閉じたのは、「雪がきれいだったから」。カフカというよりカミュだが…。
また、「大丈夫か?」というリックの問いを微笑みでスルーしたのは、単にこの程度なら経験上問題ないと知っていたからである。
何せ彼は世界で初めて誕生した「奇跡の子供」のひとりであり、そう易々と死ぬことはなかろう。
「奇跡の子供」という呼称は好みではないが、レプリカント(模造人間)から産まれた子供はもはや「レプリカント」でも「人間」でもないため、呼び名がまだない「なにか」の第一世代であるため致し方あるまい。
ホモサピエンスレプリカンシスとかじゃイヤだし…。

※実は、肝心の、アナが二人の子供と断言できる証拠はひとつもない。
そのため方程式の解をを導き出すためには数学以外のなにかが必要になる。
わたしの場合、それは、最もこころに響いたKとアナのシンパシーという映画力ベクトルによって、身勝手に理解したわけである。
無論、解は決して1つではないのだが、いちばん好きな見方を選択するのは自明の理。

【 映画展開により視聴者に導入される流れ 】
1、2049年ロスアンジェルス、ロス市警のブレードランナーであるKは、通常任務であるネクサス8型の殲滅の一環として郊外の農場でサッパーを解任するが、その庭に埋葬されていた箱の中身(出産したとみられる7型?女性レプリカント)に因って、物語が動き始める。
ロス市警の立場からすれば、レプリカントの自然増殖などもってのほかなので当然、警部補ジョシはKに殲滅を命ずる。

2、Kは残された遺品より子供の行方を追う。
その捜査の過程で、ニアンダー側は利害と一致を見、ラヴに美味しいとこ奪りを示唆。
また、フレイザ側もレジスタンスの一員たちにKのマークを命じる。

3、現場に戻ったKは、「6 10 21」の刻印を発見。自身のもつ記憶とシンクロする。
かくして、捜査はK自身の自分探しの旅の様相を呈することになる。

4、たどり着いた孤児院でKは記憶の場所から記憶の木馬を発見し、記憶創造者アナのもとへと出向き、自らの記憶が本物であることを告げられる。
自分が奇跡の子である可能性が膨らみ、葛藤が生まれる。
つまるところ、自分を解任しなくてはいけないという矛盾。

5、さすがに自分が解任対象でしたとは言えず、自己防衛本能によりKは子供を解任したと偽りの報告をし、ロス市警と決別する。

6、Kは、父親であり、唯一の頼みの綱であるリックを探し当てたが、リックが出産前にレイチェルと別れていたことを知り、彼の子への愛の強さゆえ、名乗り出ることをあきらめる。

7、ラヴによってリックが連行され、負傷したKのもとにかけつけたフレイザ率いるレジスタンス一行により、自身が奇跡の子供である可能性を否定され、思い込みからまんまと欺されたKは自失する。

8、連行されたリックは、復元されたレイチェルモドキと再開するも、彼女の二言目の台詞でレイチェルでないことに気づき、嘘の情報を流す。

9、Kはラヴとの死闘の末、フレイザの命に背いてリックを救出し、リックとアナを逢わせた。

というのが、無難にみたときのストーリーの流れだが、確定されている事実だけを再構成すると、解釈が困難になってくる。
まず第一に、ネクサス8型を解任するブレードランナーはネクサス9型とインプットされるが、Kが9型であるとは作品中一切触れていない。もしKが9型なら、奇跡の子供である可能性は皆無なので、ここが解読をさらに難解にしている。

そもそも9型をどうやって識別するのか、本作では一切語られないのが謎。
こんなところを曖昧にするのは、それこそがヒントだからに他ならない。
また、作品中の情報統制に何か意図的な、次回作へのアプローチの多元化が見受けられる。と、極私的には解釈。
当然、6型なら寿命が尽きているので、あり得ず、8型なら誰もが気づくのでさらに有り得ない。
人間なら、記憶の移植は不可能なので話にならないし。※あとから気づいたが、人間に記憶の移植が不可能なのは現代科学であって、2049年に不可能だとは限らないため、この説はあり得る。ただし、強すぎるのであまりにも微妙。
ウォレス社の特別な型番だとする説なら無理矢理こじつけられるかも知れないが、レジスタンス側がやったことに、ウォレス社が関わっていたという方が無理がありすぎる。
ミッシングである7型は、原作ではまだ登場しておらず、レイチェルの台詞からレイチェルシリーズが6型の不備を補い人間との特異点を探し7型に活かすというアレを考察に入れれば、埋葬されていた7型は、単に子を産めるという特性以外にあらゆる人間としての要素を備えているともいえ、唯一採用可能な説となり得る。
が、当然、彼の記憶は本物、というのが一番筋として通っている。

また、アナがリックとレイチェルの唯一の子供であるという説も、単なるKの思い込みの範疇を出ない。
まず、Kが当日の出産記録からヒットさせた同一DNA双子の一方をダミーと決めつけたのは、遺伝子に個体としての要素以外に連綿と続いてきた子孫のそれも自動的に受け継がれる人間なら当然かもしれないが、もし両親ともにレプリカントであったとしたら無問題だし、片方でもそれはおそらく人類史上初めてのことであり、データのないものに既成概念は通用しない。

産まれたのは女の子。
リックはレジスタンスに記録の消し方は教えたが、記憶の移植方法は教えていない。というか、リックは知らないと思う。
そもそもフレイザは、奇跡の子をメシアに仕立てて革命を起こしたいだけである。
彼女がすべて嘘を言っているとも決めつけられないが、革命を起こそうとしているリーダーの弁を信用する方が、ちょっと不自然。
しかも、Kがダミーなら最初から知っているはずだし、眼球がないから8型とは断定できないし、サッパーとの関わりすら疑わしいし。
まぁ、Kの願望が大きく、初めから双子説をオミットしてしまった関係上、絶望が大きく理性的に考察ではなかったのも解らなくはないけど。
なにせ、人間に最も近く、眼球を捨ててしまえば判別不可能な8型は当然、人間同様大義のためなら簡単に嘘をつける生きものなのだから。

サッパーがくだんのレプリカントの帝王切開をしたのはほぼ確実に思えるが、ザッパー亡きいまとなっては、リックを除けば誰ひとり知る由もない。
スピンオフの短編の主役である彼は、普通の人間親子を救おうとして力を人前で見せてしまったため、尻尾を掴まれるが、フレイザ派のように徒党を組んでいるようにはまったく見えず、サッパーとほんの一握りの者がリックとレイチェルに協力していたと考えるのが妥当ではなかろうかと。

