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#朝ラン #早朝ラン #ランニング
オーディブルは丸山宗利『アリの巣をめぐる冒険』を今朝から聞き始める。
分類学では新種を同定するのに先行文献を参照するだけではダメで、その種を決定したときの模式標本の現物を世界各地の博物館や研究所などから取り寄せ、それと比較することで、はじめて新種だと認められるという。グリニッジ標準時みたいなもので、模式標本が何らかの原因(虫食い、火災、戦災、標本取り扱い上のミスなど)で失われると、そもそも調べているのが新種かどうかも決定できない、というのは知らなかった。アカデミズムでは先行研究を調べるのが不可欠で、「やった!新発見だ!」と早とちりして意気揚々と論文を提出したものの、レビュワーから「それは誰々がもう論文発表しているよ」と指摘されるほど恥ずかしいことはないという。そこで自分の無力さ加減を知って落ち込むか、それとも偉大な先人たちをリスペクトしつつ、自分もその列に加わりたいと、さらにやる気をみなぎらせるかで、研究者として花開くかどうかが決まる気がする。優秀な学者ほど、先人たちへの感謝を口にするのは、それがマナーだからというだけではなく、自分が思いつくようなことはすでに誰かが考えているという経験を多かれ少なかれしてきたからではないかと思う。それでもあきらめずに、人類の知の連なりに自分の名を刻み込むことで、自分が死んでも論文が残り、自分の研究も先人たちの研究といっしょに次世代に受け継がれていく。
敗戦後、過去の過ちを断ち切り、歴史をリセットされることを余儀なくされた日本人は、歴史を軽んじる傾向がある気がするが、学問の世界でも芸術の世界でも、過去から連綿と受け継がれてきた知の営みがあり、そうした先行研究や先行作品に対して、自分はどういう立ち位置で、どんな新機軸を打ち出すのか、それが問われているのであって、過去を無視して、「自分らしさはこれなんだ」といっても、たいてい独りよがりにしかならない。歴史や過去からの文脈に精通することは、自分らしさを発揮するうえでの前提条件であり、すでに誰かがやったことを知らないまま、「自分がこれを発見した」と主張するほど恥ずかしいことはない。これまでの経緯や文脈なんて面倒くさいことは知らん、自分たちが楽しければそれでいいというのは、内輪でやっている分にはかまわないが、それを外にアピールすると、とたんにツッコミが入るだろう。だって、自分が思いつくことなんて、世界中を見渡せば、数千人、数万人単位で同じようなことを考えている人たちがいるのだから。
「私がクサアリハネカクシを選んだ理由は、「かっこいい研究」の材料に最適な対象となりえた以外に、この仲間はクサアリの巣でもっとも普通にみられ、これらのような好蟻性昆虫の生態学や応用的な研究に利用しやすい材料だからである。(中略)しかし古くから同定がむずかしいとされており、実際に日本に分布する10種に関しても、4つは新種で1つは日本初記録種だったのである。また日本だけでなく、古くから研究がおこなわれているヨーロッパ産種についても、新種の追加やさまざまな分類学的変更をおこなった。旧北区では私の研究によって初めて種多様性が明らかとなり、さらにそこから先の研究へと進めるようになったと自負している。私の論文は、世界からクサアリハネカクシがいなくならない限り、何十年、何百年と利用され続けるだろう」
「なんといってもアリの本場は熱帯である。熱帯雨林におけるアリの生物量(すべての個体をかきあつめた重さ)は、脊椎動物(カエルやトカゲや哺乳類)全体のそれを大きく上まわるといわれている。また種類も多い。アリの種数は日本全体で300種弱であるが、熱帯雨林では、わずか数百メートル四方に500種以上が記録されることもある。好蟻性昆虫の多くは1種ないしわずかな種数のアリと特異的な関係をもつ。いうなれば、アリの生物量の多さは好蟻性昆虫からみた資源(生活場所や餌)の多さを示し、アリの種類の多さは好蟻性昆虫からみた環境の多様性をそのまま示す。つまり熱帯には潜在的に非常に多くの好蟻性昆虫が生息しているはずである」
研究対象のハネカクシが共生するヒメサスライアリが珍しい(見つけにくい)理由。
「1つは、ヒメサスライアリはアリを専門に食べるアリであること。ほかのアリの巣を襲って、成虫や幼虫を狩って食べるのである。2〜5ミリメートルほどの小さなアリだが、毒針を使って自分よりもはるかに大きなアリを仕留める。……マレー半島のような熱帯雨林はアリの楽園であり、アリは分解者(広義)、捕食者として重要な役割を果たしている。そのアリを食べる生き物は、生態系の頂点の1つにあるといってよい。そのような生き物の個体数(巣の数)の多いはずがない。
もう1つは、ヒメサスライアリは「軍隊アリ」といわれるアリの仲間であること。軍隊アリとはいわば放浪性のアリのことで、定期的に移動と停滞を繰り返し、決まった巣をもたない。停滞中や移動中には木のうろやネズミの巣穴に一時的に集合し、「仮巣(引っ越しを前提とした一時的な巣)」を作る。決まった巣があって、そこから出入りしているような定住性のアリであれば、しらみつぶしに地面を見ていけば、まだ見つけやすい。しかし、ヒメサスライアリを見つけるには、偶然の出会いを求めるしかない。
さらにヒメサスライアリを見つけたからといって、ハネカクシが見つかる保証はない。ヒメサスライアリの共生ハネカクシは、ふだんは仮巣の中にいて、決して外には現れない。ハネカクシを採集するには、ヒメサスライアリの巣をまるごと採集するか、引っ越しをじっくりと観察し、アリと一緒に引っ越すものを拾い出す以外にないのである。なんてむずかしいのだろうか」
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