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#朝ラン #早朝ラン #ランニング
オーディブルは吉田修一『国宝 上巻 青春篇』の続き。第7章「出世魚」まで。昨晩見た映画の興奮が冷めやらず、続きが早う聞きとうなって、眠い目をこすりつつ、ついつい走りに出かけてしもうた。
映画では尺の関係だろう、徳次の出番は冒頭だけで、「将来事業起こして成功した暁には、誰よりも立派な坊ちゃんのご贔屓さんになって、楽屋にペルシャ絨毯買うたるし、もっと成功したら専用の劇場も作ったるから、それまで坊ちゃんは、地道に芸道に励んどいてえな」という徳次のセリフも春江に置き換えられていたし、喜久雄の育ての母マツが生活困窮のため、元いた家で女中として働いてまで仕送りを続けていたこととか、その仕送り1,880,888円をを全額貯金してくれていた半二郎から「好きなように使うたらええ。お母はん、こっちに呼んでやりたいんやったら呼んだらええ」と渡されたものの、スポーツカーを買ってしまったこととかいうエピソードは省かれていた。半二郎の妻=俊ぼんの母親幸子も、喜久雄のことをはじめから息子の敵とみなして毛嫌いする、すっきりとわかりやすいキャラクターに改変されていた。
交通事故で舞台に穴をあけることになった自分の代役として、半二郎が息子の俊ぼんではなく喜久ぼんを指名したことで、2人の行く道は大きく枝分かれしていく。喜久雄改め東一郎は代役で『曽根崎心中』のお初を見事演じきり、一躍時代の寵児となり、俊介改め半弥は千穐楽までつとめあげてから「父上様 探さないで下さい 俊介」を書き置きをして出奔した。
「……うち、ほんまにほんまに腹立ってんねん。この白髪頭掻き毟って、猫みたいに柱に爪たてて、犬みたいに吠えたいくらい腸煮えくり返ってんねん。分かるやろ? 『半二郎』いう名前は、俊介にとっての最後の砦や。たしかに今は行方知れずやけども、この名前があるかないかで、何もかもが全部違ってくんねん。その最後の砦まで、あの人はアンタにくれてやる言うてる。三友の梅木さんらは大喜びや」
「……アンタ、辞退してえな」「……なあ、辞退してえな。それくらいの恩を返してもらうくらいのことはしたで。なあ、俊ぼんのためや。アンタも俊ぼんが憎い理由やないんやろ? アンタにはまだいろんなものが待ってるかもしれんやないの。でも、俊ぼんには……」
「女将さん……。よう分かりました。もう、そんなに苦しまんでええですわ。……辞退します。旦那はんにも、ちゃんとそう言いますわ」
「ほんまに意地汚いわ……」「……役者なんて、ほんま、意地汚い生物やわ。うちの旦那はん、もうあんな体やで。アンタに手ぇ引いてもらわんと、舞台にも出られへんねんで。それやのに、それでも『白虎』になりたいんやと。我が子の人生を踏み潰しても『花井白虎』になって舞台に立ちたいんやと。ほんま呆れるわ。アンタもアンタや。俊ぼんのもん、平気で奪うて。汚いわ。……それに俊ぼんも俊ぼんや。ずっと自分が中心やったのが、そこに立てんようになったからて逃げんのかいな。負けも認めんで逃げるいうところが意地汚いわ」
「ほんなら……」
「ちょっと待ちーな」「……アンタ、こっちに戻ってきたらええわ。部屋もそのままにしてあるし。別々に暮らしとったら、なんやかんや面倒やし」
「面倒て?」
「アンタな、襲名て、大仕事なんや。それもいっぺんに二人もや。別々に暮らしとったら連絡一つするのも面倒や。二階ならトントンて階段上がれば済むんやから」
「でも、女将さん……」
「もう腹くくるわ。うちは意地汚い役者の女房で、母親で、お師匠はんや。こうなったら、もうどんな泥水でも飲んだるわ」
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