原作では、リックは、特定のレプリカントに感情移入してしまう人間ながら、本作では依然として判断しがたく、老化しているので微妙ながら、レプリカントが老化しないとは限らないし、何より弱すぎるのでレプリカントではないと思われるのだが、ニアンダーの言葉も一理はあるので、推測の域を出ないけど可能性はゼロにはならない。
彼がレプリカントなら双子のDNAが一致する可能性はさらに高くなるものの、個人的な願望として人間であってほしいというのがある。
だって、最初からデザインされた恋なんてイヤじゃん。
しかも、性格的にあんなにひん曲がってるヤツがレプリカントなんて、ちょっとね。
※しかしながら、「人間以上に人間らしく」の標語どおりのレプリカントとして、まったくレプリカントらしさがないレプリカントがいても何ら問題がない。
「ブレードランナー」ディレクターズカット以降に付け加えられた「ユニコーンの夢」は、まさにリックがレプリカントなら無用の長物ながら、彼が限りなく人間モドキと仮定すれば、あってもおかしくはないわけで。

そんなわけで、確定されている事実がほとんど存在しないため、解釈の自由度はやたら高く、何通りもの物語に組み替えられる。
だから当然、Kとアナは双子という説や、二人とも奇跡の子供ではないという説や、Kだけが奇跡の子供という説も問題なく成り立つ。
アナのみがレイチェルの子供でKは平凡なレプリカントというのは、物語の流れから、制作者側仕掛けている感があまりにも強くなりすぎるため、これはちょっと無理目かな?ってゆーかドラマの輝きが薄れてしまうから当然この説だけは没であろう。
いずれにしても、前作より原作の雰囲気に近く、経験とともにレプリカントに萌芽してゆく感情をステキに描いていてそれはもう☆
特に、女性特有の過激なやんちゃ性を備えたラヴは、原作のレイチェルの雰囲気に近くて花丸であった。

※あと、ジョシからもラヴからも電脳のジョイからも異性としての好意をよせられてしまうKは、そもそも恋する遺伝子をもっていると考えるのが最も妥当なのではなかろうかと。
つまるところ、普通に観るのがベストということに相成ったしだいで。

【 アンドロイドは電気羊の夢を見るか? 】
フィリップ.K.ディックの原作をちょっと簡単に振返ってパチリ。
主人公のリック・デッカードは、かつてはサンフランシスコから高速モノレールでひとまたぎの郊外だった数千人の居住者を収容していたこともある巨大な崩壊寸前のビルに、いまだ住んでいる。
なぜ戦争が起こったのか、どちらが勝ったのか、そんなことはもう誰ひとり覚えていない時代、いま。
はじめに、何故なのかフクロウが死に、ほかの小鳥たちが続き、そして今日に至る。
太陽を仰ぎ見ることさえかなわない世界に、すべての移民は各自の選択する型式のアンドロイド一体を自動的に無料貸与されることが法令化され、星間移民に拍車をかけた。
地球に逃亡してくるアンドロイドを処分するバウンティ・ハンター(賞金稼ぎ=映画ではブレードランナー)を生業としている彼は、当然職業柄移民できない。
動物を飼うことが数少ない社会性と見なされるこの星で、彼が愛した羊はもう亡くなって久しい。それでもなんとか電気羊を購入して御近所の体裁をとりもってはいるけど。電気羊は羊じゃない。
情調オルガンでせめて気分を整え、妻イーランとの毎度のやりとりに気をめいらせつつも、出勤するデッカード。
いつものようにちょっと寄り道してダチョウを見て、値札を見てため息。いつかきっと…。
そして、彼にとっての一大事が起きたわけである。
主任のバウンティ・ハンターであるホールデンが倒れたのだ。
いつもだったら、わずかなおこぼれ程度しか回ってこない賞金をまとめて稼ぐ大チャンス。
火星から逃げてきたネクサス6型のアンドロイド8体のうち2体は処分したものの、3体目にホールデンは撃たれたという。
そんなわけで、6体。
これで俺も。
みたいな、話である。
また、図らずもアンドロイドの逃亡に手を貸してしまう役どころとして、映画では、タイレル社の遺伝子工学技士である「J.F.セバスチャン」が登場しているが、ここでは、ピンボケ(≒社会不適合者)の「J.R.イシドア」が活躍し、イシドアはリックと交互に一人称として語られる、もう一人の主人公となっている。
映画版の「タイレル社」はここでは「ローゼン協会」になっている。
劇中世界では、ほかに「マーサー教」と呼ばれるチャンネリングと、「バスターフレンドリー」という23時間TV番組と「シドニー社のリスト」という動物価格相場の月刊誌が、物語の重要なファクターとなるのだが、さすがにここでは割愛。
逃亡してきたアンドロイド8体はすべてネクサス6型で、まだ低寿命問題は解決できず4年程度でいのちが尽きてしまうが、極めて人間に近いタイプである。
残った6体は、
「マックス・プロコフ」映画ではリオン・コワルスキーとして、やはりブレードランナーを撃つ、ピンボケのフリをした知能犯。
「ルーパ・ラフト」映画には登場しないが、オペラ歌手として地球ですぐに活躍する最も印象的な女性アンドロイド。
「ガーランド警視」映画には登場しないが警察機構の中に潜り込む。ここからも「フィル・シッシュ」という同業者が物語のテーマである大きなショートストーリーに絡むが彼は人間。
「ロイ・ベイティー」映画では準主役ながら原作では小物。
「アームガード・ベイティー」映画には登場しない。
「プリス・ストラットン」同名のアンドロイドが映画にも登場するが、原作ではレイチェルと瓜二つの同一モデル。
である。
レイチェルの設定は人間を探りアンドロイドの特異点を探し出しネクサス7型の制作に役立てるセクサロイド。6型の思考パターンが解ることになっているが、6型とは言い切っていないため、6.5型と仮定してもよい。当然彼女は妊娠できない。と、彼女自身は思っている。

うだつのあがらないというほどではないが、エリートでもないリックに巡ってきた千載一遇のチャンス。
疲弊した彼は3体を倒した時点のボーナスをまるごと頭金にして山羊を買う。
涙ながらに妻と喜び合った。

そして、彼はレイチェルの協力を得て、残りの3体をしとめるが、さらに疲弊しきってしまう。

が、レイチェルによって山羊が殺害されてしまったことを帰宅後に知る。
セックスは出来ても愛されることはないレイチェルの、痛烈なメッセージ。

マーシーと同調した彼は頂を目指し、命からがら逃げ帰り、砂漠でヒキガエルを発見して歓喜する。
ボロボロになった彼は妻に贈り物を届けた。
が、妻の手は、ヒキガエルのそれから制御パネルを見つけ出していた。

死んでしまった山羊のローンだけは残り、ギフトだと思い込んだヒキガエルは電気動物で、死んだように眠るリックはいったい何を夢見たのだろう。
情調オルガンなしで子供のようなあどけなさで眠った彼を横目に、イーランはヒキガエルの餌を電話注文する。
いつか、リックが再び羊を手にする日がくるまで、彼女もめげるわけにはいかない。

はたして、アンドロイドは電気羊をもつことを夢見るのか?という本作。
言い換えれば、アンドロイドもまた人間のように、まがい物でもなんとか我慢することができるのか?となり、それは、即ち、
アンドロイドはどこまで人間なのか?、というお話しである。
生命の定義の境界線を巡るドラマと言っても好い。
作中では一切触れていないが、つまるところタイトルでリックはアンドロイドである、と語っているわけである。
作中、プリスが、蜘蛛の脚が8本もあるのは変と、4本切ってしまうのは、幼児の残酷性にも似ている。

