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オーディブルは吉田修一『国宝 上巻 青春篇』の続き。第5章「スタア誕生」まで。
当代一の女形、遠州屋の小父さんこと六代目小野川万菊が初見の喜久雄に放った呪いの言葉。
「喜久雄さんでしたっけ? ちょっと」
「ほんと、きれいなお顔だこと」
「でも、あれですよ、役者になるんだったら、そのお顔は邪魔も邪魔。いつか、そのお顔に自分が食われちまいますからね」
喜久雄と祇園の舞妓、市駒のやりとりにぞくりとする。
「なぁ、喜久雄さん、祇園のお茶屋で遊んだの、今日が初めてどっしゃろ?」
「そやで」
「じゃあ、うち、決めたわ」
「決めたて、何をや?」
「うち、喜久雄さんにするわ」
「俺にするて、何?」
「そやから、喜久雄さんにうちの人生賭けるってことや。なんや知らん、直感や」
「賭けるて、さっき会うたばっかりやで」
「こんなもん、時間かけてもしかたおへんわ。一か八かや。うちの芸妓人生、あんたはんに賭けるわ」
「それ、本気で言うてんの?」
「……女に二言はあらしまへん。そやから、喜久雄さん、あんた絶対に人気役者になってな。あんたならなれるわ。うち、そういう直感、当たんねん。そしたら、奥さんに、なんて厚かましいことは言わしまへんから、二号さんか三号さんを予約や。ええやろ?」
「ええやろって、そんなん気ぃ早いわ」
「早いことないわ。すぐ年とるさかい」
「そんなん、誰にでも言うてるんやろ?」
喜久雄の無粋な勘ぐりに、市駒が潔白を証明するようにその顔をぐっと突き出します。
喜久雄は半次郎の部屋子となり、17歳のとき、京都南座の興行にて「花井東一郎」を襲名。4歳のときに「花井半弥」の襲名披露を済ませていた俊介とともに、二人の女形が踊りを競い合う『二人道成寺』で南座で主役を張り、一躍スターダムを駆け上がる。凋落の一途を辿っていた関西歌舞伎復権の起爆剤に。
「スタア誕生の瞬間というものを目の当たりにしたければ、今月の南座にいらっしゃればよいのですよ」
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