501回目の山行となる山伏は、暫くぶりの撤退だった。
相棒を伴っての山行での撤退は、これで2度目だ。
静岡県川根の智者山から天狗石山を越えての縦走路での急坂で撤退した覚えがある。
19年間で、単独だった山歩きの中で思い出になる撤退が4回ある。
思い出してみると、ラッキーだった面がある。
安全を保った中で山に教えられていることがあると思っている。
1つ目は、1996.10.15 唐松岳にて
山を始めた初年度、3回目でいきなり唐松岳、祖母谷経由下の廊下の予定だった。唐松岳頂上で初雪、吹雪が襲った。
翌日の朝、撤退した。これが祖母谷に降りてからの雪だったら、アウトだった。1日の違いで命拾い。それから19年生きている。
2つ目は、1998.8.11 穂高の南岳にて
槍ヶ岳を登山後、中岳、南岳を経由して北穂高へ向かった。
南岳に来て風と雨が強くなって、大キレットを通過することなく撤退、天狗の庭を経由して降りた。天狗の庭への降り口で重いザックが前に移動、引きずられて転がり、膝を岩にぶつけた。折れたかなと思うほど痛かった。数分後、歩けることが分かった。なんという幸運だ。90リットルの重いザックで大キレットを通過するなんて無知を知らせてくれた痛みだった。
3つ目は、これが、記録を残してなかったので、何時だったかは不明だが、空木岳にて
暴風雨の中で這いつくばるように木曽殿山荘にもぐりこんだ。
翌朝も雨と風が残っていた。予定は檜尾岳から降りるものだった。
諦めた。雨の中を経験の無いルートを通過するのが嫌だった。岩場でも一度通過したところを戻るのは安心感がある。
当然、知らない先は危険かもしれない。見晴らしはない。いかなければまた行く。だが一度いくと、行かないことが多くなる。
池山尾根を下山しながら、晴れ行く檜尾岳の尾根を振り返って、「これでいいのだ」と言い聞かせた。
4つ目は、2012.8.13 岩手山にて
山頂手前400mで撤退を伝えた。伝えたというのだから厳密には単独ではない。風が横殴りで飛ばされるほど強かった。雨も予想され、早めに降りた方がいいとの判断もあった。告げられたその日のにわか相棒の若い女性は、一度、別のコースで山頂を踏んでいて2度目だった。彼女とは登山口の馬返しで偶々、一緒になって、単独の不安からか「一緒にいっていいですか」と聞いてきた。悪い筈もなかった。自衛隊に勤めていると言われた。
撤退を告げたとき、「自分と一緒でなかったら、山頂まで行きましたか」と聞いてきた。「いや」とだけこたえた。
網掛温泉へ降りる予定だった彼女は、諦めて一緒に馬返しに戻った。
そのまま、網掛温泉へ行けば、冷たい雨にさいなまれたことだろう。
馬返しから車で移動した途中で彼女にさよならの手を振った。お父様が車で迎えに来られた。八幡平へむけ青森に向かった。車上から見上げる岩手山は雨雲で重かった。撤退は正解だったのだろう。
撤退は、私にとって始まりのようなものだ。次があるからと思う。(g)
おはようございます。
>撤退は、私にとって始まりのようなものだ。次があるからと思う。
素晴らしい,お言葉ありがとうございます。
totok様、コメントありがとうございます。
いつも同行者より早めに撤退を言いだす私です。自分一人のときは、未練を残さないように割り切ります。戻りで、皮肉にも天気が回復なんてあるのですよ。
また行けばいいという風に簡単に割り切りますが、これも、単独か少人数の良さ、そして、宿泊予約もなく、お金がかかってないから気楽にできます。
いつも、テント泊か車中泊、経費は、ガソリン代や高速代の人数割りですから。(g)
gakukohさん、こんばんは。
私なんて、撤退なんてシバシバですよ
山登りを始めて6年半の間に、積雪期10回に無雪期
1回の撤退。最初の敗退は、初雪山の焼岳でした。
11回の内の4回はリベンジが未だに達成できていま
せんので、今も密かに狙っています。
確かに、単独での撤退ってないですね。(その前に
諦めて、山に登ることすらしていませんから
山行リーダーとしての撤退の判断は、すごく難しい
ですよね。特に、若い人に理解させるのは、毎回苦労
しています。
kameさん
コメントありがとうございます。
kameさんより撤退が少ないのは、5月の残雪の山を始めたのが数年前、冬期は最近でしかも、2000m以下の山で危なくないところで天気を選んでなんて、これだけ制限があると、自然に撤退も少なくなります。
今まで大概は雨と風での撤退でした。
若い人への理解の話は、おっしゃる通り。
岩手山の撤退は、山頂はいけたらいけたでしょうが、行かない判断を示すのが経験者として行動だと思っています。(g)
はじめまして、aideieiと申します。よくレポートを見ていただき、ありがとうございます。
>撤退は、私にとって始まりのようなものだ。次があるからと思う。
という言葉に感激しました。
登山経験が浅いせいで、厳しいところに行っていないこともあり、撤退を決意したことがありません。
しかし、いつかさまざまな理由で撤退を決意することがあるのだろうと思っています。自分の限界を超えた時、堂々と撤退できる人になりたいと思っています。
aideiei様、コメントありがとうございます。
つたない記述にもこたえていただいてまた何か書きたくなる気分です。
単独での山行が多かったこと、相棒ができればそれでも無茶も自然と出来なくて
いつも早めに止めるのがいつものパターンになってしまいました。
体力での限界になって止めたことはなくて、全部が天候での撤退でした。
特に、雨や曇った中では景色も無いのでヤメーと成ります。
特に遭難のリスクは、例えば、雪山でもそんなに無くて、絶景に感動して終わるのですが、10回に1回とかダメな状況に遭遇して、それで終わってしまいます。そして、厳冬期に穂高に登るのは、私の領域ではないと割り切ってます。
今後も記事を楽しみにしております。(g)
拍手をいただいておりありがとうございます。
Messiahと申します。
撤退についての日記、大変ためになりました。
とても考えさせられる内容だと思いました。
いつも単独行なので、基本的に安全係数を多めに見て行動している為、晴天を狙っての山行が多く、今のところ撤退はありません。
ただ、厳冬期や積雪期の山行自体があまり多くなく、
また、その場合でも、いつも晴れ間を狙ってですので、正直、一度も天気が崩れた事がなく、そのお陰で撤退が無いだけという話です。
その為、逆に本当に撤退しなければならない場面で、その決断を出来るか否かが気掛かりではあります。
いずれにせよ、命に引き換えての山行など有り得ませんので、おおらかに長い目で見た山行を行っていこうと改めて思いました。
Messiahさん こんばんわ!
コメントありがとうございます。
私も山趣味を持ってから10年位は単独でした。同じように晴れた時のみ歩いたつもりでした。現在で20年近く、思いだしてみると、記憶に残る撤退があったという結果です。いつも、早めの撤退です。同行になっても小人数ですし、経費もかかってないので気楽に撤退ができるのがいいです。ツアではお金を払っている参加者のことを考えると途中では止められないでしょうから。
私の気性からして、景色も見えない状況で無理やり行って山頂を踏むと、次は他のところが対象になり、せっかくの山の良さが分からずに終わってしまいます。
やはり、またくるよということで戻るのが性にあっているのです。
多少とも参考になれたことがうれしく、困ったこと、困惑したこと、びびったことなど、山で遭難か?という状況を感じた経験について別の機会に記述してみたいと思います。
ありがとうございました。(g)
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