そんなわけで、モチーフと世界観は原作を踏まえているものの、テーマには行き着けなかった「ブレードランナー」よりも圧倒的に「ブレードランナー2049」は原作に近かった。

ドゥニ・ヴィルヌーヴが本作を創る条件は何を差し置きリドリー・スコットに認めてもらうことであったという。
なので本作は、前作の続編でありながら、そのテーマ性はとスタイルははるかに現在方面のリドリー・スコットに近い。特にプロメテウス&エイリアンコヴェナントのそれに。
劇中で視聴者に提示されるギミックは意図されたフェイクで、真実はより画面上に多くちりばめられているわけである。

【 映画版年表 】

2019、「ブレードランナー」
2020、眼球で識別可能なネクサス8型流通。寿命の制限が廃止される。
2021年6月10日、奇跡の子供が誕生した(らしい)。
2022、西海岸で原因不明の長期大停電。食糧危機。世論がレプリカントの仕業と決めつける。スピンオフの短編によればネクサス8型のイギー・キグナスが主犯格。※映画の流れから、キグナスがリックたちの協力者のひとりだった可能性は高い。キグナスは事後、自ら眼球を摘出して逃亡する。「ブレードランナー2022」
2023、レプリカントの製造が凍結される。ネクサス8型の解任が開始される。
2025、ニアンダー・ウォレスによって遺伝子組み換え食品が流通し、彼は時の救世主となる。
2028、ウォレスはタイレル社の負責を買い取る。
2036、レプリカントの製造が解禁される。ネクサス9型。「ブレードランナー2036」
2048、「ブレードランナー2048」
2049、「ブレードランナー2049」

【 以下、初期時の情報整理用の覚え書き 】
電脳システムであるジョイは、ユーザーにのみ奉仕する。
ご主人様に奉仕するため最善の情報をネットワークより引き出して選択して実行する。
なので、いつたってジョイは世界でいちばんKの理解者であり、いつでも適切なアドバイスをすることが可能だ。
しかしながらウォレス社のネットワークから切り離された彼女は、最後の瞬間、アドバイスではなく単なる自分方面の意思を発する「I love you.」と。

人間は簡単に欺される。
という意味に於いて、レプリカントと人間との差異はあらかじめほとんど無い。
嘘ではなくても、簡単に暗示にかかってしまうのは、視聴者も同様。
ここまできめ細やかに設定しながら、「双子」という説が一切劇中で語られないのは、もはやリドリー・スコットの「プロメテウス」同様、視聴者が監督に試されているからに他ならない。
フレイザの理論はあまりにも無理があるし、彼女は単に革命の成功のためにでっちあげたと見るべきだろう。

ラヴは戦闘不能に陥って彼らを追うことができなくなったが、最上位天使なので当然絶命はしていない。

当然、問題なくKは生きている。が、原作のラストシーンのリックの心情とまったく同様かも知れない。それでも死ぬまで生きてゆくしかないという。
それは、人間だろうとレプリカントだろうと同様の命題でもある。

レイチェルが生きている可能性も捨てきれないが、死んでいることが前提で組み立てているため、その場合、すべての可能性を洗い直さなくてはいけなくなる。

はたしてリックは人間なのか。
※単純に前作と本作のテーマ性から読み解けば、「ブレードランナーである必然性からレプリカントである記憶を忘却し人間として生きているリック」に対して「ブレードランナーである必然性から奇跡の子供である記憶を忘却しネクサス9型レプリカントとして生きているK」となるわけで。

レプリカントの繁殖を最優先に考えているウォレス社vs自然の摂理に反するレプリカントの繁殖を驚異にとらえるロス市警、という構図が本作の大前提。さらに、立場自体は弱いものの二人の子供を奇跡の子供としてメシアに祭り上げ、革命を起こそうと企てるフレイザ派も、かき混ぜ役として一枚噛む。

前作のネクサス6型の寿命の制限を改善したのがネクサス8型だったが、8型はタイレル氏の死後のモデルなため、奴隷として生産されている。
ニアンダーはウォレスに近い純粋な科学者タイプの感覚の持ち主であるため、さらにレプリカントによる世界拡大が究極の目的であるなら8型のように簡単に識別できる機械のようなモノは創りたくなかったであろう。
現在は2036年よりネクサス9型が導入されている。
ことになっているが、10型や特殊モデルが採用されている可能性は極めて高い。特にラヴ。

ヤコブの妻ラケル(レイチェル)は、ベニヤミン(ベンジャミン)を産んだけど。これは、あくまでも聖書のお話しなので無視したほうがいいだろう。

アパートの屋上の「ア」と「ス」の間でたたずみ、Kが見ているのは、はたして「明日」なのか、あるいは「Assholl」なのか。
日本語が解らないと意味をなさないすばらしいテイクを挿入してくれたドゥニに感謝。
でも誰のアイデアなんだろね。

【 Kの感情の変化 】
「アライバル(邦題はメッセージ)」のラストシーンで夫と見つめ合う彼女の表情がわずか数秒間で4回も変化するという離れ業をやってのけたドゥニ・ヴィルヌーヴだからこそできた、その業こそがこの作品のいちばんの見所だろう。
Kに絞って視ても、
Kはジョイと一緒にいるときだけ表情に感情が表れる。
プレゼントを早くあげたくて仕方ないそわそわぶりがとても愛らしい。
まるでオコチャマみたいだ。
どうでもいい相手には感情を見せない。
たとえば、ロス市警のジョシ警部補の前などでは特に。
アナに真相を告げられたときは、感情を制御できなくなるほど。
動揺すれば当然機械にまで読み取られてしまう。
父親かもしれないリックと対峙したときの表情。
自分が息子だと言い出せない彼の表情。
フレイザから願望を砕かれたときの表情。
そして何よりも、ラストシーンの、自分自身のなかに生まれだした得も知れぬ感覚にとまどう表情こそが、この作品のすべてだったと言い切っても過言ではあるまい。
そう、すべてはKのための物語だったのだから。
だから、Kは簡単には死ねないし、これから先も日々を生きていかなくてはならないわけである。
そもそも、知らなかったとはいえ、レイチェルから自身をとりあげてくれたサッパーをいきなり殺してしまっているわけで、トラウマを抱えて生きていかなくてはならない宿命を背負ってしまったわけであるし。

そも、ラストシーンであの音楽が鳴り響くことは、リスペクトしているリドリー・スコット風ならばなおさら、視聴者との掛け合いのひとつと考えるべきである。
前作のリック同様親子二代にわたって、運良く(エンジニア=監督の意思によって)生き残ってしまったことへの、諦念と希望が綯い交ぜになった想い。
Kが(見た目)アンドロイドとして描かれた(視聴者に提示された)真意は「そこにこそ」あるのではなかろうか。

まぁ、どーにでもとれるように創られた作品に個人的な感想など、もはやどーでもよいことである。
作品は、完成した途端に制作者の手を離れるわけで、それは種も映画も同様である。

ただひとつだけ確かなことは、この作品は圧倒的におもしろい、ということだけかもしれない。

【 Kがラヴにとどめをささなかった理由 】
原作では、相手が機能停止している隙にレーザーで撃つのがマニュアルながら、とりあえず機能停止に追い込んだにもかかわらず、Kはなぜラヴにとどめをささなかったのか?
無論、ハリウッド的になら、リックの救出を最優先にした、というヒーロー的行為がいちばんしっくりくるわけだが。
それだけでは殺さない理由にはならない。あの状態なら一瞬ですむわけだし。
なので、彼女に死の接吻をされたから情が移った、という最も低俗ながら人間的な説を採用してみたいと思う。
無論、リックを連行される際、最初に見逃してもらったのは、むしろKなのだが。
一瞬、躊躇するコマもあるし。
葛藤は多分にあったと思われる。
原作でリックが行為の後にレイチェルを殺せないように。
ふたりの間に、既に共感めいたものが生まれはじめていた、と見るのが適切なのではなかろうかと。
まぁ、人間とレプリカントの差異なんて、人間同士やレプリカント同士の個体差に比べれば、無いようなものだし。
環境と経験が人格を形成するわけで。

【 プログラムから開く 】
とは言っても、映画館で売ってるアレを開くだけだけど、まー今回はどーにもならないほど酷い解説が載っているので紹介したい。
ちなみにそれは、3頁と1/4にわたる木川明彦氏の解説である。

「レイチェル」2019年当時最新のプロトタイプでネクサス6型と異なり寿命の制限がない。さらに妊娠が可能。2021年6月10日出産の際に死亡。デッカードはウォレスにレイチェルと逢わされた折、瞳の色がグリーンでないことで嘘を見抜く。
※レイチェルの瞳の色はブラウンなので大間違い。
個体としてのレイチェルが妊娠が可能というより、レプリカントは奇跡的な確率で妊娠できるのなかろうか?
奇跡を可能にするのはいつだって「想い≒愛」なんじゃないかと。
まぁ、当然そう思いたいだけだけど。

「リック・デッカード」レイチェルとのあいだに生まれた子供を巧妙に隠蔽したのちラスベガスで隠居。
※彼がKに嘘をついていない限り、出産前にレイチェルとは別れている。
そもそも、出産後に別れたのならレイチェルの死産も子供の性別も知っている。

「フレイザ」ネクサス8型で構成されるレジスタンスのリーダー。かつてカランサの戦いに参加したことがある。デッカードの口からレプリカントの子供の行方がウォレスに漏れることを恐れ、Kに彼の抹殺を依頼する。
※レジスタンスのリーダー格であること以外、信憑性はない。
もし、デッカードとレイチェルがフレイザに子供を託したと仮定しても、デッカードが子供の行方を知らないことは知っているはずなので辻褄が合わない。
カランサの戦いから逃亡してきた5名のレプリカントのうち、「キグナス」と「サッパー」はスピンオフの短編で名前が出てくる。また、キグナスと2名の同志がブラックアウトの主犯格として登場するも、サッパーは一切登場せず、フレイザに至ってはまったく蚊帳の外だった。
※サッパー解任後のモニターに映っている女性がフレイザの可能性はあるが、一時停止しないと読み取れない。Kはフレイザと会った際、見たことがあると言っていたので逃亡犯のひとりだった可能性はあるものの、単にネクサス8型指名手配リストだった可能性も大きい。
しかしながら「デッカードの口からレプリカントの子供の行方がウォレスに漏れることを恐れ、Kに彼の抹殺を依頼する」は有り得ない。

「K」ロサンゼルス警察所属のブレードランナー。ネクサス9型のレプリカント。二人の子供のアナを完全に隠蔽するため、その記憶を移植されていた。
※ブレードランナーではあるが9型とは映画は語っていない。
ネクサス9型が発表されたのは2036年であるから、アナが連れてこられた8歳時の2029年以前の記憶をKに移植したとすれば、可能性としてはわずかに、2036年以降に何者かによってウォレスが管理する9型を購入して、細工するという手段が講じられるしかないわけで、2022年のブラックアウトで改ざんされた紙データとの相関性がとれなくなる。
また、Kが7型や型番無しの特殊モデルと仮定した場合、その希少価値は9型以上なので、ほとんど有り得ない。
というか、Kが本当にダミーなら、Kを殺せば奇跡の子が死んだことになり、それこそ目的が達成されたことになり、誰も本物の奇跡の子を追わなくなるので安心して守れるわけだから、フレイザの弁はあまりにも矛盾している。とゆーか、「ダミー」は単にKの勘違いで、フレイザは彼の質問に対して最もらしい辻褄合わせを提供しただけで「ダミー」とは言っていない。

「ラヴ」ウォレスの代理人としてウォレス社の運営を取り仕切っているネクサス9型のレプリカント。
最後はKの怪力に屈して溺死する。
※9型とは映画では語られていない。
また、Kはあえてとどめをささず、死亡も確認されていない。
ウォレス社の運営までは言い過ぎながら、地球本部に限ってはほぼ全権を任されているようだ。

「レプリカント」ネクサス9型は人間の命令に絶対服従。
※有り得ない。
ニアンダーの命令には絶対服従なだけであろう。
ただし、ユニットタイプによってはそれも当てにならないかも。
※ただし、Kとラヴしか新型レプリカントと言われる者が出てこないので、ノーマルな9型はそうなのかもしれないけど。

「アナ・ステライン」ステリン(ステラインの誤植だと思われる・もしくは役名の方が誤植。ちなみに字幕はステリン・発音はステライン)研究所の所長で最高の記憶創造者。
ちなみに、人間の記憶をそのまま移植することは違法とされている。自らの記憶の真偽に悩むKの記憶をサーチし、他人の記憶の移植と解明する。実はこの記憶は、アナ自身の記憶であり、彼女の存在を隠蔽するため、Kに移植されていた。彼女こそ、デッカードとレイチェルの娘であり、レプリカントの繁殖の鍵を握る存在であった。
※人間の記憶をそのまま移植するのは違法とあるが、本物の記憶を移植するのは違法の誤り。
記憶をサーチし、他人の記憶の移植と解明するとあるが、あなたの記憶は実際に起こったことで、本物の記憶の誤り。
彼女こそ、デッカードとレイチェルの娘であり、レプリカントの繁殖の鍵を握る存在であったとあるが、可能性はゼロではないものの、あくまでも勘違いを重ねたKの早合点による推測の域を出ない。
やはり、双子だろう。

【 最後に 】
書いてるうちに朝になってしまったので、このへんで。
読み返してないので誤字脱字勘違い思い違い記憶違いは多々あると思われるが御容赦のほどを。
なお本稿はあくまでも、個人的な感想であり、真偽のほどはまったくもって不明である。

ぶっちゃけ、ふたりを双子として観たときがいちばん感動できるのでそうしているだけという説もある。

いずれにしても、確定されていることが極めてすくないため、自由に解釈するべきではなかろうかと。

兎にも角にも、この作品は絶対におもしろい。
哲学的なことも含めた上での至高のアートでもある。

そんなわけで、次回作で、KはかのDr.バッジャーの助けをかりてオフワールドへ出向き、ラヴとの死闘の末に、ラブラブになる予定(大嘘)。

【 2017.11.7記 】

【 以下追記 】
11/9、TOHOシネマズ上大岡にて5度目の鑑賞。
11/12、すぐに書ければベストだったが、時間がとれず、明日13は京都で6度目の鑑賞予定なので、なんとかその前に書けるところまで。

11/13&15、MOVIX京都にて6・7回目の鑑賞。
11/16、帰省後再追記。
11/17、再追記。
11/18、再追記。
11/19、TOHOシネマズ上大岡にて8回目の鑑賞。
11/20、最終追記。
11/22、さらに再追記。
11/26、さらに再追記。
12/1、TOHOシネマズ上大岡にて9回目の鑑賞。
11/26&12/5、校正。

【 再確認 】スピンオフの短編3本も含めたところから、奇跡の子供を推測してみる。

普通に観ればどの説も証拠不十分につき、「確定できない」が当然100%なので、無理矢理推定することとする。

「Kもアナも奇跡の子供ではない」50%
「Kだけが奇跡の子供である」30%
「Kもアナも奇跡の子供である」15%
「アナだけが奇跡の子供である」5%

一切のメタファーを除外して考えれば総合的にこの程度だと思われる。
しかし、メタファー抜きでこの映画は絶対に語れない。
なので、一番可能性の高い「Kもアナも奇跡の子供ではない」は、(大作の続編という意味でも、2時間43分という上映時間という意味でも)ここまで引っ張って、視聴者にも関係者にもあまりにも失礼なので、それは有り得ないと確信しているため、除外して再考察。

次に可能性の高い「Kだけが奇跡の子供である」は、アナがダミーと考えればまさに提示された確定要素からピッタリハマるし、普通に考えればこれだろうが、それなら、わたしが本作でいちばん感動した「親子3人のシンパシー」が、まったく反映されなくなるため、嬉しくないのでこれも除外。
そもそも、この見方を採用すると、作品として大間抜けだし、続編を創ることが絶対条件になってしまうのでパス。

一見あり得そうにない「アナだけが奇跡の子供である」は、
リックとレイチェルが計画していた筋書きが、アナの免疫不全により変わり、オフワールドに連れて行けなくなった。
彼女の言っていた「父と母」とは、単に協力者のことで、彼女は自身の出自を知らない。
Kが勘違いした「彼女の記憶が自分に移植されていた」は、彼女が一定期間孤児院もしくは木馬を隠したプラントを遊び場に出来るところに暮らしていて、そのときの記憶を協力者が抽出し、さらにKに移植しており、さらにその記憶をアナは忘却しているか、あるいは言い出せなかった。
となり、かなり不自然ではあるが、決して有り得ないことではない。
が、その場合、せっかく産まれた奇跡の子供は免疫不全のため、出産できる可能性は限りなく低くなるのがあまりにもネック。
しかも、生存のために他者を利用した残酷な汚れ系ヒロインになってしまうので、かなり厳しく、もしこの説をメタフィクションとして高位の物語へと昇華させるのであれば、リックがレプリカントを愛した結果子を残した前作のリック同様の立場に陥らなくては旨みはないので、採用する意味がなくなり、やはりかなり厳しいかな、と。
免疫不全を隠れ蓑としてもあまりにも無理がある。
また、アナ自身のもつ強烈な天然性がKの大きな犠牲のもとでに成り立つようだとマイナスになってしまうので、やはり有り得ない。
「灼熱の魂」的に鑑みれば、ドゥニならやりかねないと思われがちかもしれないが、リドリーに失礼なので当然パスだわな。

そんな訳で、今一度、物語を登場人物ひとりひとりの性格および立場から再検証してみる。

【 主要登場人物 】
「イギー・キグナス」
2022のブラックアウトの首謀者のひとりではあるが、本編ではまったく出番がなかったため、リックたちと直接の関わりがあるのか否かすら不明。

「サッパー・モートン」
おそらく、レイチェルの出産を任されたと推測。彼の隠れ家は、Kが解任するまで誰も知らなかった可能性大。双子が産まれてしまうという想定外の事態に直面し、ここから計画がズレたことは考えられる。いずれにしても、出産予定日に合せて他の協力者に子供を引き渡しに行った、と推測。
ドゥニ・ヴィルヌーヴの「アライバル」のテーマのひとつだった「Non-zero some game」は、ひとつのミスでも最悪の事態を招いてしまうため、ここでは使えず、協力者ひとりひとりのの役割はそれぞれ最小限度にとどめられたはずだ。
いずれにしても死人に口なし。

「ニアンダー・ウォレス」
遺伝子組み換え食品により飢饉を回避した科学者にして突如として台頭した企業人。
その実態は、眼球を摘出して義眼を埋め込んだネクサス8型レプリカント。と、考えられなくもない。
彼が最終的に目論んでいるのは、レプリカントが人間にとって変わり、この世のピラミッドの頂点にのし上がることであろう。
彼はレプリカントの自然増殖の必要性について「生産が追いつかないから」と語っているが、目の前で、気に入らないからと新作を殺害しまくる様子を見れば、当然嘘である。また、「ブレードランナー2036」でも解るとおり、詭弁の達人でもある。そもそも、たった一人成長させるまで20年近く待たなくてはならないため氏の言葉を額面通り信じる人はいないだろうが、遙かなる未来に王国を創りあげるという意味でなら、種まきは当然必要絶対不可欠であろう。
ウォレスは、既存の種が変化することにより別の新しい種が出現すると唱え、ダーウィンとともに自然選択の働きによる種の形成の概念を着想した生物学者、アルフレッド・ラッセル・ウォレスに発想を得ているのかもしれない。

「ジョシ警部補」
前作のブライアントと同様、権力の象徴として描かれた俗物。
人間としての典型的な特性を、ほとんどもちあわせている。
いわく、臭いものに蓋をしろ。
いわく、危ないものは始末しろ。
科学的に観た人間の特性、即ち人間性、特別な人間らしさとは、「科学」「芸術」「文学」「哲学・宗教」「複雑な言語伝達能力」「スポーツ」「農耕・牧畜」「戦争」「ジェノサイド」「環境破壊」「薬物依存」である。
「愛」とか「思いやり」とか「権力」とかは、人間以外の動物でも持ち合わせている種が多く存在するため、大雑派にこのくらいではなかろうかと。
なお、Kには全幅の信頼をおいている。
また、異性として惹かれているように見られる。
9型に嘘がつけるなどとは夢にも思っていない。

「K」
製造番号の頭文字ではなく、カフカ的な意味でのそれだと思われるが、如何せん中1のときに図書館で読破して以来ほとんど読み返していないので、ここは今でも読み返す日本のカフカこと倉橋由美子的なKということでお茶を濁すしだい。なお、氏は男性を「K」、女性を「L」で表すわけで、LはLuvだろう。いちおうカフカも全作所持しているのでいずれは再読してみたいけど。
Kは、自分より上の者(人間)には服従し、下の者(8型)は見下す。
当然、それは職業柄仕方がないことで、9型レプリカントである彼は、社会性動物であるホモサピエンス同様、ニッチを見つけて潜り込むことで生きていくことが出来るわけである。
出来なければ、社会不適合者として処分されるだけで。
だからといって、機械と異なり感情があるため当然精神的にはボロボロなわけである。
同僚からは「スキンジョブ」と蔑まれ、アパートでもゴミ呼ばわり。
強い劣等感から解放されて、唯一安らげるのはウォレス社の電脳ホログラムである「ジョイ」とのひとときのみという侘しさ。
ボーナスのほとんどをジョイとの疑似恋愛に消費していると推測できるほど、彼にはほかになんにもない。
傷口を接着するKの姿があまりにもセツナイ。
生身の人間が相手なら彼の劣等感をほじくり出して、ボロボロにするだろう。
人間にとってKは奴隷であり、そのKにとってジョイは電気羊である。それは、原作でのリック同様、唯一の拠り所として描かれている。
冒頭の自動運転時にKが眠っているシーンは、前作のリックがガフと相乗りしてヌードル食ってるのと対照的に、あまりにも孤独に映る。

「ジョイ」
「エクスマキナ」や「her 世界でひとつの彼女」同様、SNSのあらゆるユーザー情報を蓄積した検索エンジンから瞬時にして解答を導き出すことができるため、いつでもベストアンサーを提供してくれる。
さらに、某たまごっちみたいに接し方しだいでは特異点も生まれるようにデザインされている。
Joiは、enjoy。
※大手スポンサーの「SONY」と「コカコーラ」のネオンサインの標語から発想を得たのかもしれない。
コンソールから離脱すると検索エンジン機能が使えなくなるため役立ち度は思いっきり低減し、そこまでにセーブされた特異点をも包括するところの自立性思考ルーチンたまごっちとなるようだ。

「ラヴ」
ウォレス社の地球本部長と推測される。
いちおう、ネクサス9型ないし、それ以降のモデル。
感情を制御しようと尽力してはいるものの、すぐに涙を流してしまう。
本作でリックの移送に失敗したため、次回作での立場は非常に厳しいものになりそうだ。
Kを二度も見逃したのは、彼女らしからぬ大失態で、一瞬で射殺できた場面だったため普通に考えれば理解できないが、彼女が初めて出逢ったお気に入りと考えれば納得できないこともない。すでに恋愛の初期症状が発症していた節もある。
LuvはLoveの米略語。

「フレイザ」
レジスタンスのリーダー格で、奇跡の子供をメシアに仕立てようと目論んでいる。
ネクサス8型と思われるが、眼球を摘出しているため断定はできない。
リックとレイチェルの協力者のひとりである可能性は完全否定できないが、せいぜい1%程度であろう。
「奇跡の子供」については都市伝説的なことしか知っていない可能性大。
いずれにしても、ストーリー上では超脇役で、抹殺対象でしかないネクサス8型の総意を代弁させるためのコマ。

「マリエッティ」
フレイザ派の一員。
文字通りの操り人形。

「Dr.バッジャー」
なんでも屋。
物の鑑定から動物の提供、さらにはオフワールドへの査証の手配まで金さえ払えば何でも調達してくれる便利屋。
劇中端役として描かれているが、世界観を提示する上でも次回作への展望を想起する上でも重要なポストを与えられている。

【 時系列で読み解く 】
1、2020年9月、レイチェルが妊娠する。
2、ただでさえ追われる対象物であるところの二人は、一網打尽にされるリスクを避け、出産後、子供と別れる決意を固めた。
3、二人は、子供が普通に人間として生きていけるように綿密な計画をたてた。
4、裏切り者が出たときの用心に各々の分担を最小限度に抑える計画を協力者たちにそれぞれ依頼した(もしくは、確実に信用の置ける一人に手配させたという可能性も否定できない)。
5、まず、ふたりはラスベガスへ、そしてレイチェルはサッパーの家へ。
6、2021年6月、レイチェルは男女の双子を出産するも、自らは死亡する(出産時の死亡だったのか、暫くは生きられたのかは判読不能)。
7、あらかじめの決定に従い、生まれた子供が男児だった場合の協力者Bの所へ出向いてサッパーはKを引き渡し、協力者BはKを孤児院に預けた。
8、さらに、生まれた子供が女児だった場合の協力者Cにサッパーはアナを引き渡し、協力者Cはアナを孤児院に預けた(協力者Cがフレイザという説は無論完全否定できない)。
9、別々に預けられた双子は、お互いを知ることもなく、孤児として一定期間育てられた。
10、2022年、協力者Dが、複数名の反抗勢力の協力を得て(もしくはそそのかして)ブラックアウトを引き起こした。
11〜13はほぼ同時期と考えるのが妥当。2029年、二人が8歳時。
11、協力者EとFがそれぞれKとアナの身分を偽装することによってKとアナは新たな人生を得た。
12、協力者Gがアナを孤児院に引き取りに来て、かの研究所内に隔離し、大切に育てられた(本来はオフワールドに逃がす計画だったが彼女の免疫不全のため変更されたという説も有り得るが、アナに新しい人生をスタートさせるため与えた偽情報の可能性も高い。ただし、この場合鳥籠の鳥状態で自由がなく、レイチェルとリックが望んだ結末とは思い難いため、あまりにも微妙)。
13、協力者HがKを孤児院に引き取りに来て、必要なことを教えながら、大切に育てられた(Hが来る前にKが何者かにより買われてしまったという、可能性は否定できない)。
14、2036年、二人が14才になった頃レプリカント禁止法が廃止になる。
15、2041年、二人が成人する。これによって最後の協力者は役目を終え、姿を消し、二人は普通に人としての人生を生きていき、親子三人の絆が再び交わる日は永遠に来ないはずだった。

だが、しかぁーし!

(この際、または、ここまでに、Kとアナに真実の一部が伝えられた可能性は否定できない)。
というところから、
※以下、突飛な推測例。二人の人生はいくらでも推測可能ながら、こうだったらおもしろいと思う一例として。
孤独な時間を過ごしていたアナは「想像力」と「思いやり」という特技を活かし(レプリカントだった母への同調から)記憶創造者となることを望み、またそうなった。
そして資質にも充分すぎるほど恵まれていたKは、憧れだった父親と同じ職業を選択した。が、自分自身がネクサス9型レプリカントであるという定義づけから、それらしく振る舞うことに徹しているうちに、記憶自体を移植されたものという概念が支配してゆき、次第にミイラ取りがミイラ状態に陥ってゆく。
というのは、さすがに盛りすぎだろうか。まぁ、いったんレプリカントになりきってしまえば、記憶を偽りだと信じ込むのはさほど困難ではないだろうが。ちょっと、遊びすぎかも。
実際のところは、孤児院にたまたま来た何者かによって買われてしまって計画通りいかなかったという、ありがちな線かもしれないし。この辺りの挿話なら、いくらでも創れるわけで。

話を戻そう。

16、2049年、Kはタレコミに基づき赴いた農場に潜伏していたサッパーを解任する。いつもどおりの職務とはいえ、恐るべきことに恩人を解任してしまうハメに。

17、ジョシにレプリカントの子を解任するよう命ぜられるが、なんとその子供が自分自身という可能性に直面してしまう。

18、自らの記憶を疑いはじめたKは、よりにもよって姉(または妹)のところへと出向いてしまう。

19、孤児院へ赴いたKは、記憶の場所で記憶の木馬を発見してしまう。

20、木馬に残存する放射線からラスベガスに赴いたKは、父と対面する。

21、フレイザ派の攻撃でダメージを負ったKは、ラヴにより父を拉致されてしまう。

22、フレイザの詭弁に諭されたKは、アナこそ(だけ)が奇跡の子供であると勘違いして、父の殺害を依頼される。

23、Kは自失の念でスピナーに戻る際、ウォレス社の電脳ホログラムである巨大女(ジョイ集合体)の言葉により、ジョイとの疑似恋愛という夢から醒め、もう自分にはなんにもないと気づく。

24、自分にとって一番すばらしかった記憶を提供してくれた(と信じた)アナへの感謝で、Kはふたりを逢わせる決意を固めた。

25、リックとアナを逢わせたKは、未経験の感情を消化しきれず、雪と戯れていた。
奇しくも、親子三人が運命の糸に導かれるようにそこにいた。
待っている間、Kは束の間の幸福感に酔い浸れたことだろうが、自らも奇跡の子供であったという至福よりも、厳しい逃亡と苦闘の現実としての明日がもうそこまで迫っていることなぞまだ知る由もなかった。

【 世界観 】
前作の冒頭で示される「眼球」は、リドリー・スコットによれば「賢者の眼。全体主義的未来社会、つまり監視国家」と規定されていたが、ドゥニ・ヴィルヌーヴもまた冒頭にもってきた。
「さぁ、続編ですよ」と言いつつ、続編でありながらリメイク(再構築)でもあった。
前作の続編である必然性自体はきっちり描きつつも、2049年時の世界で前作を再構築していたわけである。
しかも、アンドロイドの必要性ならまだしも電気動物が必要になる必然性が理解できず原作どおり描くことはあきらめたというリドリー・スコットに対し、ドゥニは電気動物を電脳ホログラムに置き換えることで、原作のもつ最大のテーマを見事に劇中へと投影した。

ロスアンジェルス(Los Angeles)。
アメリカの地名だが、スペイン語で「天使たち」の意で、ロスが選ばれた理由でもある。
エンジェルは、ウォレス社の商標にも使われ、レプリカント9型の愛称にもなっている。
世界の荒廃は前作よりすすんでいるように見受けられるものの、人類のほとんどがオフワールドへ移民してしまった影響なのか、生命が出現し始めていた。

前作でリドリーはリックをアンチヒーローとして描いた。
本作でドゥニは、やはりKをアンチヒーローとして描いた。

【 物語から伝えられる命題 】
人間とレプリカントも本質自体は何ら変わらない。
ただし、レプリカントには種族保存能力が欠落しているため、他者への愛情は形成されない。
しかしながら、経験が人格を形成する過程に於いて、たぐい稀にではあっても愛情が派生してしまう可能性は否定できない。
それは即ち35億年の地球生命史に幾度となく初登場した突然変異体による生殖能力の獲得と同義であるところの、進化はデザインされたものではなく環境下での自己保存プログラムに対応して突如として出現する説と対応する。
つまるところ所謂キリスト教的ヒエラルキーへのアンチテーゼに因るものでもある=神の不在。
通常、自分と同じメスクローンしか産まない単為生殖で増殖するミジンコは、遺伝子疾患によりサバイバルクライシスに陥ったとき、自らオスを産んで交配する有性生殖機能を獲得した、みたいな、アレは地球生命史に於いて枚挙に暇がないほど繰り返し起こっている事実で。
よーするに、神が生命をデザインしたわけではなく、自然環境のなかで偶発的に、かつ必然的に出現するわけである。

電脳ホログラムであるジョイは疑似感情までしかもつことができなない。
なぜなら、対象物に興味をもつことは出来ても、微生物以外のほとんどすべての動物が生まれつき有している生への渇望も死への恐怖も、脳神経と末端神経の連結によってのみ初めて可能になるからである。

【 ブレードランナー2049の一次的見所 】
1、なんと言ってもK。Kの一挙手一投足一上眉一歪唇。
2、存在感抜群のニアンダーとラヴ。
3、ネットワーク全体像としてのジョイとパーソナルとしてのジョイの対比。
4、ロス市警・ウォレス・フレイザ派の、それぞれの思惑。
5、サウンドと映像表現による圧倒的な映像詩。
6、2019年時よりさらに荒廃して、もはや動物の存在すら危うくなった世界と、それでも何とか生き残っている人類の構図。すでに動物が人間の拠り所だった時代が遠い過去になってしまったディストピアとしての2049年。
7、腐ってもリック。
8、ガフはついに羊を折った。
9、CGでもレイチェル。
10、突飛な発想を極限まで排除した、生活感が現実的なSF的近未来世界。
11、精神鑑定問診プログラム。
12、素っ気ないインスタントな遺伝子組み換え食品をコーティングするホログラムレシピ。
13、なんと言っても初デートのKとジョイ。
14、アパートの屋上の「ア」と「ス」の間でKが見たもの。
15、スピナー。
16、スピナーとともに映し出される風景。
16、ウォレス社地球本部。
17、柿の種。
18、サンディエゴの建造物。
19、砂漠化したラスベガス。
20、Kとラヴにまつわるすべて。
21、蜂。
22、犬。
23、ビビのバー。
24、

【 ブレードランナー2049の二次的見所 】
1、シンパシー。
2、Kとラヴの心情変化。
3、人間と奴隷と電気羊の関係。
4、奇跡を可能にするのは愛。
5、人格を形成するのは経験に基づく記憶。
6、真実と虚実の選別。
7、続編に見せかけたリメイクを隠れ蓑にして初めて成立したメビウスの輪。
8、

【 終わりに 】
続編で感動したのは過去「エイリアン」の続編である「プロメテウス」一本しかなく、そもそも好きな作品の続編を映画館で観るが嫌いなわたしは「ブレードランナー2049」を劇場で観るべきか、とても迷っていた。
リドリー・スコットならともかく、ドゥニ・ヴィルヌーヴ某がメガホンをとったらしいし。
そもそもドゥニ・ヴィルヌーヴって誰?
なので、最寄り店に取り扱いのなかった「渦」を除き、ツタヤで6本レンタル。
「静かなる叫び」が琴線に触れ、「ARRIVAL(メッセージ)」に大感激。
そんなこんなで行ってみましょうそうしましょう。
となり、まさかここまでハマるとは嬉しい誤算であった。

わたしにとって「2049」がどんな映画だったのかを端的に言えば、椅子にふんぞり返ったまま労せずして「表妙義縦走路」を闊歩した、みたいな、それ。

わたしが常々危惧しているのは、人間は自らの手で世界を滅ぼしてしまう前にまともな種に進化できるのか?ということで、間に合わないんじゃないかと戦々恐々なわけで。

敬愛する進化生物学者のジャレド・ダイアモンドは、その著書のなかで「人間は宇宙にひとりぼっち」と語っているが、そのココロは、「人類並に進化した生物が宇宙に存在するなら、信号を送るなりしてこないのは不可解」、という意見であるわけだが、わたしはむしろ大いに異議を唱えたいわけで。

わたしに言わせれば、もしわたしがエイリアンなら、地球人のように野蛮な生物とは関わり合いになりたくない、が本音。

当然、境界線を越えて他の星人の暮らす領域まで地球人が進行してきた場合は、それなりの処置を講ずる必要があるが、太陽系主系列星圏を逸脱しない限りに於いては静観。

境界線を越えて侵略してくる場合は駆逐または全面的駆除。無論、宇宙法を厳守するよう勧告はするものとする。

宇宙法とは、戦争が出来るほど発達した文明を有する種に課せられた唯一にして絶対の義務。
1、他者を他者として尊重する。
(殺傷とか奴隷とか家畜とかは当然不可・プライバシー侵犯ももってのほか・他者が住みづらくなるような生態系侵犯をしないのは当然・思想や宗教の強要などもってのほか)。
他者=自分以外の生物すべて。

たった1つの法だけ厳守すれば、野蛮人とは見なされないので一見簡単に思われるが、はたして地球人にできるのだろうか。

わたしたち地球人が宇宙の一員として認められる日ははたして来るのだろうか。
このままではわたしたち地球人は永遠に自己中星人のまま、宇宙に湧いた病原菌だ。

まだ種としての名前すらもたないKとアナが、きっかけになってくれることを願って。
となれば当然、ホモネアンデルタールの道をホモサピエンスはたどるわけだが、それとして。

ドゥニ・ヴィルヌーヴとリドリー・スコットに百万の感謝を♪

【 2017.11.12〜20追記 】

さらに、ちょっとだけ追記。

解説を見て読む気が失せたプログラムを再び開いてみた。
「STORY」と「ROAD to 2049」は映画館で読んでいたため、ライアン・ゴスリング、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、シルヴィア・フークス、ジャレッド・レトのインタヴューを読む。
さらに、ドゥニ・ヴィルヌーヴのインタヴューを読んでいたら、

■『ブレードランナー2049』の物語をどう捉えていますか?
という質問に対してドゥニは、

「ここで描かれるのはあまりにも危険な野望の物語だ。そして、人間とは何かについても考えさせられる。とくに記憶に関すること。記憶がなくても人間でいられるのか?というテーマを描いている。

と、答えている。
つまり、

あまりにも危険な野望の物語=レプリカントによって現生人類がピラミッドの頂点から引きずり下ろされ、被支配者=奴隷となる。
そもそも人間以上にレプリカントは創られているわけで、その優秀さを鑑みれば、人間の1/10程度の人口に達すれば充分に地位の逆転はあり得る。もし、Kやアナのように自然増殖してしまうようだと、その未来はあっと言う間に訪れるだろう。

記憶がなくても人間でいられるのか?=人間である記憶を刷り替えたKは、人間であることを信じたリックとは対照的に最後(映画のラストシーン)までレプリカントとしてしか生きられなかった。

ようするに、生物学的定義を排除し、
劇中、人間=レプリカント=奇跡の子供として提示される等式により、ジョイを除く全員を人間と見立てて描くことにより、「人間とは何か」という命題を、ドゥニは視聴者に投げかけたわけで(も)ある。

【 2017.11.22追記 】

さらに、ちょっとだけ追記。

11/19に映画館に行ったあと上気道炎が悪化して、24までほぼ寝たきりになってしまい、再見できないことに悶々としながら残像ばかり反芻しているうちに、可能性のひとつにしか過ぎなかった事が、確実な決定事項のように思えてきたため、ここに書き記すしだい。

【 双子の名前 】
レイチェルとリックは、当然別れる前に子供の名前を決めたと思われる。
一見、ありふれているようで、実は、特別な名前を与えたかったはず。
女の子なら「Ana」は、なるほど鍵穴かと思うのは日本人しかいないので、回文として。ドゥニの前作「ARRIVAL」の「Hannah」同様。
そして、カフカ的な意味でのKと勘違いしていた男の子の名前は「Key」。発音はケイだけど意味は無論、鍵。
そう思いつくと、リックに名前を告げるシーンの重要性が、さらに大きな意味をもつ。
考えればすぐに行き着きそうな、単純なところが最も遠かったのは、やはりボケ老人、歳には勝てないということだろう。
「サクリファイス」なテーマを見せますよ、と構えさせて逆を突き、「her」みたいに人間を凌駕してしまう電脳彼女を提供しますよ、と見せかけて、実はユーザーフレンドリー最優先だったり、橋のシーンでの天使はどの映画だったか忘却の彼方ながら、あれでは死に神のようなものだし、で、カフカじゃないことに気づいて然るべきだったのに、トホホホホ。

ドゥニの「静かなる叫び」の彼女だったと思うが、彼女が妊娠したあと未来の子供へ「男の子だったら愛を、女の子だったら戦い方を伝えたい」という台詞が甦ってきた。レンタルDVDで2回鑑賞しただけなので、ちょっと勘違いしているかもしれないけど。

さておき、Keyは愛を、Anaは生きる術を受け継いだわけである。

なお、気になっていた「ガラテア症候群」はやはりググっても不明だったので造語の可能性が高いが、ピュグマリオンが自ら創って恋したガラテアを受動から能動に置き換えてみると、「回りの人間を魅了してしまう異常体質」と考えられなくもない。
そうとると、彼女は隔離されたというより自ら檻の中に籠もることにより能動的な意味で隔離した、となる。
Kが恋する遺伝子を与えられたように、アナもまた愛される遺伝子を与えられていたわけである。

なお、Kが木馬をもらっていたようにアナも何かをもらっていた可能性は高い。
単純に考えればフクロウかな?とも思えるわけだが、ここはやはりドゥニなので「愛」の象徴の「馬」に対して「生」の対象の何か、あるいはそのまま生きるための「武器=ARRIVALでのヘプタポット語のような意味でのそれ」をもらっていたと考えた方が納得はできそうだ。

それがいったい何だったのか想像するのは愉しいけど、エンディングロールが終った頃、つまりラストシーンからおおよそ10分後に、手をつないでKのもとに駆け寄ってくる二人によって明らかにされるだろう。

【 最後に 】
あとは、エンディングロールが終ったあとの三人の会話とか、レイチェルとリックのラブラブ逃避行の想い出とか、失態を重ねたラヴが回復したのち素直にウォレスのもとへ帰還したのかとか、孤児院を出たあとのKの日常とか、想像して遊んで過ごしたい所存。

文字制限限界を超えたため泣く泣く終了。

【 2017.11.26追記 】
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